執筆担当 大賀 和彦
IT業界においては、プログラムの開発のコスト削減を目的に中国においてプログラム開発を行
う企業が増えてきている。上海など沿岸部の人件費は上がってきているとはいえ、まだまだ人件 費は安く、中国でのプログラム開発はコスト削減のためには魅力的な方法である。
しかしながら、何の工夫も無く、中国で開発を行うだけでは、期待した効果を発揮できない。
中国でのオフショア開発を行ったが、予定したコスト削減が実現できず、かえって納期の遅れな どからコスト増を招いてしまうこともある。それでは中国でのオフショア開発を上手く行うため にはどの様な取り組みを行えばいいのであろうか。このような課題を抱える企業の課題解決の一 助とすべく、ある企業(以下事例企業)の事例を元に、中国でのプログラム開発プロジェクトの 問題とその対策を述べる。
(1)事例企業のプロフィール
事例企業は、日本のソフトウェアベンダーである。この企業は、自社パッケージのプログラム 開発コストを削減するために、中国でプログラムを開発する現地法人を立ち上げた。事例企業の 現地法人の役割は、日本で仕様設計されたプログラムの開発である。
(2)事例企業で発生した問題点
事例企業は現地法人を立ち上げた後、当初2回のプロジェクトで失敗を経験している。最初の プロジェクトは納期が大幅に遅延し、中国でのプロジェクトを中止した上、日本側でプロジェク トを引き取ることとなった。2 回目のプロジェクトでは中国でのプロジェクトは完遂させたもの の、納期、コストとも当初の予定を超えてしまった。
双方のプロジェクトで納期遅延、コスト増大となった理由は開発されたプログラムの品質が低 かったことによる。中国で開発されたプログラムは、中国側の独自判断により実装方法が変更さ れ、中国側の独自判断により機能が追加され、膨大なバグがしていたのである。
(3) 事例企業の対応
事例企業では、この問題を解決すべく、「コミュニケーションの向上」、「開発作業品質の向上」、
「品質管理グループの導入と評価制度の見直し」を行った。
(イ)開発作業品質の向上
日本においては、開発作業基準を文書化しなくても、慣習として作業基準が形づくられ、
実行されることがほとんどである。これで大きな問題は発生しないことが多い。しかし、中 国ではこれは通用しない。中国人の性質として「合理化指向」が指摘されるが、文書化され た開発作業基準が無い場合、中国人のこの性質が悪い方向で発揮されてしまう。つまり、作 業を手抜きされ、作業品質が落ちるのである。事例企業でも中国人開発者はプログラムのテ ストを十分に行っていなかった。また、設計書の内容に疑問が生じた場合でも確認をせず、
独自の判断で仕様を実装していた。
事例企業では、プログラムの開発作業を標準化して作業品質を上げるために、開発作業基 準を作成し、文書化した。もちろん、開発作業基準を文書化しただけでは、それに従った開 発作業は行われない。開発作業基準に従った開発を行わせるためには、それを教育し、実施
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状況を確認することが必要である。事例企業では、ISO9000 のフレームワークを用いて開 発作業基準に従った開発作業を徹底させた。事例企業はこのためにISO9000の認定も取得 している。
(ロ)コミュニケーションの向上
設計者の意図に反して、中国側の独自判断により機能のプログラムへの実装方法が変更 され、中国側の独自判断により設計書に無い機能が追加されてしまう原因として、コミュニ ケーションの不具合があった。これを解消するために、事例企業は、「設計書の詳細化」と
「レビューの徹底」を行った。
(a)設計書の詳細化
設計書の記述にあいまいな部分があるためにプログラム開発時に設計者の意図通りに 機能が実装されないことは、日本国内でプログラム開発を行った場合で発生する問題で ある。まして、事例企業においては設計書を翻訳者が日本語から中国語訳していた。中 国の開発者は翻訳された仕様書に基づいて開発を行っていた。また、物理的な距離、言 語の壁のために、仕様の確認を気軽に行うことが出来なかった。このため、設計書の記 述に少しでもあいまいなところがあると、中国での機能の実装が設計者の意図と異なっ てしまった。事例企業ではこの問題を解決するために「誰が読んでも解釈が一つしかな いところ」まで詳細な設計書を日本側の設計者に作成させた。
(b)レビューの徹底。
設計書を詳細に書いても、内容について、開発者と設計者の間で認識のズレは発生す る。事例企業ではこれを改善するために、レビューを頻繁に行い、仕様の認識のずれが ないようにした。レビューもただ漫然としてはプログラムの品質は向上しない。事例企 業では、レビューの品質基準を開発作業基準の中に規定し、レビューの品質を向上させ た。
これと並行して、レビューに望む側の意識も改革する必要があった。中国人は、面子 を重んじる。そのため、間違いを認めることを嫌がる傾向がある。この意識を改めない とレビューが上手くいかない。事例企業では、「間違い=悪」ではなく、「手抜き、隠蔽
=悪」であることを認識させた。これにより、効果的なレビューが行えるようになった という。
(ハ)品質管理グループの導入と評価制度の見直し
事例企業では、上記の「3.1開発作業品質の向上」、「3.2コミュニケーションの向上」
の施策の効果を高めるために次のような施策を合わせて導入した。
(a)品質管理グループの導入
事例企業では、プログラム開発作業と製品の品質を管理維持するために独立部門とし て品質管理グループを設置し、第三者として作業品質と製品品質の管理を行った。
(b)評価制度の見直し
事例企業では、高い品質のプログラム開発者に報いるために成果主義の人事評価を導 入した。成果は、成果物の数と品質で評価した。
(4)成果
事例企業は上記の取り組みを第3回目のプロジェクトから行い、取り組みの効果はこのプロジ
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ェクトから出てきた。第3回目のプロジェクトは始めての成功プロジェクトとなった。プログラ ムの品質は向上した。設計者の意図通りに機能は実装され、バグも僅かしか出なかった。この結 果、期日前の想定した範囲のコストで製品を納入できた。
(5)結論
上記の取り組みは全て基本的なことである。事例企業が何か特別なことを行ったわけではない。
しかし、事例から中国という文化も習慣も人の性質も異なる国で仕事を行ううえでは、基本的な ことを丁寧に行うことが重要であることが分かる。事例企業のマネージャは、「理解してもらえば 日本も中国も変わらない。ただ、少々理解してもらうのに時間が課かる。」と述べている。基本的 なことを丁寧に行うことを忘れなければ、中国での開発を恐れることは無いということを事例企 業は示している
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