4-1:北陸における訪日外国人観光客
外国からの観光客誘致は、日本にとって国家戦略上も大きな課題であることは先述のとおり であるが、北陸の現状はどのようなものか。国土交通省の宿泊旅行統計(2007 年)によると、
北陸圏の海外からの宿泊者数は 28 万人足らずとなっており、これは全国シェアで見ても 1.4%
程度と非常に少ない。
また、訪日外国人宿泊者の国・地域別割合をみるとほかの地域に比較して台湾からの来客が 非常に多い。なお、これは従業員数10 人以上の宿泊施設からのみ統計をとっているため、欧米 人に多く見られるバックパッカーのような簡易宿泊を利用する部分が正確に反映されていない という面もある。
同年の JNTO の県別旅行形態をみ ると、富山・石川・福井の順で団体 旅行比率が小さくなっていくことが わかる。富山は主に黒部アルペン ルートや雪の大谷が台湾人に大人気 であり、石川県は特に温泉人気で同 じく台湾を中心にツアー客でにぎ わっていることがこのような結果に なったと考えられる。
えて命名されたものである。三重県を龍の尻尾とし、能登半島を龍の頭に見立てるものであり、
龍という一貫したテーマに基づいて各地を周遊しながら旅行をしてもらうイメージである。国 の後押しがある中で、統一した広域のプロモーションがなされることは非常に有意義である。
しかしこれだけではインバウンド振興とならない。やはり地域側の汗を流した長期に渡る取り 組みがないと実を結ぶことは難しい。近年北陸の地方公共団体や観光協会などが、インバウン ド先進都市となった高山と協定を結ぶ事例が多くみられるが、単に成功した高山にあやかろう というのでは成功は難しい。
4-3:新幹線も高速道路もない高山に外国人客が押し寄せる理由
岐阜県高山市は、山に囲まれた盆地である。主要産業は家具や木工であり、製造業がさかん とは言えない。中心市街地には江戸時代以来の城下町・商家町の姿が保全されており、その景 観から「飛騨の小京都」と呼ばれている。観光ガイドでは飛騨高山と記され、全国各地から毎 年非常に多くの人が観光に訪れる。また、最近は、「日本の原風景を残す街」として紹介され、
国外からの観光客も増加している。仏ミシュランの実用旅行ガイド「ボワイヤジェ・プラティッ ク・ジャポン」では必見の観光地として 3 ツ星を獲得している。また、2009 年 3 月発行の「ミシュ ラン・グリーンガイド・ジャポン 2009」、2011 年 3 月発行の同グリーンガイド第 2 版におい ても 3 ツ星を獲得している。
このように高山市が観光で成功した理由を以下に挙げていく。
中部運輸局・北陸信越運輸局
①背水の陣
国際観光都市高山が成功した理由は、戦前の自ら資金を負担して登山道を整備したところか らはじまる。大きな産業もなく高速道路も新幹線もない高山にとって、観光は地域が一体となっ た「街おこし」であった。行政や中央資本に頼る集客ではなく、観光協会を法人化し、責任の 所在をはっきりさせたうえで資金も人も知恵も出して頭も使い汗を流しながら地道に取り組ん できた結果である。
②はっきりした数字
もうひとつ見逃してはならないのが、高山は山あいの盆地であり、入込観光客の実数が比較 的容易に確実につかめたことである。これにより、キャンペーンや投資の効果が検証できる体 制にあったため、投資とリターンについての関係が把握できた。北陸の場合、入込客数の正確 な数字が取りにくい。観光施設への入込は延べ数であり、宿泊しない日帰り客や通過客の実数 は把握できない、あるいは多重カウントされてしまう。人の動きや流れも把握できない。高山 の場合は交通路が未発達であったこともあり、当初は大半が宿泊客であり統計の数値は信用で きるものである。数字がしっかりしているため、また、地元業者が資金を出してプロモーショ ンを行なうため、無駄なプロモーションもなく、人を呼び込むノウハウが蓄積されていったも のと推測される。
③長期的でコンスタントな取り組み
また、数年ごとに大規模なイベントを継続させている。ただ継続させるのではなく、数年ご とに来てもコンテンツで飽きないようSLを走らせるなどの工夫が見られる。また単に呼びこ むだけではなく、滞在時に快適に過ごせるようなホスピタリティの改善と浸透、統一化を図り 高山ブランドを高めていった地道な活動も見逃せない。
④強いリーダーシップ
行政に任せきりではなく、民間から行動力のある強いリーダーが現れ、行政や業界全体を巻 き込んで観光に注力してきたことも大きな成功の要因である。また、強いリーダーシップがあ るため、国鉄・JR なども巻き込み、多くの関係者と連携しながら知恵を絞り汗を流すことがで きた。これが市民もまきこんだ一体感と観光地としての懐の深さを作り上げたといえる。
⑤ガイドへの掲載
インバウンドを効率よく推進するにはいくつかのポイントがあるが、権威のある外国メディ アでの紹介がもっとも有効である。「ミシュラン」が、高山を三つ星に選定しているが、関係者 は長い地道な努力が実った結果であるとしている。「ミシュランは秘密裏に調査し、マイナス面 も採点していく。三つ星は、街並みや祭りなどを官民挙げて守り、おもてなし向上などの努力 を数十年も地道に続けてきたことが評価されたのではないか」と高山市の観光課長は語る。ミ
シュラン以上に利用者の多い旅行ガイドブック「ロンリープラネット」も、高山を「本州中部 では訪れるべき優先順位が高い」と採点している。
外国旅行をする際には、よほど慣れたリピーターでない限り、自国の言語や英語によるガイ ドブックを利用した訪問が多くなる。これは、不案内な外国であれば当然のことであろう。こ のガイドブックによりよく掲載されることが外国からの観光客を呼び込む近道となる。
⑥早い時期からのインバウンドへの取組
昭和の終わりごろからインバウンドに取り組み始めており、平成に入ってからパンフレット の多言語化に取り組んでいる。80 年代の終わりごろといえば、日本はバブル期やスキーブーム で景気は良かったはずである。その時に次の需要としてインバウンドをターゲットとしている ことは先見の明があったと言わざるを得ない。国内客の先細りまでは予測していなかったもの と考えられるが、国内からの誘客に限界を感じていたという。投資対象として早くから海外に 目を向けていたことは確かである。また海外へのプロモーションも非常に戦略的で効果的であ る。海外を一律に見るのではなく、当初は来訪客が多く見込め、お金も多く落としてくれる欧 米や台湾をターゲットとしたプロモーションを行ない、現在では成長が著しいアジア地域を中 心にしている。ミシュランや世界的に有名な旅行案内への掲載を早期に達成するなど、入込客 を分析した効率的なプロモーションが機能した。
⑦岐阜県の支援
単独の自治体だけが一生懸命取り組んでいるケースが多いが、ブランドを作って実際に外国 のマーケットを深耕し、そこからお客さんに来ていただくためには、「こんなきれいな所があり ます、こんな美味しいものが食べられます」だけでは弱い。産品、農産物、あるいは地域の名 産を一体として取り組むことが必要になる。高山のインバウンドへの熱意を支えたのは岐阜県 である。市と県、県の関係部局挙げた取り組みがなされている。岐阜では関係部局が一体となっ た会議や実際の日常の交流が上手くいっているという。そのための人材育成、チーム作り、市 場との人脈作りにも明白なものがある。役所ではどんなに優秀な人でも時期がきたら異動にな るが、岐阜の場合は異動期間も調整し、できるだけ必要な人は長く同じ部局で働いてもらう、
あるいは関連の所に異動してまた戻って来ることになっている。こうして長期間責任を持って 仕事をする体制と方針が明確化されることにより、外国との人脈が養われる。岐阜の場合、観 光課の長は民間から来た女性が務めている。決して次の仕事への腰かけにはならない。腰を据 えた長期の対応と、責任の所在をはっきりさせないとお役所仕事になってしまう。特に観光は 種をまいて刈り取るまでの期間が長く、効果測定も困難な産業である。岐阜の場合は、連れて きた人に仕事ができるよう権限も与えチーム作りもする。そのために知事が先頭に立っている という。
観光に活路を求めて背水の陣で取り組んできた高山市と、サポートを惜しまなかった岐阜県 との連携があってこそのインバウンドであったといえる。今日高山は国際観光都市として有名