̀男
N. DI者の苦悩とは何か
一一
c1者等へのインタビュー調査をもとに一
本論における研究は,「DI者の苦悩とは何か」を明確にするための2つの調査と, DI者 が被っている;ll:悩からDI者を解放するための理路を構築していくための5つの調査から構 成されている.
この章では,「DI者の;・ ;悩とは何か」を明確にするための2つの調査の結果と先行研究に おけるデータを活用した1つの分析結果を示し,ヒ記の課題を探求する.
1.養子縁組制度を活用した親子へのインタビュー調査(第1調査)
第1調査は,養r及び養親等へのインタビューから,DI者の権利を擁護するための社会 的支援の焦点を類推することを日的として行った.
(1)調査の概要
インタビュー調査の対象は,養r一を育てるカップルを当事者として選定した.養子縁組 により成立した親子は,その成立過程を親が子どもにどのようにして話すのかという親子 形成に係る課題を抱えることが稀ではなく,「真実告知」が親と子の信頼と親密さを保った めの課題とされてきた。つまり,本調査の実施を計画する段階で,わが国においてはDI者 本人がインタビューに応じることは想定できず,DI者並びにその親と同質の課題を抱えて いるだろう養一∫縁組で成立した親子をインタビューの対象とすることとした。なお,調査 対象とした養子縁組で成立した親子はすべて真実が告知されている.
「調査の対象,日時・場所,方法」については,「lll.研究の方法 2.調査の枠組み (3)
第1調査」で示した.
(2)調査の結果
インタビューから得られた結果は,以トのとおりである.養親の発話と養子から得られ た発話では大きく内容が異なり,各々が異なる葛藤を抱えていることが認識される内容と なつていた.その葛藤内容に着目し,養親と養子の発話を区分した.また,具体的な発話 について,葛藤状況を抽出する際に,その意味内容が変質してしまわないよう共同研究者 間でクリーニングしている、
クリー一一一ニングした葛藤状況を代表する発,;1ξのうち,インタビュー対象者のうち,当事者 から得た発話には旦_を付し,支援者から得た発話には旦を付した。各々に付した数字は整 理・分析ヒの符合である.
その}二で,養親へのインタビューから得た発話を解釈し,AIDを選んだカップルが直面 する可能性のある葛藤とDI者が直而する可能性がある葛藤並びにドナーが直面する可能性 のある葛藤に分類した.
具体的なデータについては,「参照データ①:インタビューから得た葛藤」として示した.
(3)考 察
以ドでは第1調査の結果の考察を行う.インタビューで得たデータごとに符号した「a1
〜al1」並びに「bl〜b12」を考察L,必要に応じて再掲する.再掲する場合,できるかぎ り趣旨を変えないよう配慮したうえで, 一部要約している場合がある.
1)AIDを選んだカップルが直面する可能性のある葛藤から導けるサポート
養親は,「親になる資質が備わっているのか/自信・覚悟・責任がもてるか(a1)」を吟 味し,そのliで養fを得て人生設計を立てることがわかる.
このことから,カップルが「子どもを得たい」という願いをかなえるために,養子を迎 えるということがどのような意味を有するのかを,子ども・本人・親類縁者・世間など多 角的な視野を持って検討し,自己決定できるよう,「ライフスタイルへのサポート」が必要 であると解釈できる.つまり,カップルが「子どもを得たい」という場合,養子を迎える ことも1つの選択肢であり,女性が懐胎し自分のお腹で子を育て出産するということも選 択肢の1つである.さらには遺伝止のつながりを求めて代理懐胎を選択するのも国際的な 視野に立てば不可能ではない.したがって,カップルが子どもと共に生きることを選択す るのか,それとも他の道を選ぶのかという選択は,大いに互いのライフスタイルと関連し,
かつ,何段階にも枝分かれした複雑な選択をしていかなければならないのである(b1).
また,「養fを育てる(a2)jということは血縁社会の日本では[普通]のことではなく,
社会的不利とも取れる世間の偏見と闘うか,その事実を隠し続けなければならず,カップ ルの苦悩となっていることが読みとれる.したがって,養子を迎えたカップルが「隠し続 ける」という選択肢を選択した場合,何らかの理由で秘密が漏洩した場合,カップルにも 子どもにも大きな衝撃になる.時に子どもは「親がウソをっいていた」という情動に支配 されることにもなるのである.そうであるのなら,その道が険しくとも前者である世間の 偏見と闘うことを選択できるようなサポートを用意する必要がある(b2).っまり,「真実 告知へのサボート」と「偏見と闘うことへのサポート」が必要となる.
「1扁見と闘う」ことを選択したカップルの葛藤は,図W−1のように表現できる.図W−1 は養了・縁組制度を活用した養親の声から考察した結果である.これを,ARTを選択しよう としているカップルにあてはめて考察すれば,カップルは「子どもがいない暮らしは『一 人前でない』1という世間の偏見に直面していることになる.この偏見から逃れるための手 段は,従来モでは養r・縁組しか考えられなかったが,ARTはより安全に外見1二も自然に子 どもを得られる方法を提供してくれ,世間の好感を得たいという願いを叶えてくれる選択 肢として登場した.っまり,ARTは,不妊のカップルに「子どもがいる暮らし」とr世間
の好感」という2つの満足を保証する特別な位置を占めて登場したのである.
「子どもがいる暮らし」
世間の偏見
1
()
見
H 阻
世間の好感
「子どもがいない暮らし」
図IV−1 ARTに伴うカップルの葛藤
しかし,秘密}義の家族形成,ライフスタイルの選択は,「何かトラブルがあると…
(a3)1に代表されるように親の立場や責任,育児ストレスと不安に直結してくる.っまり,
世間体として好感を得られる家族を演じることができても,家庭の形成を不安定にするの
である.
家庭の不安定さは乳幼児期・児童期・少年}胡・青年期のいずれにおいても大きな打撃に なり得る.それは,父母の立場の違いや子どもとの距離,育児への責任の度合いなどに関 係しており,母の精神的葛藤が伺える.また,苦労して得た子どもだから立派に育てねば ならないというプレッシャーのため育児ストレスの増大も伺えた(a3).このことから秘密
}三義から脱し得ない家族には,より尊重すべきことが「世間体より家庭の安定である」と いう価値レベルの物語の転換を基調とした「育児へのサポート」が特段に必要であると了
解できる.
養子であることをr・どもに告知することについては,インタビューに答えた全員が早期 に子どもに告知すべきだとしている(a4).しかし,告知の理念をどのように持ち,告知の 方法はどのようにするのか,告知後に子どもが抱えることになるであろう,心理的影響に どのように対応するのかについての葛藤がある(a5・6).これに対して支援者は,秘密の 保持の精神的ストレスや,人間同flの間に生じる察知,隠蔽することのリスクを指摘して いる(b3).そして,「告知のトラウマ」(b4)とまで表現している.真実告知をめぐる養親の 内的葛藤が発話記録として聴取することができたことは本調査の意義でもある.それにも 増して,真実告知の難しさを顕在化したことの意義は大きい.すなわち,養親が養子に対 して真実告知をしようと決意するのみでは告知には到達しがたい事情が,家庭内に渦巻い ているのである.これにより,養親は事前にしっかりと告知についての理念や方法を学ぶ 機会を持ち,実際の告知にっいてのノウハウを学ぶ必要がある.つまり,「告知の方法を学
二二上1が必要であるとわか/)た。このことは,DI児・者に対するAIDを選択
したカップルによる告知の難しさと共通していると解釈できる.また,インタビューに答 えた養親や支援者は,告知に対する影響と留意点を具体的に示唆しており,今後,告知へ のサポートを定式化していくヒで,大きなヒントとなると考えられる(b5・6, a7).
2)DI児・者が直面する可能性のある葛藤から導けるサポート
養r・の葛藤には,①告知されたこと,②出自を知る権利にまっわる葛藤が抽出できた、
図IV−2 ARTに伴うr・どもの葛藤
養∫・は告知されて精神的な負担を抱え,この家の子どもになることを受け止めようと必 死に考えていることが伺えた(a8)。このため,子ども自身が納得し安心して,今ここでの 家庭を大切に思い,生きていくためには「自我へのサポート」が必要だとわかった.養子 と関わりを持ってきた支援者も,告知による心理的負担や親がなぜ自分を手放したのかを 突き止めたいという精神的負担,今までの自分と告知後の白分の乖離,根本的な人間不信 などに,養r一が直面することがあることを認識しているのである(b7).
養fは,自分が誰から生まれたのかわからないという不安を抱えており,それを知りた いという要求を持っている(a9).養子が知りたいと思う中味は身長や外見ではなく,その人 を特定する「誰」に関わることである(a10).つまり,養子が述べている「会いたい」とい
う思いの中味とは,その人を深い部分で理解したいという思いが込められていると解釈で きる.それに対して支援者 は,養子の思いに共感しつっ,支援の経験を踏まえて,知った ときの心理的な影響・知るil的・知った後の対応など,アフターフォll・一一を念頭においた 働きかけを心がけていることがわかる(b8・9・10).つまり,真実と向き合い自分の親が 誰であるのかを知る段階並びに知った後のサポート,いわゆる「事後へのサポート」が必 要だとされている.さらに養r・は,知ることが権利であると主張し,その権利が確立され ることが必要だと述べている(al1).その思いを支援者は理解し共感している(bll).こ のことから,養子が求めているのは,[知る権利]であり,「知る権利へのサボート」が求 められていると解釈できる.とりわけ,養子への「知る権利へのサポート」は,自分の親 が誰なのか,自分がどのように生まれたのか,自分がなぜ養子なのかという「出自」に関