解 説
CQ 2 CKD において降圧療法は推奨されるか?
推奨グレード A CKD 進行および CVD 発症を抑制するために,CKD に合併する高血圧の降 圧療法を推奨する.
糖尿病合併 CKD の降圧目標は,
推奨グレード B すべての A 区分において,130/80 mmHg 未満を推奨する.
糖尿病非合併 CKD の降圧目標は,
推奨グレード A すべての A 区分において,140/90 mmHg 未満に維持するよう推奨する.
推奨グレード C1 A2, A3 区分では,より低値の 130/80 mmHg 未満を目指すことを推奨す る.
背景・目的
1.降圧療法の推奨
CKD における降圧療法の目的は,CKD 進行の抑 制および CVD 発症リスクや死亡リスクの軽減であ る.多くの解析により,血圧レベルに応じて GFR の 低下速度が遅くなることが示されており2,3),降圧療 法が CKD 進行を抑制することは明らかである.ま た糖尿病性腎症の観察研究では,収縮期血圧が低い ほど CVD 合併や死亡の少ないことが示されている が4,5),以下に示す多くのエビデンスからも,降圧目 標に関しては 140/90 mmHg 未満への降圧療法が CVD 発症リスクや死亡リスクを軽減することは明 らかであり,推奨される.しかし特に糖尿病非合併 CKD においては,より厳格な降圧目標(130/80 mmHg 未満)の意義に関しては必ずしも明らかでは ない.
2. 糖尿病合併CKDにおけるCKD進行抑制とCVD 発症抑制のための降圧療法
まず,糖尿病合併 CKD における CKD 進行抑制か らみた降圧目標のエビデンスを検証する.海外での ADVANCE 研究では,目標血圧 130/80 mmHg 未満 への降圧が CKD 進行抑制に有効であり5),国内での A1,A2 区分の糖尿病合併 CKD を対象とした観察 研究でも,収縮期血圧 130 mmHg 未満への降圧群で は CKD 進行抑制がみられた6).一方,複数の心血管 リスクを有する40歳以上の2型糖尿病患者を対象と した海外の ACCORD 研究では,対象に約 40% のア ルブミン尿を有する CKD も含まれるが,厳格降圧 群(目標収縮期血圧 120 mmHg 未満)と通常降圧群
(目標収縮期血圧 140 mmHg 未満)との間で CKD 進 行抑制への効果については,アルブミン尿減少は厳 格降圧群のほうが良好であったが,eGFR 維持につ いては通常降圧群のほうが良好との相反する結果が 得られた7).
次に,糖尿病合併 CKD における CVD 合併抑制か らみた降圧目標のエビデンスであるが,前述の ACCORD 研究では,厳格降圧群と通常降圧群との 間で複合 CVD イベントでは抑制効果に差がなかっ たが,脳卒中については,厳格降圧群における有意
な発症抑制が認められた7).ACCORD 研究を含む海 外での糖尿病・耐糖能障害に対する13介入試験を対 象としたメタ解析でも,収縮期血圧 130 mmHg 未満 への降圧による脳卒中リスク低下が認められた8). また,介入研究のサブ解析では,海外での 2 型糖尿 病顕性腎症合併高血圧を対象とした IDNT 研究で は,試験期間中の収縮期血圧が 121〜130 mmHg の 場 合 に 総 死 亡 の リ ス ク が 最 も 低 か っ た が,121 mmHg 未満では逆に総死亡の増加がみられた9). CKD 対象ではないが,糖尿病を合併した冠動脈疾 患を対象とした INVEST 研究のサブ解析では,厳格 降圧群(目標収縮期血圧 130 mmHg 未満)と通常降 圧群(目標収縮期血圧 140 mmHg 未満)との間で複 合 CVD イベントの発症率に有意差がみられなかっ たが,試験期間中の収縮期血圧別の総死亡率につい ては,収縮期血圧 110 mmHg 未満の群において総死 亡率の有意な増加が認められた10).同様に CKD 対 象ではないが,国内の糖尿病合併高血圧患者を対象 とした Challenge DM 研究では,診察室血圧が 130/80 mmHg 未満に管理された群では,130/80 mmHg 以上の群に比較して複合 CVD イベントが有 意に抑制されていた11).
これらのエビデンスをもとに,糖尿病合併 CKD における降圧目標として,CKD 進行抑制効果およ び脳卒中を中心とした CVD 抑制効果のバランスを 重視し,A 区分にかかわらず 130/80 mmHg 未満を 推奨グレード B とした.
3.糖尿病非合併 CKD における降圧療法 1) CKD 進行抑制のための降圧療法
糖尿病非合併 CKD における CKD 進行抑制からみ た降圧目標のエビデンスについては,糖尿病非合併 CKD を主な対象として,厳格降圧群(目標血圧 125/75 mmHg 未満(平均動脈圧 92 mmHg 未満))と 通常降圧群(目標血圧 140/90 mmHg 未満(平均動脈 圧 107 mmHg 未満))の腎機能低下速度を比較した MDRD 研究の本解析では,腎機能低下速度,および ESKD と死亡について厳格降圧群の優位性は認めら れなかった12).また,腎硬化症を対象とした AASK 研究の本解析においても,蛋白尿合併の有無にかか わらず,厳格降圧群(目標血圧 125/75 mmHg 未満
解 説
12 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21
(平均動脈圧 92 mmHg 未満))の通常降圧群(目標血 圧 140/90 mmHg 未満(平均動脈圧 107 mmHg 未 満))に対する腎機能低下速度の抑制効果は認められ なかった13).さらに,尿蛋白 1 g/日以上を有する糖 尿病非合併 CKD を対象とした REIN 2 研究におい ても,あらかじめ ACE 阻害薬で拡張期血圧 90 mmHg 未満への降圧療法を行うと,ジヒドロピリジ ン系 Ca 拮抗薬の追加投与で 130/80 mmHg 未満へ の厳格な降圧療法を行っても,末期腎不全のリスク はそれ以上減じなかった14).CKD G3〜G5 区分を対 象とした KEEP 観察研究では,130〜139 mmHg の 収縮期血圧帯が末期腎不全への進行率が最も低く,
130 mmHg未満での末期腎不全への進行率の減少は 認められなかった15).これらのエビデンスは,糖尿 病非合併 CKD 全体において,CKD 進行抑制の点で は少なくとも 140/90 mmHg 未満を降圧目標とする ことは強く推奨される(推奨グレード A)と考えられ るが,一律的な 130/80 mmHg 未満への厳格降圧の 必要性を支持するものではない.
一方,MDRD 本研究後のサブ解析では,尿蛋白 0.25g/日以上では厳格降圧群において蛋白尿の増加 が抑制され,さらに尿蛋白 1 g/日以上では腎機能低 下速度の抑制が観察された16).また,CKD の進行を 検討した 11 件の RCT の患者データを用いた回帰分 析では,収縮期血圧 110〜129 mmHg および蛋白尿 2 g/日未満に管理できた症例で最も腎機能障害進行 が緩徐であった3).この解析では,収縮期血圧 130 mmHg 未満に達しなかった症例で尿蛋白 1 g/日以 上の場合腎機能障害が進行したが,1 g/日未満の場 合には進行を認めなかった.そして,本研究終了後 の MDRD Extension コホート解析では,全体およ び尿蛋白 1 g/日以上において ESKD と死亡につい て厳格降圧群の優位性が認められた17). AASK Extension コホート解析では,蛋白尿合併症例(尿蛋 白/Cr 比>0.22,尿蛋白>0.3 g/日に相当)では厳格 降圧群(目標血圧 125/75 mmHg 未満(平均動脈圧 92 mmHg 未満))のほうが通常降圧群(目標血圧 140/90 mmHg 未満(平均動脈圧 107 mmHg 未満))よりも 腎機能低下速度の抑制効果が認められたが,蛋白尿 非合併例では厳格降圧群の通常降圧群に対する優位 性は認められなかった18).さらに,糖尿病非合併
CKD を対象とした3つの本研究(MDRD,REIN 2,
AASK)と2つの本研究後のコホート研究(MDRD,
AASK)を対象とした解析でも,全体では厳格降圧 群(目標血圧 125〜130/75〜80 mmHg 未満)と通常 降圧群(目標血圧 140/90 mmHg 未満)で両群間に腎 イベント発生の有意差は認めなかったが,蛋白尿合 併例で,厳格降圧群では通常降圧群に比較して腎イ ベントの抑制傾向が認められた19). これらのエビデ ンスから,糖尿病非合併 CKD のなかで,A2,A3 区 分においては 130/80 mmHg 未満への厳格降圧を目 指すことを推奨した(推奨グレード C1).
2) CVD 発症抑制のための降圧療法
CKD では心筋梗塞,そして脳卒中リスクが有意 に増加することが国内の大規模疫学試験から明らか にされている20〜22).降圧目標を考えるうえで重要 なことは,CVD の疾患別割合(特に心筋梗塞と脳卒 中の死因に占める比率)が米国・西欧と日本とでは 異なることであるe).米国や西欧では相対的に心筋 梗塞が脳卒中よりも多いが,日本では高血圧の影響 は心筋梗塞よりも脳卒中により特異的であり,脳卒 中罹患率は心筋梗塞罹患率よりも男性で3〜6倍,女 性では 4〜12 倍であるf).例えば,一般住民を対象と して血圧と CVD(心筋梗塞,脳卒中)発症との関連 について 40 万人規模の国際コホート研究において 検討した結果では,白人では相対的に心筋梗塞が多 く,収縮期血圧 120 mmHg 未満での更なる CVD 減 少はなかった.しかし日本人を含むアジア人では相 対的に脳卒中が多く,収縮期血圧 110 mmHg 台では 脳卒中減少に伴う更なる CVD 減少が認められてい る23).JALS 0 次研究に参加した 21 コホートのうち,
血清 Cr 値を測定していた 10 地域コホートの 40〜89 歳の 30,657 例を 7.4 年間追跡した研究では,CKD に おいても,血圧レベルの低下に伴って,CVD 発症リ スクおよび全死亡リスクは直線的に低下した20).介 入試験では,海外の CVD 高リスク患者を対象とし た ONTARGET 研究のサブ解析では,試験期間中の 収縮期血圧 126〜130 mmHg 近辺が脳卒中以外の心 筋梗塞などのCVD発症のリスクが最も低かったが,
脳卒中については,試験期間中の収縮期血圧 112〜
121 mmHg 近辺が最もリスクが低く1),特に正常腎 機能では厳格な降圧が,特に脳卒中の抑制には重要