• 検索結果がありません。

第4章 老化促進モデ、ルマウスにおける消化管機能の解析および食 事リン脂質効果

SAMR 1 SAMP 8

L- FABP

Apo B mRNA abundance was measured by Dot blot and other proteins mRNA abundance were measured by N orthern blot. Apo; apolipoprotein, ppAR;

peroxisome proliferator圃activated receptor, FAT; fatty acid translocase, I-FABP; intestinal fattyacid-binding protein, L-FABP; liver FABP , NS; not significant.

T able 4・12. Intestinal mRNA abundance for fatty acid metabolism-related proteins in SAMR1 and SAMP8 in experiment 1

4 months 7 months ANOVA

SAMR1 SAMP8 SAMR1 SAMP8 S train Age SxA Arbitrary unit

Apo B 1.00土0.09 1.77:t0.27 1.82土0.21 1.92:t0.38 NS P<0.05 NS ApoA・IV 1.00:t0.15 1.09土0.17 1.59:t0.37 1.40:t0.18 NS NS NS PPARα 1.00:t0.16 1.06:t0.18 1.15:t0.15 1.27:t0.21 NS NS NS PPARδ 1.00士0.23 2.50:t0.56 1.86:t0.32 2.34士0.62 P<Ü.05 NS NS

FAT 1.00:t0.12 0.96:tO.22 2.63土0.86 1. 54:t0.38 NS P<0.05 NS

I-FABP 1.00:t0.20 1.29土0.33 1.51:t0.54 1.34:tO.32 NS NS NS L-FABP 1.00:t0.30 0.95土0.18 0.93:t0.21 0.87:t0.17 NS NS NS Data are mean土SEM for 5 mice per伊・oup. apo; apolipoprotein, PP AR; peroxisome proliferator-activated recepωr, FAT; fatty acid translocase, I-FABP; intestinal fatty acid-binding protein, L-FABP; liver FABP , NS; not significant.

Table 4・13. Serum lipid levels in SAMR1 and SAMP8 in experiment 1

2 months 4 months 7 months ANOVA

SAMR1 SAMP8 SAMR1 SAMP8 SAMR1 SAMP8 Strain Period SxP mg/dl

Triglyceride 78.4:t:3.1 b 85.8土5.0b 76.3土2.5b 59.4:t:5.0a 55.0:t:1.9a 52.0士3.0a NS Pく0.05 P<0.05 Cholesterol 284:t:10C 223:t:6b 316:t:9d 182:t:5a 328土13d 206土7b P<0.05 NS P<0.05 Phospholipid 394土0.1 300土5 409土9 278:t:4 424士15 308土9 P<O.05 P<0.05 NS Data are mean土SEM for 6 mice in 2 months group and 10 mice in 4 and 7 month groups. abcd.Different letters show a significant difference at P<0.05 by Scheffé method. NS; not significant.

Table 4・14. Fecal sterols in SAMR1 and SAMJ>8 in experiment 1

2 months 4 months ANOVA

SAMRl SAMJ>8 SAMRl SAMJ>8 S廿ain Age SxA mg/day

Copro+Chol 0.355:tO.011 0.486:tO.026 0.331士0.034 0.489土0.030 P<0.05 NS NS Coprostanol 0.009士0.005 n.d. 0.006:tO.004 n.d.

Cholesterol 0.347:f:0.007 0.486:tO.026 0.325士0.030 0.489:tO.030 Pく0.05 NS NS Total plant sterols 0.506:f:0.023 0.479:tO.022 0.370:tO.019 0.428土0.007 NS P<0.05 NS Coprosi tostanol 0.120:tO.007 0.147:tO.007 0.081:f:0.010 O.135:tO.008 P<0.05 P<0.05 NS Campesterol 0.113:tO.006 0.083土0.004 0.095:f:Ü.003 O.076:tO.004 P<0.05 P<0.05 NS ß-Siωsterol 0.273土0.012 0.240:f:Ü.016 0.194:tO.007 O.216:tO.009 NS P<û.05 NS Data are mean:f:SEM for 5 mice per group. Copro; Coprostanol, Chol; cholesterol, n.d.; not detected, NS;

not significant.

糞中ステロールの排池

実験1における糞中ステロール濃度をTable 4・14に示す。 糞中のコプロスタノール とコレステロールの和は、 SAMR1に比べSAMP8で大きい値を示した。 糞中コプロ スタノールはSAMR1で、はわずかに存在したが、 SAMP8では検出されなかった。

中コレステロールは、 SAMR1と比較してSAMP8で高い値を示した。 糞中コプロシ トスタノールはSAMR1に比べSAMP8で高い値を、 カンベステロールはSAMR1に 比べSAMP8で低い値を示し、 加齢に伴い減少した。 βシトステロールは加齢に伴い 減少した。 糞中の総植物ステロール量は加齢に伴い減少した。

血清ステロール濃度

血清ステロール濃度をTable 4・15に示す。 血清コレステロールおよびコレスタ ノール濃度は、 SAMR1に比べSAMP8で低かった。 血清カンベステロールおよびβ シトステロール濃度には系統による違いは見られなかった。

Table 4・15. Serum sterol levels in 4 month old SAMR1 and SAMP8 in experiment 1

Groups SAMR1 SAMP8

mg/ml

Cholesterol 2.50:t:0.19 1.54:t:0.08*

Cholestanol 0.038fu:O.0034 0.0195士0.0016*

Campesterol 0.0233:tO.0021 0.0192土0.0055 βSitoster叫 0.0062士0.0005 0.0059:tO.0002 Data are the mearu:SEM for 5 mice per group. *Significantly different合om SAMR1 at P<0.05 by Student's t-test.

考察

加齢に伴い、 ヒトと類似の老化病態を示すSAMP8と その対照マウスで ある SAMRlを用いて、 加齢に伴う消化管機能の変化を調べた。 SAMP8はSAMRlと比 較して体重増加量が低く、 成長が悪かった。 SAMP8はSAMRlに比べ脂肪吸収率が 低かったことから、 SAMP8の成長の悪さは低い脂肪吸収率に起因すると考えられた。

SAMP8では小腸粘膜に多量の脂肪沈着が見られたことから、 この脂肪沈着が脂肪吸 収に関与している可能性が考えられた。 脂肪の吸収に影響する因子として、 小腸の 発達、 小腸内腔での食事脂肪の分解速度、 小腸粘膜でのトリグリセリドの再合成、

小腸粘膜から血流への食事脂肪の輸送が挙げられる。 体重当たりの小腸重量および 食事脂肪が主に吸収される空腸の紙毛の高さには、 系統による違いが見られなかっ た。 これらのことから、 食事脂肪の吸収に対する空腸の発達の影響は小さいと思わ れた。 一方、 回腸紙毛の高さおよびクリプトの高さは、 SAMP8で、低かった。 小腸粘 膜への脂肪の沈着は、 空揚よりも回腸で著しかったことから、 SAMP8における回腸 繊毛発達の低下が脂肪の沈着または脂肪の吸収に関与する可能性が考えられた。 し かしながら、 アルカリホスファターゼ活性およびスクラーゼ活性には系統による違 いが見られなかった。 Atillasoyらは、 消化管における粘膜細胞の増殖能は、 絶食や その後の再摂食の影響を受け、 加齢変化そのものは粘膜の萎縮や増殖能の低下を起 こさないという結論を得ている[74J。 また、 小腸におけるサッカラーゼやマルター ゼ活性に年齢差は認められないという報告がある[75J。 これらのことから、 加齢 に伴う食事脂肪の吸収に対する小腸紙毛発達の影響は小さいと思われた。

小腸内腔での食事脂肪の消化・吸収能として、 摂食後の小腸粘膜および小腸内容 物のトリグリセリドと遊離脂肪酸量を測定したところ、 小腸粘膜のトリグリセリド と遊離脂肪酸量、 小腸内容物のトリグリセリド量に両系統で差は見られず、 小腸内 容物の遊離脂肪酸量はSAMP8で、高かった。 したがって、 リパーゼ等のトリグリセリ ド分解酵素の作用およびトリグリセリド分解物の吸収は、 SAMP8では低下していな いと考えられた。 Holtらは、 脂肪の吸収と分解は加齢により低下しないと報告して おり、 本研究での結果はHoltらの報告を支持すると考えられる[76J。

小腸粘膜のMGAT活性には系統による違いが見られなかったが、 DGAT活性は

73

SAMRlに比べSAMP8で低かった。この結果は、 SAMP8はトリグリセリド再合成 活性が低く、 そのために小腸から血中へのトリグリセリドの輸送が退く、 小腸粘膜 細胞に多量の脂肪沈着が見られる可能性を示す。Smithらは、 DGATノックアウト マウスではwildタイプマウスに比べて、 食事脂肪の吸収や血清トリグリセリド濃度 に差は見られないこと、 高脂肪食を与えると摂取エネルギーに差は見られないが、

代謝速度はDGATノックアウトマウスで高いことを報告している[ 77]0 また、

DGAT遺伝子は致死遺伝子ではないことから、 DGATはトリグリセリド合成の唯 のメカニズムではない可能性が示唆される。以上のことから、 SAMP8で見られた DGAT活性の低下は、 直接的には脂肪の吸収に影響するとは考えられないが、 トリ グリセリド合成や脂肪酸のp酸化系に影響する可能性が示唆された。

小腸粘膜から血中への[3H]標識食事脂肪の輸送速度を相対的速度として調べた。

その結果、 SAMRlに比べSAMP8で血中への標識トリグリセリドの放出速度が低い ことがうかがえた。なお、 血清トリグリセリドの相対的な蓄積速度には系統の影響 は見られなかった。[3H]標識トリグリセリドとトリグリセリド濃度との影響の違い は、 血清トリグリセリド濃度が肝臓からのトリグリセリドの放出の影響も受けるか らであろう。Mansbachらの報告では、 投与する脂肪の量が増えると、 小腸粘膜細 胞内でのトリグリセリド輸送の律速である小胞体からゴルジ体への輸送がだんだん 遅くなり、 最後には輸送されなくなることが示唆されている[78]。電子顕微鏡に よる観察では、 SAMP8でゴノレジ体付近に脂肪滴が多く見られたことから、 SAMP8 は小腸粘膜細胞内でのトリグリセリドの輸送が悪く、 そのために小腸粘膜に多量の 脂肪沈着が見られたと考えられる。

小腸での脂肪酸代謝関連タンパク質発現は、 apo BおよびFAT mRNA量が加齢に 伴い増加し、 PPARô mRNA量がSAMP8で高かった。PPARδは各臓器で普遍的に発 現しており、 その内在性リガンドや生理的機能に関してはいまだほとんど解明され てはいなし、。しかしながらPPARωこ対して比較的特異性を持つ合成リガンドの検索・

発見によって、 PPARõは脂質代謝、 とくにコレステロール代謝やエネルギ一代謝の 基本的な制御因子として機能する可能性が示唆されてきている。SAMP8では、 食 脂肪の吸収 ・輸送に加えて、 コレステロールの吸収も低下していることから SAMP8における脂質の吸収には、 各臓器で普遍的に発現している転写調節因子、

PPARδの発現増加が関与している可能性が考えられる。

これらの実験結果から、 SAMP8は食事脂肪の吸収および小腸からのキロミクロ ンの放出がSAMRlとは異なっていることが示された。 小腸粘膜細胞から血清へのト リグリセリドの輸送がSAMP8では遅く、 このプロセスが食事脂肪の吸収に影響する 可能性もある。 なお、 血清のコレステロールおよびリン脂質濃度は、 SAMRlと比較 してSAMP8で低い値を示した。 このことは小腸からの脂質輸送の低下を反映したも のと考えられる。 本実験で は、 トリグリセリド に加えて糞中の ステロール量は SAMRlに比べSAMP8で高かったことから、 SAMP8ではステロールの吸収も低い と思われる。 このマウスはコレステロール吸収機構についても有用なモデ、ルとなり うる可能性がある。

このように、 SAMP8は加齢に伴う 消化管機能の変化を評価する上で有用なモデ ルであることが示された。

小括

加齢に伴い種々の老化病態を示すSAMが、 加齢に伴う 消化管機能の変化を評価す る動物モデルになりうるかについて調ベた。 1ヶ月齢のSAMRlとSAMP8をAIN-76 純化食で念、 4および7ヶ月齢まで飼育した。 SAMP8はSAMRl と比較して、 体重増 加量および脂肪吸収率が低く、 加齢に伴って小腸粘膜に多量の脂肪沈着を起こした。

脂肪の吸収に影響する因子として、 小腸の吸収表面積、 吸収に関与する小腸細胞機 能、 小腸内腔で、の食事脂肪の消化・吸収能、 小腸粘膜でのトリグリセリドの再合成、

小腸粘膜から血清への食事脂肪の輸送ならびに小腸粘膜細胞での脂肪酸代謝関連タ ンパク質発現を調べた。 小腸の吸収表面積の指標 である紙毛の長さは、 回腸 では SAMP8で低かった。 小腸内腔での食事脂肪の消化・吸収能の指標として、 摂食後の 小腸内容物における遊離脂肪酸合量を調ベたところ、 両系統のマウスで差は見られ なかった。 脂肪分解産物の吸収に関与する細胞機能の指標として測定したアルカリ ホスファターゼ活性およびクリプトの高さ、 小腸細胞内でのトリグリセリド再合成 活性の指標であるDGAT活性および小腸粘膜から血清への食事脂肪の輸送の指標で