していることが挙げられる。検出器箱は2 mm厚のアルミで、300 keV光子は5 %程度コンプトン散乱する ため、入射角度によっては10-20%もの散乱が生じてしまう。その他には、鉛の中でコンプトン散乱し、本来 期待しているのとは異なる方角からCdTeに入射し、開口部から飛び去っていく光子などによる漏れも考えら れるが、詳細な定量化は将来のモンテカルロシミュレーションに譲る。
0-64 keV 64-128 keV 128-192 keV 192-256 keV
256-320 keV 320-384 keV 384-448 keV 192-256 keV 0
0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2
0 1000 2000 3000 4000 5000
Gate width (ns)
Ra ti o t o m ai xm um c oi nc ide nc e
図5.12 137Csのイベントのコインシデンス比を、ゲート幅を変えながら、5000 nsecのときの値で規格 化した値をプロットした。見やすさのため、(a)0-256 keV、(b)192-448 keVの2つのエネルギーバンドに 分け、比較のため192-256 keVを両方の図に同じ色で示した。
0-256 keV 256-512 keV 512-768 keV
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2
0 1000 2000 3000 4000 5000
Gate width (ns)
Ra ti o t o m ai xm um c oi nc ide nc e
図5.13 バックグラウンドイベントのコインシデンス比を、ゲート幅を変えながら、5000 nsecのときの 値で規格化した値をプロットした。見やすさのため、256-512 keVを20 ns、512-768 keVを40 ns正方 向にずらして描いている。
な幅があることを示唆しているからである。逆に、192-448 keVでは、立ち上がりには差があるものの、収束 にかかる時間があまり変わらないのが、BGOでほぼ特定のエネルギーをもつ光電吸収イベントが主流になっ ていると考えられる。
次に、統計は少ないがバックグラウンド測定のデータから同じ分布を作成し、図 5.13に示す。明らかに、
137Csの時より立ち上がりが早いので、BGOに大信号が生じていると考えられ、宇宙線イベントを捉えてい るという仮説と矛盾しない。ここでも、4µsのゲート幅を設定していたことは問題なかったことがわかり、も う少し短くすることも可能である。256-512 keVが0 ns付近で落ち込んでいる以外では、エネルギーバンド ごとの個性が統計の範囲内でばらついていないため、宇宙線イベントはどのエネルギーバンドでもドミナント なコインシデンスイベント源として働いている可能性が高い。
HXIのアクティブシールドシステムにおいては、このように、APDのShaping Timeの影響が無視できな いため、反同時計数のゲート幅は注意深く決定する必要がある。さらに、付録.Aに示すように、高いレート での測定実験から、APDの波形にパイルアップが生じ、アクティブシールドのヒット信号にピーキングタイ ムの2倍、8 µs程度の不感時間が、一定割合で発生することも分かって来た。今後はこれらの影響も配慮し て、最適な反同時計数ロジックの設計が必要である。
実際に本実験と同様のことをHXIのEMなどに対して行うことを考える。宇宙空間では、コインシデンス イベントは陽子などの荷電粒子で引き起こされる割合が高いが、地上でその模擬を行うためには、地上でµ粒
子を捉える実験を行うことが有用である。荷電粒子イベントは大信号になりやすく、立ち上がりが早いことが わかったので、ヒットパターン信号に採用すべきDelayはこの種のイベントをもとに決定すればよい。逆に、
ヒットパターン信号を受け入れるゲート幅は、アクティブシールドに対してエネルギーデポジットの小さいガ ンマ線実験などをもとに決定すべきである。特に、 Lower Thresholdに近いエネルギーの崩壊が複数同時に 起こる、133Baなどの線源の使用が有効であると考えられる。このLower Threshold付近のエネルギーでの、
ヒットパターン信号出力の振る舞いについては、付録.Bに譲る。
6 まとめ
2014年に打ち上げの予定されるASTRO-H衛星に搭載するHXIは、SiとCdTeの両面ストリップ撮像分 光素子を中心におき、これをBGOシンチレータをAPDで読み出す9個のアクティブシールドで囲む。目標 とする高い感度の実現には、低い検出器バックグラウンドがカギを握る。そこで我々は、HXIのアクティブ シールドシステムの効果を実証するために、一回り小型の試験的な実験を行い、以下の項目を達成した。
1. HXIを模擬し、CdTeピクセル検出器を最大9個のBGOシンチレータで囲うアクティブシールドシス
テムを設計した。BGOの読み出しはAPDを用いる。そのShaping Timeは、HXIで予定されている 値よりやや長いPeaking Time 4µsとした。データ通信でもSpaceWireを用いており、システム全体 はHXIを模擬している。
2. CdTe検出器が信号を受けたのに同期してゲートを開き、BGOシンチレータからのヒット信号をラッ
チする読み出しロジックを立ち上げた。特に、ヒットの有無だけでなく、その時間遅れを各々のチャン ネル独立に記録できる工夫をした。
3. 上記のように開発したアクティブシールド系を用いて、基礎実験として下部の5ユニットをCdTeピク セル検出器と組み合わせた。まず、環境バックグラウンドを記録し、宇宙線と思われるイベントの除去 に成功した。次に、137Csを鉛でコリメートしてCdTe検出器に照射し、コンプトン散乱によるイベン トを用いて反同時計数の動作を検証した。
4. 環境バックグラウンドと137Csを用いた実験データから、時間のゲート幅を変化させていったときの、
コインシデンスイベント回収率の変化をみた。この結果から、アクティブシールドでのエネルギーデポ ジットが小さいほど、ヒットパターン信号の出力されるタイミングが遅く、Lower Thresholdに近い場 合ではShaperのPeaking Timeとほぼ同程度の時間がかかることが示された。
5. 以上の開発、実験を通して、HXIでのアクティブシールドシステム構築に際して注意すべき点の指針 をまとめた。具体的には、PMTを用いたシールド系と比較して、APDのShaping Timeが長くなる ことに注意して、ゲート幅の指定、およびアクシデンタルコインシデンスの見積もりをすべきことが分 かった。
今後の課題として、まず、9個のBGOシンチレータを用いた、全系でのバックグラウンド除去能を実験す る。また、さらにHXIの仕様に近づけるために、APDの出力をアナログのShaperに通さず、デジタルフィ ルターで処理する機能の実装を行う。これらの実験結果を元に反同時計数のロジックパラメータの調整を進 め、2011年の初夏に予定されるエンジニアリングモデルを用いた、より本格的な試験で確認する。最終的に は、2012年に開発される衛星搭載品を用いた詳細な実験を進め、2014年の打ち上げに備える予定である。
A シールドがハイレート時の測定 A.1
22Na 照射実験
137Csではコンプトン散乱イベントを除去するアンチコインシデンスに主眼を置いたが、コインシデンスイ ベントをとることに主眼を置いた22Naの照射実験も行った。22Naは、電子捕獲またはβ−崩壊で、1274 keV
に加え511 keVの対消滅線の計3つのガンマ線を同時に放出する。そこで、我々は図 A.1のように、CdTe
に22Naの対消滅線の一方が入るとき、必ずSideのシールドであるComp.FのBGOにもう一方が入射する ように線源を置いた。
図A.1 (a)線源を設置したときの写真、(b)真正面から検出器を見たときの結晶、線源、CdTe検出器のジオメトリ。
なお、CdTe検出器のカバーである2 mm厚のアルミ箱の上に線源を乗せており、最も浅い角で入射した場 合、実効的に8 mmの厚みになる。しかし、500 keV光子に対する光電吸収はほぼ無視でき、コンプトン散乱 も16 %程度であるため大きな問題はないと考える。
表A.1 22Na実験における各コンポーネントのカウントレート。合計で、160 kHz。 Comp.E Comp.F Comp.G Comp.H Comp.I
3.07×104 4.44×104 3.83×104 3.21×104 1.51×104
この実験でのBGOのスペクトルおよびレートを、図A.2と表A.1まとめておく。注目すべきは、511 keV と1274 keVのピークだけでなく、511 + 1274 = 1785 keVのピークも見えていることである。線源と結晶 のジオメトリを考えれば、3つ中2つのガンマ線がComp.Fを筆頭に入射することは十分考えられる。なお、
Comp.Hはゲインが高いため1785 keVのピークが途中で切れてしまっている。一方で、対消滅線は180度反
対方向に飛ぶので1023 keVのラインが立つことはない。また、CdTeでの全スペクトルを図A.3に示す。図 4.6(b)と同様に、511 keVのピークは見えているが、1274 keVはダイナミックレンジの限界からみることは
E F
0 500 1000 1500 2000 G
Energy (keV)
500 1000 1500 H
500 1000 1500 I
1 10 102 103 104
0 1 0
10 102 103 104
Count s
図A.2 各コンポーネントのBGOにおける22Naのスペクトル。
できない。
ここで、このCdTeスペクトルからBGOとの同時イベントを切り出し、コンポーネントごとの違いを見 ていくために必要な補正を考えたい。使用した線源はおよそ100 kBqであり、コリメートせず近距離におい ているため表A.1より、BGOレートが15-44 kHzと非常に高い。1崩壊当たり3γ放出し、立体角を約2π 覆っていることから150 kHzでガンマ線が5ユニットのアクティブシールドに侵入するため、検出効率によ るロス、コンプトン散乱によるスプリットイベントを考えると、実測値の160 kHzは妥当である。このとき、
4 µsでの切り出しに対して、160 kHz×(1+4) µs=0.8とアクシデンタルコインシデンスの確率が極めて高 く見積もられる。しかし、この近似は、出力が1より十分小さいときしか成り立たず、アクティブシールドの レートが高いときに正確な値を求めようとすると、137Csの実験では考えなかったコンポーネント間で同時に 起こるアクシデンタルコインシデンスイベント、また、コンポーネント内でのパイルアップの効果を考慮しな くてはならない。前者を無視した場合に合計のレートを用いるとアクシデンタルを過剰に見積もることにな る。後者の影響には、切り出すゲート幅に対してアクシデンタルコインシデンスの寄与が線形に上昇しないこ とが考えられる。
今までの測定と同様に図A.4に、ヒットパターン信号の到来までに要した時間のヒストグラムを示した。
Comp.Fは線源に対してCdTeと180度反対向きに位置しているので、511 keVの対消滅線を同時にとらえ
やすい。これより、真のコインシデンスイベントと見なせるピークが他のコンポーネントより高く、Comp.F 以外では特に差が見られない。また、137Csの測定のときでは、ピーク以外の成分はほぼ平らであったヒスト グラムが指数関数的に減少しており、待ち時間分布としての性質がより鮮明に表れている。なお、全てのコン ポーネントにおいて、およそ10µs以内の範囲で指数関数的減少から外れる傾向が見られた。これは、イベン ト同士が無相関であるという原則が破れていることを意味する。