両辺を積分すれば、汎関数
T[y(x)] =
∫ 1 0
√
1 +y02
2gy dx (66)
を得る。よって最速降下曲線を求める問題は、積分(66)を最小にするような関数y(x)を得ること に帰着される。
変分問題
汎関数は一般的に
J[y(x)] =
∫ b a
F(y0, y, x)dx (67)
という形に書かれる。関数y(x)から、値J[y(x)]が求まる。その値を最小にする関数y(x)を 求めること。
ここで、微分の問題を思い出すであろう:
• 微分:値xから、値f(x)がひとつ求まる。その値f(x)を最小にするxを求める。
• 変分:関数y(x)から、値J[y(x)]が求まる。その値を最小にする関数y(x)を求める。
変分問題は、関数の極値を求める問題の、一種の拡張である。
δJ = 0となるようなy(x)を求めたい。2変数関数の全微分の式[section1の(7)式]を用いると F(y+δy, y0+δy0, x)−F(y, y0, x) = ∂F
∂yδy+∂F
∂y0δy0 であるから、(68)式は
δJ =
∫ b a
∂F
∂yδy+∂F
∂y0δy0dx
と書ける。第2項だけを部分積分すると、積分は次のように変形できる。
[∂F
∂y0δy ]b
a
+
∫ b a
∂F
∂yδy− d dx
(∂F
∂y0 )
δydx
ここで、(69)式に注意すれば、第1項はゼロである。よってδJ = 0の条件は
∫ b a
{∂F
∂y − d dx
(∂F
∂y0 )}
δydx= 0 (70)
と変形された。
δyはxの関数であり、図16に示したように、積分区間[a, b]の範囲で、任意の値を持つ。(70) 式は、「δyがどのように変化しようとも、積分の結果はゼロにならなければならない」ことを表し ているのである。それが成り立つためには、中カッコの中身がつねにゼロでなければならないだろ うと予想できる。よって、次の微分方程式を得る。
∂F
∂y − d dx
(∂F
∂y0 )
= 0 (71)
これは、汎関数が極値をとるための条件を記述していて、しばしばEular-Lagrange方程式と呼ば れる。
また、関数F が特にF(y, y0)という形でxを含まないとき、Eular-Lagrange方程式は
F−y0∂F
∂y0 =c (72)
と変形できる(cは任意の定数)。
■もっとも簡単な例――2点を結ぶ最短距離が直線であること xy 平面上の2点を結ぶ曲線が、
y=y(x)の関数で与えられているとしよう。この曲線の長さ`は、積分
`=
∫ b a
√1 +y02dx
で与えられる。これを(71)に代入すれば
− d dx
(
√ 1 1 +y02
)
= 0
つまり(1 +y02)1/2=cを得る。これを解くと、y(x)が直線の方程式であることが分かる。
■最速降下曲線を求める 最速降下曲線を求めるには、(72)式にF(y0, y) =
√ 1 +y02
2gy を代入し、
出てきた微分方程式を解けばよい。
∂F
∂y0 = 1
√2gy y0
√1 +y02 であるから、
√1 2gy
√ 1
1 +y02 =c
1
c2 =Aと定数を書き直して、更に変形し
y(1 +y02) = A
2g (73)
を解けばよい。
実は、この形の微分方程式は、サイクロイド曲線
x=a(θ−sinθ) (74)
y =a(1−cosθ) (75)
が従う式として、以前から知られていた。定数aは、滑り台の到達位置の条件 a(θ−sinθ) = 1
a(1−cosθ) = 1
から求まるが、この連立方程式は代数的に解くことができない、計算機を用いるとa'0.57、θの 範囲は0< θ <0.77πくらいになる。
0
1
1
図17 サイクロイドすべり台
提出課題
1. サイクロイド曲線(74)(75)式を、(73)式に代入し、a=A/4gの場合に、たしかにサイクロ イド曲線が、方程式の解になることを確かめよ。(ヒント:パラメター関数の微分は、
dy dx =
dy dθ dx dθ だった。)
2. 図18のような曲線の地下トンネルを、東京ー大阪間に結んだ。次の問いに答えよ。
(a)図のように座標をとるとき、x軸と曲線の二つの交点がそれぞれ東京と大阪になるよう にサイクロイド曲線の定数aを定めよ。二つの都市間の距離を`とする。
(b)摩擦を無視できる「トロッコ」で東京から大阪まで滑走する。その所要時間を、(66)式 を計算することで、求めよ。`= 400kmである。
y
x
図18 サイクロイド曲線
発展課題
汎関数が
J[y(x)] =
∫ b a
F(y0, y)dx
の形に書けるとき、Eular-Lagrange方程式は(72)式で表されることを示せ。
(ヒント:Fがxに依存しないので dF dx =∂F
∂y dy dx+ ∂F
∂y0 dy0
dx =∂F
∂yy0+∂F
∂y0y00 であることを用いて、Eular-Lagrange方程式から∂F
∂y を消去する。)
12 変分法2
12.1 石けん膜
二つのリングの間に張ったシャボン膜のつくる曲線y =y(x)を求めよう。図19に示したよう に、リングはx軸を中心として、y軸に平行に置かれ、その中心位置を−x0およびx0とする。リ ングの半径は1とする。
膜を形作る石けん水の表面張力は、液体の表面積をもっとも小さくするように働く。リングは、
x軸に対して回転対称になるように配置されているから、石けん膜も回転対称でなければならない と予想がつく。よって、膜の表面積は、回転体の表面積を求める積分公式
S= 2π
∫ x0
−x0
y√
1 +y02dx (76)
で与えられる。S を最小にするようなy=y(x)を求めればよい。
被積分関数はxをあらわに含まないので(72)式 F−y0∂F
∂y0 =a を用いればよい。F =y√
1 +y02を代入して y√
1 +y02− yy02
√1 +y02 =a を得るが、これを変形して整理すると
y
1 +y02 =a2 これが求める微分方程式である。
解いてみよう。まず、上式を 1
y0 について解くと 1
y0 = dx
dy = 1
√(y a
)2
−1
x y
x
0-x
0図19 二つのリングの間に張ったシャボン膜
であるので、両辺をyで積分すればよい(脚注参照*10)。 x=acosh−1
(y a )
+b よって
y(x) =acosh
(x−b a
)
(77) を得る。つまり石けん膜をかたづくる曲線は、双曲線関数で与えられることが分かった。
定数a, bは、境界条件y(−x0) =y(x0) = 1を満たすように決まる。y(x)は偶関数でならなけれ ばならないので、b= 0はすぐに分かる。いま簡単のためにx0= 1/2とすれば、(77)式は
1 =acosh ( 1
2a )
となる。この方程式を手計算で解くことは出来ないが、計算機を使えば二つの解 a= 0.2350, 0.8483
を得る。実際に最小曲面を与えるのは、a= 0.8483である。