【研究背景・目的】
海峡部はマルチスケールの海洋力学過程を捕捉する絶好の監視海域である。しかし、従来の研究では観 測データやモデル分解能が不足しており、海峡通過流量の収支推計は未だ安定せず、力学的な海峡変動理 論にも諸説が交錯する。本課題では、日本海に通じる対馬・津軽・宗谷の3海峡に海洋レーダーが設置さ れた好機を捉え、多種かつ高分解能の観測データと数値モデルを最適に組み合わせる統合化を実施、各海 峡を通過する海流・潮流の微細構造まで再現し、日本海の流量問題に決着をつける。さらに、統計・力学 的解析手法を駆使してこの最適統合データを解剖し、新たな物理過程の発見と海峡力学過程の総合的な 理解に到達する。海峡変動過程の解明は、水産資源・海洋エネルギーの調査、海洋気象や漂流物質の監視 など、幅広い分野の進展に資する。
【研究体制及び研究方法】
研究代表者:広瀬 直毅
研究分担者:磯辺 篤彦、木田 新一郎、大貫 陽平(九州大学 応用力学研究所)、江渕 直人(北海道大 学)、吉川 裕(京都大学)、碓氷 典久(気象庁気象研究所)、石川 洋一(海洋研究開発機構)
【平成 30 年度】
対馬海峡のフェリーADCPデータの処理過程を見直し、より正確な通過流量を算出した結果、日本海の 流入量と流出量がほぼバランスした。対馬海峡HFレーダーの流速データから、表層流の経年変動を明ら かにした。多数の船舶ADCPデータを近似カルマンフィルターによって1.5kmメッシュ対馬海峡モデル に同化し、リアルタイム運用を開始した。この際、システム行列を季節変化させることによって成層変化 を適切に反映した同化方法を提案した。数値的に状態遷移行列を作成する際に正負の両方向に摂動を与 えることで、最大固有値が1未満の安定した遷移行列を得ることができた。一方、300mメッシュまでダ ウンスケールした玄界灘モデルでは、流速変動が過大となる傾向があり、渦粘性のパラメタリゼーション が不適切である可能性が残る。
日本周辺2kmモデルの海峡周りの地形をチューニングした後、データ同化による10年程度の再解析実 験を実施した。再解析結果の検証から、海峡地形のチューニングにより海峡通過流量とともに、日本海・
東シナ海・太平洋の海盆間の水位差等、広範囲の水位分布も改善することが確認された。津軽海峡の重要 性に鑑みてHFレーダーデータの解析をすすめ、海流変動の統計的な性質を明らかにするとともに、ナウ キャストシステムの構築に着手した。
昨年度に引き続き、ラージエディシミュレーションの結果に基づいて乱流運動エネルギーの収支解析 を行い、混合層スキームの精度評価を行った。その結果、既存の混合層スキームでは圧力相関項の再現性 に大きな問題があることがわかった。また、海峡部を含む沿岸域・縁辺海域での鉛直混合過程に関するレ ビューを通じて、現状の問題を整理した。また、非線形共鳴による内部潮汐のエネルギー減衰に関する論 文を出版したほか、波動エネルギーの伝達経路を特定する新しい計算手法について研究集会で報告・論文 投稿をした。
【令和元年度】
対馬海峡や津軽海峡などに設置されたHFレーダーの表層流速データと 1.5~2.5km メッシュの高分解 能モデル計算値を比較し、いずれも良好な再現性を得た。津軽海峡東部では詳細な変動特性が明らかとな り、統計モデルを用いた数時間予測のための手法が開発された。日向灘においても、黒潮に伴う流速場の 変動を正確に把握することができた。
研究組織
大気海洋環境研究センター
海洋モデリング分野:広瀬 直毅 ほか
大規模な数値モデルの適切な乱流パラメタリゼーションを目指して、精緻なラージエディシミュレー ションの結果に基づいて乱流運動エネルギーの収支解析を行った。シアー生成項や浮力生成項など、各項 のパラメター依存性を調査した。さらに、数値海洋モデルの出力データから慣性重力波とRossby波を分 離して、それぞれのエネルギーフラックスを診断する方法を開発した。
最終氷期最盛期以降の海水位の上昇に伴って、それまで孤立していた日本海に、津軽海峡の開放に伴っ て親潮流入が始まった。これに伴う鉛直混合は、親潮系水の中層貫入とdeep convection の組み合わせに よって引き起こされたことを、古海洋学の観測成果を参照しつつ、多層ボックスモデル解析によって明ら かにした。さらに対馬海峡が開放されると、黒潮系水が脈動しつつ日本海に流入を始めた。Kida & Qiu (2013)の島法則に非線形性を加え、この脈動が近接した二つの解の遷移で発生することを明らかにした。
【研究期間】
平成28年度~令和2年度
181
第3項 エアロゾル地上リモートセンシング観測網による 数値モデルの気候変動予測の高度化
【研究の概要】
アジア域を中心とした地上観測網SKYNETおよび AD-Netの地上からのリモートセンシングによるエ アロゾル観測データは、本プロジェクトの研究グループにより過去およそ20年にわたり蓄積されてきた。
長期・多地点の観測データの標準化および高精度化を図るととともに、数値モデルによるエアロゾルの気 候に対する影響の定量的評価の高精度化のために活用する。本プロジェクトは、科学研究費補助金・基盤 研究Aとして実施された。
【研究の背景・目的】
経済発展による化石燃料等の消費量増加に伴い、アジアではエアロゾルによる大気汚染が顕著となっ ているが、それは、エアロゾルによる気候変動も顕著となっていることを意味する。広域的なエアロゾル の特性を把握するためには、人工衛星による観測が有効であるが、エアロゾル粒子の濃度は下部対流圏で 圧倒的に高いため、それに近い地上から観測することは、定量的に信頼度の高いデータを得やすいという 利点がある。これらの観測データは、エアロゾルの気候影響を評価する気候モデルの検証になくてはなら ないものである。本プロジェクトでは、エアロゾル地上リモートセンシング観測網SKYNETおよび AD-Net のデータを活用し、数値モデルによるエアロゾルの気候に対する影響の定量的評価を高精度化する。
【研究の方法】
研究代表者である竹村の下、中堅・若手研究者5機関計5名による共同研究として進められた。
すでに長期のデータ蓄積がある SKYNET/AD-Net のデータを同一サーバへ集約し、かつ観測装置からの 自動データ転送を安定化させる対応を行う。また、解析手法による誤差要因を整理し、これまでの生デー タの再解析を実施し、標準化データセットを構築する。人工衛星によるエアロゾル観測の検証および複合 解析にも利用する。これらの結果をエアロゾル気候モデルMIROC-SPRINTARSのシミュレーション結果 の検証に用いる。
【本研究により得られた主な成果】
SKYNET/スカイラジオメーターのキャリブレーション・立体視野角測定の取り扱い・雲除去アルゴリ ズムを含め、生データ転送からエアロゾルプロダクト導出までの一連の解析方法の統一化を図り、
SKYNET エアロゾルデータの再解析を実施した。エアロゾルの光学的特性の長期的な変動(季節変動や
月平均値など)や短期的なイベント(越境大気汚染、黄砂現象、シベリア森林火災など)の解析を行い、
日本上空では2008年から2012年にかけて年率2〜4%で減少したことが見積もられた。また、スカイラ ジオメータとライダーの複合データ解析手法によって、SKYNET/AD-Net各地点のエアロゾル光学特性の 鉛直分布および経年変動を導出したところ、大気境界層と自由大気のエアロゾル光学的厚さは、概ね減少 傾向にあることが分かった。
【研究期間】
平成27年度~令和元年度 研究組織
大気海洋環境研究センター 気候変動科学分野:竹村 俊彦 所外研究分担者:4 名