Why Intended Politeness becomes Impolite?
6 在住外国人の縦断調査に関する今後の課題と可能性
定住外国人配偶者に5年にわたってOPI を使って調査を行ってきた。教室学習者と異な り、評価を受ける機会が少ない彼女達にとって、1対1でインタビューを受け、フィード バックシートがもらえることが刺激となり、次の学びへの期待が膨らんでいったことが窺 える。以下、Cの発話を記しておく。
まず先生が来る時を待っての時間が一番楽しいね。で、それで、先生とこう、話し、
声かけたり、いろんなこと教えてもらったから、今日はなんか失敗したなあ。先生の、
先生の心はどう思ったかなあ。この時こうやってもよかったのに。どうなるかなあ、
まだまだだえね、って思うし。これがもっとやりたいんだけ、なかなか、この日本語 なかなか難しいよ。
牧野(2001:11)は、OPIインタビューとは「人生を取材すること」であるとし、「『人生を 取材する』とは、その被験者が毎日どんな生活を送っていて、今までどんな人生を過ごし てきたのか、どんなものの見方をする人なのかを、相手に共感を示しながら、かつ相手の
気持ちを傷つけず探るということ」と述べている。OPIにはこうした側面があるからこそ、
インタビューによって被験者の「自らの声・思い」を引き出すことができるのである。
OPIを受けることの意義としては、1.自分自身の日本語について考えるきっかけになる、
2.日本語で自分の考え、思いを伝えることの楽しさ・大切さを知ることができる、3.地域
社会との関わりが広く、深くなっていく、以上3点を挙げることが出来る。
次に、定住外国人に対する日本語支援の課題として、以下の2点を挙げることとする。
1. 継続的に学ぶ機会が少なく、自律的・自立的に学ぶことが重要になってくる。そ の際に、周りにサポートできる人がいることが望ましい。
2. 上級レベルにいくには、適切な日本語指導・支援が求められる。その体制づくり が必要である。
今回のシンポジウムの根底にあるものは「言語の知識は、話者あるいは学習者にとって、
精神的、物理的、審美的、また経済的なウェルフェアに貢献する資源であると言える。実 際、言語学習は、新しい言語によって新しい社会に参加したり、自分自身の活力や可能性 を高めたいという欲求によって直接動機付けられるということが長年にわたって指摘され てきた。これは言うまでもなく、個々人に様々な豊かさをもたらすものである」という考 え方である。ともに地域社会をつくる人財として「生活者としての外国人」を捉え、社会 づくりのため、それぞれの自己実現のために日本語支援の体制づくりが喫緊の課題である ことを再度記しておきたい。
<参考文献>
Swender, E. &Vicars, R (2012)ACTFL Oral Proficiency Interview Tester Training Manual:スウェ ンダー&ヴィーカス編(2015)『ACTFL オーラル・プロフィシェンシー・インタビュー 試験官養成マニュアル』,ACTFL.
嶋田和子(2014)「定住外国人に対する縦断調査で見えてきたこと―OPI を通して『自らの 声を発すること』をめざす―」, 『日本語プロフィシェンシー研究』第 2 号,pp.30-49, 日本語プロフィシェンシー研究会..
嶋田和子(2009)「地域に定住する日本語学習者へのOPI活用の意義」『社会言語科学会秋季 大会予稿集』14,pp.95-97.
野山広・森本郁代(2014)「地域に定住する外国人に対するOPI の枠組みを活用した縦断調 査の結果から見えてきたこと―多人数による話し合い場面構築の可能性を探りながら
―」,『日本語プロフィシェンシー研究』第2号,pp.11-29,日本語プロフィシェンシー研 究会..
牧野成一(2001)「OPI理論と日本語教育」牧野成一他『ACTFL-OPI入門―日本語学習者の
『話す力』を客観的に測る―』pp.8-49, アルク.
Welfare Linguistics から見た現場生成型の言語調査と インタビュー実践の可能性の分析
村田 晶子 法政大学 要旨
本稿は野山、嶋田のパネルのディスカッサントという立場から野山、嶋田の縦断調査の 手法に焦点を当て、その意義を検討した。そして2名の調査者の言語能力の評価と生活調 査を融合させた調査の手法が非常に独自性が高いものであり、ウェルフェアを目指すこと ばの教育研究として大きな可能性を持っていることを明らかにした。
【キーワード】 縦断調査、OPIインタビュー、評価、社会調査 Keywords: longitudinal study, OPI interview, assessment, social research 1 はじめに
ウェルフェア言語学とは社会貢献のためのことばとコミュニケーションの研究を意味 する。この概念は教育研究者が自らの研究の社会的な意義を意識するとともに、研究成果 を調査に協力してくれたコミュニティーの人々や社会に還元するために何ができるのかを 考えるために役立つ重要な概念である。この概念はまた、研究者自身が当該コミュニティ ーの関係者と対話、協働することを通じて、コミュニティー、社会の変容を目指すことの 重要性を照射する概念でもある。
筆者は野山、嶋田のパネルにおけるディスカッサントという立場から、二名の調査研究 者の調査の手法(言語評価と生活調査の融合)を分析することを通じて、こうしたウェル フェアを目指したことばの教育研究の可能性を明らかにする。
2 野山、嶋田の調査方法の独自性と意義
野山、嶋田の調査手法は図で示すような2つの立場性を持っている(調査の概要につい ては野山、嶋田参照)。1つは OPI インタ ビューを通じた会話レベルの「評価者」と しての立場であり、インタビュー参加者(地 域の日本語学習者)の日本語力を評価し、
形成的なフィードバックを行う立場である。
もう1つは、定期的に調査地に赴き、現 地の人々との関係性、信頼関係を築き、彼 ら彼女らの生活世界を理解しようとする、
社会調査を行うフィールドワーカーとして の立場である。図で示した2つの立場は、
一見すると、対立点を含んでいるように見 える。OPIの「テスター」として日本語力を「評価する」立場と、生活者を取り巻く環境
筆者がディスカッションで使用したスライド
の理解者、支援者という異なる立場を2名の調査者はどのように融合したのだろうか。
野山、嶋田の調査では、OPI インタビューの枠組みを活用することの最終的な目標を地 域の日本語学習者の包括的な生活環境支援に置いており、通常のOPI評価(学習者に会話 能力の結果を伝えて終了)とは異なり、生活者と長期的に関わることを通じて、形成的な フィードバックを行うと同時に、環境改善のための提言を行っており、OPI インタビュー のこれまでにない活用の仕方を提示している。
このように2つの異なる調査手法を用いることの意義として、第一に形成的なフィード バックとインタビューを通じた出会いと語りの場の創出が挙げられる。嶋田(2015)は、
定期的なOPIインタビューを通じて、参加者の背景、生活世界をより深く理解し、彼らの 生活に根ざしたテーマを取り入れたインタビューを行っている。そして、独立したOPIの レベル診断だけでは明確にすることが難しい、生活体験と結びついたコミュニケーション 能力の向上の過程を明らかにしている。また、野山はパネルにおいてOPIインタビューと それに続く形成的なフィードバックが地域の生活者が日本語学習について振り返る場にな っており、生活、進路、就労について相談する場にもなっていると述べている(野山への インタビューから)。こうしたことから、長期間にわたり、定期的に OPI インタビューを 活用する手法が、言語能力評価としてだけでなく、人と人とをつなぎ、課題を共有し、対 話する場としての大きな可能性を提示していることが分かる。
意義の2点目として、OPIインタビューの調査結果を活用した地域の生活者の包括的な サポートの試みが挙げられる。野山(2013)は地域の生活者の言語レベルが上級に到達しに くいことを指摘することにより、生活者のための日本語教育を充実させることの必要性を 明らかにしている。しかし、2 名はこうした調査結果を論文の形で研究コミュニティーに 発信するだけでなく、日本語教室の関係者、自治体関係者と情報を共有し、環境の改善の ための対話と模索を行っている(野山とのインタビューから)。2名の調査者のこのような 試みは、OPIの「評価者」としての役割と生活環境支援の当事者としての役割を融合させ たもので、調査結果を広義の外国住民の言語学習・生活環境改善に向けて戦略的に活用し ているという点においても、ウェルフェアを目指したことばの教育の実践研究として大き な意義を持っていると考える。
今後は、さらにこうした調査結果を用いて、研究者チームが現場の変容に関わる「当事 者」としてどのような役割を担い、教育関係者、自治体関係者とどのように協働していく のか、ウェルフェアを目指した教育研究者の行動に焦点を当てたエスノグラフィックな分 析の発信を期待したい。社会変容の当事者としての研究者自身の取り組みを発信していく ことは、今後の私達のことばの教育研究に大きな示唆を与えるのではないかと考える。
<参考文献>
嶋田和子(2016)「OPIと日本語教育のつながり-人は糸、OPIの意図は人-」『日本語プロ フィシェンシー研究』pp.186-192.
野山広(2013)「地域に定住する外国人の日本語会話能力と言語生活環境の実態に関する縦 断的研究」『国語研プロジェクトレビュー』Vol.4 No.2,pp.100-109,国立国語研究所.