b 争点
この訴訟の第一の争点は、「コカコーラ・ボトリング社のシロップ」という契 約上の用語が、ダイエットコーラを作るために用いられているものに該当する かどうかである。115第二の争点は、原告による被告の製法についての情報開 示の必要性の方が、被告の営業機密の保護の必要性より重点を置かれるかべき か否かという点である。116
C 当事者の主張
原告は、被告のコカコーラとダイエットコーラが二つの異なる製品だという 反論に応えるために、被告コカコーラ社の秘密の製法の開示が原告の主張を立 証するための「関連性と必要性」に基づくものであるとした。被告コカコーラ社 は、製法が本作訴訟において中心的な争点を解決するための「関連性のある、
そして本質的要素である」と言う原告の主張を拒否するとともに、被告の営業 機密の開示は、訴訟のこの段階では不適当であると主張した。117
デラウェア州連邦地方裁判所は、当該製法に関するディスカバリー上の争点 を解決する可能性を当事者とともに検討したが、コカコーラ社に対する秘密開 示の必要性は認めなかった。その後、当事者は製法に関する争点について集中 的な交渉を行ったが、合意には至らず、むしろ被告コカコーラ社はコカコーラ クラッシックとして古いコカコーラを再導入するとした。
この訴訟に共通の争点は、ダイエットコーラとコカコーラには原告の同じシ ロップガ便われているかどうかである。被告コカコーラ社の初期の抗弁は、コ カコーラとダイエットコーラが二つのまったく異なる別な製品であるという ことだった。原告は、ダイエットコーラとコカコーラの二種類のコーラは一般
的な特性を共有するものであって、二種類間の違いは重要なものとは言い難く、
単に味の違いを達成する試みを反映したものだということを示すことによっ て、二種類の製法は関連性があると主張した。しかも原告は、新しいコーラの 導入とともに、それがダイエットコーラの秘密製法の一部分を用いたのである から、新しいコーラが古いコーラに類似するというより、新しいコーラはダイ エットコーラにより近いということは確かだと主張した。これに対して被告は、
甘味料の違いを除いて、原料の類似性と差異性は、ダイエットコーラとコカコ ーラが同じ製品かどうかの決定に関連性はないと主張した。被告の反論は、こ の点にっき、それぞれの飲料の味の相違性、飲料の異なる重要な特徴、飲料の 異なる消費者市場、及び飲料に対する異なる消費者の認識に依拠するものであ った。118
d 裁判所の判断
同連邦地裁は以下のように判断した。「営業機密が訴訟においてディスカバ リーから完全に特権化されていないことは、はっきりと確立されている。……
営業機密に関係するディスカバリーに反対するためには、当事者は最初にディ スカバリーを通して求められた情報が営業機密に該当し、かつその開示にはリ スクがあることについて証明力ある証拠によって立証しなければならない」
H9と述べた。 このことが示されるならば、「営業機密の開示が本件訴訟への 関連性と必要性があることについての立証負担は、ディスカバリーを求めてい る当事者に移る」120とした。
ディスカバリーにおいて営業機密の開示が求められているときに、申立人が 満たさなければならない支配的関連性基準(goVerningre1eVanCeStandard)
は、正式事実審理前のディスカバリーに適用されるより広い関連性の基準であ る。すなわち、中立人は求められている文書が訴訟の主要な問題に関連性のあ ることを示さなければならない。この基準とともに、中立人にとって審理の準 備をするためにとくに特定の情報が必要であるということ(必要性、
neCeSSity)を示すことが求められる。この必要性の証明基準は、その法的根 拠を証明することと相手方に反論することを含んでいる。
いったんこの関連性と必要性が立証されると、裁判所は情報の必要性と、開 示が命令されたならば生じるであろう損害との均衡を取る必要性がある。なぜ ならば、保護命令は開示される範囲を限定することになるため、比較衡量され る関連損害は、公への開示によって引き起こされるであろう損害ではなく、適 切な保護命令の下での開示に起因する損害だからである。この点で、営業機密 所持者と競合の関係にない当事者への開示は、競合者へのそれよりも危害が少
ないだろうと推測される、と裁判所は述べた。!21
情報の必要性と開示によって生じる損害に対する保護の必要性との間の均 衡について、いったん開示について関連性と必要性が示されると、開示が選ば れる傾向があり、連邦最高裁が認めたように、「営業機密と守秘性のある商事 情報の開示を禁止する命令はまれである。」122これに関連する判例法におい ても、いったん申立人が秘密情報は関連性と必要性があること確立したならば、
ディスカバリーが実際上は命令されることを示している。営業機密に関するデ ィスカバリーが許可されるのは、それが訴訟の進行を促進する必要性があると きはいつでもそうであり、適切な特権が示されない場合はもっと簡単である。
つまり、裁判上の調査は極度に妨げられるべきでないとの方針である。
ラーニッド・ハント(Leamed Hand)裁判官は、初期の営業機密の開示に関 する事件について判決した一人である。彼は「被告に対して営業機密の開示を 強制するかもしれないこと、そしてそれによって被告に損害を与えるかもしれ ないということは真実である。……しかしながら、それは、そのような事件に おける開示では不可避の出来事である。そして被告が応答を強制されたと言う のでない限りは、開示がなされないと、原告は被告が不正をしているかどうか について知る権利が奪われる」123と述べた。
営業機密の開示可能性について争う場合、とくに本件では全ての製造方法に ついてディスカバリーする必要性は、必然的に製法が事案に関連性があるがど
うかにつきる。原告は様々なソフトドリンクに含まれた原料と比較することに よって製品の同一性の争点を提示するために、被告の完全な製法の開示を必要 としている。原告は、原告の専門家証人が完全な製法を分析でき、しかもその 製品が同一であるという理由を説明できない限り、ダイエットコーラとコカコ ーラは二つの製品であるという被告の専門家証人の主張に応答できない。たん に公に開示されている原料からそうである、というだけでは明らかに不十分で ある。なぜならそれらは不十分なものしか提出できないし、秘密原料はコカコ ーラの味に重要なポイントを占めるからである。甘味料を含む公にされた原料 の違いは、それらが秘密原料についての類似点と相違点の開示を通して比較的 に出されない限り理解されることはない、と裁判所は判断した。124
さらにディスカバリーによって、古いコーラの秘密原料がダイエットコーラ を作るために加工されたこと、そしてこれらの加工は、砂糖に代替して人工甘 味料を使用することによって生じた味の変化と釣り合うように意図されたこ とが明らかになっている。秘密原料の変更の効果は、他の原料への変更をやめ させ、ダイエットコーラをコカコーラの味のようにさせていることが裁判所に よって認められた。さらに被告の提案した合意案は、秘密の原料の数量を明ら かにしておらず、もし、コカコーラとダイエットコーラの秘密原料が同様の1
00の原料で構成されているならば、二種類のコーラについて全ての原料の大 多数が全く同じであるために、仮に秘密原料がその中でほんの少しだけだった
としても、明らかになる事実は原告にとってより有利になるだろうと、I25さ
れた。
結局、被告の提案した合意案は、営業機密についての被告の主張によって原 告が尋問の権利を奪われているという問題を解決しない。つまり、被告の提案
した合意案は、ディスカバリーが行われることに比べた場合、さほど原告に有 利なものとは思えないし、開示の必要性自体までも取り去るものでもない、
126と裁判所は判断した。
e 判決
被告は、秘密製法を含むすべての材料を開示しなければならない。しかし、
それは公への開示を認めるものではない。
f意義
本件は、ディスカバリー情報の開示について、その対象が営業機密である場 合、それが営業機密自体であるということはr正当事由」とならず、本案訴訟の ためには被告の営業機密の保護のための必要性よりも、原告の製法を知る必要 性の方が重点を置くべき問題であると判断された事例である。その際の法的な 要件として、当該開示の「必要性」と「関連性」の立証責任が必要とされた。営 業機密についてディスカバリーが行なわれる多くの事例では、営業機密を保護 するほうに重点が置かれがちであり、正当事由も認められることが多いが、本 判決では、両者の主張を比較衡量することによって、原告の必要性と関連性が 認められた。また当該営業機密は第三者に対して開示しないと判断しており、
この点について営業機密への配慮があるものの、営業機密を保護することが何 よりも優先されるというものではないということが示された点で、保護命令の 本来の意味を再確認する判断であると言える。
イ第三者の営業機密性について正当事由を示しうるだけの立証が ないとされた事例一R.J.Reyno1dsToba㏄ow Ph舳pMorris,Inc.,
29Fed.Appx.880.2002U.S.App.LEXIS3355(2002).
a 事実の概要