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AQP5 点変異体に対する Hg 2+ および Mn 2+ の作用

第 3 章  金属イオンの AQP 阻害作用についての検討

2)  AQP5 点変異体に対する Hg 2+ および Mn 2+ の作用

 AQP5 においても AQP1 同様,Hg2+による阻害にはシステインが関与すると考 えられているが,実験的にそれを示した報告はない.そこで,AQP5 の 183 番目の システイン残基をアラニンに置換した変異体 AQP5C183A に対する Hg2+および本 研究において強い AQP5 阻害作用を示した Mn2+の作用を検討した.

Westernblotting 法により調べた細胞膜上の AQP5 量は野生型と点変異体との間 で著明な差は認められなかった(データは示さず).また,AQP5 による水透過性の 亢進も,野生型 AQP5 および AQP5C183A では同程度の作用が認められ(Fig.14),

183 番目のシステイン残基が AQP5 の水透過性亢進に必須ではないと考えられた.

しかし,Hg2+および Mn2+による阻害作用は,AQP5C183A では消失した(Fig.14).

従って,AQP5 の Hg2+および Mn2+両金属イオンによる AQP5 阻害には,少なくと も 183 番目のシステインが関与していることが示唆された.

Figure 13. Hourglass model for AQP5 membrane topology.

0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 0.07 0.08 0.09

control AQP5 C183A

control 0.3 mM Hg2+

Cell volume increased (cm3/min) *

*

0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 0.07 0.08 0.09

control AQP5 C183A

control 1.0mM Mn2+

Cell volume increased (cm3/min) *

*

A B

H2N HOOC

A N N P A

P

H2O

C

Hg2+

AQP5

183

3.5.考察

1 金属イオンによる AQP アイソフォーム選択的な阻害作用について

 本章では既知の AQP 阻害作用を持つ金属イオンに加えて一価および二価の陽イオ ンを中心に AQP1˜5 の各アイソフォームについての金属イオン感受性を検討した.

その結果,既知の AQP 阻害作用を持つ金属イオン以外にも多くの金属イオンが AQP 阻害作用を持つことが明らかになった.また,AQP は各アイソフォーム間で異なる 金属イオン感受性を持つことも明らかになった(Table3.).まず,AQP3 は以前より 知られていた銅,ニッケル以外にも本実験で検討した金属イオンのほとんどすべてに 感受性を持っており,幅広い金属イオン感受性を示した.AQP3 はアクアグリセロポ リンとも呼ばれ,水分子以外にもグリセロールも透過させることが知られており,本 実験で比較した他の AQP アイソフォームとは構造上も異なる領域を持つことが広い 金属感受性を持つ理由であると考えられた43.一方,AQP4 は水銀感受性システイン 残基をその構造内に持っておらず,AQP4 阻害物質は今まで見出されていなかったが,

本実験においてマンガンおよび亜鉛が AQP4 を強く阻害することが初めて見出され た.また,AQP5 は水銀感受性のシステイン残基を持つことから,水銀が阻害作用を 持つことは従来から考えられていたが,本実験において初めてその阻害作用が明確に 示された.さらに,マンガンおよびニッケルが AQP5 を阻害することを初めて見出 し,その阻害作用は水銀よりも著明であった.さらに,ほ乳類細胞においても細胞膜 水透過性の金属イオン感受性が細胞により異なることが示された.本章では,HgCl2, ZnCl2および MnCl2に対する感受性を赤血球および MLE-12 細胞を用いて検討した が,両細胞は異なった金属イオン感受性を示した(Fig.8,9).赤血球は AQP1 を,

MLE-12 細胞は AQP5 を発現しており,アフリカツメガエル卵母細胞発現系におけ る実験結果と併せて考えると,両細胞の金属イオン感受性は発現している AQP アイ ソフォームに依存していることが示唆された.しかしながら,AQP1 と AQP5 の2 つのアイソフォームおよび 3 種類の金属イオンについての結果であるため,さらなる 検討が必要である.しかし,単一の AQP アイソフォームのみを発現している細胞株 は他にはほとんど知られていないため,AQP 過剰発現細胞を作成して実験すること

イオン感受性は大きく 3 つにわけることができる.AQP3 は幅広い金属イオン感受性 を持ち,AQP1 および 2 は水銀および銀によって強い阻害作用が認められ,一方で AQP4 および AQP5 は亜鉛およびマンガンによって強い阻害作用が認められた.ま た,金属イオンの中でも特に亜鉛は幅広い AQP アイソフォームに対して阻害作用を 持つことが明らかになった.このことから AQP アイソフォーム間には共通した亜鉛 感受性の構造を持つことが示唆された.

2 AQP 点変異体に対する金属イオンの作用について

 金属イオンの AQP 阻害における作用点を明らかにするため,種々の AQP 点変異 体を用いて実験を行なった.以前の報告から,水銀は AQP1 のシステイン残基変異 体に対しては阻害作用を持たないことが示されており,このことから水銀の作用点が ポア構造付近に存在するシステイン残基であると考えられてきた28.また,本研究に お い て も AQP1 の 水 銀 感 受 性 シ ス テ イ ン 残 基 を ア ラ ニ ン に 置 換 し た 変 異 体 (AQP1C189A)は水銀に対して感受性を持たないことが確認できた(データは示さ ず).また,AQP5 においてもシステイン残基変異体(AQP5C183A)を作成し,水銀 の阻害作用を検討したところ,AQP5C183A は水銀により阻害されなかったことから AQP5 においても AQP1 と同様に水銀の作用点がポア構造付近のシステイン残基で あることが確認された(Fig.14).さらに AQP5C183A はマンガンに対する感受性が 消失した(Fig.14).このことから,マンガンも水銀と同様にシステイン残基を作用 点としていることが明らかになった.しかしながら,マンガンは AQP1 に対しては 阻害作用が認められなかったことはマンガンの作用点はシステイン残基だけではなく 他のアミノ酸の関与も必要であることが示唆された.

ンの阻害作用には 63 番目のグルタミン酸,69 番目のアスパラギン酸および 151 番 目のヒスチジンが関与していた.この結果は,AQP4 と AQP5 に対するマンガンの 作用点が異なることを示している.また,亜鉛の阻害作用には 63 番目のグルタミン 酸,69 番目のアスパラギン酸,151 番目のヒスチジンおよび 228 番目のグルタミン 酸が関与しており,ニッケルの阻害作用には 63 番目のグルタミン酸および 69 番目 のアスパラギン酸が関与していた.これらの結果より,金属イオンはそれぞれ独自の 作用点を持っていること,また,AQP にはシステイン残基だけでなく多くの金属イ オン感受性アミノ酸残基が存在することが明らかになった.AQP4 におけるマンガン,

亜鉛およびニッケルの作用点のうち,63 番目のグルタミン酸と 69 番目のアスパラギ ン酸は 3 つの金属イオンに共通の作用点であること,151 番目のヒスチジンはマンガ ンおよび亜鉛の特異的作用点であること,また,228 番目のグルタミン酸は亜鉛に特 異的な作用点であることが示された.また,どの金属イオンも AQP4 に対して複数 の作用点をもっており,1つでも欠損するとその阻害作用は消失したことから,AQP4 阻害において1つの金属イオンに対し,複数のアミノ酸が関与しており,さらに全て のアミノ酸が必要であると考えられた.

 本章の結果から,多くの金属イオンが AQP アイソフォーム選択的な阻害作用を持 つことが明らかとなり,特に今まで阻害物質が見出されていなかった AQP4 に対す る阻害物質も見出すことができた.金属イオンそのものが AQP 阻害薬として医薬品 として応用は難しいが,AQP4 阻害作用における金属イオンの作用点が明らかにな ったことで AQP4 阻害剤のモデルを提唱することは可能であると考えられる.第 1 章でも述べたように,AQP4 阻害物質は脳浮腫治療および予防薬となり得ることが示 唆されている.本章で得られた知見を元に考えると,マンガンが最も強い AQP4 阻 害作用を示したことから AQP4 の 63 番目のグルタミン酸,69 番目のアスパラギン 酸および 151 番目のヒスチジンの立体構造を元にした特異的阻害剤を考案すること ができると考えられる.また,AQP 変異体を用いた実験からも示されたように,多 くの金属イオンは AQP の細胞外に存在するアミノ酸残基に結合することで阻害作用 を示すと考えられ,また同じ金属イオンでも AQP アイソフォームの違いによってそ

るための構造を独自に持っていることを示唆しており,AQP アイソフォーム選択的 な阻害薬の開発の可能性が考えられる.AQP がアイソフォーム選択的に組織に分布 していることを考えると,AQP アイソフォーム選択的な阻害薬は組織選択性が高く,

副作用の少ない薬となりうると考えられる.

第 4 章 Nitricoxide による AQP5 機能調節作用

4.1. 本章の目的

 前章までは外因的な AQP 阻害物質を見出すこと,およびそれらの阻害物質による AQP 阻害機構を解明することを目的として実験を行なってきた.本章では,内因的 な AQP5 機能調節機構の解明を目的として Nitricoxide(NO)に注目した.NO は生 体内において様々な役割を持つシグナル分子の1つである.NO の作用は guanylate cyclase(GC)を活性化し,細胞内 cGMP 濃度の上昇,proteinkinaseG(PKG)の 活性化を介したシグナル伝達経路を活性化することの他に,タンパク質のニトロソ化 およびニトロ化などタンパク質を修飾することでその活性や安定性に影響を与えるこ とが知られている45-49.本章では特に NO によるタンパク質のニトロソ化に注目した.

タンパク質のニトロソ化とは,タンパク質に含まれるシステイン残基に対する化学修 飾の1つであり,システイン残基のチオール基がニトロソチオール基へと置換される 反応である.生体内においてニトロソチオール基が形成されるには2つの経路が存在 すると考えられている.NO が活性酸素種(O2,O2-)と反応すると活性窒素種(N2O3) が産生される.N2O3+ONNO2-となり,それがシステイン残基の-SH 基と反応 し て -SNO 基 と な る . も う 一 方 の 経 路 は transnitrosylation と 呼 ば れ , S-nitrosoglutathion(GSNO)などニトロソチオール基を持ったものが他のチオール基 にニトロソチオール基を転移する反応である.タンパク質のニトロソ化はリン酸化と は異なり,酵素反応を必要としない化学反応であり,また,ニトロソ化を受けうるシ ステイン残基には一次構造上の特定の配列が存在せず,三次元構造におけるシステイ ン残基の微小環境に依存すると考えられている.近年,ニトロソ化されたタンパク質 の検出方法の向上もあり,生体内におけるニトロソ化の重要性が明らかになってきて おり,現在では 100 種類以上ものタンパク質がニトロソ化によってその機能を調節 されることが報告されている50-55.AQP5 が水銀化合物によりシステイン残基が修飾 されることでその水透過性が抑制されることは前述した.このことをあわせて考える と,AQP のシステイン残基がニトロソ化にされ,その機能を調節されるのではない

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