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GIS を用いた都市流域における HYPE モデルの高精度化

ドキュメント内 高度な地物データ (ページ 30-82)

2-1 緒言

第1章で述べたように,高度な地物データ

GIS

を活用した

TSR

モデルや地物指向型の 地下水涵養モデル・蒸発散モデルを構築した研究事例により,高度な地物データ

GIS

が 都市水文解析に有用であることが示されている.またこれらの研究成果から,特に都市 流域に錯雑かつ広範囲に分布する不浸透域が,都市流域の流出特性や水文学的特性に大 きな影響を与えることが定量的に示されている.

TSR

モデルに代表される精緻な水文モデルは,実流域への適用の際に精緻な

GIS

デー タを必要とするが,こうした使用に耐えうる精度と空間解像度,土地被覆情報をもつ

GIS

データの入手は従来困難であった.一方,近年の

GIS

の技術的進歩とリモートセンシン グや情報処理技術の発展により,様々な種類の

GIS

データが整備・蓄積されてきており,

高度な地物データ

GIS

と比較すると空間解像度や精度,情報量の面で劣るものの,都市 の大まかな構造を表現可能かつ浸透・不浸透に関する情報をもつ

GIS

データも僅かなが ら作成・配備され始めている.こうした

GIS

データは,水文モデルの高精度化に資する と考えられるため,活発に活用していくことが望ましが,こうした研究事例は極めて少 ない.特に

TSR

モデル等の詳細な水文モデルではなく,数万

km

2以上の大陸スケールを 対象とする水文モデルでは,流域の浸透・不浸透情報を含む

GIS

データを活用した事例 は皆無に等しく,その影響評価は行われていないのが実情である.広域を対象とした水 文モデルにおいても,浸透・不浸透域の情報を含む精緻な

GIS

データによる流域モデル 化が有効と示されれば,高度な地物データ

GIS

の有用性がさらに増すと期待できる.

以上の背景から本章では,SMHI(スウェーデン気象学・水文学研究所)が大陸スケー ルでの水文・水質予測を目的として開発した水文・水質統合解析モデル「HYPE

(HYdrological Predictions for the Environment)モデル」を例にとり,ヨーロッパ全域の 都市部を対象に整備されたポリゴン型浸透・不浸透面積率データ「Urban Atlas」を活用 し流域をモデル化し,流出解析を行った結果を示した.この流出解析結果から,水文モ デルを構築する場合には,高度な地物データを活用することの有用性について言及した.

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2-2 HYPE モデルの概要

2-2-1 HYPE モデル開発の経緯

河川および湖などの水辺環境の向上は,環境関連団体や市民等らの強い要望であり,

良好な状態を維持し保全するには非常に大きな手間と時間が必要とされる.

EU諸国では,

2000年に水域の水質向上を目指したWFD

(EU Water Framework Directive)1)と呼ばれる

条例が制定された.WFDへの取り組みには,流域内の水循環機構を把握することが基本 的かつ重要であり,土地利用変化や地球温暖化の影響などが生じる様々な条件下におい て,流域からの流出量を予測可能な分布型流出モデルの活用が有効である.

数万km2以上の広域を対象とした流域への流出モデルの適用には,河川流量の存在し ない未観測地域が多数含まれており,流出特性に強く影響する土地被覆,土壌,起伏な どの地理的特性から流量を予測する,いわゆるPUB(Prediction in Unguaged Basin)を目 的とした技術が必要である.PUBを目的に開発した流出解析モデルとしては,例えば,

スウェーデン気象水文研究所(SMHI)のHBVモデル2)や小尻らが開発したHydro-BEAM3) などがある.HBVモデルは主として極域を対象としており,流出計算の基本単位である 計算グリッドごとに土地被覆と土壌タイプを設定可能である.またHydro-BEAMは,計 算グリッド内の土地被覆の不均一性と土壌の鉛直構造の変化を考慮し,個々の計算グ リッドに対して複数の土地被覆面積率と最大4層の土壌層を設定可能なモデルとなって いる.

上述のように,広域を対象とした分布型や準分布型モデルの多くは,対象とする領域 を矩形のメッシュで区切り,このメッシュ内の土地被覆や土壌を一括もしくは面積率と して与えることで各種水文量を計算するグリッド型モデルとなっている.しかしグリッ ド型による対象流域のモデル計算には,広域を対象とした場合においても1章で述べた ような複数の問題が生じる.たとえば広域を対象としたグリッド型では,数万m2や数km2 程度のメッシュが対象地域のモデル化に活用されるのが通例であるが,こうした大きな グリッドサイズで領域を分割すると,グリッド内に複数の小流域が混在する場合や,流 域境界をモデル中で表現できないなどの問題が生じる.このような問題への対処策とし てグリッドサイズを小さくすると,計算負荷の増大を招く上に,モデルの計算要素が増 えることとなりモデルの不確実性が増大し,また結果の解釈が難しくなる.このためモ デルの計算単位として,個々の流域を正確なポリゴンで表現したベクター型の準分布型

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モデルが望まれていた.

こうした背景から,SMHIはHBVモデルの後継モデルとして,流域と地下水流れを考 慮し構築した数十km2のポリゴン型サブ流域を計算単位とする準分布型水文・水質統合 解析モデルのHYPE(HYdrological Predictions for the Environment)モデル4)を開発した.

HYPEモデルでは,各サブ流域に複数の土地被覆と土壌タイプを面積率として容易に設

定可能であり,GIS分野の技術的進歩とそれに伴うデータの高精度・高解像度化にも対 応可能なモデル構造となっている.HYPEモデルでは,日単位における広域の流出現象 の把握を目的としており,計算の高速化と流域モデル化の簡素化のために,流域の水文 過程をできる限り簡素な式で表現している.2007年にスウェーデン全域を対象としたモ デルが開発されて以降は,世界各地に拡張され,ヨーロッパ全域,北極圏やアフリカな どさまざまな地域の流出量予測で用いられており5) ,極めて一般的なモデルとなりつつ ある.さらに現在SMHIでは,洪水流出解析への適用を視野に入れ,日単位のHYPEモデ ルを拡張し,時間単位のHYPEモデルの開発を検討している.

2-2-2 従来のHYPEモデルにおける都市部の扱い

第1章で述べたように,流域における都市部の有無は,その流域の流出特性に特に大 きな影響を与える.全流域面積に占める都市部の割合が小さい場合でも,都市部の広範 囲を占める不浸透域からの雨水が地表面や雨水・下水道管路を介して河川へ直接排水さ れるため,流域出口における降雨時のピーク流量増大と洪水到達時間の短縮に寄与する ためである6).このことから,対象流域に都市部を含む場合には,不浸透域を考慮した 流出モデルの設定が必要と考えられる.しかし従来,土地利用が錯雑な都市部を精緻に 表現可能なGISデータを広範囲で入手することが困難であったため,流出モデルに対し て不浸透域を詳細に設定した事例は,数km2程度の流域スケールを対象とした流出モデ

7), 8)に限定され,広域を対象とした流出モデルでは,不浸透域を無視するか,簡易的に

扱うのみであった.例えばS-HYPEモデルは,面積45万km2のスウェーデン国内を対象と した最も高解像度なHYPEモデルであり,農村部を湖,池,沼地,氷河,モレーン,泥 炭地,露岩地帯,農地,針葉樹林,広葉樹林,草原の11種もの土地被覆に分類し,各土 地被覆に対して水文特性を設定しているが,都市部の分類は市街地と郊外のみであり,

不浸透域の影響は考慮されていない4)

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2-2-3 GISを活用したHYPEモデルにおける都市部の設定

近年,浸透特性に基づく分類がなされ,かつ従来のグリッド型と比較し個々の土地被 覆形状を正確に表現可能なポリゴン型土地被覆データの整備が進んでおり,HYPEモデ ルのような広域を対象とした流出モデルにおいても,不浸透域の設定が可能となりつつ ある.例えば,欧州環境機関が2010年に公開したUrban Atlasは,ヨーロッパ各地の人口

10万人を超える全ての都市部で入手可能な高精度・高解像度のポリゴン型土地被覆デー

タであり,各街区ポリゴンのうち宅地には衛星画像処理により得られた浸透面積率が属 性として与えられている9).表2-1は,従来多用されてきたグリッド型のGISデータ,

Urban Atlasおよび高度な地物データGISの水文解析における有用性を比較したものである.ま

ずGISデータの解像度に注目すると,Urban Atlasの解像度は街区単位であり,街区内の 個々の地物まで表現可能な高度な地物データGISと比べ粗いものの,グリッド型よりも 都市構造の記述に優れている.また上述のように宅地に不浸透面積率の情報があるため,

個々のサブ流域に対し不浸透面積率を具体的に設定可能である.

上記の内容からUrban Atlasは,都市部を含む流域を対象とした流出モデル設定に適し た土地被覆データであり,

Urban Atlasを用いたHYPEモデルの設定手法を示すことはモデ

ルの高度化に資すると考えられるが,こうした研究は著者らの知る限り見当たらない.

またUrban Atlasが,世界標準の流出モデルであるHYPEモデルの流域モデル化に有効であ ることが示されれば,広域を対象としたモデルの活用においても,高度な地物データGIS の代表的な特性である「精度よく不浸透域を設定可能である」についての重要性が示さ れ,本研究の主目的である自動構築手法開発の有効性が強調されると考えられる.

そこで本研究では,HYPE モデルにおいて,都市部における不浸透面積率データを

Urban Atlas

から設定する手法を示すとともに,本手法で構築した

HYPE

モデルを

U-HYPE

と定義し,スウェーデン南部の小都市

Svedala

を含む小流域を例にとり,

U-HYPE

と従来の

S-HYPE

の流出量計算結果および河川流量観測値との比較から流出予測精度を

評価する.本評価結果から,HYPE モデルで正確な不浸透域面積率を考慮することが,

都市部の占める割合の大小に関わらず重要であることを示す.

ドキュメント内 高度な地物データ (ページ 30-82)

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