これまでに述べたアルゴリズムを用いて,姿勢シミュレータでの軌道上でのPPTを用いた姿勢制御の 解析を行った.シミュレーション開始時刻は2017年0時0分0秒とし,PPTの出力は首都大学東京宇 宙電気推進研究室で開発された,TMU-PPT-5P11)の値を用いている.TMUPPT-5Pの諸元及び外観を表4.2 及び図4.5に示す.
表4.2より,TMU-PPT-5Pの充電時間は0.1[sec]であり,放電時間は15[μsec]となっているため,1秒
間での最大点火回数𝑛𝑚𝑎𝑥は𝑛𝑚𝑎𝑥= 9となる.
表 4.2 TMU-PPT-5P諸元11)
寸法 52×87×214 [mm]
重量 1.41 [kg]
インパルスビット𝐼𝑏𝑖𝑡 48.2[μNs]
比推力𝐼𝑠𝑝 1255 [sec]
投入エネルギー 5 [J]
充電時間 0.1 [sec]
1放電時間 15 [μsec]
マスショットΔM 3.92 [μg]
推進効率η 6 [%]
図 4.6 TMU-PPT-5P外観11)
図 4.5 PPT制御モデル
4. 5. 1 環境外乱による衛星の姿勢変動
3.3節及び3.4節で述べ,シミュレータに実装した環境外乱トルクによる衛星の姿勢変動の検証のため,
姿勢制御を行わない軌道1周分5760[sec]のシミュレーションを行った.シミュレーションの初期条件と
しては J2000.0 赤道座標系基準の機体の初期姿勢角[𝛷0 𝜃0 𝜓0]𝑇= [0 0 0]𝑇[deg](今後,姿勢角の
基準座標系は J2000.0 赤道座標系基準とする),初期角速度[𝜔0𝑥 𝜔0𝑦 𝜔0𝑧]𝑇= [0 0 0]𝑇[deg/sec]と し,実際の想定軌道に基づいてシミュレーションを行った.計算結果を図4.6に示す.
4. 5. 2 Pulsed Plasma Thruster による 3 軸姿勢制御
環境外乱による姿勢変動を抑えるために4.3,4.4で述べたアルゴリズムを用いて姿勢制御を行う.姿 勢決定はカルマンフィルタ等のアルゴリズムを使用せずにMEMS ジャイロ及びSTTの出力を用いる.
図4.8にPPTの衛星への搭載位置を示し,各スラスタのNo.及びトルクの発生方向の例を表4.3に示す.
また,搭載する PPT は TMU-PPT-5P を用いることを想定しているので,1 放電で与えうる角運動量は
12.05[μNs]となる.ただし,PPTのシミュレーション上の出力は図4.9に示すように理想的な矩形波とし,
1放電でのトルク𝑇𝑐を𝑇𝑐= 0.8033[Nm]とする.
図 4.7 環境外乱による姿勢変動(左:姿勢角,右:姿勢角速度)
図 4.9 PPTの1放電の出力
図 4.8 PPT搭載位置
表 4.3 PPTの発生するトルク
スラスタNo. 取り付け位置ベクトル r[m](質量中心より) 発生トルク𝑇 |𝑇|⁄ [Nm]
𝑟𝑥 𝑟𝑦 𝑟𝑧 𝑇𝑥 𝑇𝑦 𝑇𝑧
1 0 -0.25 -0.25 -1.0 0 0
2 0 -0.25 0.25 1.0 0.0 0.0
3 0.25 0 0.25 0.0 1.0 0.0
4 0.25 0 -0.25 0.0 -1.0 0.0
5 -0.25 -0.25 0 0.0 0.0 -1.0
6 -0.25 0.25 0 0.0 0.0 1.0
TMU-PPT-5P を用いた人工衛星の姿勢制御の定常応答時の姿勢精度の検証のために,初期姿勢角
[𝛷0 𝜃0 𝜓0]𝑇= [0 0 0]𝑇[deg],初期角速度[𝜔0𝑥 𝜔0𝑦 𝜔0𝑧]𝑇= [0 0.01 0]𝑇[deg/sec]として,環 境外乱を抑制し,姿勢を維持する軌道1周分の姿勢制御シミュレーションを行う.
目標のクオータニオンを𝒒𝒕,真の姿勢のクオータニオンをq,姿勢誤差を𝒒𝒆𝒓𝒓𝒐𝒓とすると,次式の関係 を有する
𝒒 = 𝒒
𝒕⊗𝒒
𝒆𝒓𝒓𝒐𝒓 (4.33)これより,姿勢誤差𝒒𝒆𝒓𝒓𝒐𝒓は以下の式で求めることができる.
𝒒
𝒆𝒓𝒓𝒐𝒓=𝒒
𝒕∗⨂𝒒𝒒
𝒕∗= [−𝑞𝟏 −𝑞𝟐 −𝑞𝟑 𝑞4]𝑻(4.34)
本研究では,PPTを姿勢制御用アクチュエータとして用いた姿勢制御性能の評価を姿勢指向精度と安定 度の2点で評価を行い,それぞれ以下の式で定義する
姿勢指向精度Θ
𝛩 = 2
cos
−1𝑞
𝑒𝑟𝑟𝑜𝑟4𝒒
𝒆𝒓𝒓𝒐𝒓= [𝑞
𝑒𝑟𝑟𝑜𝑟1𝑞
𝑒𝑟𝑟𝑜𝑟2𝑞
𝑒𝑟𝑟𝑜𝑟3𝑞
𝑒𝑟𝑟𝑜𝑟4]𝑻 (4.35)姿勢安定度Ω
𝛺 = √𝜔𝑥2+ 𝜔𝑦2+ 𝜔𝑧2 (4.36)
式(4.35),(4.36)より,姿勢指向精度と安定度を計算し,時間応答及びその確率分布を示す.ここで,姿 勢指向精度と安定度はガンマ分布に従うと仮定し,式(4.37)で示す関数より確率密度関数を求める.表 4.4 にスケーリングパラメータ α 及び形状パラメータ β をまとめる.ここでシミュレーション結果は 𝐼𝑏𝑖𝑡= 48.2[μNs]としたときの値である.
𝑓(𝑥|𝛼,𝛽) = 1
𝛽𝛼𝛤(𝛼)𝑥𝛼−1𝑒
𝑥
𝛽 (x > 0) (4.37)
表 4.4 スケーリングパラメータ,形状パラメータ(𝑛𝑚𝑎𝑥 = 9,𝐼𝑏𝑖𝑡= 48.2[μNs])
スケーリングパラメータα 形状パラメータβ 姿勢指向精度 5.23124 0.00172081 姿勢安定度 5.14525 0.000556511
現状,RW を姿勢制御アクチュエータとして用いた超小型衛星で達成されている姿勢制御性能は表 1.1 より,姿勢指向精度に関しては0.05~0.1[deg]程度,姿勢安定度に関しては0.004[deg/sec]程度となってい る.2016年に興津により計算された結果6)では指向精度に関してはRWと同程度の性能を達成できてい るが,安定度に関してはRWでの制御性のより劣るという結果が得られている.本研究では姿勢安定度 に関して更なる性能の向上を目指すとともに,指向精度の制御性能の向上も目的としている.図 4.10,
図4.11に指向精度,姿勢安定度の結果を示したが,シミュレータ及び計算の見直しの結果,以前の研究 では計算が収束していないことが明らかとなったため,その改良の結果,指向精度に関してはより良く,
安定度に関してもRWとほぼ同等の性能が得られることがわかった.
図 4.10姿勢指向精度の時間分布と確率密度関数(𝑛𝑚𝑎𝑥 = 9,𝐼𝑏𝑖𝑡= 48.2[μNs])
図 4.11姿勢安定度の時間分布と確率密度関数𝑛𝑚𝑎𝑥= 9,𝐼𝑏𝑖𝑡= 48.2[μNs])