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本稿の目的は、アメリカにおける仮想通貨の私法上の地位を巡る最近の議論を紹介 することにある。我が国では、2016 年の資金決済に関する法律(以下、「資金決済 法」という。)の改正により、仮想通貨の売買等を業として行うことが規制されるこ とになった(1)。しかし、2016 年の資金決済法の改正は、仮想通貨の売買等を業として 行う者を仮想通貨交換業者として規制するものであり、仮想通貨の取引の私法上の側 面を主たる規制対象とするものではなかった。このような状況は、アメリカでも共通 しているように思われる。アメリカでも、州法及び連邦法において、仮想通貨に関連 した新たな規制を導入する例が見られるが、それらは我が国の仮想通貨交換業者に関 連した規制と同じく、仮想通貨の取引の私法上の側面に深く立ち入ってはいないよう に思われる(2)

しかし、仮想通貨交換業者を対象とした規制の実効性の確保と、仮想通貨の取引の 私法上の側面が密接に結び付いている場合がある。たとえば、仮想通貨交換業者を対 象とした規制の目的には、仮想通貨交換業者に仮想通貨を預けている顧客の利益の保 護が含まれる(3)。一方、仮想通貨交換業者が破綻した場合にこのような顧客がどのよ うな不利益を被るかは、当該顧客が仮想通貨の返還を請求することができる私法上の 地位(倒産手続きにおける取戻権を行使できる地位)を有しているか否かによって異

(1) 資金決済法 63 条の 2。なお、2019 年 3 月 15 日に金融庁は国会に対して資金決済法の改正案 を 提 出 し て い る。Seehttps://www.fsa.go.jp/common/diet/198/index.html(lastvisitedat Mar.17,2019).以下では、同改正案に触れる場合は「資金決済法改正案」といい、単に「資 金決済法」という場合は現行法を指す。

(2) MarkEdwinBurge,Apple Pay, Bitcoin, and Consumers: The ABCs of Future Public Pay-ments Law,67HastingsL.J.1493,1544-45(2016);LawrenceJ.Trautman&AlvinC.Harrell, Bitcoin versus Regulated Payment Systems: What Gives,38CardozoL.Rev.1041,1086note 209(2017);KevinV.Tu,Perfecting Bitcoin,52Ga.L.Rev.505,536-538(2018);LawrenceJ.

Trautman,Bitcoin, Virtual Currencies, and the Struggle of Law and Regulation to Keep Pace,102Marq.L.Rev.447,532-535(2018).

(3) 資金決済法 63 条の 11、仮想通貨交換業者に関する内閣府令 20 条 2 項、金融庁・事務ガイド ライン(第三分冊:金融会社関係)16.仮想通貨交換業者関係Ⅱ-2-2-2-2。

なるように思われる(4)。そして、仮想通貨交換業者が資金決済法等の定めに従い顧客 から預かった仮想通貨を分別管理していたとしても、当該仮想通貨に対する顧客の取 戻権が認められないのであれば、資金決済法等に基づく規制には限界があると評価せ ざるを得ないように思われる。このことは、どのような場合に仮想通貨について倒産 手続きにおける取戻権が成立するかが明らかではない限り、仮想通貨交換業者に仮想 通貨を預けた顧客の利益を十分に保護することができない可能性を示している(5)

我が国と比べて、アメリカでは、仮想通貨の私法上の地位を主たる検討対象とする 論稿の数は必ずしも多くはないように思われる(6)。そこで本稿では、そのような論稿 の中で、UniformCommercialCode(UCC) における仮想通貨(特にビットコイン)

の位置付けを検討対象としたものを紹介することにする(7)。UCC はアメリカの各州が

(4) 破産法 62 条、民事再生法 52 条、会社更生法 64 条。

(5) ビットコインについて破産法 62 条に基づく取戻権の成立を否定した裁判例として、東京地 判平成 27 年 8 月 5 日 LEX/DB25541521 がある。前注(1)で言及した資金決済法改正案 は、金融庁が設置した仮想通貨交換業等に関する研究会の提言に基づくものである。同研究 会は、「仮に、仮想通貨交換業者が適切に分別管理を行っていたとしても、受託仮想通貨に ついて倒産隔離が有効に機能するかどうか定かとなっていない。」と指摘した上で、「仮想通 貨交換業者の破綻時においても、受託仮想通貨の顧客への返還が円滑に行われるようにする 観点からは、顧客の仮想通貨交換業者に対する受託仮想通貨の返還請求権を優先弁済の対象 とすることも考えられる。」と提言していた。仮想通貨交換業等に関する研究会「報告書」

(2018 年 12 月 21 日)5-6 頁。この提言は、以下の通り、資金決済法改正案 63 条の 19 の 2 と 63 条の 19 の 3 として採用されることになった。

(対象暗号資産の弁済)

63 条の 19 の 2 暗号資産交換業者との間で当該暗号資産交換業者が暗号資産の管理を行う ことを内容とする契約を締結した者は、当該暗号資産交換業者に対して有する暗号資産の移 転を目的とする債権に関し、対象暗号資産(当該暗号資産交換業者が第 63 条の 11 第 2 項の 規定により自己の暗号資産と分別して管理するその暗号資産交換業の利用者の暗号資産及び 履行保証暗号資産をいう。)について、他の債権者に先立ち弁済を受ける権利を有する。

2 民法(明治 29 年法律第 89 号)第 333 条の規定は、前項の権利について準用する。

3 第 1 項の権利の実行に関し必要な事項は、政令で定める。

(対象暗号資産の弁済への協力)

63 条の 19 の 3 暗号資産交換業者から暗号資産の管理の委託を受けた者その他の当該暗号 資産交換業者の関係者は、当該暗号資産交換業者がその行う暗号資産交換業に関し管理する 利用者の暗号資産に係る前条第一項の権利の実行に関し内閣総理大臣から必要な協力を求め られた場合には、これに応ずるよう努めるものとする

(6) これに対して、最近では、blockchain や smartcontract に関連した私法上の問題を検討対象 とする論稿の数が増加しているように思われる。

(7) See,e.g., BobLawless,IsUCCArticle9theAchillesHeelofBitcoin?,CREDITSLIPS(Mar.

10,2014),https://www.creditslips.org/creditslips/2014/03/is-ucc-article-9-the-achilles-heel-of-bitcoin.html;GeorgeK.Fogg,TheUCCandBitcoins:SolutiontoExistingFatalFlaw, Coindesk(February5,2015),https://www.coindesk.com/perkins-coie-bitcoin-can-learn-real-estate-law;McJohn,StephenM.andMcJohn,Ian,TheCommercialLawofBitcoinand

商取引に関する法制度を整備する際に参照できるモデル法ではあるが、担保取引に関 する第 9 編(1998 年制定)が全ての州によって採択されていることから分かるよう に、取引が同一の州内であるか州際であるかを問わず、UCC の規定はアメリカの商 取引に関する法制度の重要な部分を占めている。したがって、UCC におけるビット コインの位置付けの紹介は、アメリカにおける仮想通貨の私法上の地位を分析する際 の出発点として適切であるように思われる(8)

また、アメリカでは、仮想通貨の私法上の地位と異なり、無体物が “property” と して認められるかについては数多くの論稿が公表されている(9)。本稿はその全てを紹 介することはできないが、同じく無体物である仮想通貨が、そのような議論の中でど のように位置付けられる可能性があるかにも簡単に言及したい(10)

2では、ビットコインが取引の対価を支払う手段として利用された場合に、UCC 第 9 編の規定がどのように適用されるかを、金銭や預金と比較しつつ、紹介する。そ の結果、ビットコインを支払いの手段として利用することには、UCC 第 9 編の規定 が障害となる可能性のあることが明らかになる。3では、ビットコインが “property”

として認められる可能性の存否を、ドメイン名等のインターネット上のサービスを利 用する権利に関する学説・裁判例を参考にしつつ検討する。その結果、秘密鍵を保有 する者のみがビットコインを送付できるという意味で、その権利行使にはドメイン名 等を使用する権利と同じく排他性が存在すること、中央集権的な管理者が存在しない ので、秘密鍵を保有する者の地位は特定の第三者との法律関係に基礎を持つものでは BlockchainTransactions(November22,2016).UniformCommercialCodeLawJournal, Forthcoming;SuffolkUniversityLawSchoolResearchPaperNo.16-13.AvailableatSSRN:

https://ssrn.com/abstract=2874463;JeanneL.Schroeder,Bitcoin and the Uniform Com-mercial Code,24U.MiamiBus.L.Rev.1(2016);Tu,supranote2,at505.

(8) 本稿と同じ観点から分析を行った先行研究として、辻岡将基「ビットコインの決済利用と流 通の保護―UCC 第 9 編の議論を題材として―」金法 2068 号(2017 年)34 頁以下がある。

(9) See,e.g., JoshuaFairfield,Virtual Property,85B.U.L.Rev.1047(2005)[hereinafterFairfiled, Virtual Property];JulietM.Moringiello,False Categories in Commercial Law: The (Ir)rele-vance of (In)tangibility,35Fla.St.U.L.Rev.119(2007);JulietMoringiello,What Virtual Worlds Can Do for Property Law,62Fla.L.Rev.159(2010);ChristopherJ.Cifrino,Virtual Property, Virtual Rights: Why Contract Law, Not Property Law, Must Be the Governing Paradigm in the Law of Virtual Worlds,55B.C.L.Rev.235(2014);JoshuaFairfield,Bit- Property,88S.Cal.L.Rev805(2015)[hereinafterFairfiled,Bitproperty];ChristopherK.Odi-net,Bitproperty and Commercial Credit,94Wash.U.L.Rev.649(2017).

(10) RhysBollen,The Legal Status of Online Currencies: Are Bitcoins the Future?,24J.Banking

&Fin.L.&Prac.272(2013);ShawnBayern,Dynamic Common Law and Technological Change: The Classification of Bitcoin,71Wash.&LeeL.Rev.Online22(2014);RyanJ.

Straus&MatthewJ.Cleary,The United States, inStuartHoegnered.,TheLawofBitcoin (2015).

ないことは、ビットコインを “property” として位置付けることを積極的に解する根 拠となる可能性のあることが明らかになる。その一方で、ビットコインの匿名性(秘 密鍵を保有する者が誰かを確定する手続きが存在しないこと)が、そのような解釈の 障害となる可能性のあることを指摘する。4では、今後の課題を述べる(11)