Feminine Sentence-Final Forms in Light Novels
4 CLIL 型日本語学コース実践報告
次に、2014年〜2016年の間に筆者を含む3名によって行われたCLIL型コースを振り返 りながら、上記の仮説を検証する。これらコースの主教材は、筆者が作成中の『日本語を 通して、日本と言う国を考える』(根本 2013)で、この教材では、日本語の語彙、文字、
方言の変遷と現代社会での問題などを学習し、最後に多文化共生を目指す「やさしい日本 語」について考察する4。このような内容重視の教材を作り始めた理由は、中級以降の学習 者間の語学レベルの差が大きく、従来型コースに疑問を抱いていたこともあるが、アメリ カ北東部の小規模リベラルアーツ校である本校では、日本について教えるコースが年々減 少し、今ではほとんどないこともその理由に挙げられる。また、日本語を学習する学生の 専攻もまちまちで、理系の学生などは、語学以外で日本について学ぶ機会を持たないとい うこともある。この教材は、協働や批判的思考能力スキルの向上を目標とした学習者主体 の学習を目指している。その大きな特徴は、各章に語学レベルが違う読み物があり、学習 者は一つを選んで、ピアリーティングをしながら、その内容についてのプレゼンテーショ ンを他のグループの学習者たちのために組み立てることだ。つまり、二つの読み物の内容 のうち、一つは自分たちがグループで読んだりリサーチしたりして学び、もう一つの読み 物の内容は、他のグループのプレゼンテーションから学ぶ。読み物は、簡単なものから上 級のレベルのものまであるが、内容は広がりのあるものを選んである。学習者たちは、読 み物の内容に自分自身のリサーチを加えた内容のプレゼンテーションをすることが期待さ れている。
筆者が行った2014, 2015年のコースは、同教材を使用したもう一つの小規模リベラルア ーツ校の日本語コースとオンラインで学習者のプレゼンテーションを共有した。一方、2016 年のコースには、Project Based Language Learning (PBLL)のメソッドを取り入れた5。また、
2016年には、別の担当者によってアメリカリベラルアーツ校からの留学生を対象とするコ ースが同教材を使って日本で行われた。日本で行われたコース以外は、いずれも少人数で あったが、母語、専攻、日本留学経験の有無などは、様々であった。また、語学レベルの 差も大きかった。アメリカで行ったコース履修者には全員、コース開始時にJ-CAT日本語
テスト(http://www.j-cat.org/)を受験してもらったが、スコアは、137~288点(旧日本語能
力試験3級から1級相当)と大きな差があった6。また、2014 年と 2016 年のコースには、
継承語話者や日本語母語話者も含まれていた。日本で行われたコースの履修者も、その留 学プログラム内の従来型日本語コースでは、3 つの異なったレベルに所属していたことか
ら、いわゆる語学レベルの差は大きかったことがうかがえる。また、今回3名の担当者が 共有したのは主教材のみであり、3 名がそれぞれに自分でアレンジしたコースを行った。
筆者を含む3名とも通常は、アメリカの小規模リベラルアーツ大学で主に、初級、中級の 従来型日本語コースを教えていて、CLIL型コースはこの機会が初めてであった。
では、担当者たちは、CLIL型コースをどう感じたであろうか。コース後、アンケートと インタビューを試みた。共通した観察として「学習者たちが語学差をあまり気にせずディ スカッションができていた」ことが挙げられた。また、「モチベーションと考える力が(語 学レベルよりも)大きくものをいうことがはっきりわかった」という感想もあった。筆者 自身も、このコースでは、例えば、文献を探して比較分析する、あるいは、プレゼンテー ションを組み立てる等transferable skillsが評価に大きくつながることから、そのようなスキ ルを他のコースで身につけた学習者が力を発揮できると感じている。また、CLIL型コース を通して、そのようなスキルを身につけることが可能であるとも感じている。実際、2016 年にコースを履修した大学1年生の日本語母語話者は、協働作業をした非母語話者の上級 生たちからリサーチの方法、批判的思考、プレゼンテーションの組み立て方など学ぶこと が多かったと感想を述べている7。
また、学習者からの評価としては、全体的に教材の内容が好評であった。「協働の仕方を 習った」という感想もあった。さらに、「語学力に自信がついた」という感想もあった。一 方、他の選択がなかったため上級日本語コースとして CLIL 型コースを履修した学習者か らは、「難しかった」「文法や漢字の勉強にならなかった」という声もあった。
5 内容学習とスキャフォールディングとしてのブレンデッドラーニングの導入
最後に、2014-2016年のCLIL型コースに導入したブレンデッドラーニングと、それがど
のように学習者のウェルフェアにつながるかについて述べたい。2014年と2015年の2回 は、学習者のプレゼンテーションとピアリーディングを他校とオンラインで結んで行った。
この試みについては、根本・小林(2014)に実践報告があるが、当初の目的の1つは、2つの コースを結ぶことによって、より語学レベルが近い学習者と協働ができる環境を作ること であった。結果的には、このコースに関しては、J-CAT のスコアには大きな開きがあった ものの、語学レベルの差はほとんど気にせずにコースを進めることができた。しかし、他 校の学習者のためのプレゼンテーション作成や、他校の学習者と協働はとてもいい刺激に なり、この試みの学習効果は高かったと思う。
2016年のコースには、内容学習と語学スキル習得のサポートとして、ウェブサイトとビ デオシリーズを製作した8。ウェブサイトは、日本語の文字の変遷を視覚と簡単な日本語で 学習するためのもので、博物館からの写真や様々なリンクで、文字の使われ方の歴史から 発展した学習ができるようになっている。ビデオシリーズは、根本(2013)にある読み物の 内容に関連した内容の講義、そして、関連のある読み物のピアリーディング・ディスカッ ションのビデオを製作した。これらの目的は、内容学習だが、プレゼンテーションやディ スカッションのモデルにもなり得る。ビデオレクチャーは、語学レベルの差が大きい時に も、いろいろな使い方ができるのではないかと思う9。講義の長さは、短いものが8分程度 で、長いものでも20分程度である。言語的難度も比較的シンプルなものから難しいものま であるが、ビデオ画面には、大きくパワーポイントスライドが表示されるので、学習者た ちは必要に応じてビデオを止めてスライドの内容を確認できる。また、今回は、講義を担
当してくださった方々に、スライドのノートエリアにその部分の講義内容を書いていただ き、学習者が必要に応じてそのスライドを読めるようにした。内容重視のコースでは、ポ イントは講義の内容を理解することで、それに至るまでに学習者それぞれの語学レベルに 合わせて様々なステップが必要であることも考慮しなければならない。そのためには様々 なテクノロジーをスキャフォールディングとして使うことが可能であろう。テクノロジー を使ったスキャフォールディングが学習者のウェルフェアに役立つことは言うまでもない。
6 まとめ
本稿では、CLIL型コースが学習者のウェルフェアにどのように関係するかを考察した。
CLIL型コースの場合、様々なtransferable skillsが従来型の語学コースより直接的に評価の 対象になることで、学習者それぞれが違う場面で活躍できる機会が増え、それが学習者の ウェルフェアに繋がるのではないかという仮説を立てた。また、実際に行われた CLIL コ ースの担当者や学習者からのアンケートやインタビューがそれを裏付けていることを紹介 した。ここで紹介したケースは授業参加人数も少なく、結論を出すことはできないが、CLIL 導入を考慮する際、特に学習者の語学能力の差が大きい場合は、その利点の1つとして学 習者のウェルフェアを考慮するきっかけにはなると思う。
1 アメリカ合衆国の場合は、ACTFLが下記をウェブ上で公開している。
https://www.actfl.org/sites/default/files/pdfs/21stCenturySkillsMap/p21_worldlanguagesmap.pdf
2 影響は学習に不利なものだけとは限らない。Spielmann & Radnofsky (2001)も参照。
3 これらの研究はいずれも15年以上前のもので、現在アメリカの大学で日本語を履修している学 習者の学習目的は当時とはかなり異なるため、学習者のタイプも大いに異なる可能性もある。
4 この教材は、筆者が国際交流基金2012年度海外日本語教師上級研修で製作を開始したものであ る。担当していただいた先生方、コメントと励ましを続けてくれている同期研修生の方々にお礼を 申し上げる。
5 根本(2016)を参照。このコースで作成したニュースレターはウェブ上で公開されている。
(https://ida.mtholyoke.edu/xmlui/handle/10166/3889)
6 J-CATでは、350点以上が日本語母語話者相当と位置づけされている。
7 今回の授業に参加した日本語母語話者は、12歳から日本国外で教育を受けた大学1年生であっ た。そのため、この母語話者の日本語は簡単な文型や語彙が多く、学習者にはわかりやすかったよ うである。学期末のアンケート・インタビューでは、他の学習者がこの母語話者の発言から日本語 の言い回しを大いに学んだと感想を述べていた。これはKrashen (1985)のi+1 やVygotsky (1975)の
zone of proximal development (ZPD)と結びつけて考えることができるであろう。また、母語話者と一
緒にコースを履修したことをどう思うかという質問に対して、2016年のコースに参加した全員がこ のようなコースでは母語話者と協働できることが望ましいと回答していた。
8 このウェブサイトとビデオシリーズは、Five College Blended Learning Grants 2015とMount Holyoke
College Faculty Grantsから助成金を受けて製作され、ウェブ上で公開している。
(日本の文字の変遷ウェブサイト)https://commons.mtholyoke.edu/japanesewriting/
(ビデオシリーズ)https://ida.mtholyoke.edu/xmlui/handle/10166/3805
ご協力いただいた博物館の皆さま、ビデオ出演をしてくださった、多和わ子氏、山本かすみ氏、大 場順子氏、小林久子氏、中野巧氏に厚く御礼を申し上げたい。いろいろな場面で日本語教育に役に 立てば幸いである。
9 Nemoto (2016)に2016年に行われたコースで各学習者がどのように難易度の違うビデオレクチャ
ーを見ていたかの報告がある。