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5 暗号資産は計算単位には該当しないとする見解

(1)・ BaFinおよび通説の見解

BaFin の見解によれば、ビットコインなどの暗号資産は、信用制度法上の「計算単 位」に該当し、したがって金融商品として信用制度法上の規制の適用を受ける。学説

(48) BaFinVirtuelleWährungen,supranote39;Terlau,supranote10,§ 55aRn.171f.

(49) BaFin,Merkblatt,supranote47,Abschn.2.a).

においても、暗号資産は「計算単位」に当るとする説が通説とされる(50)。BaFin が述 べた理由に加えて、信用制度法の保護目的を重視し、金融経済の悪化を防止し金銭の 正常な移転を保護する必要があり、ビットコインが国民経済生活において実質的に金 銭的な機能を果たしていることから、信用制度法の保護目的を実現するためには同法 の適用を認めるべきであることが強調される(51)。具体的には、顧客を財産的損失から 保護し、暗号資産が資金洗浄やテロ資金に利用されることを防ぎ、暗号資産の取引プ ラットフォームをハッキング等から保護するために、暗号資産を計算単位に該当する ものとして取扱い、信用制度法を適用することは正当であるとされる(52)。また、ビッ トコインが独自の単位をもっており、それゆえ物やサービスの価値をビットコインで 表示することが可能である点を指摘する見解もある(53)

しかしながら、当初から、ビットコインを計算単位に該当すると解することに疑問 を提示する見解もあった。計算単位は、外国通貨と同等のものである必要があるが、

ビットコインは外国通貨やそれと同等とされる IMF の SDR や ECU と異なり、一般 に認められた現実の価値を有するものではない。ビットコインにはその価値を確定し または通貨政策上影響を及ぼし得る中央機関が存在しない。これに対し、ビットコイ ンの価格は個々の取引当事者の交渉に基づき定められたごく一部の取引に係る価格に すぎず、全体を代表するものではない。現に、ビットコインの取引プラットフォーム 毎にビットコインの価格は大きく異なる。したがって、ビットコインは外国通貨やそ れと同等とされる ECU などとは異なり、計算単位と解することはできないとい う(54)

なお、ドイツにおいて「計算単位」という概念が導入されたのは、1997 年の銀行 法・証券監督法の調和に関する EU 指令の国内法化のための法律に基づく信用制度法 改正によってである(55)。ただし、EU 指令と異なり、ドイツ法は、計算単位について 信用制度法すなわち銀行法による監督が必要であるとしている点に留意する必要があ る。

1997 年信用制度法改正の理由は、次のとおりである。「外国通貨とそれと同等の計

(50) 注(33)に掲げた文献のほか、SchwennickeinSchwennicke/Auerbach,KWG3.Aufl.,§ 1 Rn.249(2016);Schefold,inSchimansky/Bunte/Lwowski,Bankrechts-Handbuch,5.Aufl.,§

115Rn.30(2017) など参照。

(51) Beck,supranote13,582f.;Terlau,supranote10,§ 55aRn.162.

(52) Terlau,supranote10,§ 55aRn.163.

(53) Beck,supranote13,S.584f.

(54) Auffenberg,supranote32,S.1187.

(55) GesetzzurUmsetzungvonEG-RichtlinienzurHarmonisierungbank-undwertpapierauf-sichtsrechtlicherVorschriftenvom22.Oktober1997(BGBl.IS.2518).

算単位は、法律上の支払手段ではないが、有価証券サービス指令付表 B 第 5 号およ び第 6 号は外国通貨スワップと外国通貨オプションを含む外国通貨期限取引だけを金 融商品としているのにもかかわらず、より包括的に捕捉しようとするためである。外 国通貨取引、外国通貨スポット取引およびそれらと同等の計算単位に係る取引を監督 することは、世界的な標準であるからである。」(56)。そのように述べた上で、立法理由 は、外国通貨と同等の計算単位の例として、1998 年まで欧州共同体の予算において 用いられていた ECU を挙げていた。

(2)・ ベルリン上級地方裁判所2018年9月25日判決

このような議論状況の中で、2018 年 9 月 25 日、ベルリン上級地方裁判所(商事 部)は、暗号資産は「計算単位」には該当しないとして、暗号資産の取引所を無免許 で開設・運営した被告人を無罪とする旨の刑事判決を出した。

事案は、次のとおりである。当時 16 歳の少年であった被告人は、2012 年 10 月、

インターネット上にビットコインの取引プラットフォームを開設し、ビットコインの 売買の仲介を開始した。顧客にはインターネット上のページに口座を開設させ、Gi-ropay を通じてポーランドの銀行口座を通じて主としてビットコイン取引を決済して いた。ところが、ポーランドの上記銀行口座が資金洗浄の疑いがあるとして 2013 年 4 月 8 日にポーランド当局によって閉鎖され、被告人は、同年同月 12 日に被告人の インターネット上のページに開設した顧客の口座を凍結した。被告人は、銀行免許を 得ることなく銀行業を営んだとして信用制度法違反に基づき起訴された。第 1 審判決 は、被告人を有罪とし罰金刑を課した(57)。被告人と検察の双方が控訴し、控訴審裁判 所は前述した少数説を支持し、ビットコインは計算単位には該当しないとして、被告 人を無罪とした(58)。検察は、上告したが、ベルリン上級地方裁判所は、ビットコイン は計算単位には該当せず、したがって金融商品ではないから、被告人の行為には銀行 免許を要しないと判示し、上告を棄却した(59)

同判決は、ビットコインは「計算単位」には該当しないと判示したが、その理由 は、主として次の 5 点に集約される。

第 1 に、「同等の計算単位」とは、一般に通用しかつ理解可能な単位を用いること によって、異なる国の間で物品やサービスを比較することを可能にする計算単位であ

(56) BT-Drucksache,13/7142,S.69.

(57) AGBerlinTiergarten,Urteilvom29.2.2016.

(58) LGBerlin,Urteilvom15.11.2017–(576)241Js380/13Ns(40/16),BeckRS2017,152022.

(59) KG,Urteilvom25.9.2018–(4)161Ss28/18(35/18),NJW2018,3734.

ることを意味すると判示した。そして、そのように解釈することが、ドイツ商法 431 条 1 項・505 条・544 条などの他の法律における「計算単位」とも平仄が合うと指摘 する。

第 2 に、「計算単位」が規定された 1997 年にはビットコインは登場しておらず、そ れがインターネット上に登場したのはようやく 2008 年以降のことであるから、立法 者はビットコインのような暗号資産を想定しておらず、そのような資産を「計算単 位」に含める解釈は適切でない。

第 3 に、ビットコインにはその配賦に対して支配的な影響を及ぼし得る中央管理者 や支配者が存在せず、ビットコインの移転の正統性はすべてのネットワーク参加者に よって監視されることによって確保されており、法律の規定により特定の通貨圏にお いて強制通用力を付与された通貨や金銭支払手段とは異なる。

第 4 に、確かにビットコインは特定の経済活動の参加者間では支払手段として受容 されることがある(60)。けれども、その価値は当該ネットワークの参加者による価値評 価時点における価値に決定的に依存しており、価値の変動がきわめて大きく、かつ予 期し得ない変動を示すという特徴を有している(61)。このようなビットコインを、異な る物品やサービスを一般的に比較するための価値評価基準として用いることができる とは一般に認められておらず、かつ、そのために必要とされる予測し得る価値確定性 を欠いている。したがって、ビットコインは、立法者が外国通貨と等値し ECU をそ の例としたような計算単位の概念にとっての本質的な前提を備えていない。

第 5 に、刑事罰については、民主的に議会により意思決定がなされるとともに、罪 刑法定主義によりその範囲と要件が明確でなければばらない。信用制度法 6 条は一般 的に不適切な業務を監督し、信用機関に対して行政行為を発動する秩序維持のための 一般的な権限を認めているが、この規定は信用制度および金融サービス制度にとって 防止すべき危険の排除を目的とした規定であって、刑罰規定の適応範囲の拡大や免許 を要する銀行業務や金融サービス業務の要件を拡大することによって対処しようとす るものではない。ビットコインは信用制度法上の計算単位に該当するという BaFin の解釈指針は、BaFin の任務の範囲を逸脱したものであると非難する。

EU 諸国の多くは、ビットコイン等は「計算単位」に該当し、金融商品にあたると

(60) Ehrke-Rabel/Pfeiffer,UmsatzsteuerbarerLeistungsaustauschdurch"entgeltlose"digitale Dienstleistungen,SWK10/2017,532,S.537;Scholz-Fröhling,FinTechsunddiebankauf-sichtsrechtlichenLizenzpflichten,BKR2017,133,135;Beck,supranote27,S.580.

(61) Engelhardt/Klein,Bitcoins–GeschäftemitGeld,daskeinesist–TechnischeGrundlagen undzivilrechtlicheBetrachtung,MMR2014,355;Richter/Augel,supranote9,S.937f.;

Terlau,inCasper/Terlau,supranote9,§ 1aRn.50.

して銀行法等の規制の適用可能性を明言するドイツの BaFin のような見解を表明し ていない。そのため、これらの分野で起業しようとする新興企業はドイツ以外の国で 起業をし、事業を始めており、ドイツ市場の立地・競争力の維持という観点等から問 題であるという指摘もある(62)。もっとも、この点は、「計算単位」という概念は基本 的に MiFID(MarketsinFinancialInstrumentsDirective:金融商品市場指令)に基 づくものであるが、EU 指令においては「計算単位」を金融商品に含めていないのに 対し、ドイツ法はあえて EU 指令の求める範囲を超えて「計算単位」を金融商品の定 義に含めたことに由来するものである。

(3)・ 学説の対応

暗号資産が信用制度法上の計算単位に該当するかどうかについて、学説の見解は分 かれているが、同判決を支持する見解も有力である。たとえば、レーマン教授は、同 判決が指摘するように、外国通貨と同等の計算単位に暗号資産のような国家による保 障がないものは含まれず、上述した計算単位という概念が創設されドイツに導入され た沿革に照らしても、暗号資産を計算単位と解することはできないとする(63)(4)

に述べるように、政府は、同判決の射程は刑法に限られ、BaFin は、監督法上の取扱 いとしては従来どおり暗号資産を信用制度法上の計算単位として取り扱うことを明言 している。この点についても、学説上、批判がなされている。すなわち、計算単位の 解釈において国家との緊密性の要件を不要にしてしまうと、たとえば航空会社のマイ レージやポイントのように金融商品として扱うべきすべての計算単位を考慮に入れな ければならないことになるはずであり、そのような立場は説得力がない(64)

なお、暗号資産が信用制度法上の計算単位には該当しないとする説も、ICO トー クンには発行者が存在し、その配賦に影響力を行使しているため、国家によって保障 されていないという点では、暗号資産と ICO トークンは共通しており信用制度法上 の計算単位には該当しないけれども、法人持分や財産出資(享益権)あるいはデリバ ティブ取引など計算単位以外の金融商品に該当する可能性があることを認めてい る(65)

(62) Auffenberg,supranote32,S.1184f.

(63) MatthiasLehmann,AnmerkungzumKG,Urteilvom25.9.2018,NJW2018,3734,SS.3736.

(64) Lehmann,supranote63,S.3737.

(65) Lehmann,supranote63,S.3737.