第 7 章 ソフトウェア品質会計の適用による品質向上の実例
7.4 オフショア開発 C 組織における品質向上事例
7.4.2 改善施策
上述の課題は,A組織とC組織のどちらか一方の課題でなく,両方の課題であるとの認識 をもった.また,改善のために早期に投資することにより,後のメリットも大きいとの見 通しをもった.そこで,A組織とC組織のトップ指示のもと,両者が協力してC組織のソフ トウェア開発の品質・生産性を向上させる活動を開始し,オフショア開発の改善に取り組 んだ.主な改善施策は以下の通りである.
(1)ステップアップモデルによる改善フレームワークの定義
改善の進め方として,改善対象組織の改善意識の向上を促すことによって,改善対象組織 が自ら技術や仕組みの改善に取り組み,技術や仕組みの確立を待つという方法と,既に確 立した技術や仕組みを改善対象組織へ導入して定着させる方法の2つが考えられる.C組織 のケースでは,後者の方法を選択した.その理由は,ビジネス要求として短期間でC組織の 品質・生産性を向上させる必要があったためである.C組織自ら工夫を重ねて技術や仕組み を改善していく前者の方法では,長期の改善期間が必要となる.これに対して,既に効果 があるとわかっているA組織の,品質会計を軸とした技術や仕組みをそのまま導入するほう が,短期間での改善を達成しやすいと判断したのである.
改善の全体のフレームワークを定義するために,段階を追って確実に技術や仕組みを移転 し,同時に品質・生産性を向上させるステップアップモデルを考案した(図7-11参照).ス テップアップモデルとは,既に日本で確立された技術や仕組みを,短期間でオフショア開 発先の組織へ導入・定着させるためのモデルである.このモデルに従うと,最短で1.5年で 確実に技術を移転し,C組織は確実に品質・生産性を向上できる.ステップアップモデルは,
以下の3段階で構成されており,各ステップの終了基準として,品質,生産性,日本語力に 対して具体的な数値目標を設定した.
①ステップ1:「共同開発」
OJTで修得するような基礎的な技術と基本的な製品知識の移転を狙いとする.開発チー ムをA組織とC組織の共同チーム編成にし,可能な限りともに開発を実施する.基礎的な技 術修得により,大きく品質・生産性がばらつくことはなくなり,ある範囲内で品質・生産 性を確保できるようになる.ソフトウェア品質会計により,A組織が組織的な定着に成功し たレビューによる早期品質確保も基礎的な技術に含まれる.
②ステップ2:「準自立開発」
ソフトウェア品質会計をはじめとしたマネジメント技術,保守技術,および自主開発管 理ができるレベルの製品開発知識の移転を狙いとする.A組織の作成した要求仕様書に基づ
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き,機能設計から機能テストまでをC組織が実施するとともに,C組織は自主管理による開 発の進め方を修得する.品質会計による品質分析の結果に基づく品質向上施策の実施や予 防策の実施など,組織による開発方法を修得する.これにより,組織として確実に所定の 品質・生産性を確保できるようになる.
③ステップ3:「自主開発」
品質・生産性がA組織と同等レベルになるように,ステップ2までに修得した開発技術・
管理技術・保守技術・製品開発知識に対して,C組織が自主的に改善を繰り返す.ステップ 3を達成すると,C組織は日本国内ソフトウェア組織と同等の開発力をもつ自主開発組織と なる.
ステップ1: 共同開発
日本のきめ細かな管理,
指導のもとに開発
ステップ3: 自立開発
製品担当として主体的に 設計し,開発・保守を 責任もって遂行
ステップ2: 準自立開発
日本国内と 同等の 開発力をもつ
ソフトウェア 開発組織
基本設計ができ,
製品担当として 主体的な開発推 進ができる
基礎開発技術 を獲得し,開発 のしくみを構築 する
機能設計から機能テ ストまでのマネジメント および保守対応がで きる
0.5~1年
0.5~1年
0.5~1年
日本作成の要求仕様書に基 づき,機能設計から機能テス トまでの工程を自立的に完遂
・各ステップに基準値を設定
・基準値を達成すると次ステップへ移行
・プロジェクト毎に改善計画を立案/実行
図7-11 ステップアップモデル
(2)アセスメントによる開発弱点の検出と強化
ステップアップモデルを補足するツールとして,開発の強み・弱みを検出するアセスメン トシートを用意し,開発の弱点を効果的に改善した.このアセスメントシートは,開発作 業・開発管理・スキル向上・設備/体制面の4カテゴリ15項目の基本項目から構成されている
(図7-12参照).アセスメントシートに沿って各カテゴリを評価することにより,評価点が 算出され,強み・弱みが自動的に判明する.アセスメントシートは,ステップアップモデ ルのステップ毎に3段階準備しており,A組織(発注元)とC組織(発注先)の両面から評 価できる.このため,弱点は,A組織とC組織の双方から検出し改善できる.
(3)標準化の推進
標準化は,C組織とA組織の両方から実施し,その結果を情報共有Webサイトに掲載して
いる.C組織では,開発ライフサイクル全般に渡って,設計仕様書,言語別のコーディング
規則,テスト仕様書,レビュー技術,テスト技術等の標準を整備した.A組織では,オフシ ョア開発方法の仕様書記載方法,進捗管理方法などを整備した.
準備教育 認識合わせ
設計・製造 テスト 出荷判定 終了時の分析
保守
進捗フォロー データ収集・分析 コミュニケーション
スキルマップ 技術教育 日本語向上
情報共有 体制強化
開 発 管 理
ス キ ル 設備 体制 開発作業
図7-12 アセスメントモデルの基本項目 (4)インフラの整備
オフショア開発を円滑に進めるためには,それをサポートするインフラの整備が欠かせな い.インターネットによる遠隔会議設備,情報共有Web,FTPサーバ,開発管理ツール等を 整備することにより,改善を側面からサポートした.
(5)日本語能力の強化
C組織の全社的に技術者の日本語能力を強化するという方針のもと,日本語能力向上に取 り組んだ.日本語講座カリキュラムの充実と出席チェック,計画的な日本への長期出張や 業務実習,日本語を使う職場環境の整備などを実施した.
(6)定期的なトップマネジメントレビューの開催
推進計画に基づき改善活動を進めるとともに,半年に1回の頻度でA組織のトップがC組 織を訪問し,C組織トップとともにC組織技術者と顔を合わせたトップマネジメントレビュ ーを開催して,改善状況をフォローした.この効果は大きく,C組織技術者と発注元である A組織技術者双方にとって刺激となり,改善サイクルがうまく回るようになった.