5.2 環境バックグラウンドの測定
5.3.3 CdTe 検出器によるスペクトル解析
図5.9に、本実験におけるCdTe検出器で得られたスペクトルを示す。バックグラウンドのデータの時と同 様に、コインシデンススペクトルを重ねた。さらに、アクシデンタルコインシデンスの寄与を除いたコインシ デンススペクトルと、アンチコインシデンススペクトルも合わせて示した。(C)は、単純にコインシデンスイ ベントを集めたスペクトルで、本来は同時になり得ない662 keVのラインを拾っており、光電吸収ピークの
662 keV付近で(A)の10%程度のところにある。そこで、アクシデンタルコインシデンスの寄与(先ほど見
積もった9.35%)を引くと(D)のスペクトルが得られる。基本的に480 keV以上にはコンプトン成分は存在
しないので、それ以降では、統計の範囲内で(D)と(A)の比が0付近に分布している。システマティックに
−0.1付近に張り付いているのは、アクシデンタルも含めてコインシデンスイベントが一切検出されなかった エネルギー帯域であったことを示しており、イベント数自体が少ないことが原因と考えられる。
この操作を式で追うために、全スペクトルをST(E)、アクシデンタルイベントを補正する前のコインシデ ンススペクトルをSco(E)、補正後のコインシデンスをS′co(E)、補正前のアンチコインシデンススペクトルを Santi(E)、補正後のアンチコインシデンススペクトルをS′anti(E)、アクシデンタルコインシデンスのレートを χとおくと以下のようになる。
S′co(E) = ST(E)−(Santi(E) +χST(E)) = ST(E)−S′anti(E) S′anti(E) = ST(E)−(Sco(E)−χST(E)) = ST(E)−S′co(E)
第1式は、イベントセレクションの段階でコインシデンスイベントを拾っていないものだけ集めて、アクシ デンタルコインシデンスで削られた分を加えてやり、補正したコインシデンススペクトルを導くという手順を 示している。第2式は、同時イベントだけを切り出して、アクシデンタルコインシデンスで水増しされた分を 引いてやり、補正したアンチコインシデンススペクトルを導くという手順を表している。手順の違いがある が、これらの式は等価である。
最後に、図 5.9(D)(下段)のコインシデンススペクトルの解釈を述べる。200 keV付近で突然盛り上がっ
(A)Raw spectrum
(B)Accidental-corrected anti-coincident spectrum (C)Coincident spectrum
(D)Accidental-corrected coincident spectrum
Energy (keV)
0 200 400 600 800 1000
Ra ti o D /A
-0.2 0.2 0.4 0.6 0.8 0 1
Count s
1 10 10
210
310
4図5.9 137CsのCdTe検出器におけるスペクトル。(A)トータルのスペクトル、(B)アクシデンタルコイ ンシデンスを補正したアンチスペクトル、(C)BGOとのコインシデンススペクトル、(D)アクシデンタル コインシデンスを補正したコインシデンススペクトル。(B)は、(A)-(D)で作られる。8 keVごとにビン ニングされている。
ている構造は、コンプトン後方散乱による影響による可能性が高いと考えられる。ここで、個々のアクティ ブシールドのコンポーネントについてCdTe検出器で得られるコインシデンススペクトルを評価したのが図 5.10である。BottomBGO(Comp.I)が180 keV付近で急に立ち上がっており、ジオメトリ的にCdTe検出 器を透過した662 keVがComp.Iで180度散乱してCdTe検出器で光電吸収されたものと考えられる。なお、
Comp.Iは、ジオメトリ的に浅い角度のコンプトン散乱しか拾わないので、200 keV以下でのほとんどのコイ
ンシデンス比を担い、高エネルギーに向けてのコインシデンススペクトルの低下が急になることに反映されて いる。
図5.11において、コインシデンススペクトル比が後方散乱ピーク(180 keV)よりも高エネルギー側で連続 的に高くなっていることは、図5.11より、BGOでコンプトン散乱断面積が光電吸収断面積を超過し始める
のが450 keV付近であることにより説明される。CdTe検出器でのエネルギーデポジットが大きいほどBGO
で吸収される確率が高くなるためである。400 keV付近で、再び下がり始めるのは、BGOの配置的の効果 が考えられる。Side結晶のうち、CdTe検出器へ入射する向きからの見込み角が最も小さい上端をもつのは、
Comp.EおよびComp.Gで、どちらもおよそ110°(CdTe検出器へのエネルギーデポジットは420 keV)以
0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25
CompE CompF CompG CompH CompI
Energy (keV)
0 200 400 600 800 1000
Ra ti o t o t ot al
図5.10 各々のコンポーネントごとに作成したコインシデンススペクトル。ただし、他の結晶と同時であ るイベントは露には排除していないので、コンポーネント間には重複するイベントがある。アクシデンタ ルコインシデンスは補正済み。16 keVごとにビンニングしている。
0.001 0.01
0.1 1 10 100 1000 10000
1 10 100 1000
Cross section (cm2/g)
Energy (keV)
Compton Photo Absorption
図5.11 BGOの光電吸収およびコンプトン散乱の反応断面積[10]。
降で立体角が0になる。見込み角が最も大きいのがComp.Hの上端で、130°(CdTe検出器へのエネルギー デポジットは451 keV)以降で立体角が0になる。この2つが、それぞれ、コインシデンスの比が420-430 keV付近で急激に降下し、450 keV付近でほぼ0となっていることに対応していると言える。
今、コインシデンススペクトルの比の値が300 keV付近で0.6程度である。2 cm厚のBGOは300 keVの
光子を94%、400 keVの光子を76 %光電吸収することより、この結果は、3割程度コインシデンスイベント
をもらしていることを意味する。コンプトン散乱の角度的に、400 keV付近まではほぼ2 cm厚のBGOで囲 われていることは確かめられている。コインシデンスを妨げる要因として、検出器回りに多くのアルミを使用
していることが挙げられる。検出器箱は2 mm厚のアルミで、300 keV光子は5 %程度コンプトン散乱する ため、入射角度によっては10-20%もの散乱が生じてしまう。その他には、鉛の中でコンプトン散乱し、本来 期待しているのとは異なる方角からCdTeに入射し、開口部から飛び去っていく光子などによる漏れも考えら れるが、詳細な定量化は将来のモンテカルロシミュレーションに譲る。