次に、
Ayu8104
ホモ雄マウスの新鮮精子あるいは凍結融解精子を用いて体外受精を行い、受精卵を凍結保存した。後日、融解し、
bL TALEN mRNA
のインジェクションに使用した(IVF with unfrozen sperm, followed byfreeze-thawing: IUF; IVF with frozen sperm, followed by freeze-thawing: IFF)。
受精卵の融解成績を表
3
に示す。凍結融解後、得られた形態的正常卵の割 合はIUF
グループでは60.8%
(135/222)、IFF
グループでは70.6%
(84/119)であり、MF グループの
87.2%(68/78)に比べ、若干低い割合となった。
インジェクション後の生存卵数は、IFFグループでは比較的低い値となっ たが、全ての実験区から産仔が得られ、変異個体のスクリーニングを行う ことができた(表
5)。
HMA
の結果、IUF
グループでは8
個体、IFF
グループでは2
個体が変異 個体と考えられた(表5)。 RFLP
の結果、IUF
グループの3
個体が変異個 体と考えられた(表5)。これらの個体の PCR
産物について塩基配列を決 定したところ、得られた変異個体は、IUF グループでは50.0%(10/20)、
IFF
グループでは33.3%(2/6)であった(図 12、表 4)。
4-2-2) C57BL/6N
マウスにおける内在遺伝子の破壊C57BL/6N
マウスの凍結受精卵を用いて、TALEN
による内在遺伝子の破壊が可能か検討した(図
11 B
)。以前、中潟研究室にて体外受精に用いる 雌マウスの週齢について検討したところ、若齢と性成熟後のC57BL/6
マウ スでは排卵数や受精率、産仔への発生率に若干違いが見られた。この時の 結果では、1 匹あたりの平均排卵数、受精率、産仔への発生率全てにおい42
て性成熟後の雌マウスが優れた結果であったため、C57BL/6N マウスを用 いた内在遺伝子の破壊においては、8-12 週齢と
5
週齢、2通りの週齢の雌 マウスから採卵を行い、それぞれ新鮮受精卵あるいは凍結融解受精卵へClec4b1 TALEN mRNA
のインジェクションを行った(mated unfrozen matureoocytes: MUM; mated unfrozen immature oocytes: MUI; mated frozen mature oocytes: MFM; mated frozen immature oocytes: MFI)
。受精卵の凍結融解成績および
TALEN mRNA
インジェクション後の卵 生存率は全てのグループにおいて良好であったが、産仔への発生率はMFM
とMFI
グループにおいて、わずかに低下した(表6、表 7)
。得られ た産仔のHMA
によるスクリーニングにより、全てのグループにおいて約 半数の個体が変異個体と判定された(表8)。残りの個体について RFLP
解析を行ったところ、MUMとMUI
グループではそれぞれ1
個体を除い た全ての個体、MFM
とMFI
グループでは全ての個体が変異個体であると 判定された(表8)
。変異個体と判定された個体について、PCR 産物の塩 基配列を調べたところ、全てのPCR
産物について塩基の欠失や挿入が確 認された(図13)
。それぞれのグループにおける変異個体の割合は、MUM
グループ 95.0% (19/20) 、MUIグループ 95.0% (19/20) 、MFM グループ100% (6/6)
、MFI
グループ100% (12/12)
であった(表7)
。これらの結果 により、どちらの週齢の雌マウスから受精卵を採卵した場合においても、凍結融解の有無にかかわらず、高効率な
TALEN
による変異導入が可能で あることが明らかとなった。43
第5章 結論
5-1) 新鮮受精卵を用いた Platinum TALEN
による遺伝子破壊マウスの作製eGFP-pCAG
マウスの受精卵へeGFP TALEN
のmRNA
をインジェクショ ンした結果、Platinum TALEN はマウスにおいても高効率に変異導入が可能 であり、インジェクション後の卵生存率や産仔への発生率に毒性は見られな かった。pCAG-eGFP マウス受精卵へのインジェクションを150 ng/µl
のmRNA
濃度で卵細胞質へ行うことにより、産仔への発生率や蛍光消失個体の 得られる効率が高くなることが明らかとなった。先に述べた条件検討結果か ら、10 ng/µl のTALEN mRNA
を使用した場合にも、TALENによる変異導 入個体を得ることは可能と考えられるが、使用するmRNA
の濃度を高くす ることにより、全身の細胞で標的遺伝子が破壊されたと考えられる個体をF0
世代で得ることが可能となった。また、150 ng/µl
のmRNA
濃度で卵細胞 質インジェクションを行ったところ、得られた変異導入個体は33
個体中17
個体 (51.5%)であり、Platinum TALEN
を用いたノックアウトマウス作製は十 分に実用可能であることが示された。本研究では、TALEN によるノックア ウトマウス作製のモデルとして、外来遺伝子であるeGFP
遺伝子の破壊を試 みたが、今後、内在遺伝子でのノックアウトマウスやノックインマウス作製 など、TALEN を用いたマウス受精卵でのゲノム編集に活用できる有益な結 果を得ることができた。5-2)
変異個体スクリーニング法の確立eGFP TALEN
による変異導入個体をスクリーニングするため、4
種の解析法を用いた。蛍光観察、HMA、RFLP 解析、DNA シーケンシングである。
44
HMA
は、ゲノミックPCR
を行った後、アガロースゲルで電気泳動するだ けの最も簡便な解析法である(Otaet al. 2013)
。標的配列を含むDNA
断片 をPCR
により増幅した際、変異導入のない断片と変異導入のある断片のア ニーリングにより形成されたヘテロ二重鎖がホモ二重鎖より泳動時の移動 速度が遅れることを利用している。ゲノミックPCR
後の電気泳動により、上方にシフトするバンドが検出されれば、変異導入個体と判定できる。
RFLP
解析は、変異導入の有無を調べるのにしばしば利用される解析法で ある(Ochiai et al. 2010; Ansai et al. 2013; Suzuki et al. 2013)。スペーサー配列 内の塩基配列を認識し、切断する制限酵素でPCR
産物を処理し、切断され ないPCR
産物が検出できれば、スペーサー配列に塩基の欠失や挿入、置換 などの変異が導入されたと判断する解析法である。本研究において、
HMA
とRFLP
解析の結果が必ずしも一致しない個体が 検出されたのは、これらの解析法の原理が異なるためと考えられる。制限 酵素の認識配列に変異がおこっていなければ、RFLP
解析で変異個体と同定 することはできない。一方、1
塩基の置換や極めて小さな塩基の欠失や挿入 では、電気泳動時のヘテロ二重鎖の遅れを検出できないため、HMA
によっ てこのような変異個体を同定するのは難しいと考えられる。また、HMA
とRFLP
解析の両方、あるいはどちらか一方で変異個体と同定された個体の中 には、蛍光観察では変異個体と同定できない個体も存在した。その理由と して、以下のようなことが考えられる。一つ目は導入された変異がインフ レームな変異や塩基置換であったため、タンパク質の機能が破壊されず、蛍光が観察されたこと。二つ目は変異導入のタイミングである。変異導入 が胚発生の遅い時期に起これば、蛍光の消失を検出することは難しいと考 えられる。
45
本研究では、eGFP遺伝子の破壊を同定するため、4 種の解析法を評価し た。一般に
DNA
シーケンシングは、変異を正確に確かめられる最良の方法 であるが、全ての個体のPCR
産物をサブクローニングし、複数のクローン についてDNA
シーケンシングを行うのは、非常に手間のかかる作業である。PCR
産物のダイレクトシーケンシングであれば、上記の手間を省くことが できるが、これが可能なのは、発生の極めて初期に変異が導入された時の みである。これらのことから、個体番号25
のように、変異個体の見落とし があったとしても、DNA シーケンシングを行う前にHMA
あるいはRFLP
解析を行い、変異個体の候補をしぼる必要があると考える。本研究において使用した解析法は、
DNA
融解曲線を利用してPCR
産物の ヘテロ二本鎖を検出する高解像度融解曲線分析(high resolution melt analysis;HRMA)(Dahlem et al. 2012)や変異導入により形成されたミスマッチなヘ
テロ二本を特異的に切断するSurveyor nuclease assay (Tesson et al. 2011)な
どの特別な機器や高価な試薬を必要とする解析法に比べ、一般的な試薬と 設備さえあればTALEN
による変異導入を同定できる。そのため、本研究が、マウスだけでなく他の生物においても、
TALEN
により作製されたノックア ウト個体をスクリーニングするための良いモデルとなることを期待したい。5-3)
凍結融解受精卵を用いたPlatinum TALEN
による遺伝子破壊マウスの 作製1972
年、Whittingham
らがマウス胚の凍結保存に成功してからというもの、胚凍結技術は遺伝子改変マウスの保存や輸送に広く利用されてきた。
本研究では、体外受精や受精卵の凍結融解などの生殖工学技術が、マウス 受精卵への
TALEN mRNA
インジェクションにおけるゲノム編集にも利用46
可能か調べるため、
Ayu8104
マウスの凍結受精卵を用いてTALEN
による外 来遺伝子(bL)の破壊を、C57BL/6N マウスの凍結受精卵を用いて内在遺 伝子(Clec4b1)の破壊を試みた。bL
遺伝子の破壊においては、交配により得られた受精卵だけでなく、新 鮮精子あるいは凍結精子を用いた体外受精により得られた受精卵も凍結融解して
TALEN mRNA
のインジェクションに使用可能であること、全ての実験区から変異個体が得られることが明らかとなった。凍結融解受精卵を インジェクションに用いた場合、塩基の挿入による変異が確認されたが、
それ以外は、新鮮受精卵の使用時と比べ、欠失する塩基数など導入される 変異に違いは見られなかった。また、Clec4b1 遺伝子の破壊においては、
幼若あるいは性成熟後の
C57BL/6N
雌マウスから採卵した新鮮受精卵、凍 結融解受精卵のどちらも内在遺伝子の破壊に利用可能であることが明らか となった。一般に、正常な妊孕性をもつ雄マウスが
1
匹いれば、体外受精に必要な 精子は十分採取可能である。さらに、体外受精に凍結精子を用いると、生 きた雄マウスを準備する必要がない。また、現在、遺伝子改変マウスの遺 伝的背景はC57BL/6
であることが多く、一般にC57BL/6
マウスの卵は凍結 融解成績が良好で安定している(Nakagata 1995; Nakao et al. 1997)。これらのことから、