付 録
付録 1- 1 第一原理計算の解法
物質の性質は,基本的な情報(原子種類・配列)から,物質の電子状態や全エネルギー を一意に求めることができる.このような実験,経験に基づくパラメータを必要とせず,
方程式を解くことによって物質の性質を求める計算方法は,第一原理計算(first-principle)
もしくは非経験的計算(ab-initio)と呼ばれている.
第一原理計算の方法は2つに大別でき,1つは波動関数を使う方法,もう1つは電子密 度を使う方法である.波動関数を使う方法は,Hartree-Fock 定理[1]に基づいた分子軌道法
(Molecular Orbital method:MO法)と呼ばれ,Schrödinger方程式を基本としており,波動 関数ψを近似的に解いていく.一方,電子密度を使う方法は,物質の基底状態のエネルギ ーを求めるために,基底状態の電子密度の汎関数で記述したHohenberg-Kohn定理[2] であ る密度汎関数理論(Density Functional Theory:DFT)に基づいた方程式を解く方法である.
この方程式をKohn-Sham方程式[3]といい,現在の第一原理計算はこのDFT法が基礎とな っている場合が多い.Hohenberg-Kohn定理[2]は,次の2つから成立している.
定理1:基底状態が縮退していないN電子系の場合,外部ポテンシャルV(r)と基底状態 の波動関数は電子密度関数n(r)で一意に決まる.
定理2:真の基底状態での電子密度n(r)に対して,全電子エネルギーEtotal(n) は最小の値 を取る.
本研究では,第一原理計算の計算コードとして, Materials Studio に組み込まれているソ フトウェアCASTEPを用いている.CASTEPでは,DFT法を基礎とした計算コードとなっ ている.計算を行う場合,原子の種類と配列のほかに,計算に必要なパラメータ等をあら かじめ設定しなければならない.CASTEPを用いて計算を行う場合,考慮しておかなけれ ばならない項目(SCF法,交換相関項,擬ポテンシャル法など)について以下に説明する [4].
100 (1) 自己無撞着法(Self Consistent Field : SCF)
DFTの基本となるKohn-Sham方程式は,式(A6-1)から(A6-3)で表される.
(A6-1)
V r
| | (A6-2)(A6-3)
またこのとき,電子密度ρは(A6-4)で表される.
ρ ∑ | |
(A6-4)式(A6-3)にある電子密度ρは,式(A6-4)で示すように基底状態の波動関数 を含んだ関数と なっており,式(A6-1)は一意に解を得ることはできない.よって,解くときは次に示すSCF 法を用いる.
SCF 法では,はじめに基底状態の波動関数 を仮定して, を与える.このとき,初期 値としてどのような を与えるかについては,様々な手法があるが,本研究で用いる
CASTEPにおいては,平面波基底(Plane Waves:PW)が用いられる.また,これを平面波
展開する際,どの波数まで展開するのかは,カットオフエネルギーによって決定される.
カットオフエネルギーを大きくすると短い波長の平面を使えるため計算精度は向上するが,
これに伴って計算負荷が大きくなるので,適切なエネルギーを設定する必要がある.
次に,波動関数 が決まると,式(A6-4)から電子密度 が決まり,これをもとに式(A6-1) から を求めることができる.SCF法では, と の差が,ある一定範囲内(SCF法 の収束条件内)になるまで計算を繰り返す.また, は,1つ前の の要素を加味して計 算するため,どの程度 の要素を入れるのかについては,パラメータの変更が可能であり,
計算時間や収束状況に応じて調整する.
101 (2) 交換相関項
式(A6-3)は,電子の交換・相関に関するエネルギー項(交換相関項)であるが,多体問題 を含んでいるため,一意に表記することは困難である.そのため,近似法を用いることに なるが,その方法の一つが,局所密度近似(Local density approximation:LDA)である.LDA は,一様な電子密度内における1電子あたりの交換相関エネルギーを対象とするものであ る.これに対し,交換相関項に電荷密度とその密度勾配を取り入れた関数を用いることに
より,Kohn-Sham方程式はより高精度な解を得ることができるようになる.LDAを補正し
たこの方法を,一般化密度勾配近似(Generalized gradient approximation:GGA)という.GGA は LDA の計算に比べると,格子定数や凝集エネルギーを改善することが知られている.
本研究では,特に言及のない場合は,GGAの中でもPerdewら[5]によって提案されたGGA
+PBE法を用いている.
(3) 擬ポテンシャル
第一原理計算では,全電子を考慮して計算する全電子計算法と,価電子のみを計算の対 象とする擬ポテンシャル法がある.本研究では,擬ポテンシャル法を用いて計算を行って いる.擬ポテンシャル法では,内殻電子と原子核からの価電子に及ぼすポテンシャルを,
あらかじめ擬ポテンシャルとして準備しておくことで,計算負荷を軽減させることができ る.同法には,擬ポテンシャルを計算する際にノルム(電荷密度)を保存するノルム保存 型,保存しないウルトラソフト型があり,CASTEPにおいては両型ですべての原子に関す る擬ポテンシャルが用意されており,選択して計算することが可能である.本研究では,
計算負荷を少なくするため,ウルトラソフト型を用いて計算を行っている.
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