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第 4 章 新しい光学系 55

4.2 設計結果

4.2.1 DM 前の光学系

DM前の光学系の設計を行う。今回の設計も過去の光学系である光学系I、光学系IIを参考に DM前にはコーニック面1枚のみで設計を行った。DM前の設計で瞳収差量が決定するため、この 設計は広視野補償光学にとって非常に重要である。

まず、光学系Iと光学系IIのDM前のミラーM1の面形状とDM上でのフットプリントを見て 比較を行う。その結果を模式図で書いたものが図4.1である。図4.1中の赤線と青線は各視野から の光線を表わしている。TMTの焦点から出た各視野からの光線は光学系Iではk= 0のM1のミ ラで反射され、反射された光(実線)はDMに当たる。DM上のフットプリントの形状を見ると、

下部分では瞳収差はほとんどないが上部分では瞳収差が出ていることから、図中のDM1の位置に DMが置かれていることが予想される。次に、光学系IIについて検討する。同様にTMT焦点か ら出た光はk=0.8のM1で反射され、反射した光(点線)はDMに当たる。ここで注意してお くべきことはコーニック定数と面形状の開き方の違いについてである。k0ではk= 0よりも広 がった面形状、k≥0ではk= 0よりもすぼんだ面形状となるため、k=0.8のM1とk= 0の M1のそれぞれの面での反射の仕方は図4.1のように異なってくる。光学系IIのDM上でのフッ トプリントを見ると上部分と下部分の両方ともに大きくズレが生じており、DMの位置は図4.1の DM2の位置にあることが予想される。このようにDM前をコーニック面のミラー1枚で設計する

4.2設計結果 第4章 新しい光学系

場合、コーニック定数による面形状の変化の仕方と瞳収差が発生しないDM位置とDMの傾き方 を少しずつ手動で変化させて、ある程度瞳収差量が小さくなる位置まで設計を行う。ただし、DM の傾き角についてはDMで反射した光線がDMに入射した方向に戻らないように注意をしながら 設計を行わなければならない。図4.1より、光がDMへ入射する方向へとDMを傾ければ瞳収差 は小さくできる。これはDMに対する入射角を小さなればなるほど、視野端から来た光のDM上 での歪みが無くなるからである。しかし、DMを傾けすぎると反射光がM1に干渉してしまうた め、DMの傾き角には制限がつく。その対策としてとられる方法がDMとM1の間を可能な限り 離すことである。すると、DMを傾けずにDMに対する入射角を小さくすることができる。しか し、これには光学系の大きさの制限がついてくる。なるべく設計仕様の光学系の大きさ内に収めつ つ設計していく必要がある。

図 4.1: M1の面形状と瞳収差の関係(付録C.1参照)

4.2設計結果 第4章 新しい光学系

瞳収差の小さいところまで手動で設計を行ったあと、ZEMAXの最適化を行う。DM前の光学系 の最適化は3章でも述べたように瞳光学系を用いて最適化を行う。今回の設計の瞳光学系は図4.2 である。図4.2のようにTMTの主鏡面上の点光源から視野10分角に対応する光線が射出し、DM 上で結像するような光学系が瞳光学系である。ZEMAX上ではマルチコンフィグ機能を用いて瞳光 学系を作ると、最適化を両方の光学系に行えるため便利である。瞳光学系の最終像面(DM位置)

でのスポットが最小になるようにパラメータを選択し、最適化を行った。その結果、完成した光学 系は図4.3である。

図4.3よりDMの大きさはϕ500 mmとなった。幾何光学の横倍率に関する式からDMの大きさ が大きくなればなるほどDMに入射する光線の傾きが緩くなる。また、DMに入射する光線の傾 きが緩くなれば瞳収差は小さくなる。そのため、DM径を過去の光学系よりも大きくすることで瞳 収差を低減するように光学系を設計した。

ここで、図4.3のDM上でのフットプリントを見ると図4.4のようになる。結果、新しい光学系 の中心視野光束に対する最大瞳収差ずれは3.06%となった。

中心視野光束に対する最大瞳収差ずれ= 3.06%

さらに、フットプリント上部が最も瞳収差が大きかったが、それ以外の左、右、下部分の最大瞳 収差ずれも測定すると以下のようになる。

上 = 3.06%

右 = 0.91%

左 = 0.88%

下 = 0.65%

これより、全体的に瞳収差ずれは小さいことが分かる。

ただし、図4.3の設計ではDMとM1の間の距離を8.5 m離さなければ瞳収差3.3%以下を満た すことができなかった。仕様では6 m立方の光学系を目指していたが、その条件は緩めなければ ならなかった。しかし、8.5 mはNFIRAOSと同程度の装置になることが予想されるため、製作可 能として設計を進めた。

ここで、DM前までの波面形状を見て、発生している収差について調べる。その方法としては DMを反射後に理想レンズを入れて像面での波面マップを見ることで行う。DM後に理想レンズを 入れた光学系とそのときの波面マップは図4.5と図4.6のようになる。また、各視野に対する波面 のRMS値とPTV値をまとめると表4.2のようになる。図4.6の結果から、波面の形状を見るとど の視野でも似た波面形状をしており、さらに波面の形状とZernike多項式を比較する(付録C参照) と、コマ収差が支配的になっていることが分かる。波面形状のZernike多項式との比較はZEMAX の「ゼルニケ フリンジ係数」の機能を使うと分かりやすい。よって、図4.6では視野毎に異なっ た収差成分を持っていたり、高次収差成分を含んでいるわけではないためDM後のミラーで十分 に補正できると考え設計を進めていく。

4.2設計結果 第4章 新しい光学系

図 4.2: 瞳光学系

4.2設計結果 第4章 新しい光学系

図 4.3: DM前までの光学系(GLAO部分拡大図)

4.2設計結果 第4章 新しい光学系

図4.4: DM上のフットプリント

4.2設計結果 第4章 新しい光学系

図4.5: DM後に理想レンズを入れた光学系

4.2設計結果 第4章 新しい光学系

図 4.6: 理想レンズ後の像面の波面マップ

4.2設計結果 第4章 新しい光学系

表4.2: 理想レンズ後像面の波面マップのRMS値とPTV値 視野 RMS値[λ] PTV値[λ]

1 37.1 207.9

2 61.6 341.7

3 92.7 484.6

4 124.5 629.3

5 154.8 768.6

6 44.4 250.8

7 62.7 347.5

8 124.2 628.7

9 146.3 730.4

10 64.8 354.5

11 123.5 627.2

12 93.6 490.6

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