目次
1 偏微分 2 1.1 偏微分の定義 . . . 2 1.2 偏微分の記号について . . . 3 1.3 全微分 . . . 3 2 2変数関数の極値問題 6 2.1 2変数関数の極大と極小 . . . 6 2.2 2変数関数のテイラー展開 . . . 7 2.3 極大・極小の条件とヘッシアン . . . 8 3 条件付き極値問題 10 3.1 簡単な例を解く . . . 10 3.2 ラグランジュ(Lagrange)の未定乗数法 . . . 11 4 1変数関数の定積分の導入 14 4.1 一変数関数の積分法の基礎. . . 14 4.2 不定積分. . . 16 5 積分の計算法 18 5.1 積分の中で微分する . . . 18 5.2 置換積分. . . 18 5.3 部分積分. . . 20 6 積分の応用1 22 6.1 速度・加速度・距離 . . . 22 6.2 仕事とエネルギー . . . 23 7 二重積分 25 7.1 矩形領域の二重積分 . . . 25 7.2 積分範囲が、xまたはyに依存する二重積分. . . 27 8 二重積分の置換積分(変数変換) 30 8.1 ヤコビ(Jacobi)行列とヤコビアン(Jacobian) . . . 30 8.2 極座標変換 . . . 32 9 ガンマ関数とベータ関数 34 9.1 ガンマ関数とn! . . . . 34 9.2 ベータ関数 . . . 35 9.3 計算例 . . . 36 9.4 ガンマ関数の諸性質 . . . 37 10 二重積分の応用 38 10.1 二重積分を使って積分を計算する例 . . . 38 10.2 n次元球の体積 . . . 39 11 変分法 41 11.1 最速降下曲線の問題 . . . 41 11.2 Eular-Lagrange方程式 . . . 42 12 変分法2 46 12.1 石けん膜. . . 46 12.2 解析力学入門 . . . 471
偏微分
偏微分は,通常大学の数学で学ぶ概念で,難しいというイメージがあるようだ。しかし,普 通の微分を理解していれば,何も難しい事はない。偏微分は,特に熱力学を学ぶときに必要 になるから,ここでは基本的な所を見ておこう。 二つの変数xとyを与えたとき,一つの値が決まるような関数をf (x, y)と書く事にしよう。これ を二変数関数という。このような関数が現れる例はいたる所にある。例えばある地点の標高を指定 するには,緯度(= x)と経度(= y)を与えて,その位置を指定しなければ行けない。なので標高を 表す関数は,二変数関数である。図1は,二変数関数f (x, y) = x + y x2+ y2+ 1 のグラフである。こ のように変数が二つある場合,関数のグラフは平面になるのが,今までのグラフと違う所である*1。 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 -0.8 -0.6 -0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8x
y
f(x,y)
図1 関数 x + y x2+ y2+ 1のグラフ1.1
偏微分の定義
連続な二変数関数をf (x, y)と書く。二変 数関数の微分を考えるときは,片方の変数を 変化しない定数だと思って(つまり2とかπ とかと同じように扱って)微分を行うことに しよう。例えばyを定数だと決めてしまえば, f (x, y)は今までと同じxだけの関数だ。そこ で、極限 lim ∆x→0 f (x + ∆x, y)− f(x, y) ∆x (1) を,「関数f (x, y)のxに関する偏微分」とよ び,これを∂f (x, y) ∂x と書く。 同様のことは、xを定数として固定してyで微分する場合でも同じである。二つをまとめて ∂f (x, y) ∂x = lim∆x→0 f (x + ∆x, y)− f(x, y) ∆x (2) ∂f (x, y)∂y = lim∆y→0
f (x, y + ∆y)− f(x, y) ∆y (3) をそれぞれ、xおよびyに関する偏微分あるいは偏導関数と呼ぶ。このような考え方は,僕らはす でに頻繁に使ってきた。例えば関数f (x) = ax2を微分するときはaを定数と思ってf0(x) = 2ax とやっていた。実はこれば偏微分の考え方そのものなのであった。 図1に示したf (x, y) = x + y x2+ y2+ 1 を、xについて偏微分するときの考え方(幾何学的なイ メージ)を図2に示した。y = Cに固定したとする。この操作は、x軸に平行で、y = Cを通る線 を、曲面に引いて、その線上でのみ関数を扱うと言うことだ。曲面から 図2に太線で示した部分 *13変数関数の場合は4次元の空間が必要になる。グラフを描いて関数のおおまかな特徴を眺めることは,諦めなけれ ばならない。
-4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 -4 -3 -2 -1 1 2 3 4 -0.8 -0.6 -0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 x y f(x,y) C f(x, C) x 図2 二つの変数のうちの片方をy = Cと固定すると、一変数関数f (x, C)を取り出せる。 を取り出せば、一変数関数f (x, C)を作ることが出来る。この関数を、今までと同じように微分す るという操作が,偏微分である。
1.2
偏微分の記号について
偏導関数 ∂f (x, y) ∂x という記号は、鉛筆で書くのもパソコンでタイプするのも大変である。しか しいままでのような記号0をつかった略称はつかえない(どちらの変数で微分しているか分からな くなるから)。∂f (x, y) ∂x は、 fx(x, y), ∂xf (x, y) と略記されることがある。この講義では、たまに前者を用いることもあるので注意。高階微分は fxx(x, y) = ∂x2f (x, y), fxy(x, y) = ∂x∂yf (x, y) などとかく。 偏微分を計算するための計算それ自体は、通常の微分と変わることはないので、これ以上触れな い。その代わり、2変数関数の変化量をあらわす全微分という概念について学ぼう。1.3
全微分
1変数関数y = f (x)に話を戻そう。∆xを小さな数とする。変数をx→ x + ∆xと変化させた ときの関数f (x)の増分∆yは、∆xの二次以上の量を無視するとき、次のように書ける。 ∆y = f (x + ∆x)− f(x) = f0(x)∆x (4) これを同じように、二変数関数z = f (x, y)の増分を表した量を、とくに 全微分 と呼び、∆x, ∆y の二次以上の量を無視するとき df = f (x + ∆x, y + ∆y)− f(x, y) と書く。この量を偏微分を使って表してみよう。まず上式に f (x, y + ∆y)− f(x, y + ∆y) = 0を加えて dz = { f (x + ∆x, y + ∆y)− f(x, y + ∆y) } + { f (x, y + ∆y)− f(x, y) } = ∂f (x, y + ∆y) ∂x ∆x + ∂f (x, y) ∂y ∆y (5) と変形する。ここで、(5)式の第1項は、 ∂f (x, y + ∆y) ∂x ∆x→ ∂f (x, y) ∂x ∆x (6) と置き換えてしまっても良い(その理由は後で述べる)。以上より全微分は次のように表されるこ とが分かった。 df = f (x + ∆x, y + ∆y)− f(x, y) = ∂f (x, y) ∂x ∆x + ∂f (x, y) ∂y ∆y (7) ■(6)式が可能な理由 ∂f (x, y + ∆y) ∂x と ∂f (x, y) ∂x の大きさの差は∆y程度である。このことを ∂f (x, y + ∆y) ∂x = ∂f (x, y) ∂x + o(∆y) と書くことにしよう。o(∆y)は大きさが∆y程度の任意の数をあらわす*2。この記号を使うと、 ∂f (x, y + ∆y) ∂x ∆x = { ∂f (x, y) ∂x + o(∆y) } ∆x = ∂f (x, y) ∂x ∆x + o(∆y∆x) である。我々は、∆x, ∆yの二次以上の量を無視しているのだから、(6)式が成り立つ。 将来に勉強する熱力学にて、圧力や温度の微小変化に対するエントロピーや自由エネルギーの変 化量を表すとき df (x, y) = ∂f (x, y) ∂x x+ ∂f (x, y) ∂y y という式に出くわすことになるだろう。
提出課題
次のそれぞれの関数をf (x, y)としたとき、偏微分 ∂f (x, y) ∂x と ∂f (x, y) ∂y を求めよ。 (a) ax + by + c (b) (x + y)2 (c) 1 2x + xy (d) sin(xy) (e) e−(x+y)2 *2ランダウの記号発展課題
tに依存する変数x = x(t), y = y(t)からなる2変数関数の合成関数 f(x(t), y(t)) を考える。これをtで微分する公式が d dtf ( x(t), y(t))= ∂f (x, y) ∂x dx dt + ∂f (x, y) ∂y dy dt であらわされること示せ。 ヒント:微分の定義 d dtf ` x(t), y(t)´= lim ∆t→0 f`x(t + ∆t), y(t + ∆t)´− f`x(t), y(t)´ ∆t から出発し、x(t + ∆t) = x(t) + x0(t)∆tと、全微分の式(7)を用いる。2
2
変数関数の極値問題
2変数関数f (x, y)が、点(x0, y0)にて極値*3をもつ条件について考える。この問題は1変 数関数の時と比べて少し複雑であり、ヘッシアンと呼ばれる行列式を導入するのが便利であ ることを学ぶ。 小さな正の数をと書く。さらにxを、区間[−, ]の間の任意の値を取り得る数としよう。この 時、点x = x0+ xを、点x0の「近傍」と呼ぶ。 関数の極大または極小の定義には、この近傍という曖昧に聞こえる言葉が使われる。xを、点x0 の近傍の点であるとする。関数f (x)がx0において極大であるとは、 f (x) > f (x0), であることを言う。 同様に極小の場合は f (x) < f (x0), である。関数f (x)が極値を持つための必要十分条件をおさらいしておく: 点x0での微分がf0(x0) = 0であり、かつf00(x0) < 0ならば、f (x)はx = x0で極大値を持 つ。また、f00(x0) > 0ならば、f (x)はx = x0で極小値を持つ。 単に、f0(x0) = 0だけが満たされていても、x = x0は必ずしもf (x)の極値をではないことに 注意しよう。例としてf (x) = x3 という関数を考えてみれば、このことは自明であろう。微分 f0(x) = 3x2はx = 0で0であるが、x3はx = 0で極値をもたない。 今回は、2変数関数の極大極小について考えていこう。2.1
2
変数関数の極大と極小
2変数関数の極大(極小)は、1変数関数の場合の自然な拡張として、次のように定義される。x とyを0ではない小さな値とする。点(x0, y0)の近傍の点(x, y) = (x0+ x, y0+ y)について、 f (x, y) > f (x0, y0) ( f (x, y) < f (x0, y0) ) (8) であるとき、f (x0, y0)は極大値(極小値)である。つまりf (x, y)は、点(x0, y0)を中心として 「お椀型」をしていればよい(このお椀は、どんなに小さくても良い)。 さて、次の定理が成り立つ: ■2変数関数の極値の必要条件 f (x, y)が点(x0, y0)において極値を持つならば、 fx(x0, y0) = 0, fy(x0, y0) = 0. *3極大値と極小値を総称して「極値」と呼ぶ。図3 関数z = x2− y2のグラフ。点 (0, 0)を鞍点という。 これは、極値においては、x方向のy方向の傾き が0であることを言っている。しかし、一変数の場 合と同じように、逆は必ずしも真ではない。図3は、 z = x2− y2のグラフである。(0,0)での偏微分の値 は0であるが、この点は極大でも極小でもない。 では、2変数関数の極大と極小をどのようにして 調べたらよいだろう? まず準備として2変数関数の テイラー展開を導入しよう。
2.2
2
変数関数のテイラー展開
1変数関数のテイラー展開、 f (x + ) = f (x) + df (x) dx + 1 2! d2f (x) dx2 2 + 1 3! d3f (x) dx3 3 +· · · からスタートしよう。これを f (x + ) = { 1 + d dx + 1 2! 2 d2 dx2 + 1 3! 3 d3 dx3 +· · · } f (x) と変形して書いてみる。中カッコの中身を、exのマクローリン展開 ex= 1 + x + 1 2!x 2+ 1 3!x 3+· · · と比べると、テイラー展開を形式的に f (x + ) = edxd f (x) (9) と表すことが出来る。 この書き方を使うと、2変数のテイラー展開を比較的やさしく求めることが出来る。2変数関数 f (x, y)について、微小量をx とyとかく。(9)式より、 f (x + x, y) = ex ∂ ∂xf (x, y) である(指数の肩の記号が偏微分になっていることに注意)。この式の両辺にey∂y∂ を乗じると ey∂y∂ f (x + x, y) = ey ∂ ∂yex∂x∂ f (x, y) この式の左辺について ey∂y∂ f (x + x, y) = f (x + x, y + y) である。また、証明はしないけれど ey∂y∂ ex∂x∂ = ex ∂ ∂x+y ∂ ∂y が成り立つとしてよい。よって2変数関数のテイラー展開は f (x + x, y + y) = ex ∂ ∂x+y ∂ ∂yf (x, y)と表すことが出来る。指数関数の部分を、再びマクローリン展開すれば f (x + x, y + y) = { 1 + ( x ∂ ∂x+ y ∂ ∂y ) + 1 2! ( x ∂ ∂x+ y ∂ ∂y )2 +· · · } f (x, y) なので、の二次までの展開について f (x + x, y + y) = f (x, y) + fx(x, y)x+ fy(x, y)y +1 2 {
fxx(x, y)2x+ 2fxy(x, y)xy+ fyy(x, y)2y
} (10) を得る。
2.3
極大・極小の条件とヘッシアン
f (x, y)が点(x0, y0)で極値を持つとしよう。以下では記号が煩雑になるのを割けるために、極 値での偏微分の値をfx = fx(x0, y0)、fxx = fxx(x0, y0)と言うように略記する。fx = fy = 0で あるので、(10)式は f (x0+ x, y0+ y) = f (x0, y0) + 1 2 { fxx2x+ 2fxyxy+ fyy2y } (11) となる。よって、任意のxとyについて、上の式の中カッコの中身が正(負)の値なら点(x0, y0) は極小(極大)であり、正負両方の値をもつなら点(x0, y0)は鞍点である。 中カッコの中身は ax2+ 2bxy + cy2 という形をしている。このような式を一般に 二次形式 と呼ぶ。我々の問題は、任意の係数a, b, c について、二次形式の正負を判別することである。 二次形式をg(x, y)と書く。直線x = syのうえで二次形式の正負を調べよう。g(x, sy) = a(sy)2+ 2bsy2+ cy2= y2(as2+ 2bs + c)
ここで(as2+ 2bs + c)は放物線の方程式である。よって判別式D = b2− acについて
• D > 0なら、放物線は図4(a)のようになる。
• D < 0なら、放物線は図4(b)のようになる。
よって、Dの符号を調べることで、放物線 as2+ 2bs + c がsの変化によってどのように正負の値をとるかが分かる。よって、もしD > 0ならば二次形 式g(x, y)は鞍点である。D < 0であるとき、a > 0ならg(x, y)は下に凸の放物面、a < 0なら g(x, y)は上に凸の放物面である。 (11)式について、判別式は H = fxy2 − fxxfyy という形を持つ。2変数関数の極大・極小について、次の結果を得る: 1. H < 0ならば、f (x, y)は点(x0, y0)にて極値をもつ。さらに (a)fxx< 0ならば、f (x, y)は点(x0, y0)にて極大 (b)fxx> 0ならば、f (x, y)は点(x0, y0)にて極小 2. H > 0ならば、点(x0, y0)は極値ではない。 ただし、H = 0の場合は極値の判定は不可能であり、テイラー展開の3次以上の項を考慮しなけ ればならない。H は、行列式の形で H =− fxx fxy fyx fyy (12) と書かれることがある。この行列式をヘッシアンと呼ぶ。 ■例1 f (x, y) = x2− y2の極値を考えよう。 fx = 2x = 0, fy = 2y = 0 より、点(0, 0)が極値の候補である。しかし、この点のヘッシアンH = 4 > 0 であるから、点 (0, 0)では極値ではない。 ■例2 f (x, y) = x3+ y3− 3xyの極値を考えよう。 fx = 3x2− 3y = 0, fy = 3y2− 3x = 0 の解は、(1, 1)と(0, 0)の2点であることは代入すればすぐに解る。ヘッシアンは H = 9− 36xy となり、fxx= 6xである。まず点(1, 1)については、H =−27 < 0, fxx= 6 > 0であるから、こ の点は極小点である。つぎに点(0, 0)はH = 9 > 0なので、極値ではない。
提出課題
次の式について、極値をとる候補点(x0, y0)をもとめ、ヘッシアンの値を計算し、極大極小につ いてしらべよ。 1. f (x, y) = x2y2+1 2x 2 + x 2. f (x, y) = x2− xy3
条件付き極値問題
前節では、2変数関数f (x, y)の極値問題を考えた。これに対して、g(x, y) = cという拘束 条件のもと、f (x, y)の極値を求める問題を条件付き極値問題という。これにはラグランジュ の未定乗数法よばれる方法が知られている。 図6に、ある山間部の等高線を示した。県道28号線がその山あいを走り抜けている。さて、この 県道沿いにもっとも標高の高い地点を求めたいとする。これは、条件付き極値問題の一例である。 12 0 100 80 県道28号 図5 山間部を通り抜ける県道の図。道 上ででもっとも標高が高いのはどこだろ うか? 上の問題を数学的に一般的な問題へ翻訳すると、 「z = f (x, y)で表される曲面を考える。y = h(x)を 満たす曲線上において、f (x, y)の極値を求めよ」と なる。ここで、z = f (x, y)であらわされる曲面が、 図6の「地形」に対応し、y = h(x)を満たす曲線は、 「県道」である。3.1
簡単な例を解く
■例1 y = 1/xを満たすような曲線上で、曲面 z = x2+ y2 が極値となる点をもとめよう。まずy = 1/xを曲面 の方程式に代入し、極値問題を z = x2+ 1 x2 と一変数に簡略化する。z0 = 2x− 2 x3 = 0より、x = ±1をえる。直線y = 1/xにこれを代入す れば、y =±1となるので、求める点は(1, 1)と(−1, −1)である。 ■例2 周りの長さが2である長方形のについて、面積が最大になるのは正方形であることを証 明せよ、という問題も条件付き極値問題の一例である。長方形の2辺の長さを x、y とすれば、 x + y = 1でなければならない。面積はS = xy であるから問題は「拘束条件x + y = 1のもと、 面積xyを最大にすること」である。y = 1− xであるから S = x(1− x) である。微分 dS dx = 1− 2x = 0よりx = 1/2を得る。x + y = 1よりyもまた1/2で無ければな らない。d 2S dx2 =−2 < 0であるから、x = yのとき面積は最大である。 上の二つの問題には、「拘束条件g(x, y) = cが、y(またはx)について解ける」という共通点が ある。これによって、条件付き極値問題は、1変数関数の極値問題に帰着したので、簡単に解くこ とができた。しかし拘束条件が、 x3+ 2x4y3+ 4y = 1, や sin(x) cos(y) = 1/2という複雑な形で与えられていると、yやxについて解けないことがある。または解けても、それ を曲面の式に代入して微分するという計算が、とても煩雑になってしまう。 以下では、拘束条件がyやxについて解けない場合でも適用できる方法を述べる。
3.2
ラグランジュ
(Lagrange)
の未定乗数法
条件付き極値問題とは、「y = h(x)で与えられる拘束条件の下、f (x, y)の極値を求めよ」であっ た。この問題を解くラグランジュの未定乗数法を導入する前に、2つの準備をする。 ■準備1: 陰関数の微分 以下では拘束条件を、陰関数g(x, y) = cで表すことにしよう。y = h(x) は、y− h(x) = 0と変形してy− h(x) = g(x, y)とおけば、c = 0とした陰関数に変形できる。陰 関数g(x, y) = cの上の点(x0, y0)における微分は dy dx =− gx(x0, y0) gy(x0, y0) である。 ■準備2: 曲線の法線 曲線g(x, y) = cが与えられていて、この曲線上の任意の点を(x0, y0)と する。点x = x0での法線*4の単位ベクトルnを求める。まず、接線ベクトルをもとめる。これを tとすると t = ( a ady dx ) = a −agx(x0, y0) gy(x0, y0) ここでaは任意の数であるが、これはどんな値でも良いのでa = gy(x0, y0)としよう。すると t = ( gy(x0, y0) −gx(x0, y0) ) の方向を向いている(aは任意の定数)。これに垂直なベクトルnはt· n = 0と成るように決めれ ばよい。よって n = ( gx(x0, y0) gy(x0, y0) ) である。 図 6 道のりの上でのピークで は、等高線と道が平行である。 ■未定乗数法 曲線g(x, y) = cに沿う点で曲面f (x, y)が 極値をとる点(x0, y0)を求めたい。ここで、(x0, y0)点の近 傍では、曲線g(x, y) = cは「平坦な道」になっていて「標 高」は一定であるはずだ。これは図6のように、曲面の等 高線と曲線g(x, y) = cが、一点で接することを意味する。 このことを数式で表してみよう。 f (x, y) = h で与えられる陰関数は、高度 h の等高線 を与える。(x0, y0)での等高線の法線ベクトル nf と曲線 *4接線に垂直な直線g(x, y) = cの法線ベクトルng は、互いに平行でなければ ならないので、λを定数として、 nf = λng (13) という関係が成り立っている。法線ベクトルはそれぞれ nf = ( fx(x0, y0) fy(x0, y0) ) , nf = ( gx(x0, y0) gy(x0, y0) ) となる。これと(13)式から、 fx(x0, y0)− λgx(x0, y0) = 0 (14) fy(x0, y0)− λgy(x0, y0) = 0 (15) を得る。λをラグランジュの未定乗数とよび、上式を使って条件付き極値問題を解く方法を、ラグ ランジュの未定乗数法という。 ■例3 ラグランジュの未定乗数法を使うと、条件付き極値問題を、単なる極値問題として解くこ とができる。例2と同じ問題を、この方法で解いてみよう。拘束条件g(x, y) = x + y = 1の下、 面積f (x, y) = xyが極値となるxとyを求める。まず未定乗数λを導入して、新しい関数 f (x, y)− λg(x, y) をつくる。式(14)と(15)から、上式を偏微分して y− λ = 0, x− λ = 0 を得る。拘束条件x + y = 1とあわせて解けば、x = y = 1/2を得る。 ■例4 曲線y = x +√2/x上で、原点に最も近い点を求めたい。つまり原点からの距離の二乗 ` = x2+ y2の極値を、拘束条件y− x −√2/x = 0のもとで求めればよい。 x2+ y2− λ ( y− x − √ 2 x ) を、xとyで偏微分して、 2x− λ (√ 2 x2 − 1 ) = 0, 2y− λ = 0 をえる。これとy− x −√2/x = 0を連立させて解けば、x =±1, y = ±2を得る。 ここで紹介したラグランジュの未定乗数法の強力な点は、変数の数が更に増えても(14)と(15) がそのまま成り立つ点にある。拘束条件g(x, y, z) = 0のもと、f (x, y, z)のを求めるには、 fx(x, y, z)− λgx(x, y, z) = 0 fy(x, y, z)− λgy(x, y, z) = 0 fz(x, y, z)− λgz(x, y, z) = 0
を解けばよく、さらに変数が増えても同様である。3変数以上では、拘束条件が複数になる場合も あり得るが、たとえば上式に、さらなる拘束h(x, y, z) = 0が加わった場合は、未定乗数を二つ導 入して fx(x, y, z)− λ1gx(x, y, z)− λ2hx(x, y, z) = 0 fy(x, y, z)− λ1gy(x, y, z)− λ2hx(x, y, z) = 0 fz(x, y, z)− λ1gz(x, y, z)− λ2hx(x, y, z) = 0 を解けばよい。
提出課題
次の問いに答えよ。 1. 条件2x2+ y2= 1の下、で関数x + y2の最大値と最小値をもとめよ。 2. ある人がAというアルバイトをx時間、Bというアルバイトをy時間働くとする。それに 対する報酬が式 f (x, y) = 2√x +√y で計算される。合計10時間働くとき、報酬を最大にするにはAとBをそれぞれ何時間づつ 働けばよいか?発展課題
周りの長さが2`である三角形について、面積が最大になるのは正三角形であることを証明せよ。 ヒント:周りの長さが2lである三角形の面積は、ヘロンの公式 S =p`(`− x)(` − y)(` − z) であたえられる。計算するときはS2の最大値を求めればよい(が計算はかなり大変であり、最後まで遂行するには相当な 覚悟が必要である)。4
1変数関数の定積分の導入
加速度は、速度の微分として与えられる。加速度が時間の関数として与えられている場合、 それを元にして速度を求める問題を考えよう。ある時間内の速度の変化は、その時間内の加 速度の積分として与えられる。4.1
一変数関数の積分法の基礎
あなたがエレベータに乗っているとき、その上昇速度を測ることを考えよう。用意するのは緩い バネと重り。バネを片手にもって,その先端に重りをつり下げた状態で,エレベータに乗り込む。 エレベータが上昇すれば,重りは下向きに力を受けるので,元の釣り合いの位置から動く。重りの 位置を時々刻々と記録した結果,h(t)という関数が得られた。バネ定数をk,重りの質量をmと すれば,a(t) = kh(t)/mがエレベータの加速度になる*5。こうすることで,エレベータの加速度 が時間の関数として解るわけだ。問題は, 初期時刻t0での初速度と、t = t0以降の加速度が時間の関数として与えられたとき,速度 v(t)をもとめること である。 加速度は,速度の微分である。 dv(t) dt = a(t) 例によって小さな時間間隔∆t→ 0を持ち込めば,上式は v(t + ∆t) = v(t) + a(t)∆t (16) と同じ意味である。さて今,t = t0でのエレベータの速度はv(t0)であったとしよう。(16)式で t = t0とすれば v(t0+ ∆t) = v(t0) + a(t0)∆t となり,時刻t = t0+ ∆tでの速度がわかる。ここで、上の式のt0をt0+ ∆tに置き換えてみる。 すると左辺はv(t0+ 2∆t)と、さらに∆t後の速度になる。右辺は、v(t0+ ∆t) + a(t0+ ∆t)∆t = v(t0) + a(t0)∆t + a(t0+ ∆t)∆t
= v(t0) + ∆t { a(t0) + a(t0+ ∆t) } ∴ v(t0+ 2∆t) = v(t0) + ∆t { a(t0) + a(t0+ ∆t) } (17) このようにして、2∆tだけ未来の速度がわかった。ならば、この操作を繰り返せば、T だけ未来の 速度がわかるはずだ。 さらに、(17)式のt0をt0+ ∆tで置き換えると v(t0+ 3∆t) = v(t0) + ∆t {
a(t0) + a(t0+ ∆t) + a(t0+ 2∆t)
}
t p (p+1) t (p+2) t t (p -1) (p -2) t
a(t)
t0 t +T0 図7 上昇するエレベータの加速度と時間の関係,と,その積分の幾何学的イメージ こうなれば,あとは同じ操作を繰り返すだけだ。n回繰り返した結果,次式を得る。 v(t0+ n∆t) = v(t0) + ∆t {a(t0) + a(t0+ ∆t) + a(t0+ 2∆t) +· · · + a(t0+ (n− 1)∆t)
} = v(t0) + n∑−1 p=0 ∆t a(t0+ p∆t) (18) 繰り返しの回数nは、T = n∆tとなるように決める。当然、∆t→ 0に伴ってn→ ∞だから, 上式の n∑−1 p=0 を n ∑ p=0 と置き換えても問題ない。 v(t0+ T ) = v(t0) + lim ∆t→0 T /∆t∑ p=0 ∆t a(t0+ p∆t) となって,目的の速度v(t0+ T )は級数の形で表されることがわかった。 上式の右辺には,分かりやすい幾何学的な意味がある。∑記号の中身は,底辺が∆tで高さが a(t0+ p∆t)の長方形の面積である。pが1だけ増えると時刻は∆t進むのだから,上式右辺の和は 図7のグレーの部分の面積になっている。∆tが小さくなっていくにつれて,曲線a(t)と長方形の 間の隙間はどんどんと小さくなっていく。∆t→ 0の極限で上式の和が一定値に近づくならば,関 数a(t)は区間[t0, t0+ T ]で積分可能であるという。和の値は曲線a(t)と横軸に挟まれた領域の面 積に一致する。この時,∑記号とlim記号を合わせて,次のような省略記号を使うことが約束に なっている: lim ∆t→0 T /∆t∑ p=0 ∆t a(t0+ p∆t) = ∫ t0+T t0 a(t)dt (19) この記号を使えば,(19)式は v(t0+ T )− v(t0) = ∫ t0+T t0 a(t)dt と書けるわけだ*6。積分の値は,上限t 0+ T と下限t0にのみ依存していて,積分変数tには依存 しないことに注意しよう。∫b af (∗)d∗のについて,∗どんな記号を入れようとその数式としての意 *6記号 Z を最初に用いたのは,ライプニッツというドイツの数学者であった。アルファベットSの変形。
味は全く同じである。だから ∫ b a f (t)dt = ∫ b a f (z)dz = ∫ b a f (Q)dQ などの記述は,当然正しい。 ここまでの話をまとめておこう:時刻t0からt = t0+ T において加速度a(t)を計測した。加速 度と速度の間には dv(t) dt = a(t) (20) なる関係がある。そのとき v(t)− v(t0) = ∫ t t0 a(t)dt (21) である。上では、親しみやすい例として、時間の関数としての速度と加速度を用いたが、この議論 は、一般の関数f (x)とg(x)の間に df (x) dx = g(x)という関係があればいつでも成り立つ。(20)式 と(21)式は、対になって微分と積分の関係をあらわしている。なので、この関係のことを微積分 学の基本定理と呼ぶ。
4.2
不定積分
微積分学の基本定理より、関数f (x)の定積分を求めるためには、 dF (x) dx = f (x) となるような関数F (x)を知っていればよい、とがわかるだろう。f (x)をもとに原始関数F (x)を 求める操作は、微分の逆操作である。つまり、微分するとf (x)になるような関数を探してあげれ ばよい。この逆操作を記号∫ を使って次のように書く。つまり dF (x) dx = f (x) のとき F (x) = ∫ f (x)dx + C と書き、これを 不定積分 と呼ぶ。僕らはすでに、いろいろな関数の微分を計算してきたから、い くつかの関数についてその不定積分(原始関数)を知っているはずである。例えば、log xは1/x のひ˙と˙つ˙の不定積分である。また˙ cos xはsin xのひ˙と˙つ˙の不定積分である。˙ 上で「ひ˙と˙つ˙の」と書いたが、ある関数˙ f (x)の不定積分がF (x)である時、任意の定数Cを加え たF (x) + Cもまた不定積分である。このように不定積分は一つに定まらないことに注意しよう。提出課題
1. 次の関数の不定積分を書き、与えられた区間での定積分を求めよ。 (a)x2[0,1] (b)ex [0,1] (c)sin x [0, π] (d)cos x [0, π] 1 0 1/4 2/4 3/4 x y 1 0 1/4 2/4 3/4 x y (i) (ii) 図8 問題2の図 2. y = x2を考える。xの区間[0, 1]を右の図の(i)ように4等分したときの4つの長方形の面 積の和をS4とかく。また、(ii)のように4等分したときの面積をS40 とかく。次の問いに答 えよ。 (a)S4とS40 をそれぞれ求めよ。 (b)区間[0, 1]をn等分したときの長方形の面積の和をSn,Sn0 をもとめよ。 (c)極限n→ ∞でのSn,Sn0 を求め、Sn= S0nであることを確かめよ。 (b)を解くときは、公式: N X k=1 k2=1 6N (N + 1)(2N + 1) が役に立つ。発展課題
無限級数 S = lim n→∞ ( 1 n + 1 n + 1+ 1 n + 2+· · · + 1 n + n ) について、次の問いに答えよ。 (a) Sが S = lim n→∞ n ∑ k=0 1 1 +k n 1 n と変形出来ることを示せ。 (b) S = log 2を示せ。(ヒント:k n = x, 1 n = dxとして、上式の和を積分に変える。)5
積分の計算法
ある関数f (x)が与えられたとき、その原始関数F (x)を知っていれば、f (x)の積分は Za b f (x)dx = F (a)− F (b) と求めることが出来ることを学んだ。もし、f (x)が複雑な形をしていると、その原始関数を 直ちに求められない。しかし、積分の形を「変換」することで計算が可能になる場合がある。 この変換法は、主に二つ知られていて、それぞれ「置換積分法」「部分積分法」と呼ばれてい る。今回はこの二つを勉強しよう。5.1
積分の中で微分する
はじめにかわった計算法から紹介する。たとえば積分 I = ∫ ∞ 0 xne−xdx を計算したいとしよう(n = 1, 2, 3,· · · )。まともに計算しようとすると、あとで紹介する部分積分 をn− 1回も実行しなければならないところだ。これには 微分してから積分しても、積分してから微分しても結果は同じ ことを利用したうまい方法がある。まず,適当な係数αを導入して上の積分を Iα= ∫ ∞ 0 xne−αxdx と書き直しておく。ここで xne−αx = (−1)n d n dαn(e −αx) と書けることに気づけば ∫ ∞ 0 xne−αxdx = ∫ ∞ 0 (−1)n d n dαne −αxdx = (−1)n dn dαn ∫ ∞ 0 e−αxdx と変形できる。この式の最右辺の積分はズグに実行できて,これは1/αだ。よって Iα= (−1)n dn dαn ( 1 α ) = n!α−n ∴ I = lim α→1Iα= n!5.2
置換積分
関数f (x)の積分を求めたい時,x = g(t)として変数をxからtへ変換する。関数g(t)を適切に 選べば,計算を単純化できる場合がある。 関数f (x) = 1 2x + 3 に対して ∫ 1 0 f (x)dxを求めたい。ここでは2x + 3 = tとすればよい。つ まり x = g(t) = t− 3 2としてf (x)→ f(g(t))なる変換を行う。すると積分の中身は 1 t と単純になる。このf (t)の不定 積分はlog tであること我々は知っている。ここで、積分変数はxからtに替わっている。このよ うな変換を変数変換という。 変換を行うときの問題は,xの増分dxが,変数変換x = g(t)によってどう変化するかという事 だ。乱暴に考えるなら、xをtで微分して dx dt = 1 2 だから、これをdxについて解いてdx = 1 2dt と予想できる。微分の記号dx dt をdxについて解くという操作が常に可能である保証はないのであ るが、この予想を採用してtの積分範囲が3から5であることに注意して ∫ 1 0 1 2x + 3dx = ∫ 5 3 1 2tdt を得る。このように積分を変換して単純化する操作を置換積分とよぶ。一般的な公式は次のように なる。 ∫ b a f (x)dx = ∫ β α f (g(t))g0(t)dt (22) となる。 ■証明 関数f (x)の不定積分をF (x)とする(F0(x) = f (x))。f (x)の定積分は ∫ b a f (x)dx = [F (x)]ba= F (b)− F (a) である。 まず、不定積分F (x)に対して、変換x = g(t)を行い、これをtで微分する。合成関数の微分公 式を用いて d dtF (g(t)) = F 0(g(t))g0(t) = f (g(t))g0(t) (23) をえる。微分した後に積分して元に戻そう。g(α) = a, g(β) = bとなるようなα とβ を選んで (23)左辺を積分すると ∫ β α d dtF (g(t))dt = F (g(β))− F (g(α)) = F (b) − F (a) となって、これは元の ∫ b a f (x)dxに等しい。(23)式の右辺の積分は ∫ β α f (g(t))g0(t)dt である。よって(22)式を得た。 ■例題1 I = ∫ 1 0 x 1 + x2dxを計算する。1 + x 2 = tとおくと,x =√t− 1(積分範囲でx > 0 なので,x =−√t− 1は切り捨てた)。dx = 1 2√t− 1dtより, I = ∫ 2 1 √ t− 1 t ( 1 2√t− 1dt ) = 1 2 ∫ 2 1 1 tdt = 1 2log 2
■例題2 I = ∫ 1 0 1 1 + x2dx:一つ前の例題の被積分関数の分子が1になっただけであるが,する と計算は難しくなる。これを計算するには,三角関数の公式 1 + tan2x = 1 cos2x を思い出せば良い。x = tan θという変換を行えば分母を単純に出来るのではと予想できる。やっ てみよう,まず積分範囲は,x = 0のときθ = 0,x = 1のときθ = π/4。dx = (tan θ)0dθ = dθ/ cos2θなので I = ∫ π/4 0 1 1 + tan2θ dθ cos2θ = ∫ π/4 0 1 1 cos2θ dθ cos2θ = π 4
5.3
部分積分
積分を計算するのに置換積分法に並んで重要な武器になるのが,この部分積分法である。置換積 分を使っても,部分積分を使っても積分が出来なかったら,殆どの場合は諦める事になる。部分積 分は,被積分関数がf (x)g(x)というように,二つの関数の積の形になっているときに,有効な場 合がある(有効でないときもある)。 部分積分の公式の導出は,以下のように簡単である。関数の積の微分に関する公式 d dx { f (x)g(x)}= f0(x)g(x) + f (x)g0(x) (24) を,xについて区間[a, b]で積分すると [ f (x)g(x)]ba = ∫ b a f0(x)g(x)dx + ∫ b a f (x)g0(x)dx よって次の 部分積分法の公式 を得る: ∫ b a f0(x)g(x)dx = [ f (x)g(x) ]b a− ∫ b a f (x)g0(x)dx (25) ■例題1 I = ∫ π 0x sin xdxを計算してみる。(− cos x)0= sin xである事を使えば
∫ π 0 x sin xdx =− ∫ π 0 x(cos x)0dx =− [ x cos x ]π 0 + ∫ π 0 cos xdx = π + [ sin x ]π 0 = π ■例題2 不定積分I = ∫
log x dxを計算してみよう。被積分関数log xを1× (log x)と読み,
(x)0= 1であることを使う。 ∫ log x dx = ∫ (x)0log x dx = x log x− ∫ x(log x)0dx = x log x− x
提出課題
次の定積分を求めよ。 1. I = ∫ π/2 0 cos ( 2x +π 2 ) dx 2. ∫ e 1 x log xdx 3. ∫ a 0 xe−x2dx, またa→ ∞ での値も求めよ。 4. ∫ a 0 x arctan xdx (部分積分を使う)発展課題
1, In = ∫ π 0 xnsin xdxについて,漸化式 In= πn− n(n − 1)In−2 を証明せよ。I0 = 2, I1 = πはすぐに計算できる。これを用いて,I2 = ∫ π 0 x2sin xdx,I3 = ∫ π 0 x3sin xdx,及びI4= ∫ π 0 x4sin xdxをもとめよ。 2, 半径aの円の方程式はx2+ y2 = a2 で,y について解けばy = ±√a2− x2。よって関数 f (x) =√a2− x2は上半円を表す。積分 I = ∫ a −a √ a2− x2dx を計算し,円の面積を求める公式S = πa2を導け。6
積分の応用1
高校の物理では、微分積分を使わない決まりになっている。しかしそもそも、微分積分の考 え方は、物体の運動を記述するために考え出されたのである。この節では、ニュートンの運 動方程式から出発して、速度や仕事などを積分で表示することを学ぶ。6.1
速度・加速度・距離
x軸のうえで運動する質点mを考える。時刻tでの質点の位置をx(t)、速度をv(t)とする。時 刻t = 0での位置と速度がそれぞれx0, v0であったとき、その後の質点の運動は dx(t) dt = v (26) mdv(t) dt = F (27) によって全て決定される、というのが質点の力学の結果である。一つめの式は、速度vとは、位置 xの時間微分であるという定˙義である。同様に、加速度は速度の時間微分として定義される。なの˙ で、二つめの式はma = F という見慣れた式を、微分を使って書いたものだ。 (27)式はニュートンの運動方程式という。少し脱線してこの式のココロについてのべよう。ma = F という式を、「質 量に加速度をかけたものが、力に等しい」と理解していると、本質を見落とすおそれがある。より良くは「質量mをもつ 物体に力F を加えたら、加速度aが生じた」というストーリー付きの「因果関係」を表していると、理解すべきだ。 さて、(26)、(27)式をt = 0からtまで定積分してみよう: x(t)− x0 | {z } 変位 = ∫ t 0 v(t0)dt0 | {z } 微小変位 (28) m{v(t) − v0} | {z } 運動量の変化 = ∫ t 0 F (t0)dt0 | {z } 力積 (29) ただしここで、x(0) = x0, v(0) = v0と書いた。まずひとつめの式を見てみよう。左辺はt = 0と tでの位置の差、つまり質点の移動距離を表している。それが右辺の積分で表される。積分の中身 v(t)dtは、微小時間dtの間に質点が移動する距離を表している。それをt = 0からtまで定積分 したものが、距離になっていることを理解してほしい。ふたつめの式の被積分量F dtを、時間間 隔dtの間に、質点に加えられた「力積」と呼ぶ。それを定積分したものが、t = 0からtの間に起 こる運動量の変化になる。 ■例:等速直線運動 F (t) = 0のとき、質点は等速直線運動をする。この時(29)式からv(t) = v0 を得る。これを(28)式に代入すればx(t)− x0= v0tとなる。 ■例:真空中の自由落下 F =−mgを(29)式に代入して積分を計算するとv(t) = v0− gtを得 る。これを(28)式に代入すれば、 x(t)− x0= ∫ t 0 (v0− gt)dt = [ v0t− 1 2gt 2 ]t 0 = v0t− 1 2gt 2 となる。このように、物理ですでに習っている自由落下の式が導かれる。■例:変動する外力 質点 m に外力F = sin t が作用している場合を考えよう。簡単のため x(0) = v(0) = 0という初期条件で考える。(29)より、 mv(t) = ∫ t 0 sin tdt =− cos t + 1 よってv(t) = (1− cos t)/m。これを(28)に代入すると、 x(t) = 1 m(t− sin t) を得る。つまり質点は、振動しながらx軸を正の方向へ移動していく。
6.2
仕事とエネルギー
運動方程式(27)の両辺に速度v(t)をかけて積分することを、エネルギー積分という。なぜ、そ ういう名がついているのか?実際に計算してみよう: mv(t)dv(t) dt = F v(t) を時刻t = 0からtまで時間で積分する。 m ∫ t 0 v(t0)dv(t 0) dt0 dt 0=∫ t 0 F v(t0)dt0 ここで、左辺の積分の中身は 1 2 d dt0 { v(t0)2 } という形に書き換えることができるので、 1 2m ∫ t 0 d dt0 { v(t0)2 } dt0= 1 2m [ v(t0)2 ]t 0= 1 2mv(t) 2− 1 2mv0 2 となる。一方、右辺の積分は、v(t0) = dx(t 0) dt0 を代入して、置換積分の公式を用いると ∫ t 0 Fdx(t 0) dt0 dt 0=∫ x(t) x0 F dx となるから、最終的に 1 2mv(t) 2−1 2mv0 2 = ∫ x(t) x0 F dx (30) を得る。左辺に現れた 1 2mv(t) 2を運動エネルギーと呼ぶ。また、 F dxを仕事とよぶ。(30)式は、 微小仕事の積分が、質点の運動エネルギーの変化量に等しいことを述べているのである。 ■例:自由落下 自由落下の場合F =−mgである。簡単のため初期速度v0= 0として考えよう。 F =−mgを(30)式に代入して 1 2mv(t) 2=−mg{x(t) − x 0}x(t)− x0は落下した距離であるから、これをhと書こう。すると 1 2mv(t) 2=−mgh が得られる。これは、自由落下における運動エネルギーの増加量は、mghという量のマイナスに 等しいことを言っている。mghには位置エネルギーという名前がついている。 ■例:バネにつながれた重り バネ定数kのバネにつながれた質量mの重りを考える。F =−kx を(30)式に代入すると次の式を得る。 1 2mv(t) 2+ 1 2kx(t) 2= 1 2mv0 2+1 2kx0 2 (31) これは運動エネルギーの保存則に他ならない。
提出課題
1.(a)質点mに変動する外力F = cos tしているとき、(28)、(29)式を用いて、質点の位置 x(t)を求めよ。 (b)前問の結果を、F = sin tの結果と比べたときの違いについて説明せよ。また、そのよ うな違いが生じるのは何故か? 2. 力と変位の関係がF =−k1x− k3x3で表される非線形のバネに質量mのおもりを取り付 けた場合の、エネルギー保存則の表式を導け。発展課題
地表から垂直に打ち上げたロケットが、地球の重力を「振り切る」ために必要な初速(第二宇宙 速度)を求めよう。地球の質量をM、ロケットの質量をmとすると、ロケットに作用する地球か らの引力は F =−GM m x2 と表される。ここで、Gは万有引力定数、x は地球の 中心から計った、ロケットの高度である。 G = 6.7× 10−11[m3/s2kg]、M = 6.0× 1024[kg]、地球の半径をR = 6.4× 106[m]として、次の 問いに答えよ。 1. t = 0でのロケットの速度v0= 0、地球の中心からの高さはx0= Rである。この条件のも とで(30)式を計算し、エネルギー保存則を導け。 2. ロケットが地球の重力を「振り切る」とは、lim t→∞x(t) = ∞ となることである。特に lim t→∞v(t) = 0 となる初速度は、重力を「振り切る」ための最小の速度であり、第二宇宙速度 という。第二宇宙速度の値を求めよ。7
二重積分
ここから3回にわたって多重積分を学ぶ。まず、単純な矩形区間の2重積分を導入し、次に 積分区間がxおよびyに依存する例をまなぶ。前者については、xとyについて積分順序の 交換がいつでも可能であるが、後者については、積分順序の変更をするために特殊な式変形 が必要になることを理解する。 我々はすでに、2変数関数の微分(偏微分)を勉強した。ここで、2変数関数の積分へと進もう。 まず準備として,次の,定積分の基本的な性質を確認しておく: 任意の関数f (x)について,その定積分 I = ∫ a2 a1 f (x)dx (32) は定数になる。例えば,f (x) = 3x2,a1=−1, a2= 1の時は,I = 2となり,もはや変数xには 依存しない。このように、 任意の関数f (x)について、定積分を実行すると,x依存性が消えてし まうことを、再確認しておこう。この事を踏まえれば,これまでに学んだ一変数関数の積分の知識 だけを用いて,2変数関数f (x, y)の積分も理解できる。7.1
矩形領域の二重積分
2変数関数f (x, y)の積分を考える。まず、xについてのみ積分をおこなうが,このときyは定 数と見なす*7。 積分の区間を[a1, a2]として、f (x, y)の積分は I(y) = ∫ a2 a1 f (x, y)dx (33) となる。ここで積分は、yのみの1変数関数である。なので,I(y)を区間[b1.b2]でyについて積 分することは,今までの一変数関数の積分と同じだ。積分の結果をIとすると,それは I = ∫ b2 b1 I(y)dy とかける。ここで,この式に(33)を代入してxとyに関する積分を同時に書く。つまり I = ∫ b2 b1 {∫ a2 a1 f (x, y)dx } dy (34) さらに中カッコを省略して、 I = ∫ b2 b1 dy ∫ a2 a1 f (x, y)dx (35) と書くことに決める*8。今までの一変数関数の積分と区別して,この積分を二重積分と呼ぶ。 *7これは偏微分の考え方と同じ。 *8これをI = Z b2 b1 Z a2 a1 f (x, y)dxdyを書くと、xとyのどっちの変数を[a1, a2]で積分するのか、わかりにくくな るので。■例 二重積分 I = ∫ 1 0 dy ∫ 2 1 xy2dx を求めよう。xについての積分から実行することにすれば、 I = ∫ 1 0 dy [ 1 2x 2 ]2 1 y2= ∫ 1 0 3 2y 2dy つぎにyの積分を実行すると、I = 1/2を得る。先にyの積分を実行し、そのあとxの積分を行っ ても、結果は同じになる。試してみよ。 7.1.1 二重積分の幾何学的意味 1変数関数の積分 ∫ a2 a1 f (x)dxは、x = a1、x = a2、x軸、および曲線f (x)に挟まれた区間の 面積を表していた。これと同様の幾何学的意味が、2重積分 I = ∫ b2 b1 dy ∫ a2 a1 f (x, y)dx にもある。図9を見てみよう。図中の空中に浮いたちり紙のような素片は,関数f (x, y)の曲面を 表している。dxdyはxy平面上の小さな長方形の面積に等しいので,積分の中身f (x, y)dxdyは、 図9(a)の細い角柱の体積にひとしい。ここで、xについて積分した値I(y) = ∫ a2 a1 f (x, y)dxは, (b)に示した板状の側面の面積である。この板の体積はI(y)dy と書ける。これをさらにyについ て積分すれば,(34)式のI になるが,これは(c)に示した角柱の体積に等しい。
x
y
a
a
1 2b
b
1 2f(x,
x
y
y)
f(x, y)
(a)
(c)
x
y
a
a
1 2 2f(x, y)
(b)
y
0x
0y
0 図9 二重積分の幾何学的イメージ。dS = dxdyはしばしば微小面積要素と呼ばれ、二重積分は ∫ S f (x, y)dS と書かれることもある。積分記号の下についたSは積分の領域を表す。 二重積分は,関数f (x, y)が表す曲面とxy 平面の間に挟まれた領域の体積を表す。このことか ら、xとyの積分順序を逆にしても、積分の結果は変わらないことがわかるだろう: ∫ a2 a1 dx ∫ b2 b1 f (x, y)dy = ∫ b2 b1 dy ∫ a2 a1 f (x, y)dx (36) ■簡単な例 f (x, y) = cとすると,これはz = cでz軸と交わるxy平面に平行な平面を表す。 次の積分 ∫ c 0 ∫ c 0 f (x, y)dxdy = ∫ c 0 [ cx ]c 0dy = c 3 は,辺の長さがcの立方体の体積に他ならない。
7.2
積分範囲が、
x
または
y
に依存する二重積分
x
r
y
A B 図10 円領域内での積分 前節では、xの積分とyの積分の単純な組み合わせと して、2重積分を導入した。この意味では、2重積分と 「1重」積分の間に概念的な差異はない。ここで、積分範 囲について考えてみる。「1重」積分では常に、積分範囲 はx軸上の2点で挟まれた直線区間である。これに対し て(35)式の2重積分は、長方形の領域での積分である。 ここで、図20に示したような半径r の円の内部を積 分領域として、f (x, y)を積分することを考えてみよう。 この場合、yの積分範囲はxに依存して ∫ √ r2−x2 −√r2−x2 f (x, y)dy と書ける。これは図20の直線ABでの積分である。こ れをさらにxについて−rからrまで積分すれば、これは ∫ r −rdx ∫ √ r2−x2 −√r2−x2 f (x, y)dy (37) と表される。このように、閉曲線に囲まれた積分領域での積分は、積分変数に依存する積分範囲を 持つ2重積分としてあらわされる。また、同じ積分を記号Dを用いて ∫∫ D f (x, y)dxdy, D = { (x, y)| − r < x < r, −√r2− x2< y <√r2− x2} (38) と書くこともある。y =
x
2y = x
1/4x
y
1
x
y
1
y =
x
(a)
(b)
図11 変数に依存する積分領域 ■例 関数f (x, y) = xyを、図11(a)のようなy = φ2(x) = 0の直線とy = φ1(x) = xの直線で 囲まれた三角形の閉領域で積分することを考える。 D ={(x, y)|0 < x < 1, 0 < y < x} であるから、 ∫∫ D xydxdy = ∫ 1 0 dx ∫ x 0 xydy = ∫ 1 0 [ 1 2xy 2 ]y=x y=0 dx = ∫ 1 0 1 2x 3 dx だから、積分の結果は1/8となる。 ■例 関数f (x, y) = xyを、y = φ2(x) = x2とy = φ1(x) = x1/4の二つの曲線で囲まれた閉領 域で積分することを考える。図11(b)に示したように、この領域は D ={(x, y) | 0 < x < 1, x2< y < x1/4} と表されるから ∫∫ D f (x, y)dxdy = ∫ 1 0 dx ∫ x1/4 x2 xydy (39) である。先の例と同様に計算すれば、積分の値は7/30となる。提出課題
次の積分を計算し、それぞれの積分範囲を図示せよ。 (1) ∫∫ D e−(x+y)dxdy, D ={(x, y) | 0 < x < ∞, 0 < y < ∞} (2) ∫∫ D (x2− y)dxdy, D ={(x, y) | − 1 < x < 1, − x2< y < x2}発展課題
中学校で習った角錐の体積を求める公式「底面積×高さ÷3」について、謎であった3という数 字が出てくる理由を、二重積分の簡単な例をつかって調べてみよう。xyz空間内の三点(L, 0, 0), (0, L, 0), (0, 0, h)を通る平面の方程式は z = h− h L(x + y) で与えられる。x,y,z軸とこの平面から構成される三角錐の体積を求めたい。原点と2点(L, 0, 0), (0, L, 0)を結んでできる三角形領域で、上式を二重積分し、「体積=底面積×高さ÷3」を証明せよ。 (0, 0, h) (0, L, 0) (L, 0, 0)
z
y
x
8
二重積分の置換積分(変数変換)
二重積分について、二つの変数xとyの組を、uとvの別の組に変換するための公式を導く。 これは、1変数の積分で学んだ「置換積分の公式」の二重積分への発展とみることができる。 1変数関数の置換積分の公式[(22)式]を思い出そう。x = g(t)なる変換に対して、置換積分は ∫ g(b) g(a) f (x)dx = ∫ b a f(g(t))g0(t)dt (40) である。上の式は、x軸について書かれている左辺の積分に対して、t軸という新しい座標軸を導 入して、積分を書き直しているのである。x軸とt軸は「目盛り」が異なるので、右辺にはg0(t)dt という「おつり」が表れると考えればよい。 このような置換積分の考え方を、二重積分 ∫∫ D f (x, y)dxdy へ導入することが、今回の課題である。変数(x, y)を、(u, v)へ変換する。これらの変数の組の間 には x = x(u, v), y = y(u, v) なる関係がある。置換積分の「二重積分バージョン」は ∫∫ D f (x, y)dxdy = ∫∫ D0f(x(u, v), y(u, v))Xdudv
という形に書ける。上式のXが、(40)式のg0(t)dtに対応する、「おつり」である。Xはどのよう な形を持つのだろうか?
8.1
ヤコビ
(Jacobi)
行列とヤコビアン
(Jacobian)
図12 xy直交座標系と、uv斜 交座標系 二重積分 ∫∫ D f (x, y)dxdy に対して、変換 x = x(u, v), y = y(u, v) (41) を行うことを考える。この変換操作は幾何学的にみれば、 xy座標系をつかう代わりに、図12にしめしたようなuv座 標系をつかって積分を計算しようという試みである。変換 後の二重積分は、図に示した微小面積要素dSを用いて ∫∫ D0 f(x(u, v), y(u, v))dS となる。ここで以下のことに注意しよう。新しいuv座標系は直交座標系とは限らないし、「目盛 り」の大きさも元の座標系と異なるので、図の微小面積要素dS を単にdudv と書くことは出来 ない。dSを求めるための準備として、まず変数変換(41)式から全微分の表式*9を書き下しておこう。 dx = xudu + xvdv, dy = yudu + yvdv これはベクトルの形式で書きなおせて ( dx dy ) = ( xu yu ) du + ( xv yv ) dv (42) と表せられる。(42)式右辺の二つのベクトルを、それぞれ a = ( xu yu ) du, b = ( xv yv ) dv と書くことにしよう。aは、uがduだけ変化したときに(x, y)がどれだけ変化するかを表すベク トルである(また、bは、vがdvだけ変化したときに(x, y)がどれだけ変化するかを表すベクトルである)。よって 微小面積要素dSは、aとbがつくる平行四辺形の面積である。かかる平行四辺形の面積は、aと bの外積であらわされるのだから、 dS =det ( xu xv yu yv ) dudv = |xuyv− xvyu|dudv である(| |は絶対値を表す)。この(8.1)式に表れた行列式 det(xu xv yu yv ) (43) を、ヤコビ(Jacobi)行列式といい、 |J|, ∂(x, y) ∂(u, v) などと書く。 結局、二重積分の置換積分公式は、 ∫∫ D f (x, y)dxdy = ∫∫ D
f(x(u, v), y(u, v))|J|dudv (44)
で与えられる。我々はこのことを、記号的に dxdy =|J|dudv と書くことにする。
x
y
2
図13 積分領域D ■例 積分 ∫∫ D (x2+ y2)dxdy *91節の(7)式を参照を、図8.1にしめす領域Dについて計算してみよう。変数 変換x + y = u、x− y = vを行うと、積分領域は D ={(u, v) | 0 < u < 2, 0 < v < 2} と単純に書ける。変換は、 x = u + v 2 , y = u− v 2 となるので、ヤコビアンは 1/2 1/2 1/2 −1/2 =− 1 2 である。よって、 ∫∫ D (x2+ y2)dxdy = ∫∫ D {( u + v 2 )2 + ( u− v 2 )2} −12dudv (45) = 1 4 ∫ 2 0 du ∫ 2 0 (u2+ v2)dv (46) = 8 3 (47) となる。
8.2
極座標変換
ヤコビ行列式の最も重要な応用は、極座標変換 x = r cos θ, y = r sin θ (48) に対するものである。この変換は、被積分関数や積分範囲がx2+ y2という形を含むときに便利に 使える。ヤコビ行列式は、|J| = rとなるが、その計算は演習問題とする。記号的に dxdy = rdrdθ が成り立つと覚えておくと良い。rdrdθは、図14に示すような扇形の面積である。 図14 dxdyとdrdθの関係。■例 積分 I = ∫∫ D xy x2+ y2dxdy を領域D ={(x, y) | x2+ y2< 1, x > 0, y > 0}について求める。極座標変換を施すと I = ∫∫ D0 r sin θr cos θ r2 rdrdθ = ∫∫ D0 sin θ cos θrdrdθ となる。領域D0は、D0 ={(r, θ) | r < 1, 0 < θ < π2}とすればよい。よって ∫∫ D0 sin θ cos θrdrdθ = ∫ π/2 0 sin θ cos θdθ ∫ 1 0 rdr sin θ cos θ = 12sin 2θ等を用いて計算すれば、結果として
I = 1 4 を得る。