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Eディスカバリー手続の特徴と問題点 1はじめに

 本章は、アメリカ合衆国(以下、「アメリカ」とする。)におけるEディスカ バリーについてその概要と保護命令の機能について考察を行うものである。

 今日、周知のように、コンピューターの発展には著しいものがあり、情報と 技術の時代は、法を含むあらゆる場で古い情報処理の方法に急速に取って代っ ている。このことは、証拠の大部分が今日デジタルである場合、訴訟当事者は、

法および紛争の事実についての理解だけでなく、コンピューターシステムおよ びデータ保管実務までも理解することが求められることを意味する。

 しかしながら、大部分の企業内弁護士および法廷弁護士は、法そのものと書 面による書類作成を中心に訓練されているため、彼らは、今日のコンピュータ ー中心のシステムの中から証拠を捜し出すのに必要な専門的事項について知 識は十分とはいえない。

 たとえば、大量のEメールや電子文書の開示が求められる特許訴訟、製造 物責任訴訟、商事訴訟、行政訴訟および雇用訴訟では、ディスカバリーは広範

囲で大規模なものとなり、時には秘密の業務記録や情報についての開示を含む ことにもなる。今日、最も負担となるディスカバリーは、このようないわゆる

「電子ディスカバリー」または「Eディスカバリー」と呼ばれる、訴訟当事者 のコンピューター内に保存されている電子メールやその他の電子文書につい てである。Eディスカバリー要求に関連した費用は巨額になる可能性があり、

紛争そのものの総額をはるかに上回ることもある。

  アメリカでは、民事訴訟に関する手続を定めた連邦民事訴訟規則の一部が 2006年12月1日に改正され、ディスカバリーにおいて訴訟当事者が電子 形式で保存された情報(E1ectronica11yStoredInformation,以下、「ES I」

とする。)に関する規定が整備された。電子情報開示の対象となるデータは、

電子メール、インスタント・メッセージ、文書ソフトや統計ソフト等で作成さ れたファイル、実験データ、会計データ、CADやCAMのファイル、ウェブ サイト、サーバーやネットワーク・ストレージに保存された電子情報など、す べての電子的に保存されたデータである。新しい規則は、ビジネスと社会双方 の電子メールおよび上のインターネットを重視する新しい文化と相まって、す べての人にとって重大な情報管理の厳格化と責任を課している。一方で、裁判

Eディスカバリーに関する厳しい手続の遵守は、国全体の裁判官によって強制 され始めており、もはやEディスカバリーの領域ではES I情報の取扱い上 の「無知」による抗弁は許容されない。すべての訴訟当事者は、訴訟または政 府調査に関連するする可能性のあるES Iの作為的、あるいは偶発的な削除に 対しては厳罰に服することになっている。訴訟が提起された後、ES Iの破棄 が発覚したならば、裁判所による制裁は確実に生じる。ビジネスおよび法律の 専門家は、以前にもましてこれらの問題を解決する努力が必要とされている。

 したがって、電子情報の開示の場合には、従来の文書を中心としたディスカ バリーとは根本的に異なる取り扱いが求められる。たとえば、アメリカ国内で 事業展開をする日本企業がアメリカで訴訟を提起されると、日本の本社や関連 会社のデータセンターなどにあるコンピューターやサーバーに保存した電子 情報について、これが訴えに関連する情報であれば提出を拒否することができ なくなる。そればかりでなく、問題は、そのような電子情報の保存や保管がで きてなかったり、あるいは隠匿したり、故意に破棄したりする場合には、たち まち裁判所からの制裁の対象となったり、後に述べるように、陪審に対して「不 利益推定説示」(adverse inference instruction)が行われることである。特 にこの説示によって、事実認定者である陪審に対して当事者の一方にディスカ バリー妨害のあったことが告げられることになる。1 このような説示は、評 決に重大な影響を及ぼすことは言うまでもない。

 この点、日本の民事訴訟法では、電子情報を民事訴訟においてどのように取 り扱うかについての規定は存在しない。2 なお、民事訴訟法231条は、録 音テープ及びビデオテープを準文書の例とするにとどまり、磁気テープ等の電 磁的な媒体一般を準文書の例とはしていない。3したがって、日本では、企業 だけでなく、個人も、「文書」の所持者が民事裁判のために開示することを前 提とした電子情報の自覚的な管理経験や管理方針がないことが問題となる。ア メリカにおいても、膨大な量の電子情報の中から、証拠となるデータだけを取 り出すのは大変な作業であると考えられており、また抽出作業が不十分だとそ の後の証拠調べに手間取ることになり、時間を要するだけではなく、相当な費 用も必要となる。他方で、守秘義務に基づいて特定情報を非開示としたり、あ るいはイン・カメラ手続を利用して開示の仕方を制限する方法を選択せず、不 注意にも、不必要な情報まで提出した場合、機密情報を訴訟相手に漏らしてし

まうことにもなる。

 また、電子情報の提出の仕方、提出物の範囲、さらに提出の遅延などは、紙 へ一スのディスカバリーに比べてはるかに曖昧であるが、しかし、その対応を 誤ると訴訟結果にかなり深刻な影響を及ぼすことになる。そのため、文書所持 者にとっては、関連する電子情報に関する予めの保護方針、管理、保全や精査

が不可避となっている。

 本章では、電子情報の性質上、全体的に、概括的におこなわれるディスカバ リーにおいて、プライバシー情報や企業機密を含む文書の提出をどのように防 止するかという点と、従来の「保護命令」はそのような場合とのように機能す るのかといった点を検討する。そのため、2において、2006年連邦民事訴 訟規則の改正の問題点を概括し、このような改正を促せた先行判決を分析し、

3において、Eディスカバリーにおける保護命令のあり方について検討したあ と、一定のまとめをしたい。

2アメリカ合衆国におけるEディスカバリーの現状と展開

(1)2006年連邦民事訴訟規則改正の概要

 連邦民事訴訟規則については、その改正案が2006年4月に連邦最高裁に よって承認され、ディスカバリーにおいて訴訟当事者がES Iをどのように取

り扱うべきかに関して改正がおこなわれ、同年12月1日から導入されること

になった。

 来るべきEディスカバリーに向けて、連邦民事訴訟規則の改正を検討し提 案する民事規則諮問委員会(AdvisoryCommitteeonCivi1Ru1es)に対して

この問題が最初に提案されたのは1996年であるが、ディスカバリーの改正 には実務家や企業サイドの意見が必要との声により、関係者への意見聴取がお こなわれたが、改正はなかなか進展しなかった。その後、本格的にEディス カバリーの問題への取り組みが始まったのは2000年のことである。その後 も検討を重ねるが、改正への取り組みは時期尚早と判断され、2004年2月 にニューヨークにあるフォーダム・ロー・スクールで二日間にわたる大規模な 会議を開き、同年5月に改正案が発表された。同年8月には、改正案につい てのパブリック・コメント期間が設けられ、2006年2月までに聴聞会も三 回開かれた。そこでは大企業の代表者による証言のほか、様々な意見が寄せら れた。それらの意見をもとに、同委員会は改正案に修正を加え、2005年6 月に改正手続規則常任委員会(StandingCommitteeonRu1esofPracticeand Procedure)の承認を経て、同年9月には司法協議会(Judicia1Conference)

において、2006年4月12日に連邦最高裁で承認され、同年12月1日公

布された。4

 訴訟規則の改正の結果、影響がある思われる四つの改正点につき、以下に紹

 ①連邦民事訴訟規則26(Oでは、同規則26(Oで規定されている最初の面会協 議(meetandconfer)において、これまで以上の話し合いが義務付けられた。

この当事者によるディスカバリー計画の協議には、ES Iの提出形式など、E S Iのディスカバリーに関連するあらゆる問題についての話し合いを含めな ければならない、とされた。さらに訴訟当事者には、特定の場所に存在するE

S Iに合理的にアクセスできるか否かについて、および当該ES Iを回収し、

検討する費用負担について協議することが求められた。また、訴訟当事者は、

開示すべき情報(非電子的情報を含む)の保全に関する問題について協議する ことも求められた。6

 ②連邦民事訴訟規則34(b)では、文書提出の形式を指定する。すなわち、文 書を要求する当事者は、文書の提出要求をする際に、どのようなタイプのES

Iがどのような形式で提出されるべきかの指定が可能となった。文書を提出す る当事者が、要求された形式に同意しない場合には、その応答において当該指 定形式に反対する旨とその反対理由を述べ、求める形式を指定しなくてはなら ない。また、文書を提出する当事者は、ES Iの提出形式が文書提出要求にお いて特定されていない場合には、使用するES Iの形式を明確にしなければな らない。したがって、訴訟の両当事者が別段の合意をしない限り、または、裁 判所が別段の命令を下さない限り、文書を提出する当事者は、「合理的に使用 可能な」形式か、または通常保存されている形式でES Iを提出しなければな

らないとされた。7

 ③連邦民事訴訟規則26(b)(2)(B)では、「合理的にアクセスできない」データ ソースにある情報のディスカバリー手続に関する規定が新たに追加された。文 書提出当事者は、文書提出要求に対する応答において、データソースに「合理 的にアクセスできない」とした場合、裁判所の命令がない限り、当該データソ ースにある情報の提出に応じる必要はない。つまり、文書要求当事者が開示の 申立てを提起した場合、または、文書提出当事者が保護命令を受けるために、

情報が本当に「合理的にアクセスできない」ことを文書提出当事者は、立証す る必要がある。しかし、このような立証がなされた場合であっても、文書要求 当事者が「正当な理由」を示した場合には、裁判所は当該データソースにある 情報の開示を命じることができるとした。8

 ④連邦民事訴訟規則37(Oは、ES Iの「悪意のない破棄」(good faith disposa1)に対するセーフハーバー(safe harbor)規定である。つまり、特 別の事情がある場合を除き、電子情報システムの定期的かつ誠実な運用の結果

として、電子的に保存された情報が破棄され、当該情報の提出が不可能になっ た場合であれば、裁判所は当該情報の提出が不可能になった当事者に制裁を加 えることはない。この「誠実な」(good faith)運用の要請によって、関連情