3.8
64
(3) Na+イオン存在下における3.1のlH‑NMRスペクトル
表1を見て分かるように、 Na+が錯化することにより、ほとんどの各プロ トンの吸収が大きく低磁場シフトしている。これは3.1がNa+と錯化するこ とにより電子がNa+に流れ込み、各水素の電子密度が低下した為である。
表3・1 Na+存在下、非存在下における3.1のlH‑NMRの 化学シフト変化"
o/ppm
プロトン 3.1 3.1+Na+ ~o b)
CH3 0.47 0.73 +0.26 OCH2CH2CH3 1.60 1.81 +0.21
仁KごH2CH2CH3 3.85 3.90 +0.05 OCH2CO 4.75 4.70 ‑0.05
PyH 7.10 7.30 +0.21 PyH 7.71 7.90 +0.19 PyH 8.19 8.50 +0.31 PyH 8.38 8.54 +0.16 NH 10.21 9.61 ‑0.60
a) [3.1] = 2.5xl0・3M,[NaCI04] = 5.0xl0
、
1,COC13:CD3CN=9:1 v/v,‑500C,判O阻 Iz;b)必 =0 (Na+存在下)‑0 (Na+非存在下).
これに対し、 NHの吸収は逆に 0.6ppm高磁場シフトしている。これは分 子内水素結合を形成していた3.1のNHが、 Na+との錯化により分子内水素 結 合 が 切 断 さ れ 単 量 体 で 存 在 す る 物 のNHとなった為である。実際モノマ
‑3.8のNHの吸収は3.1のNHの吸収(10.21ppm)に比べ高磁場側 (9.79ppm) に観察されることからも分子内水素結合の切断が示唆される。
Na+の錯化によって大きく低磁場シフトすると思われるプロトンには、
NHの他にOCH2COのプロトンがある。しかしながら、この場合も僅か0.5
ppmではあるが高磁場シフトしている。これはNa+非存在下で自由回転をし て い た ぽH2CO基 がNa+と錯化することによってカルボニル酸素が内側に固 定化され、外側に位置するメチレンプロトンがベンゼン環の環電流の影響 を受けるようになるためである。この効果が電子密度の変化より大きいた め高磁場シフトしたものと考えられる(図3‑6)。
図3‑6 錯化によるメチレンプロトンへの環電流の効果
これらの結果は分子内水素結合の形成がNa+の有無により制御できるこ とを意味している。ま t.::Na+の存在、すなわちカルボニル基の反転により 分子内水素結合が切断されることから、
3 . 1
のNH
はカルボニル酸素と水素 結合しているものと考えられる。3 ‑ 3 ‑ 2
1H ‑ N M R
スペクトルによる分子認識過程の検討BL
濃度を変化させNa+の存在下、非存在下における3 . 1
のNH
の化学シフトの変化を観察した。その結果を図3‑7,3‑8に示す。図3‑7.Bを見て分かるよ うに、 3.1に対し0.5当量のNaCI04を加えたとき、 3.1の8聞のシグナルは
66
(A)
(B)
/γ / / I
1 / / / i
12 11 10 9
( C)
o/ppm
3.1のN HのlH‑NMRシグナル;(A) 3.1 (2.5xl0、1:), (B)3.1 + NaCI04 (1.25xI0‑3M), (C) 3.1 + NaCI04 + BL (40xl0・3M), CDCl3:CD3CN = 9:1 v/v, ‑50o
C
, 400MHz.図3‑7
12.0 11.5
10.0 10.5 11.0 E a
a ¥
工Zぬ
20 10 15
[8L] / [3.1] 9.5 5
0
図3‑8 3.1の8間 対 BL濃度のプロット;
0
3.1 + BL,・錯化 種 Na++ BL : [3.1]=
2.5xl0、
1,[NaCI04]=
5.0xl0‑3 M, CDC13 :CD3CN = 9:1 vJv, ‑50oC, 400MHz.
10.21ppmと9.61ppmに現れ、表3‑1からそれぞれ非錯化種と錯化種に帰属で きる。他のプロトンのシグナルもまた表3‑1に示す値にそれぞれ分裂した。
これに
BL
を3 .1
に対し16当 量 加 え る と 錯 化 種 のNH
の シ グ ナ ル だ け が 10.35ppmへ低磁場側シフトした均(図3‑7,C)。このことから、BL
の認識に はNa+と錯化した3.1のみ関与することが分かる。カリックス[4]アレーンテトラエステルまたはアミド誘導体の四つのカル ボニル基は、カルボ、ニル酸素関の静電的な反発により外側を向いているが、
Na+と錯化することで内側を向くことができる。この系でも同様にカルボ ニル酸素を介した分子内水素結合は3.1がNa+と錯化することで容易に切断 される。言い換えると、 3.1の分子認識部位は、非錯化種の場合分子内水 素結合を形成しているため認識部位が閉じて不活性となっているが、錯化 種の場合分子内水素結合が切断されるため認識部位が開いて活性となって
いる。
3.1に対しNaCIU4を2当量加えることで完全に錯化種のみになる。この条 件下、
BL
の濃度を増加させると3.1の8阻だけが徐々に低磁場側へシフトし て行き、 3.1に対して約10当量以上で飽和に達した。しかしながら、他の プロトンのシグナルのシフトはほとんどなかった (0.1ppm以下)。したが って、 8悶のシフトから会合次数および会合定数を求めた。以下の平衡式に基づくプロットの解析から会合次数n
=
2となり、 3.1とBL
が1: 2
で会合していることが分かつた(図3‑9)。K H + nG
68 HGn
[HGn]
K =
[H]
[ G t
~
~ I ~
t心 1占
。
I I C心 ιI I ‑1 EI 宍 C{Iち
c.d I C心
~ノ
。心
。
‑2
・2.2
2.2
‑2.0 ー1.8 ー1.6 ー1.4 ‑1 .2
log [G]O
図3‑9 log
( 止 と
)‑1内
[G]o(J)プロットこのような場合
BL
の結合は段階的に、すなわち以下の平衡式にしたがっ て起こると考えられる。H + nG
HG + nG K1
『 ~ HG
K2
』
『 HG2
K 一 [HG]
1 =
[H] [G]
[HG2]
1¥..2=
[HG] [G]
そこで非線形最小自乗法刊こより Kl、K2をそれぞれ求めた(図3‑10)。 結果Kl=1.32xl02M1、K2=1.05xl02M1であった。ほぼ同程度の会合定数を与
えたことから、
l
段階目と 2段階目のBL
の会合過程に協同性は無いものと 考えられる。11.5
E a a ¥
主 10.5
E心
9.5
0 5 10 1 5 20
[ 8 L ] / [ 3 . 1 ]
図3‑10 3.1の8悶 対BL濃度のプロット .:実測値,口:計算値
以上のことから、 3.1によるBLの認識過程は図3‑11の様に進行するもの と考えられる。
閉じた構造 開いた構造 1:2会合体
図3‑11 3.1によるBLの認識過程
70
3‑4 5,11,17,23‑テトラ
‑tert‑
プ チ ル‑25,27ージプロピルー26,28ーピス( 6 ‑
ヘ プ チ ル カ ル ポ ニ ル ア ミ ノ‑ 2
ー ピ リ ジ ル ア ミ ノ カ ル ポ ニ ル メ ト キ シ)カリックス[4Jア レ ー ン を 用 い た7,8ージクロロー10‑メ チ ル イ ソ ア ロキサジンの分子認識3 ‑ 4 ‑ 1
分子内水素結合の評価3.2も3.1と同様に分子閉会合体を形成する可能性がある。そこで3.2の 分子内水素結合および分子閉会合の形成の有無をFf‑IR、lH‑NMRスペクト ルにより検討した。
(1) Ff‑IRスペクトル
図3‑12を見て分かるように、 331仇m‑lと3275cnf1に2本の3.2のVNHが1.5:1
の比で観察され、この強度比は 3.2 の濃度(2.0~50mM)に影響されなかった。
また、モノマ一類縁体である6‑ヘプチルカルボニルアミノー2‑ピリジルアミ ノカルボ、ニルメトキシベンゼン3.9は3420cm‑1と3400αn‑1に2本 の が1:1.3の 比で観察され、この強度比も 3.9 の濃度(30~30印仙のに影響されなかった。
通常、単量体で存在する物のVNHが4ooocm‑1
f
寸近に、そして水素結合したVNHが3330‑‑‑‑‑3060cm‑1の間に観察されるお)ことから、 3.2では水素結合した
V問、モノマー3.9では単量体で存在する物のVNHがそれぞれ観察されてい ると考えられる。
ゥ ︒
3.9
J ノ/ ︐J
a ' '
︐ ︐
b'
︐ ︐
︐ ︐
J' ︐e
︐ ︐
U
1 1
i︐
. . .
l'
・ ・ ・ .••
11
. .
a •.
. .
︑
︑︑︑
3200 3300
3400 3500
V / cm‑1
図3‑12 3.2の部分Ff‑IRスペクトル;実線:
2.0x10‑3M,破線:50x10
、
1;CHCI3, 250C.3.2において、水素結合したVNHが分子間水素結合に基づく吸収であれば この場合濃度に影響されないことから、
強度比は濃度によって変化するが、
モノマ‑3.9の単
分子内水素結合に基づくV聞であると考えられる。また、
この濃度範囲で 量体で存在する物のVNHも濃度に影響されないことから、
は分子間会合を形成せずに分散していることが分かる。
これらの結果から、 3.2は分子間会合体を形成せず、分子内水素結合を 形成していることが示された。
(2) Na+イオン存在下における3.2のlH‑NMRスペクトル
表3‑2を見て分かるように、 3.1と全く同様の挙動を示した。すなわち、
72
3.2のN Hお よ び ぽH2COの吸収が高磁場シフトしている。このことは3.2 の場合も分子内水素結合の形成がNa+の有無により制御できるということ
を意味する。またNa+の存在、すなわちカルボニル基の反転により分子内 水素結合が切断されることから、 3.2のN Hはカルボニル酸素と水素結合し
ているものと考えられる。
表3‑2 Na+存在下、非存在下における3.2のlH‑Nl¥伎の 化学シフト変化的
O/ppm
フ。ロトン 3.2 3.2+Na+ dO b)
CH3 0.26 0.71 +0.45
c x
ごH2CH2CH3 3.38 3.88 +0.50 OCH2CO 5.06 4.69 ‑0.37PyH 7.38 8.16 +0.78 PyH 7.72 7.83 +0.11 PyH 7.89 8.13 +0.24 N H 9.22 8.62 ‑0.60 N H 10.24 9.41 ‑0.83
a) [3.2] = 2.5xl0・3M,[NaCI04] = 5.0xl0・3M,COC13:CD3CN=9:1 vjv,
‑500C,判O阻む;b)必 =8 (Na+存在下)‑8 (Na+非存在下).
3‑4‑2 蛍光スペクトルによる分子認識過程の検討
一般にフラピンは強い蛍光を与えるが、 2,6‑ジアミノピリジン単位がフ ラピンのプテリジン部位に 3点水素結合を形成すると消光する27‑問。この 現象を利用して3.2とFlの間の相互作用を検討した。
(1) アルカリ金属およびアンモニウムイオンの影響
Mα04(M=Lt"' Na¥ K+", Cs+および BuDMe3Nうに対するRの相対蛍光強度 (1 / 10)を図3‑13に示す。図3‑13を見て分かるように、 Rの蛍光強度の減少は Na+>> li+> K+:::::: Cs+ >BuD地 3N+の順列となり、 Na+を添加したとき大きく蛍
光が消光した。これはNa+が他のカチオン種と比べ3.2のエステル部位とよ り強く錯化でき、これにより分子認識部位が効果的に開き活性となった為 である。また、 Na+の 系 に お い て 水 を 添 加 す る こ と で 蛍 光 強 度 の 減 少 が 制 限された。これは、 3.2とNa+の錯化を水が阻害している為であり、このこ
とからもNa+が分子認識部位の開閉に関与していることが分かる。
1.0
0.9