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インフォーマントの日本語力の変化

ドキュメント内 ヨーロッパ日本語教育 (ページ 111-115)

Why Intended Politeness becomes Impolite?

4 インフォーマントの日本語力の変化

5年間の実施結果を表1に示す。なお滞在年数は、調査開始時である2007年9月現在の ものとする。表内の「―」はレベルに変化が見られないことを表す。

表1 在住年数およびOPIレベルの変化

母語 滞在年数 1回目 2回目 3回目 4回目 5回目 1 A タガログ語 13年 中級-上 ― ― ― ― 2 B 中国語 8年 上級-下 ― ― ― ―

3 C 韓国語 7年 中級-中 実施せず 中級-上 ― ―

4 D マレー語 5年 中級-中 中級-上 ― ― ―

5 E 中国語 3年 中級-中 中級-上 ― ― ―

6 F 中国語 3年 中級-下 中級-中 ― 中級-上 ― 7 G タガログ語 3年 中級-下 中級-中 ― ― ― 8 H ロシア語 1年 初級-中 初級-上 中級-中 ― ― 4.1 OPI調査1年後の共通した変化―サブレベル1つアップ

調査開始時、A、B、Hの3名を除く5名の滞在年数は3~7年であり、レベルは中級-下 または中級-中であった。3名についてまず説明を加え、その後、残りの5名について詳 しく述べることとする。

Aは、滞在年数が長く、小学校において英語による授業支援に関わるなど地域との関わ りがあったことからある程度の日本語力の伸びがあり、初回に中級-上という判定が下さ れたものの、結局次のレベルに上がることはなかった。

Bは、中国の日本語教育機関で半年間日本語を学んだ後研修生として来日、その後日本 人と結婚した。その後も毎朝新聞を読むなどの努力を重ねていたこともあり、初回で既に 上級-下であった。しかし、そこからさらに上のレベルに行くことはなかった。

Hは、来日後1年という時期で出会うことができ、2回目の調査では初級-上、次には 中級-中という超速の進歩を遂げたが、5回目まで評価としては変化がなかった。

本発表では、5年間継続して調査を行った日本人の夫を持つ外国人配偶者8人に絞って いるが、途中での参加を含めると 16 人のインフォーマントの調査結果に関して、野山

(2014:16)は「地域の定住者で、特に配偶者(主婦)の場合、OPI レベルが、中級-中か中

級-上までは向上する者は多いが、その後、上級に到達する者はいない(到達するのは難 しい)」と指摘している。

では、なぜ「OPIを開始した翌年にはサブレベル1つのアップはあるが、その後変化が 見られないのか」について考えてみることとする。彼女達に対するフォローアップインタ ビューを分析した結果、その理由として、1.インタビューを通して、日本語で話すことへ の自信が生まれた、2.インタビューを振り返ることにより、自分の日本語について客観的 に見る機会となった、2.フィードバックシートによって改善すべき点を知ることができた、

といった点が挙げられる。また、フォローアップインタビューにおいても以下のような発 言が見られる(第5回実施時。Cに関しては、2.5で引用する)。

D どこが問題と言ってもらえたから、自分の日本語について考えるきっかけにな りました。

E 今まで自分の日本語のことなんて考えたことなかったですよ。いつも簡単な日 本語で生活してたから、OPIで説明とか考えとかに答えて、自分も答えられるっ て嬉しかった。

F 日本語でもっと話したいって気もちが出てきました。でも、どうやっていいの かよくわからないからちょっと心配。

4.2 中級-上で止まり、上級への壁を突き破れない理由

OPI実施後次のインタビューで1レベルアップするものの、その後止まってしまい、1 回目に上級-下であったB以外全員が上級レベルになることはなかった。このことについ て考察するに当たり、OPIの中級および上級に関する記述を見ることとする。

表2 判定基準―スピーキング(抜粋)『マニュアル』p.19より

レベル 機能・総合的タスク 場面・内容 正確さ・理解難易度 テキストタイ

上級 主要時制枠において、ナ レーションと描写がで き、不測の事態をはらん だ日常的な状況や取引 に効果的に対応できる。

ほとんどのインフォ ーマルな場面とフォ ーマルな場面の一部

/個人に関連した、

または一般的な話題

非母語話者に不慣れ な話し相手でも問題 なく理解してもらえ

口頭段落・つ ながりのある 談話

中級 言語を使って自分の伝 えたいことを作り出す、

簡単な質問をすること ができる、単純な場面や 取引状況に対応できる。

いくつかのインフォ ーマルな場面と限ら れた数の取引の場面

/予測可能な、日常 生活や個人の生活環 境に関連した話題

非母語話者に慣れた 話し相手に、時に繰り 返したりすることは あるが、理解してもら える

ば ら ば ら の 文・つながっ た文

調査をした8人の外国人配偶者は、全員日本語を使って日常生活を送っていることから、

中級レベルに到達することはそれほど困難なことではない。しかし、上級で求められる口 頭段落でのナレーションや描写となると、やはりある学習が必要になってくる。しかし、

彼女達には教育機関で継続的に学ぶ機会が少なく、地域日本語教室に通っている場合でも、

ある程度話せるようになると、あとは自由会話で終わってしまうことが多い。

こうしたことから、OPIインタビューやフィードバック(終了後直接口頭でのフィード バックに加え、後日シートを送付する)によって、客観的に自らの日本語力を意識化し、

次のOPIインタビューでは1ランクアップすることが多いのだが、そのままストップして しまいがちである。きちんと学べる機関がなかったり、周りに適切に指導してくれる人が いなかったりという状況下では、さらなる日本語力の向上は難しいということになる。そ れが、サブレベル1つのアップで止まってしまう原因である。

さらに、中級-上と上級-下の特徴を提示し、なぜ「中級-上」で止まってしまうのか について考えたい。

【中級-上】(『マニュアル』p.58より)

中級レベルでの日常的によく起こるタスクや社交的場面を扱う際に、容易に自信を持 って会話のやり取りを行うことができる。自分の仕事、学校、余暇、特定の関心事 や知識を持つ分野に関連した基本的な情報のやり取りを必要とする複雑でないタスク

や対人交流場面にうまく対応することができる。……(中略)……上級のタスクを行 なおうとすると、一つ、または、複数の面で挫折(ブレークダウン)を起こす…例え ば、語り(ナレーション)あるいは描写を適切な主要時制枠を使って十分に行うこと ができない、段落の長さの談話が維持できない、語彙の幅と適切さが減少する、など である。

【上級-下】(『マニュアル』pp.55-56)

様々なコミュニケーション・タスクをこなすことができる。このレベルの話者は、学 校、家庭、余暇活動などの話題について、インフォーマルであればほとんどの会話に、

またフォーマルな状況であれば一定の範囲で、会話に参加することができる。また、

仕事、社会の出来事、一般または地域社会の関心事に関する話題であればある程度話 すことができる。……(中略)……「上級-下」の話者は、過去、現在、未来の主要 な時制枠において、ある程度のアスペクトのコントロール能力を示しながら、語り(ナ レーション)と描写を段落の長さの談話によって行なう能力を持っている。

地域社会で社会参加をするためには中級-上でも可能であるが、より自分を生かせる仕 事についたり、キャリア形成を考えたりするには、上級レベルに行くことが望ましい。パ ートをする程度であったB(上級-下)は、ある事情で自ら生計を立てていかなければな らない状況になったが、自信をもって仕事を始めることができた。また、途中参加のため 本発表では事例として挙げていないが、第3回から参加した上級-下の話者Sも同様の事 態に追い込まれたが、高校の中国語教師の職を得ることができた。嶋田(2014:45)は「5 倍 もの倍率をくぐり抜け採用されたB(本稿ではS)は、「上級-下」の日本語力を持ち、わか りにくさが伴うものの段落構成もしっかりとでき、論理的に話す力もある。上級レベルと いう日本語力が社会参加への道を可能にした1つの要因となった」と述べる。

5 実質的な発話レベルの質の向上

OPI のレベルは、10 段階評価である。しかし、レベルにはそれぞれ幅があり、例えば、

中級-上という判定であっても、中級-中に近いものもあれば、上級-下に限りなく近い ものもある。よって、OPIにおける評価としては変化がないように見えるが、実は、発話 の質は上がっているものも多い。例えば、C は 3 回目に「中級-上」となり、その後、4 回目、5回目ともレベルは中級-上のままであり、OPI評価に変化は見られない。しかし、

発話の質は明らかに変わっていることが、以下の発話例からもわかる。これは、C がOPI をきっかけに、「他者にわかりやすく伝える」「まとまりのある話し方をする」といったこ とを意識化していったことも大きな原因になっている。ここで、第1回、第3回、第5回 の料理に関する発話を示すこととする。

【第1回(2008年3月、「ビビンバの作り方」)】

あの、ほとんどナムルが何種類でもいいですよ。まず一番、しぐないと8つぐらい。

ナムル、もやす、ほうれんそう、あと、人参、大根、せり……。あ、キノコ、うん、

何だっけ、あのう、肉の、何だっけ、細かくしたの何って、ひき肉。ひき肉と、あと 何だっけ、卵、しぐない場合はこれだけやっても、きれいな色が飾れれば、温かく上 さ、こうきれいに。すごっくおいしいの。ほとんど味は塩とゴマ。

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