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第 3 章 光学設計における前提 30

3.2 光学設計における課題点

3.2 光学設計における課題点

3.2.1 光学設計における課題点

設計すべき光学系をレンズ系で書くと図3.7のようになる。

図3.7: 設計のレンズ系の概念図

前節でも述べたように、今回の設計は瞳共役の設計を行うため、瞳共役の場合は入射瞳の位置に ある主鏡と共役位置になる射出瞳の位置にDMを置きGLAOの設計を行う。TMTという超巨大 望遠鏡に取り付ける広視野なGLAOの光学系の光学設計を行う場合、以下の項目に注意しなけれ ばならない。

装置の巨大化

縮小率

瞳収差

まず、装置の巨大化について説明をする。図3.7を見ると分かるように、すばる望遠鏡とTMT で同じ視野を確保しようとした場合、主鏡の大きさに比例して補償光学装置の大きさが大きくなっ てしまう。すばる望遠鏡に比べるとTMTでは約4倍も大きい光学系になってしまう。しかし、DM や非球面ミラーなどの光学素子の大きさには技術的限界があり、大きくなればなるほど製作は困難 になる。たとえ製作可能だとしても費用が莫大にかかってしまう。この理由によりTMTでは広視 野補償光学系を実現することは難しいとされ、すばる望遠鏡でASMを用いて広視野を実現しよう するULTIMATE-SUBARUの計画が行われている。

次に縮小率に注意する必要がある。縮小率γとはTMT焦点面の像の大きさDT M T に対する補 償光学系を通過後の像の大きさDAOの比を表わしており、式(3.2.6)で定義する。

γ= DAO

DT M T ×100% (3.2.6)

3.2光学設計における課題点 第3 章 光学設計における前提

縮小率は補償光学装置の後に続く光学系の大きさを決める重要な項目となる。TMTは主鏡と副 鏡の合成焦点距離が長いため、TMTに広視野の光が入射してきた場合、焦点面での像の大きさ

DT M T もこれまでの望遠鏡と比べると非常に大きくなる。そのため、GLAOの光学系で出来る限

り縮小率を良くし、後ろに続く撮像装置や分光装置の光学系を小さくすることが重要である。

瞳収差については次節で説明を行う。

3.2.2 瞳収差

理想的には図3.7の射出瞳上でそれぞれの視野方向の光線は同じ場所で交わる。しかし、実際に はそうはいかず、射出瞳より物体側にある光学系の収差の影響により射出瞳上で各視野方向の光線 の交わる位置にズレが生じてしまう。この瞳上でのズレのことを瞳収差と呼ぶ。射出瞳上での光線 の交わり方を模式的に表わすと図3.8ようになる。

図3.8: 瞳収差

図3.8のように中心視野(赤色)ではコリメート光はDMに円形で当たっていたが、瞳収差が あると視野が大きくなる(青色、緑色)につれて徐々に形が変形して楕円のような形になってしま う。本研究では、瞳収差σを視野中心光束のDM上での半径r1に対して最も瞳収差によるズレが 大きい位置のズレ量r2−r1の比として定義し、式(3.2.7)で表わす。

σ=r2−r1

r1 ×100% (3.2.7)

瞳収差があるということはDM上で視野方向によって光が当たる位置が異なるということにな る。GLAOの場合、補正するものは主鏡位置にある高さ0 kmの大気揺らぎであり、これはどの視 野方向の光でも共通する大気揺らぎ成分である。しかし、瞳収差があることでDM上に各視野方向

3.2光学設計における課題点 第3 章 光学設計における前提

の光が当たる位置が異なるとDM1枚で全ての視野に対して共通の補正を行えなくなってしまう。

大きな瞳収差が存在することは補償光学を行ううえで致命的であり、十分に注意する必要がある。

ここで瞳収差の目標値を決定しておく。本研究ではDMはTMTの第一期装置であるNFIRAOS と同じく60×60素子のDMを用いることを仮定する。この場合、瞳収差によってDM1素子分ず れないようにするためには式(3.2.8)のように最大瞳収差ズレを3.3%以下に抑えればよい。

最大瞳収差ズレの目標値= 1

30素子×100 = 3.3% (3.2.8)

式(3.2.8)を達成するような光学系を作成することを目標とする。

ちなみに光学設計を行う際、瞳収差を小さくするように最適化を行う方法としては瞳光学系を用い る方法がある。図3.9のように灰色の部分を隠して考えると、入射瞳上にある点光源から視野角に 対応する拡がりで出た光が射出瞳上で結像するような光学系として考えることができる。この入射 瞳から射出瞳までを取り出した光学系のことを瞳光学系と呼ぶ。瞳光学系で像面でのスポットサイ ズが最小になるように最適化を行えば、それは瞳収差を抑える光学系を作成しているのと同義で ある。

図 3.9: 瞳光学系

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