第4章 老化促進モデ、ルマウスにおける消化管機能の解析および食 事リン脂質効果
第1節 月齢の異なるマウスでの食事脂肪の吸収を利用した消化管機能 の解析
緒言
老化促進モデルマウス(SAM)は、 老化兆候・短命を指標にして1981年に武田 らによって純系化されたマウスの系統である[16]0 SAMは加齢に伴い、 アミロイ ド症、 骨粗懸症、 白内障などのヒトの高齢者と同様の老化関連病態を自然発症する [17、 18J 0 SAMP8は対照マウスであるSAMR1に比べ、 学習・記憶障害を示すこ とが知られている[19、 20]。 また、 SAMP8はSAMR1と比較して、 成長が悪いこ とから、 食事効率が悪いと考えられる。 栄養素の吸収低下は各臓器の発達ならびに 代謝に大きく影響することから、 食環境による栄養素吸収の改善は、 老化プロセス にも影響する可能性が考えられる。 しかしながら、 SAMにおける栄養素の吸収に、
目した研究はない。 また、 栄養素の吸収は加齢に伴い変化すると考えられているが 一定の見解は得られていなし、。 そこで、 月齢の異なるSAMを用いて、 栄養素の吸収、
とくにエネルギー効率の高い脂肪の吸収について調べた。
実験方法 実験試薬
トリトンWR-1339、 ヘブタン、 酢酸、 塩化マグネシウム、 硫酸亜鉛、 グリシン、
p-ニトロフェニルリン酸二ナトリウム、 水酸化ナトリウム、 p-ニトロフェノール、
スクロース、 マレイン酸、 トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン (Tris)、 トリト ンX・100、 硫酸銅、 酒石酸ナトリウムカリウム、 クロロホルム、 ギ酸、 酢酸銅、 リ ン酸、 2・プロパノール、 イソプロピルエーテル、 石油エーテル、 1, 1, 1, 3, 3, 3・ヘキ
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サメチルジ シラザン、 トリメチルクロロシランおよび酢酸エチルはナカライテスク、
[9, 10 -3H(N)]トリオレインはNEN Life Science Products (米国)、 エオジンYは Merck、 trypsin-chymotrypsin inhibitor、 peroxidase、 0・dianisidine、 glucose oxidase、 トリオレイン、 dithiothreiωl、 2・モノオレイン、 ホスファチジルコリン、
パルミトイルコエンザ イ ムA(パルミトイノレCoA) 、 ぬーコレスタンおよびコプ ロス タノーノレはSigma Chemicals、 マンニトール、 フェノール試薬およびピリジンは 和光純薬工業、 ホスファチジル セリンはフナコシ(東京)、[14C] パルミトイノレCoA はアマシャムファルマシアバイオテク(東京)、 ヨウ素は九州片山化学(福岡)か らそれぞれ購入 し た 。 RNAの調 製 お よ び m RNA量測定に用 いたg u anidine thiocyanate (GTC)、 塩化セシウム、 N・ラウロイルサルコシンナトリウム、 βメ ルカプトエタノール、 diethy1p戸・ocarbonate(DEPC )、 ブタノール、 フェノール、
酢酸ナトリウム、 3・(N-morpholino )propanesulfonic acid (MOPS )、 dimethyl s叫fo羽de(DMSO)、 グリオキサール、 脱イオン化したホルムアミド、 キシレンシ アノールFF、 アガロー スLE(低電気浸透)、 臭化エチジウム、 sodium lauryl
sulfate (SDS)およびポリビニルピロリドンK・30はナカラ イテスク、 antiform A emulsionはSigma Chemicals、 8・キノリノールおよびブロモフェノールブルーは和 光純薬工業、 メチ レンブ、ルーは九州片山化学、 Orange GはAldrich Chemical (米 国)、 Yeast tRNAはBoehringer Mannheim (ドイツ)からそれぞれ購入した。
調製試薬
GTC溶液は、 GTC 50 g、 N-ラウロイルサルコシンナトリウム0.5 g、 1 Mクエン 酸三ナトリウム溶液(pH 7.0) 12.5 mlに超純水を加えpH 7.0に調整し、 100 mlと した。 その後、 No. 5Bろ紙(Advan旬c、 東京)でろ過して調製した。 塩化セシウム 溶液は塩化セシウム 96 g、 0.5 M EDTA (pH 8.0) 20 ml に超純水を加えpH 7.0に 調整し、 100 mlとした。 0.45μm滅菌フィルター(Millipore、 英国)を用いて滅菌 後、 DEPC 0.2 mlを加え、 15分間オートクレーブした。 DEPC水は超純水1 Lに DEPC 400 μ1を添加し、 30 分間オートクレーブして調製した。 1Xτ官は10 mM Tris、 1 mM EDTA (pH 8.0)をオートクレーブして調製した。 TE飽和フェノール
は8・キノリノール19、 650Cで溶かしたフェノール1kg、 1M Tris (pH 8.0)を混ム
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し、 40Cで一晩放置した。 上清を除去後、 1 M Tris (pH 8.0)を加え、 上清をpH 8.0にした。 さらに、 1XTE を加え撹持、 静置後、 上清を除去して調製した。
10XMOPS溶液は、 0.2 M MOPS、 0.05 M酢酸ナトリウムおよび1 mM EDTAを 混合し、 pH 7.0に調整した。 グリオキサールの脱イオン化 は以下のように行った。
50 ml容の滅菌したプラスチックチューブにイオン吸着樹脂(20・25 mesh、 日本ノ、、
イオ・ ラッド ラボラトリーズ、 東京)を40 mlの線まで入れ、 グリオキサールを 50 mlの線まで、入れた。 15分間振とうし、 1,500Xgで5分遠心した。 滅菌した50 ml容の プラスチックチューブに、 No. 2ろ紙(Advantec、 東京)でろ過し、 pH'試験紙でpH を調べた。 グリオキサールがpH 5""6になるまで、 この操作を繰り返し、 滅菌した 1.5 mlエツベンドルフチューブに 分注して、 -200Cで保存した。 20 xSSCは3 M塩化 ナトリウムおよび0.3 Mクエン酸三ナトリウムを混合後、 pH 7.0 に調整し、 オート クレーブした。 10xSSCは20xSSCを超純水で2倍希釈して調製した。
プレハイ液は脱イ オン化したホルムアミド50 ml、 20 x SS C 20 ml、 50 x Denhardt's sol ution 10 ml、 1.0 Mリン酸ナトリウム(pH 6.5)、 50 mglml Yeast tRNA 0.2 ml、 10% SDSを混合し、 滅菌水で100 mlに した。 50X De nhardt's solutionは、 1% Ficoll 400、 1%ポリビニルピロリドンK・30、 1% BSAをフィルター 滅菌(0.45μm)して調製した。
実験動物
マウスは雄のSAMR1とSAMP8 (SPF 、 セアック吉富)を用いた。 マウスはホワ イトフレーク(オリ エン タル酵母工業)またはalpha-dry(Shepherd Spe cialty Papers、 米国)を敷いたプラスチックケージで1匹ずつ飼育した。 第2章と同様に予 備飼育を行った。 食事臥IN・76組成に基づく純化食を調製した[13]。 その食事組 成(g/kg)は、 サフラワ一泊50、 カゼイン200、 コーンスターチ 150、 セルロース 50、 ミネラル混合CAIN-76・:MX) 35、 ビタミン混合CAIN-76・VX) 10、 DL-メチオ ニン3、 重酒石酸コリン2および燕糖500とした。 SAMR1とSAMP8を用いて、 4つの 実験を行った。 実験1では、 1ヶ月齢の SAMR1とSAMP8に純化食を与え、 2、 4およ び7ヶ月齢まで飼育した。 食事 は2日おきに交換した。 飼育終了日の2週間前から6 問、 糞を採集した。 7時間絶食後、 1 mlJkg体重のネンブタール注射液(大日本製
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薬)を 1 ml注射器と26Gx1l2"針を用いて腹腔内投与し、 ネンブタール麻酔下で1m!
注射器と26Gx1/2"針を用いて心臓採血した。 血清を第2章と同様に分離した。 実験 2では、 1ヶ月齢のSAMR1 とSAMP8にmeal feeding法で、給餌し、 食事脂肪の消化分 解速度を調べた。 純化食を1日2回、 朝夕に30分ずつ摂食させた。 食事は毎日交換し、
5日間摂食させた。 6日目に、 30分摂食させ、 摂食後30および6ωナ後にネンブタール 麻酔下で心臓採血した。 実験3では、 1ヶ月齢のSAMR1と SAMP8に実験1と同様に 純化食を与え、 2ヶ月齢まで飼育した。 小腸からミクロソームを単離し、 トリグリセ リド再合成に関わる酵素活性を測定した。 実験4では、 4ヶ月齢のSAMR1とSAMP8 に純化食を1ヶ月関与え、 5ヶ月齢まで飼育した。 食事は2日おきに交換した。 16時 間絶食後、 生理食塩水で調製した15%トリトンWR・1339溶液を 、 トリトンWR・1339 が500 mg/kg体重となるように尾静脈投与し、 リボタンパク質リパーゼ、の作用をR 害することで、 血清脂質の消失を抑制した。 15分後、 1.25 mCνkg体重の[9, 10・
官(N)]トリオレインを合むサフラワ一泊を5 mg/kg体重となるように胃内投与し、
60および90分後に尾静脈採血した。 サフラワ一泊投与120分後、 心臓採血し、 胃、
肝臓、 小腸粘膜および小腸内容物を 回収した。
見かけの脂肪吸収率の測定
見かけの脂肪吸収率の測定はCarvajalらの方法によって測定した[59、 60] 0 15 ml容のプラスチックチューブに採集した糞および食事は、 パラフィルムでふたをし パラフィルムに穴を数カ所あけて、 3日間凍結乾燥した。 茶こし器で付着した食 をふるい、 計量した。 糞は乳鉢と乳棒ですりつぶし、 50 mlのプラスチックチュー ブに入れ、 デシケーター内で保存した。 糞および食事1 gをTS19チュープに取り、 2 滴の塩酸を加えた。 ヘブタン:ジエチルエーテル:95%エタノール(1:1:1、 v/v/v)溶 液7m!を添加し、 ボルテックス後、 1,500Xgで10分遠心した。 上清をネジ口試験管 に取り、 TS19チューブにはヘブタン :ジエチルエーテル:95%エタノール:脱イオン水 (1:1:1:1、 v/v/v/v)溶液7 mlを加え、 さらに2回抽出した。 ヘブタン:ジエチルエー テノい95%エタノール:脱イオン水(1:1:1:1、 v/v/v/v) 溶液は、 ヘブタン:ジエチルエー テル:95%エタノール(1:1:1、 v/v/v)溶液に 脱イオン水を添加し、 2層に分離した上 層を用いたo ネジ口試験管中の溶媒は、 400Cの恒温槽中で窒素ガスを吹きつけて乾
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回した。 その後、 5 mlのヘキサンを加え、 ボルテックスし、 前もって恒量にした秤 量ピンに4 mlサンプリングした。 秤量ビンは前もって、 1100Cの乾燥機に 30分入 れ、 デシケーター内で 30分放冷後、 計量して恒量にした。 サンプリングした秤量ピ ンは窒素ガスを吹きつけて溶媒除去後、 真空ポンプで30分吸引し、 計量して恒量に した。
小揚紙毛およびクリプトの高さの部定
光学顕微鏡標本は第2章と同様に行った。 小腸内を氷冷した生理食塩水で洗浄後、
小腸の両端から約2 cmを切り取り、 20%中性緩衝ホルムアルデ、ヒド液10 mlを注入 して固定後、 20%中性緩衝ホルムアルデ、ヒド液 中に保存した。 切片を作製し、 ヘマ トキシリン ・エオジン染色を行った。 染色は脱パラフイン後、 ヘマトキシリン染色 し、 エオジン染色液で30分染色後、 1時間水洗し、 カナダパルサムで包埋した。 エ オジン染色液は、 1%エオジン液を80%エタノールで4倍希釈し、 酢酸を0.5%となる ように添加して調製した。 切片は400倍で観察し、 写真撮影を行った。 そして、 第2 章と同様に解析し、 紋毛およびクリプトの高さを測定した。
小腸粘膜ホモジネートの調製
小腸は摘出後、 2等分し、 空腸および回腸とした。 25 ml注射器の先端に200μl用 のオートピペットチップをつなぎ、 チップの先端を切った注射器を用いて、 小腸内 部を氷冷した生理食塩水で洗った。 その後、 針金を用いて反転し、 氷の上に置いた シャーレ上でスライドガラスを用いて粘膜を剥ぎ取った。 粘膜は計量後、 氷冷した 0.1
g/L
trypsin-chymotrypsin inhibitorを合む50 mMマンニトールー2 mM HEPES 緩衝液(pH 7.1) 5 mlで、 テフロンホモジナイザーを用いて冷却しながらホモジナ イズした[61J。 ホモジナイズは最高回転速度で 5回上下した。 2 mlのクライオ チューブ(ナルジェヌンクインターナショナル、 東京) 5本に、 約1 mlずつ小分けし、 -80OCで保存した。
小腸粘膜アルカリホスファターゼおよびスクラーゼ活性の測定
小腸粘膜アルカリホスファターゼ活性の測定はForstnerらの方法に従って行った
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[62J 0 5 mM塩化マグネシウム、 1 mM硫酸亜鉛を合む50 mMグリシン緩衝液 (pH 9.2)に18mM p・ニトロフェニルリン酸二ナトリウムを溶解し、 基質溶液とし た。 基質溶液500μlを試験管に取り、 370Cの恒温槽で5分インキュベートし、 溶液を 370Cにした。 ホモジナイズ溶液で希釈した小腸粘膜ホモジネート100 μlを添加し、
ボルテックスにより混合後、 振とうしながら15分間インキュベートした。 0.02 N水 酸化ナトリウム2.5mlを加え、 反応を停止した。 ブランクには基質溶液500μlに0.02 N水酸化ナトリウム2.5mlをあらかじめ加え、 小腸粘膜ホモジネート100μlを添加し た。 スタンダードは2mMp・ニトロフェノールをO、 25、 50、 75および100μl試験管 に取り、 超純水で100 μ1にした。 この時の'P-ニトロフェノール量は、 それぞれ0、
0.05、 0.1、 0.15および0.2 μmolであった。 これらのスタンダード100 μ1に基質溶液 500μlを添加し、 0.02 N水酸化ナトリウム2.5mlを加えたo 1,500Xgで5分遠心後、
上清を別の試験管に取り、 400 nmで、吸光度を測定した。 吸光度計はuv・1600 (島津 製作所)を用いた。 アルカリ ホスファターゼ活 性(μm ol p-nit r opheno l formedlminlmg protein )は次の式で算出した。
アルカリホスファターゼ活性=(A.・B) xd/t/サンプルのタンパク質濃度(mg/ml) A:サンプノレのp・ニトロフェノール濃度(μmoν凶)
B:ブランクのIP_ニトロフェノール濃度(μmoν凶) d:サンプルの希釈率
t :反応時間 ( 15分)
小腸粘膜スクラーゼ活性の測定はDalqvist の方法に従って行った[63 J 0 0.056 Mスクロースを合むO.lMマレイン酸緩衝液(基質溶液、 pH 6.0) 100μlを試験管に 取り、 370Cの恒温槽で5分インキュベートし、 溶液を370Cにした。 ホモジナイズ溶 液で希釈した小腸粘膜ホモジネート100 μ1を添加し、 ピペッティングにより混合 後、 振とうしながら60分インキュベートした。 800 μlの脱イオン水を加え、 すぐに 沸騰浴中に2分浸けた。 そして、 試験管を放冷した。 ブランクは脱イオン水800 μ1に 希釈した小腸粘膜ホモジネート100 μlを添加し、 すぐに沸騰浴中に2分浸け、 基質溶 液100μ1を添加した。 1,500Xgで5分遠心後、 上清500 μlを別の試験管に取った。 ス タンダードは、 100μg/mlグルコースを0、 100、 200、 300、 400および500μ1ずつ 試験管に取り、 超純水で500 μ1にした。 このときのグルコースはO、 10、 20、 30、
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40および50 μgであった。 これらの反応液500 μlに、 0.5 M Tris、 23.3 unit peroxidase、 50mg 0・d ianisidin e、 0.25%トリトンX・100および333 un it glucose oxidaseを合む発色溶液3 mlを添加し、 370Cで振とうしながら60分間インキュベー トした。 その後、 室温まで放冷し、 420 nmで、吸光度を測定した。 スクラーゼ活性 (μmol sucrose hyd rolyzed/min/mg protein)は次の式で算出した。
スクラーゼ活性=(A-B)x d x axb/cJt/サンプルのタンパク質濃度(mgl d l) A:サンプルのグルコース濃度(p,g!ml)
B:ブランクのグルコース濃度(μg/ml) d :サンプルの希釈率
a:サンプルのインキュベーション量(100μ1) b:反応後のサンプリング量(500μ1)
c :グルコースの分子量(180) t :反応時間(60分)
小腸粘膜ホモジネートのタンパク質濃度はLowry らの方法に従って測定した [64J。 ホモジナイズ溶液で希釈した小腸粘膜ホモジネート500 μlを試験管に取っ た。 スタンダードは1mglml BSA溶液を脱イオン水で調製し、 0、 20、 40、 60、 80 および100 μIずつ試験管に取り、 脱イオン水で500 μlにした。 このときのBSAの絶 対量は0、 20、 40、 60、 80および100μgであった。 0.1 N水酸化ナトリウムー2%炭酸 ナトリウム溶液100ml、 0.5�硫酸銅1mlおよび1%酒石酸ナトリウムカリウム1 ml を混合した溶液2.5mlを加え、 ボルテックス後10分放置した。 2倍希釈したフェノー ル試薬0.25mlを加え、 ボルテックス後60分放置し、 660 nmで吸光度を測定した。
小腸粘膜、 肝臓および血清脂質濃度の測定
小腸粘膜および肝臓脂質濃度の測定は、 Folch法により脂質を抽出後、 化学法に より測定した[65、 66J。 小腸粘膜脂質濃度の測定は、 小腸粘膜ホモジネート2ml をクロロホルム:メタノール(2:1、 v/v)50 mlで抽出後、 精製、 濃縮し、 ヘキサン で25mUこfill upした。 トリグリセリド濃度は、 空腸、 回腸ともに濃縮液10mlを用 いて、 コレステロール濃度は、 空腸が濃縮液4ml、 回腸が9mlを用いて、 リン脂質 濃度は、 空腸が濃縮液0.5 ml、 回腸が2mlを用いてそれぞ、れ測定した。 肝臓脂質猿
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