第1節 介護保険事業における DEA の適用
本研究では、被保険者の負担に対する認定者の介護サービス提供量が多いことを効率性として定義し たことから入出力項目を設定する。出力項目では、単に認定者の介護サービスの利用量が多いだけでは なく、認定者が重度の要介護状態になっても住み慣れた地域で生活するためには地域で介護(居宅介護 サービス、地域密着型介護サービス)を十分に受けることが必要であることを考慮して追加する。また、
入力項目では、認定率が介護保険者と被保険者の負担に影響を及ぼすことや、要介護度によって要介護 者が利用する介護サービスの量や種類が変化することを考慮し、項目を選定する。
入出力項目の設定において、高齢化率や財政などの介護保険者が改善しにくい環境要因は、用いない こととする。以下では、入出力項目と算出方法について説明する。また、入出力項目を用いて分析を行 うためにふさわしい DEA のモデルについて述べる。
(1)出力項目
介護保険制度では、介護サービスにかかる費用を円ではなく単位で表わしている。1単位を 10 円に換 算するのが基本であり、地域による物価や人件費の差を考慮て加算する。よって、他の介護保険者と認 定者の介護サービス利用量を比較するためには、金額ではなく単位で比較することがふさわしいと考え、
単位を介護サービス利用量の単位とした。
① 認定者一人当たりの介護サービス利用単位数(年間、千単位)
一人の認定者がどのくらいの介護サービスを利用しているかを計った項目である。
② 居宅介護・地域密着型介護サービス利用単位数(年間、千単位)
この数値は、施設介護を利用しない利用者が、居宅介護及び地域密着型介護サービスを利用している 量を計った項目である。よって、介護保険者の居宅介護サービスと地域密着型介護サービスの利用単位 数の合計を認定者全体から施設介護利用者を引いた人数で割って算出した。
(2)入力項目
① 第 1 号被保険者の介護負担単位数(年間、千単位)
市町村は、介護保険給付費の 21%(第5期介護保険事業)に相当する額を第 1 号被保険者に第 1 号保 険料として賦課する。また、第 1 号被保険者の負担水準は、第2号保険料や公費負担と連動している。
つまり、第 1 号被保険者の負担が低いほど、第2号保険料や公費負担も減少する。本研究では、第 1 号 被保険者の介護負担単位数を測定するため、認定者が利用した総介護サービス単位数の 21%を、第 1 号 被保険者数で割った数値を、第 1 号被保険者一人当たりの介護負担単位数と名付けて用いる。
② 認定率
本研究での認定率は、第 1 号被保険者の中の認定者の比率を意味する。認定者が増え認定率が高くな ると、介護サービスの需要が増加し、介護保険者や被保険者の負担が重くなる。
③ 平均要介護度指標
認定者は、要介護度の重度化により、介護サービスへの依存度が高くなり、サービスの需要が多くな ることで、介護保険者や被保険者の負担が重くなる。また、認定者が十分に介護サービスを受けている かを計る際には、要介護度を考慮すべきである。
平均要介護度は、第1号被保険者の中の認定者の平均要介護度を意味する。計算は、要支援1から要 介護度5までの認定者に、順次に1から7のウェイトをつけ、平均を算出した。
式6) 平均要介護度指標=要支援1×1+要支援2×2+要介護1×3+⋯+要介護5×7
認定者数
以上の入出力項目に用いたデータと算出式は、表 22 に示している。入出力項目の設定により、本研究 で DEA から算出された介護保険者は、第1号被保険者の負担、認定率、平均要介護度に対し、認定者一 人当たりの介護サービス利用量と施設介護を利用せず自治体で生活する要介護者の居宅介護・地域密着 型介護サービスが最も多いところである。
表 22 利用した指標の一覧と入・出力項目の算出式
利用したデータ 入出力項目 算出式
・第1号被保険者数(A)
・認定者数(B)
・施設介護サービス利用者数(C)
・介護保険給付費単位数(年,千単位)(D)
・居宅介護利用単位数(年,千単位)(E)
・地域密着型介護利用単位数(年,千単位)(F)
認定者一人当たりの
介護サービス利用単位数 D/B 居宅介護・地域密着型
介護サービス利用単位数 (E+F)/(B-C) 第1号被保険者の
介護負担単位数 (D/A)×0.21 認定率 (B/A)*100 平均要介護度指標 式6 注)全てのデータは、厚生労働省の平成 26 年(2014 年)度介護保険事業状況報告(年報)のデータで ある。
(3)DEA モデルの選定
認定者が利用できる介護サービスの量は、要介護度によって限度が定められており、限度を超えた利 用については、全額自己負担となる仕組みである。また、介護サービスの利用量は、入力項目の1%増 加に対して出力項目の1%増加が必ずしもあるとはいえないため、BCC モデルを選定する。
また、今後の高齢化の進行による保険料の負担増加に対し、介護サービスが円滑に供給できない危機 感がある背景から、現在の保険料を維持しながらも提供されるサービスを最大限にするモデルを探索す べきである。そのため、入力項目を固定したまま、出力項目を最大限にする出力指向の方式を選定する。
以上から、本研究の DEA のモデルは、BCC モデルの出力指向方式にするとする。
第 2 節 各クラスターの介護保険者の効率性分析
1)分析方法
介護保険事業の効率性分析は、DEA(BCC の出力指向モデル)を用いて算出する。 分析方法は、Cook ら(2013)が Excel-solver を用いて提示した方法に沿って行う。分析は、クラスターごとに行い、各クラ スターの効率性を検出する。
2)分析対象
全国の市町村レベルの 1,579 カ所の介護保険者(2014 年度基準)のうち、2014 年度の介護保険事業状 況報告データで介護サービスの利用状況が集計できてない 1 カ所の介護保険者を欠損値にし、1,578 カ 所の介護保険者を分析対象にする。
3)分析データ
厚生労働省の 2014 年度の介護保険事業状況報告データを加工し表 22 で示した通りのデータを分析し た。
4)DEA 分析結果
DEA はノンパラメトリックな効率性評価手法であり、入出力項目間の相関関係は効率性の算出に影響 がないため、相関分析は行わない。また、分析対象の数については、入出力項目数の3倍以上が求めら れている。本研究では、5つの入出力項目数を設定しているのに対し、対象であるクラスター内の介護 保険者は 15 カ所以上で、必要な基準を満たしている。
(1)第1クラスターの分析結果 ① 基本属性
表 23 は、本研究の分析で用いた入力項目と出力項目の記述統計を表示している。また、第 1 クラスタ ーの基本属性については、第2章で記述したクラスターの特性を参照する。
表 23 入出力項目の記述統計
n=23
入出力項目 最小値 最大値 平均 標準偏差
認定者一人当たりの
介護サービス利用単位数(年、千単位) 160.111 129.987 142.285 7.316
認定者一人当たりの居宅・地域密着型
介護サービス利用単位数(年、千単位) 131.197 102.465 113.901 7.100
第1号被保険者介護給付負担単位数(年、千単位) 6.546 4.661 5.712 0.414
認定率 23.980 15.459 19.167 1.697
平均要介護度指標 4.081 3.460 3.771 0.187
② DEA の結果
DEA の BCC 出力指向モデルによって分析した結果、表 24 の通り効率値と改善値が算出された。表 24 のうち、非効率的な介護保険者の平均と標準偏差は、クラスターの中の非効率的な介護保険者 16 カ所の 平均である。出力項目の改善値は、効率性の改善のための出力項目に求められる増加分である。改善値 の中、出力項目の改善値は、各介護保険者の出力項目に効率値(θ)倍した上に、不足している出力を 追加して計算したものであり、非効率的な各介護保険者の出力項目が効率的な水準に達するため、増加 が求められる指標である。(以下のクラスターでも同様に分析)
入力項目の改善値は、出力項目を増加した上で、入力余剰分の改善値を表す指標である。数値の絶対 値が大きいほど、入力項目の削減率が高いことを意味する。つまり、非効率的な介護保険者の効率性の 改善のためには、入出力改善値に基づいて各出力項目を増加させる一方、各入力項目を減らせることが 求められると理解できる。出現数は、入出力項目の改善値が 0 ではない介護保険者の数であり、その意 味は、介護保険事業の効率的な運営のため、各項目の改善が求められる介護保険者の数を意味する。
効率性は、23 カ所の介護保険者のうち、渋谷区、蕨市、新宿区、文京区、品川区、中野区、江戸川区 の7の介護保険者の効率値が1で効率的となり、その他 16 カ所の介護保険者が非効率的となった。第1 クラスターの平均効率性は、1.0591 であり、非効率的な介護保険者の平均は 1.085 であった。
非効率的な介護保険者が効率性を改善するためには、第1号被保険者介護給付負担単位数の改善を 11 カ所、認定率の改善を 16 カ所、第1号被保険者の負担単位数と平均要介護度指標の改善を2カ所の介護 保険者に求められる。
具体的な改善策は、認定者一人当たりの介護サービス利用単位数は年間 12,198 単位、認定者一人当たり の居宅・地域密着型介護サービス利用単位数は年間 10,562 単位の増加が求められる。さらに入力項目で は、第1号被保険者負担単位数は年間 262.6 単位 、認定率は 2.35% 、平均要介護指標は 0.0086 を削 減することも必要とされる。
しかし、これらの改善値は非効率的な介護保険者の全体像であり、各非効率的な介護保険者はぞれぞ れの入出力項目に差があるため、非効率的な各介護保険者に適した改善策は表 24 に提示している通りで ある。