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浮遊汚染物質(船からの目視観測)

○宮尾 孝(気象庁)

1、はじめに

海面浮遊汚染物質は世界中の海に広く分布している。タバコの吸い殻やレジ袋のような小 型のものから、廃棄あるいは亡失した漁網のような大型のものまであり、誤飲や絡みつきに よって海洋や海岸の野生生物を危険にさらし、船舶の運航を妨げて経済的損失をもたらすと ともに、人間の健康と安全を脅かしている。特に、プラスチックごみは海の汚染物質の多く を占め、長期にわたって環境中に残って海洋生態系に悪影響をもたらす。しかも、時間が経 つにつれ、細かく砕けて小片となり、回収は困難になってゆく。これら汚染物質は人間活動 によって排出される。廃棄物の不適切な処理、あるいは、ゴミや工業製品の管理の不行き届 きが起源となっている。

本章では、航行中の船舶の高い場所から行う、目に見える大きさの海面浮遊汚染物質の目 視に専念できる観測を中心に記述する。ほかの観測プラットフォームとしては航空機がある が、大きいごみしか目視できないのが難点である。実際には、船舶による海面浮遊汚染物質 の目視観測は、必ずしもそれ単独で行わなくてもよく、クラウド・ソーシング的な(便宜供 与船からの観測など)海洋ごみの目視のために比較的簡単な手法になっている。環境要因の 違いがあるにもかかわらず、浮遊ごみの空間的、時間的変動について有用な情報をもたらし てくれるものである。とはいえ、目視観測の結果が大型のごみに片寄ってしまうことには注 意を払うべきである。

2、 観測の目的と設定

2-1 目的

目視観測では、特定の期間において視認できる浮遊汚染物質の分布と量の情報を収集する。

外洋域における目視観測について、もっとも普通の興味の対象となるのは、汚染物質の存在 密度と種類である。したがって、外洋域における目視観測の代表的な目的は、たとえば、以 下のようになる:

・海面浮遊汚染物質の種類を識別すること;

・海面浮遊汚染物質の分布密度を評価すること;

・海面浮遊汚染物質の出現の時間的および空間的な変動を検知すること。

2-2 観測海域の選定

海浜および沿岸域における大型ごみの調査は数多く行われてきたが、外洋域における海面 浮遊ごみの量や種類に関する情報は乏しい。観測海域は以下の事項を考慮して選定されるべ きである:

・風系や主要な海流に影響される起源および輸送過程を考慮し、

・汚染物質が集積していることが知られている海域に注目し、

・観測船の航行が海洋の生態系に悪影響をもたらさないようにする。

2-3 観測の頻度とタイミング

固定された領域での長期モニタリングについては、サンプリング間隔は最低でも年に一度 とするべきである。理想的には、季節的な変化についての解釈ができるように、年四回のサ ンプリングを推奨する。

浮遊ごみの目視観測は、環境要因(特に海面状態と風速)の影響を受けることを念頭に置 くこと。したがって、目視観測は海が静穏な状態からあまり間を置かずに行い、直前に生じ た荒天で浮遊ごみが水柱に混ぜ込まれることによるバイアスをなくすようにするべきである。

さらに、風速がビューフォート風力階級の2(風速 3.3 [��−1] )以下であることが望ましい (DeFishGear, 2013)。

3、フィールドでの観測

3-1 一般的事項

目視観測は日の出から日の入りまでの日中に行わなくてはならない。航行中の船舶の観測 者は、船橋または高さのあるその他の場所に立ち、左舷側または右舷側に注意を集中する。

観測者の喫水線上の高さは船舶の型によって変わる。航路は直線でなくてもよいが、直線で あればデータの扱いが容易になる。観測者は浮遊汚染物質を発見するたびに、種類、大きさ、

数、その他の情報を、補助的な情報(日時、緯度・経度等)とともに、用意されたデータシー トに記録する(データシートの代わりにタブレット端末を用いると便利である)。ライント ランセクト法によるサンプリング(図 2 を参照)の場合は、航路からの垂直距離(あるいは 視認した距離と船首からの方位角)も記録しなくてはならない。

観測者は、目視に専念する観測の場合は特にそうであるが、海面のぎらつきのない舷を用 いることが望ましい。ごみは裸眼で発見されるべきであり、その種類を確認したり大きさを 見積もったりする目的に限り双眼鏡を使用してよい。観測者の人数はさまざまであろうが、

どのような調査においても最低でも二人で観測するよう推奨されている (Ribic, 1990)。 3-2 観測器具等

観測船は位置と船速を決定するために GPS 装置を搭載していなくてはならない。観測海 域を図上に示すことができるような、何らかのシステムがあることが望ましい。

上述のように、ごみは裸眼で発見されるべきであるが、強い太陽光と海面のぎらつきから 目を守るために偏光グラスは有用であろう。目視観測には双眼鏡(8~10倍程度が適切と思わ れる)を欠かすことはできない。距離計や傾斜計は検知したごみまでの距離の計測に使用で きる。デジタルカメラも、ごみの種類を再確認したり、物体の大きさを再び評価したり、複 雑な姿をした浮遊ごみの詳細な画像を記録するのに役立つ。

3-3 考慮すべき条件

(1) 気象条件

視程がよくないときには目視観測を行わないことが望ましい。たとえば、Yoshida and Baba

(1985) は視程 200m 未満になると観測を行わなかった。好ましくない海面状態、つまり高い 波とうねりもまた、検出可能性に影響を及ぼす。

(2) ごみの特性

浮遊物の色、大きさ、形状および浮力が検出可能性に影響することはよく知られている。

大きく明るい色のごみは容易に発見される。特に、浮力の影響は大きく、軽いプラスチック 容器は海面よりも上に出ており、海面直下を漂っている漁網に比べると、はるかに検知され やすい。したがって、ライントランセクトの手法を用いる場合には、発見函数をごみの種類 ごとに構成するべきである。

(3) 船による差異

船速と観測者の喫水線からの高さは浮遊ごみの検出可能性に影響を及ぼす。大きな船では、

観測者は通常喫水線よりもかなり上で船首から離れて立っており、このため船首の近くにあ る物体は検出されなくなる。船体の形状も検出不可能な領域を作ることは、無視することの できない事実である。

(4) 要員

海面浮遊汚染物質の目視観測は、観測と同時にほかの作業を行わない観測者によって行わ れるべきである (Ribic et al., 1992; DeFishGear, 2013)。観測に必要とされる人員には、少なく とも 2 名の、海洋で浮遊している物体を目視する経験を積んだ、あるいは訓練を受けた、測 定のための用具(距離計、傾斜計、照準線つきの双眼鏡など)を用いて距離と角度を計測で きる観測員が含まれる。経験を積んだ観測員は、そうでない者に比べてより多くのごみを発 見し、距離をより正確に見積もる。初心者は熟練度の高い観測員と組んで訓練するべきであ る。

4、データおよびメタデータ

4-1 汚染物質の密度

ごみの密度は、別な調査と定量的に比較ができるよう、その単位を[�������−1] などでは なく、[�������−2] として報告するよう強く推奨する。走査された面積はトランセクトの幅 と長さから求められる。トランセクトの長さは、トランセクトの始点と終点の緯度・経度か ら決定する。したがって、針路変更があればそのたびに船位を記録するべきである。

汚染物質の密度の計算式は、カウントされたものの数を走査した面積で割って得られる。

走査面積の評価法は、観測の実態に応じて以下の2通りのいずれかを選ぶ:

(1) ストリップトランセクト法

ストリップトランセクト法が採用される場合、船の舷から特定の距離以内にあるごみだけ が検知される(図 1)。ストリップトランセクトの内部にあるものはすべてカウントされる が、その外にあるものは一切記録されない、と仮定されている。

実際のストリップトランセクトの幅は、ごみの大きさと船速に依存する。2.5cmサイズの

ごみを確実に検知しようとする調査の場合、観測者の高さと船速に基づく予備的に定められ たストリップトランセクトの幅を表 1 に示す。比較的大きいごみの目視については、もっと も普通に用いられるストリップの幅は、50mと100m (Ribic et al., 1992)、あるいはトランセク ト中心線から発見されたごみまでの垂直距離の最大値である (Thiel et al. 2003; Shiomoto and

Kameda, 2005)。しかしながら、一般的に提案されたこれらのストリップ幅はあらためて吟味

する必要があるし (Lippiatt et al., 2013)、調査の目的を考慮して定められるべきである。

1 ストリップトランセクト法の概要図 [Ribic et al. (1992) による]

W はストリップの幅。“O”のラベルを付した物体はストリップの内部にあって記録される が、“x のラベルを付した物体はストリップの外にあり記録されない(たとえ発見されてい

ても記録されない)

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