第 7 章 ソフトウェア品質会計の適用による品質向上の実例
7.2 A 組織の品質向上事例
7.2.1 A 組織の品質向上活動
図7-1品質会計構築の経緯に示すように,品質会計は3段階の発展段階を経て現在に至 っている.品質会計の3段階の発展段階とA組織の取り組みの経緯を以下に示す.
(1)第1期 テスト中心のバグ叩き出しによる品質向上
A組織がソフトウェア品質会計を考案するきっかけは,A組織自身の品質問題である.当 時,A組織は,出荷後バグ数が多いため,その対応に追われて開発が滞る負のスパイラルに 悩んでいた.現場の開発者もトラブル対応に追われて疲弊しており,品質問題の解決は必 須の状況だった.A組織が最初に取り組んだのが,第1期の「テスト中心のバグ叩き出し による品質向上」である(図7-1を参照).テストを強化し,テストでできるだけバグを摘 出して出荷後のバグ数を減少させようというものである.第1期には,品質会計技法のう ち「テスト工程品質会計」を考案し,テスト工程でのバグ摘出を目標管理した.バグ目標 値を設定するための回帰型バグ予測モデル,およびテスト終了を判断するためのバグ収束 判定の技術確立に取り組んだ.組織の標準化にも着手し,マネジメント技術,設計技術,
テスト工程技術,レビュー技術などの検討グループに分かれて,技術の標準化に対して積 極的に取り組んだ.標準類の初版の発行は,第1期終盤から第2期初年度の1986年から 1989年に集中している(図7-1参照).
図7-2は,A組織の出荷後バグ数の推移を表す.図7-2は,1985年の出荷後バグ数を100 としたときの相対値で示している.グラフの下位部分に示すのは,品質会計の3段階の発 展段階である.1985年~1988年が第1期に該当する.この第1期の活動により,1988年 には1985年の約1/2に出荷後バグ数が減少した.
(2)上工程での素早いバグ摘出による品質向上
第1期でのテストでのバグ摘出は品質向上に成果をあげたものの,最終工程であるテス トの強化は予定した出荷時期の延期を招いてしまう.このため,次第に上流工程から品質 を良くすることを考えるようになった.それが,第2期の「上工程での素早いバグ摘出に よる品質向上」である(図7-1参照).第2期では,レビューによるバグ摘出の強化に取り 組み,レビューでのバグ摘出を目標管理する「上工程品質会計」を考案した.また,レビ ューとバグ摘出の関係から品質状況を判断する品質判定表,バグ摘出の傾向を分析するバ グ傾向分析の確立に取り組んだ.レビューでのバグ摘出の主要指標が,上工程バグ摘出率
バグ数の比率をいう.第2期は1989年~1995年であり,この時期に出荷後バグ数は一段 と減少し,A組織の出荷バグ数は1985年度比1/20まで低減した(図7-2参照).また,上 工程バグ摘出率は,第2期の間に向上し,80%を超えた(図7-3参照).A組織は,以来,
その出荷後バグ数の水準と,上工程バグ摘出率80%超を維持している.
(3)第3期 バグ分析に基づく開発プロセスへのフィードバック
現在は,第3期の「バグ分析に基づく開発プロセスへのフィードバック」にある.これ は,「良いソフトウェアは良いプロセスから作られる」というプロセス指向の考え方に基づ く.バグ分析により根本原因を分析し,開発プロセスへフィードバックすることによって 常にプロセスを見直し,良いプロセスを維持する取り組みである.これらの取り組みの結 果,2004年には,A組織はCMMIレベル5の達成を確認した.
図7-4は,CMMIのレベルと上工程バグ摘出率を示したものである.レベル5の上工程 バグ摘出率は65%である.これに対してA組織の上工程バグ摘出率は80%超である.これ はソフトウェア品質会計,特に上工程品質会計による効果を示すものである.
19851985
19198282 19901990 19951995
19821982年頃年頃 品質会計を考案 19941994
ISO9001認証取得
(国産コンピュータメーカー初)
上工程品質会計 を検討
[標準類の初版の発行時期]
[品質会計の発展段階]
テスト中心の バグ叩き出しによる
品質向上
上工程での 素早いバグ摘出
による品質向上
バグ分析にもとづく 開発プロセスへのフィードバック
20200000
<第1期> <第2期> <第3期>
20042004 CMMI レベル5 達成 テスト工程品質会計
を検討 回帰型モデルによる
バグ予測を検討
品質判定表による バグ予測見直しを検討
バグ分析と1+n施策を 検討 バグ収束判定を
検討
バグ傾向分析を 検討
[各技法の考案時期]
1986年 生産管理技術標準,テスト技術標準,説明書作成標準 1987年 保守作業標準
1989年 仕様書作成標準,レビュー技術標準
図7-1 品質会計構築の経緯
第1期 第2期 第3期 0%
20%
40%
60%
80%
100%
1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997
図7-2 出荷後バグ数の推移
(1985年の出荷後バグ件数を100%とした相対比を表示)
1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 80%
第2期 第3期
上工程バグ摘出率(%)
0 20 40 60 80 100
レベル1 レベル2 レベル3 レベル4 レベル5 A組織
2 3
22
45
65
上工程バグ摘出率(%)
80%超
図7-4 CMMIのレベルと上工程バグ摘出率
(レベル1~5のデータ出典:日経コンピュータ(2001.7.30.号))
TAT(レスポンスタイム)向上活動(1989 ~)
1985 1990 1995 2000 2005
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 年度
%
実績
フイールドバグ
削減 バグ以外のフィールドトラブル件数の推移
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
91 92 93 94 95 96 97
年度
%
実績
平均TAT
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
1998° 1999° 2000° 2001°
• トップダウン型品質向上体制 の構築
• SWQC活動(小集団改善活動)
による ボトムアップ型品質向上 活動の開始
品質システム構築・改善
(1994に国産コンピュータ メーカー初のISO9001 認証取得)
•出荷後バグの管理から CS向上へ軸足を変化
•サービス品質の向上活動 を開始
サポートサービス 改善(2001 ~)
6 7 8 9 10
00 01 02 00 01 02
メインフレーム UNIXサーバ
CS度改善 品質10倍作戦
(1985 ~1991 ) トラブル低減作戦
(1992 ~ 1998) CS向上活動
(1997 ~)
CMMIレベル5達成 (TAT: Turn Around Time, CS: Customer Satisfaction)
フィールドトラブル 件数削減
障害問合せ TAT短縮
図7-5 A組織のソフトウェア品質向上への取り組み
(20年以上に渡って品質・生産性向上活動を継続)
A組織は,現在に至るまで,1985年度比1/20の出荷後バグ数の水準を維持している.
出荷後バグ数の低減だけでなく,20年以上に渡って,トラブル低減や顧客満足向上などさ まざまな改善活動を実施している(図7-5参照).A組織は,もともとメインフレームのOS を開発する組織だった.オープン化に伴う事業環境の変化により,主要開発製品はIT系ミ ドルソフトウェアへ変化し,OSSの台頭への対応,サービス事業への対応,オフショア開 発などの開発環境の変化などに対応しながら,出荷後バグ数の水準を継続して維持してい る.出荷後バグ数の少なさを強みとしており,品質重視の組織文化をもつ.それは,トッ プから現場の開発者までの一致した認識である.