紛争後のメンタル・ヘルス介入の目的は何か?
筆者は、世界各地に発生している武力、暴力行為は、表現形は異なるものの、共通した community-baseのメンタル・ヘルスの問題と考える。地域社会が病んでいる、ともいえる。あ る地域では、個人の犯罪として、ある地域では、少数若年者集団の過激な暴力行為として、ある 地域では、より多数者を含む集団暴力として、ある地域ではテロや民族対立、または紛争として 現れているのではないか。
多数のCHEとその後の復興に対し、膨大な軍備費が投入され、必要とはいえ、一時的で古典的 な人道援助と、ありきたりの開発協力しかなされていなかった。例えていうならば、正確な診断 もなされないまま、やみくもに手術を行ったり、計画もなく、過剰投薬を繰り返し、かえって悪 化した病人を抱えすぎているようにも見える。
この病人たちの予後は、決して不良ではない。今までの治療が効果的でなかったのは、適正な 診断、評価がなされなかったためか、ほとんど無視されてきたためである。何が、その病態をな しているのか、問題は何かを、改めて評価し、病人の意思を尊重した適正な対応を、適正に実践 する必要がある。
衰弱した病人(紛争国)に、残っている回復力を無視した過剰の医療行為(大がかりな外部介 入)は、かえって病勢を悪化させる(新たな摩擦の)原因になることを理解しておきたい。人々 の不信感、疑心暗鬼を払拭することは、地域の人々の連帯復活を通じてこそ可能である。
地域社会の復興支援の内容は、時と場所と状況によって判断せざるを得ないが、例えば、農村 であれば、農具や種子補給支援、牧畜地であれば、飼料配布、動物の予防接種、特になければ、
一般的な健康診断や非公式な教育、女性の集会、職業訓練など、すべてが支援の対象になる。こ の際、重要なことは物資を持ち込むことではなく、現地の人々の知恵を動員し、意欲を喚起する 支援である。当初、時間がかかっても、できる限り、現地の習慣を優先した小規模介入から始め ればよい。地域社会の復興支援は、外部者による大げさな計画を必要としない。人々による、
人々のための人々の計画で十分である。
以下に、いわゆる専門的な精神障害対策を除いた対応策を整理する。
①新たな現地の意思による計画支援スキームの構築
紛争後復興期は、緊急人道援助も長期開発計画も共に単独では成果をあげ得ない。小型で柔 軟かつ短期型の新たな介入法の検討が必要。
迅速評価後、現地で支援策を決定できる権限を持った専門家の養成は必要。
緊急人道援助は、できる限り、現地調達とし、可及的速やかに現地側に機能を委譲する。
また、可能であれば、紛争期の緊急人道援助に並行して開始する計画として、
②現地における人材育成(分野を問わない)
③近隣または本邦における平和を実感させる研修(分野を問わない)を行う。
さらに紛争の状態によるが、
④NGOなど現地の機能による地域のempowerment活動支援(分野を問わない)
⑤地域社会再生を具現し、人々の「生きがい」や「こころのよりどころ(identity)」をもてる visibilityある成果の創出
この際、建造物104の効果も無視できない。治安安定が優先されることはいうまでもないが、
「○○が建設される」といった計画を周知し、できる限り、多様な階層の人々に関与を求める ことも効果がある場合がある。
⑥子どもの遊び場、informalな教育支援 短時間でも子どもが集まる場を作る。
⑦人々がidentityを確認できるイベント支援
スポーツ大会、音楽会、民族舞踊、収穫祭りなど、地域住民が関与できるレベルのイベント を支援する。
⑧PHCレベルのメンタル・ヘルス対策
TPO-カンボジア、またはUNICEF-ウガンダの対策参照。
⑨外部が関心を示し続けること。
外部者の現地入りではなく、現地のしかるべき人材を外部に呼び出すことは可能。何らかの 交流。
⑩紛争後復興支援従事者への基礎的メンタル・ヘルス研修の義務化
内容は、高度専門的ではなく、基本的な開発理念の研修に準じた内容で可能である。
例えば、福岡赤十字病院 的野澄子副看護部長は、日本の自然災害救援の経験から、日本赤十 字社のこころのケア対策に準じ、以下のような手順をすすめている。
①こころのケアの理解:災害では、身体とともにこころにも傷を受けるため、その対応が必要 であること、ただし、こころに傷を受けることは、異常事態にあっての正常な反応であるこ とを理解する。
②被災時のメンタル・ヘルスの実態の理解:こころの傷の受け方は、個々人によって異なり、
また、その回復過程(急性期(数十分〜数日)、反応期(1〜数週間)、修復期(1〜数ヵ月)、 復興期(半年以後)など)も、人によって差があり、法則性はないことを理解する。
③被災者との接し方の理解:重要な点は、支持的であること、共感的であること、純粋性を持 つこと、肯定的であり判断的(批判的)でない態度で接すること、被災者自身の力の回復を
104 1992年ごろからのカンボジアの復興支援時、初期の多数施設への基礎的医療機材整備や専門家派遣による旧母 子保健センターでの人材育成では感じられなかったが、新国立母子保健センターの基礎工事終了後、「私たち のセンター」が目に見え始めたことによって、同施設での勤務予定者の研修意欲が明らかに変化した。
待つこと、実際的であること、ならびに守秘および倫理的配慮を行うことを理解する。
④被災者との関係構築のあり方:初対面時の自己紹介、状況に合わせた自然な交流と支援、必 要とされる時には、できるだけ、そばにいて親身に話を聞き、被災者の感情を受け止める努 力をすること、そしてこころのケア以外の問題も相談に乗る。
⑤地域との連携のあり方:地域の保健医療施設との連携、地域の何らかの集団やリーダーとの 関係構築、被災者の身近な人との関係構築。
⑥撤収の時期とそのあり方:はじめから、撤収が必要なことを理解し、できるだけ、地域の人 材を活用し、残すのはモノではなくシステムとする。
⑦援助者のメンタル・ヘルス:援助者自らもスーパーマン/ウーマンではなく、しばしば、こ ころに傷を受けることを理解し、必要な休息を取り、負担を蓄積させないこと。
的野によれば、メンタル・ヘルスの問題には一般市民でも可能なレベルも多く、必ずしも、す べての問題に高度専門家が必要なわけではないとする。
これらをマニュアル化するとともに、災害や紛争時またはpost-conflict期の派遣者に解説する。