6.3
球状黒鉛鋳鉄の引張りおよび圧縮による単純変形
6. 3. 1 単純変形曲線
図6-3に引張りおよび圧縮の単純変形曲線を示す。 実験値は引張りの方が圧縮よ
り2倍程度ぱらつきが大きかったが、 予想されるほど大きくはなく、 10%程度に 納まった。 単純変形曲線ではどちらも引張りの方が圧縮より強度が低くな ってい ることがわかる。 その減少率はひずみ が大きくなるにつれて増しており、 6 %ひ ずみあたりで10%ほど低下した値に漸近している。 また、 FDIでは圧縮ひずみ が100%以上になるまで破壊せず、 P D 1 でも約45%まで耐えており、 圧縮に対し てはかなり大きい延性をも っているo 引張りにおいてもある程度の延性があり、
特にFDIでは通常の延性材料と同じく、 15%近傍でくびれがみられた。
6.3.2 引張圧縮の単純変形における黒鉛の役割
球状黒鉛鋳鉄において、 引張りと圧縮で変形曲線が異なる原因が黒鉛にあるこ とは明らかであろう。 そこで、 黒鉛の影響を明らかにするため、 基地がFD 1あ るし1はP D 1とほぼ同じ材料としてS 25 C材とS K 5材を比較材に選び、 単純変
1500
(の仏一注)
• Point of maximum load
x Breaking point
500
形曲 線を比較した。 このとき、 単に視覚上基地を同じにするだけではなく、 硬さ も同程度にすることで定量的な議論が行えるよう、 比較材を調質した。 S 25 C材 は8800Cで1 hの焼なましを、 S K 5では9000Cで1 hの焼きならしを行った後図
6-2の形状に仕上げ、 その後どちらも6000Cで1 hの真空焼なましを行っている。
それらの化学成分および機械的性質を表6-1、 6-2に併記した。 得られた材料の基 地硬さはどちらもほぼ同程度になっている。 これらの単純変形曲線を図6-3に併記
した。 どちらも引援りと圧縮で単純変形曲線はよく一致していることから、 球状 黒鉛鋳鉄においても、 基地の材料強さは引張りと圧縮で等しいものと考えられる。
このことから、 球状黒鉛鋳鉄にみられる引張りと圧縮の強度の差はそれらに対す る黒鉛の役割が異なるためであろうと考えられる。 すなわち、 黒鉛は引張りに対 しては荷重を受けもたない空孔として作用するのに対し、 圧縮に対しては荷重を 受けもつ充てん物として作用すると考えると、 上に述べた現象がよく理解できる。
それを明確にするため、 同じひずみを生じるときの圧縮応力σ cに対する引張応 力σ Tの比|σ T/σ c Iを塑性ひずみとの関係で求めたものを図6-4に示す。 どちら
1.1
o
b 1.0
0.8
0.7 å 0.05
o
FDI
・ PDI
0.1 0.15
I Plastïc strain I
図6-4 単純変形における引張応力と圧縮応力の比較
0.2
の材料 もほぼ同じ挙動を示しており、 5 %ひずみの近傍でほぼ一定値に漸近して
いる。 参考のため、 黒鉛面積率f gを画像解析装置により求めた値を図中に示した。
このとき、 黒鉛のしきい値には4μmを用いている。 これから、 どちらの材料と も|σ T/σ c Iの値は黒鉛面積率よりわずかに大きめではあるがほぼ同程度の値に なっていることがわかる。 このことは、 黒鉛は引張りに対しては荷重を受け もた ない空孔として作用することを示しており、 圧縮に対しては荷重を受け もつ充て ん物として作用することを意味している。
6.4
球状黒鉛鋳鉄の引張圧縮による逆変形
6. 4. 1 バウシンガ曲線
引援圧縮のバウシンガ曲線をF0 1については図6-5、 6-6に、 PDIについて
は図6-7と図6-8にそれぞれ示した。 応力とひずみはすべて真の値をとっており、
変形曲線は原点(荷重が零の点)に対しそれぞれ点対称移動し、 第l象限にまとめ て示している。 これらの変形曲線は処女材の引張りを除けばさほど大きなばらつ きはみられなかった。
これから、 引張りと圧縮の 負荷順序を変えるとバウシンガ曲線は大きく異なっ ていることがわかる。 しかしながら、 引張後の圧縮曲線ではどの予ひずみにおい て も弾塑性域では単純引暖曲線を越えておらず、 大変形域では引張変形曲線を越 え単純圧縮曲線に近づいている。 一方、 圧縮後の引張曲線では多少明白さに欠け はするが、 大変形域においては単純引張曲線を越えていないことがわかる。
弾塑性域のバウシンガ曲線については、 5.2. 2項で示した方法により、 負荷順序 の影響について検討した。 予ひずみが2 %と12%のFD 1の例を図6-9に示す。 逆 変形直前の除荷応力を基準にとって示したバウシンガ曲線は、 予ひずみの広い範 囲でよく一致していることがわかる。 このことは、 弾塑性域では逆変形直前の加 工硬化状態が逆変形を支配し、 その逆変形機械は負荷順序に関係なく成り立つこ とを意味している。 この挙動はFDIとP D 1で共通していることから、 これは 逆変形の基準となる単純変形曲線が引張りと圧縮で異なっていることに起因して いると考え れば、 弾塑性域から大変形域に至る複雑な挙動 も容易に理解すること ができる。 このことは前章までに提示した弾塑性域と大変形域に関する逆変形機 構の概念が内部欠陥材の場合に も適用できることを意味している。
FDI