目的
開発・製造現場で
大活躍
できる、全ての分野のエンジニアは、装置を制御する能力が必要であ る。化学装置を含むほとんどの産業機器では、電子工学的な制御が使用されている。例えば、反 応器内の温度を一定に保ったり、流体の流量を一定に保ったりすることのできる能力が必要であ る。また、装置の立ち上げやシャットダウン時には、所定の温度変化や流量変化に従って温度や 流量等を制御しなければならない。PID制御は、このような制御を精度良く実現する方法である。本章では、恒温槽内の油の温度をPID制御するシミュレーションによって、制御法の概略を視覚 的に学習することを目的とする。
理論
機器の制御法として、大きく分類すると次の2種類に分かれる。
(1) open loop 制御法・・・・・・NC(数値)制御など
(2) feed back 制御法・・・・・・ON-OFF 制御,PID 制御など
open loop 制御法は、制御したい変数(制御量という)(例:位置)を別の変数(例:時刻)によっ て、予め設定された関係式によって制御する方法である。例えば、パソコンのプリンターに使用さ れているステッピングモータは、期待どおりの角度だけ回転するものとして制御されており、もしも 期待した位置からずれていても(脱調しても)、そのずれが修復されることは無い。一方、温度制 御装置等において広範に使用されているfeed back(負帰還)制御法では、制御したい変数(制御 量)(例:温度)を測定して、常にその目標値との偏差を小さくするようにコントローラの出力(操作 量)が制御されている。この例のように、feed back 制御法においては、制御量の目標値と実測値 との差を用いて操作量が常に修正される。
feed back 制御法には、いくつかの代表的な制御方法がある。
(1) ON−OFF 制御
(2) 比例制御(P 制御;Proportional control)
(3) 比例−積分制御(PI 制御;Proportional-Integral control)
(4) 比例−積分−微分制御(PID 制御;Proportional-Integral-Derivative control)
一例として、本章で扱うような、ヒーターによって温度を一定値に制御することを想定してこれら を説明すると、つぎのようになる。
ON−OFF制御は、図1に示すように、制御量(温度)が目標値よりも小さい場合にはヒーター 電流をON、大きい場合にはOFFとする、非常に単純な制御法である。具体的な例としては、バイ メタルを用いたサーモスタット(例:熱帯魚の水槽の水温制御、コタツの温度制御)がある。ON−
OFF制御では、制御量が目標値付近で振動し、その制御精度は、比較的低い。
比例制御は、目標値と現在値との偏差の大きさに比例した電力をヒーターに出力する方法であ る。比例制御を用いると、ON−OFF制御よりも精度の高い制御ができる。しかしながら、図2に示 すように、比例制御においても、偏差をゼロにすることはできない。これは、ある程度の大きさを持
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るからである。また、比例制御の感度を極端に高く設定すると、ON−OFF制御に近づき、制御量
(温度)が振動してしまう。比例制御における制御量の目標値 SV(t)、現在値 PV(t)、偏差 x(t)との 関係を(1)式のように定義する。
) 1 ( ) ( ) ( )
(t SV t PV t
x = -
比例制御における操作量の出力(ヒーターへ通電する電力)y(t)は、(2)式で表現される。
) 2 ( ) ( )
(t K x t
y = p
Kpは、比例感度である。すなわち、制御量の偏差(目標温度からのずれ)に比例した操作量(ヒ ーター電力)を出力する方法である。なお、(2)式の右辺に、操作量のオフセット(初期値)を加える 方法もあり、適切なオフセットを与えると、比例制御における偏差を小さくすることができる。
PI制御は、比例制御の機能に加えて、制御量の偏差の時間的積分値を利用して、比例制御で は補正できない定常的に存在する偏差をほぼゼロにすることのできる制御方法である。PI制御法 を数式で表現すると、(3)式となる。
ò
+
=Kpx(t) KI tx(t)dt ( ) )
t (
y 0 3
KIは、積分感度である。例えば、制御量(温度)が定常的に目標温度よりも小さい場合には、制 御量の偏差の積分値が増大し、操作量(ヒーター電流)を増大させることができる。
PID制御は、PI制御の機能に加えて、制御量の偏差の時間的微分値を利用して、外乱や目標 値の変化に対する応答性能を高めたものである。PID制御法を数式で表現すると(4)式となる。
KDは、微分感度である。
ヒーターの例で、(4)式を言葉で表現すると、つぎのようになる。
擬人的な表現をすれば、それぞれの制御法は、つぎのように表現できる。
<P制御>・・・現在の状態のみから判断して、現在値を補正する方法。
<PI制御>・・・過去の反省と現在の状態から現在値を補正する方法。
<PID制御>・・・過去の反省、現在の状態および未来の予測から現在値を補正する方法。
なお、積分感度KIは積分時間TIを用いて、
TI
Kpと表現することもある。また、微分感度KDは微
分時間TDを用いて、KpTDと表現することがある。すなわち、一般的には、(4)式は、(5)式のよう に表現される。
) dt (
) t ( K dx dt ) t ( x K ) t ( x K ) t (
y D
t I
p 4
0
+ +
=
ò
(
比例感度) (
偏差)
+(
積分感度) (
偏差)
+(
微分感度) (
偏差)
= 出力パワー
t
0 dt
dt d
ò
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目標値
最大出力
時刻 温度
ヒーター出力
目標値
最大出力 ヒーター出力
温度
時刻
温度
ヒーター出力
目標値
最大出力
時刻
ヒーター出力 温度
目標値
最大出力
時刻
図1 ON−OFF制御
図2 比例制御
図3 PI制御
図4 PID制御
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) dt (
) t ( KpT dx dt ) t ( T x ) Kp t ( x K ) t (
y D
I
p 5
0
+ +
=
ò
操作方法 [1.定値制御]
図5に示すような、油の入った恒温槽の温度制御をシミュレーションする。演習では、(4)式に従 って、Kpを比例感度、KIを積分感度、KDを微分感度として変化させてみる。
① ファイル PID.xls を実行する。
② 表1に示したパラメータにてシミュレーションを行い、その温度変化等を所定の用紙に記入せ よ。
表1 操作パラメータ
比例感度 積分感度 微分感度 遅れ 初期温度 ゆらぎ 自動/手動
1 30 0 0 0 20 無し 自動
2 300 0 0 0 20 無し 自動
3 30 0 0 10 20 無し 自動
4 300 0 0 10 20 無し 自動
5 1000 0 0 10 20 無し 自動
6 30 50 0 10 20 無し 自動
7 30 50 0 10 90 無し 自動
8 − − − 10 20 ON 手動
9 30 50 0 10 90 ON 自動
10 30 50 200 10 90 ON 自動
下線(太字)で表現した部分が変更すべきパラメータである。