て取引の相手方が支払手段とすることに同意すれば、売買当事者間で支払は成立す る。そうだとすれば、機能に着目した理屈だけをいえば、そのような場合について横 断的に決済法制が適用されるべきである。
次に、証券取引法制については、──法定通貨であれ、それ以外の通貨であれ(仮 想通貨を含む)──、何であっても、取引の対象すなわち投資ないし投機の対象にな るものであれば、横断的に証券取引法制の対象とされるべきである。
抽象的・観念的には以上のように考えることができるとしても、実際の法制度を作 る際には、いろいろと配慮すべき点がある。たとえば、支払手段に関する法制といっ ても、業規制を設けるのであれば、その対象となる支払取引をある程度類型化しない と制度は作れないであろう。また、証券取引法制といっても、たとえば金や絵画など は、歴史的には多くの国で証券取引法制の対象とはされておらず、投資ないし投機の 対象になるものをすべて証券取引法制の対象にすることは、実際問題としてはできな い。なお、同じ取引や行為に決済法制と証券取引法制の両方を適用することは規制が 過剰になって適切でないと考えられ、そのような場合には一方の規制の適用を除外す べきである。そして、決済法制とか証券取引法制とかいっても、その内容が過剰な規 制にならないように配慮する必要がある。イノベーションの促進を阻害しないよう、
バランスのとれた制度を作る必要がある。
(5)・ ICOなど
アメリカでは、ICO が普及しているが、この仕組みは、仮想通貨を用いて資金調 達を行う仕組みであって、証券法制の適用があるとされているほか、仮想通貨に関連 する仕組みは、いわゆるハウイ基準のもとで、証券法制の適用が問題となる(13)。これ らに関する検討は、別の機会にゆずる。
通貨については、多くの国において、一般には、現在のところ、規制の対象となる行 為は法定通貨との交換業(他の仮想通貨との交換業を含む)にとどまっているように 見受けられる。今後、他の類型に属する行為について一定の規制を課すべきかどうか が課題であるということができる。また、利用者の保護については、決済関連規制に おいて交換業者等に行為規制等が課されれば、これによって一定程度の利用者の保護 がはかられる。しかし、一般には、交換以外の行為をする業者に対しては、決済関連 規制としては規制をすることはできないのが通常である。そこで、そのような業者
(たとえば仮想通貨を原資産とするデリバティブ取引を取り扱う業者)については、
証券法的規制を適用することによって利用者の保護をはかることが考えられる。さら に、実際には、アメリカ等において、仮想通貨に運用ないし投資する仕組み(ETF などのファンドなど)や仮想通貨を用いて資金調達を行う仕組み(ICO と呼ばれる 仕組みなど)が普及しており、証券規制の適用のしかたが課題とされている。抽象的 にいえば、仮想通貨は、支払(決済)の手段として利用されるだけでなく、投資の対 象としても利用されるのであって、利用のされ方(仮想通貨の機能)に着目した規制 の整備が求められる。
金融法務研究会第1分科会の開催および検討事項
第 77 回(平成 28 年7月 20 日)
・ 仮想通貨を中心とした先進的な金融手法に係る法的枠組みと規制の在り方(事務局)
・ 個別分担テーマの選定およびフリー・ディスカッション
第 78 回(平成 28 年 12 月 27 日)
・ ドイツにおける仮想通貨の法的性質と監督法上の規制(神作裕之委員)
・ 仮想通貨の私法上の取扱いについて―アメリカ法(加藤貴仁研究員)
第 79 回(平成 29 年1月 31 日)
・ 仮想通貨における私法上の法的課題(国際私法・倒産法等)(森下哲朗委員)
・ 仮想通貨の私法上の位置づけについて(加毛明研究員)
第 80 回(平成 29 年2月 21 日)
・ 仮想通貨の私法上の諸問題(岩原紳作座長)
・ 仮想通貨に関する私法上の問題からの監督法への示唆(神田秀樹主査)
○会合の回は、平成 11 年からの通番。
以 上
(参考)
金融法務研究会委員
顧 問 青 山 善 充 東京大学名誉教授
運営委員 岩 原 紳 作 早稲田大学大学院法務研究科教授
(座 長)
運営委員 神 田 秀 樹 学習院大学大学院法務研究科教授
(第1分科会主査)
運営委員 山 田 誠 一 神戸大学大学院法学研究科教授
(第2分科会主査)
運営委員 森 下 哲 朗 上智大学法科大学院教授
(第1分科会幹事)
運営委員 沖 野 眞 已 東京大学大学院法学政治学研究科教授
(第2分科会幹事)
委 員 中 田 裕 康 早稲田大学大学院法務研究科教授
神 作 裕 之 東京大学大学院法学政治学研究科教授
松 下 淳 一 東京大学大学院法学政治学研究科教授
山 下 純 司 学習院大学法学部法学科教授
研 究 員 加 藤 貴 仁 東京大学大学院法学政治学研究科教授
加 毛 明 東京大学大学院法学政治学研究科准教授
(平成 31 年3月時点)
金融法務研究会第1分科会委員
(平成 28 年度)
座 長 岩 原 紳 作 早稲田大学大学院法務研究科教授
主 査 神 田 秀 樹 学習院大学大学院法務研究科教授
委 員 森 下 哲 朗 上智大学法科大学院教授
神 作 裕 之 東京大学大学院法学政治学研究科教授
研 究 員 加 藤 貴 仁 東京大学大学院法学政治学研究科准教授
(現東京大学大学院法学政治学研究科教授)
加 毛 明 東京大学大学院法学政治学研究科准教授
オブザーバー 浅 田 隆 三井住友銀行法務部長
(現三井住友銀行監査役室長)
長谷川 卓 三井住友銀行法務部法務グループ長
(現三井住友銀行コーポレート・アドバイザリー本部
企画・開発グループ長)
椎 名 一 夫 三井住友銀行法務部知的財産グループ
上席部長代理
(現三井住友銀行欧州コンプライアンス室上席推進役)
袴 田 佳 三井住友銀行経営企画部
全銀協会長行室推進役
(現三井住友銀行総務部部長代理)
事 務 局 松 本 康 幸 全国銀行協会業務部長
(現同協会企画部長)
※本報告書のテーマ検討期間における検討メンバー。
金融法務研究会報告書一覧