まず、A〜F種の山田寺式軒丸瓦を対象に、分布から所用堂塔を、製作技法などから年代を考 察する。つぎに、それ以外の平城宮式軒丸瓦や中・近世軒丸瓦などについて考察する。
1 山田寺式軒丸瓦の平面分布からみた所用堂塔(別表 、別図 1 〜 1 )4 山田寺式軒丸瓦は、山田寺から出土した軒丸瓦全体の98%を占めている。
各種の出土分布図によれば、A種は金堂から塔にかけて分布している(別図 )1 。B種は塔に 集中しており、塔用であったことが明確である(別図 )2 。それからすると、A種は金堂用で あった可能性がきわめて高い。B種の分布は、塔がほぼ真下に崩れていった状況を推測させる。
これに対してA種の分布は、金堂が南の塔側へ崩壊した状況を推測させる。
C種は塔と宝蔵周辺に集中しており、そこでの所用は明らかである(別図 )4 。
D種は回廊とその内側の金堂および塔の周囲に主として分布している(別図 )3 。D種は山田 寺式軒丸瓦の 割を占め、最多であるので、屋根の軒総長が最大の回廊用であった可能性が高4 い。しかし、分布からみると、D種は回廊倒壊時までにすでに多くが回廊から下ろされている。
金堂と塔周辺に分布するD種のうち多くは、本来瓦敷として再利用されたものが、後世の耕作 などによって瓦敷からはずれて、耕作土などの上位の土層へ移動したのであろう。
E種は 点のみで、所用場所が特定できない(別図 4 )2 。F種の分布は塔の周辺、回廊東南隅 の内側、東面大垣中央部周辺に小規模な集中が認められる(別図 )4 。なお、塔周辺にB種とC 種がともに分布する点については後述する。
堂塔のうち、所用軒丸瓦が不明なのは、講堂、南門、中門と大垣である。講堂は調査位置で の遺構の削平がはなはだしく、軒丸瓦は数点のC種を除き、ほとんど出土しなかった。南門周辺 にはD種が集中しているが、大部分が南の石積み溝SD625Bに廃棄されたものである。中門の遺 構は削平されており、D種の所用については分布から明らかにしえないが、中門が回廊と一連 の建物であるので、同じくD種を葺いたと考えるのが妥当である。大垣はその周辺での軒丸瓦 の分布が少ないので、軒丸瓦を葺いていたとは断言できない。
2 山田寺式軒丸瓦の笵傷進行と技法変遷
a 山田寺式軒丸瓦A種の笵傷進行と技法変遷(Ph.85・86、F i g . 177)
山田寺式軒丸瓦A種には笵傷なしの段階、笵傷発生以後の 段階(細かくは 4 段階)の笵傷6 進行が追え、それに対応して瓦当に接合する丸瓦広端部の加工などが変化する(F i g . 177)。 笵傷なしの段階 瓦当縁には笵端の存在を示す粘土の段があり、瓦当側面に笵端痕を残す例が ないので、笵型は瓦当外縁端で終了し、瓦当側面にかぶらないタイプである(Ph.85− )1 。瓦 当面に残る糸切り痕と破断面にみえる粘土の重なりは、糸切りした薄い粘土板を 〜 3 枚、笵4
A種は金堂 B種は塔用
C 種 は 塔 と 宝 蔵 用
6
段 階 の 笵 傷 進 行
詰めしていたことを示す(Ph.85− 1 ・ 2 )。瓦当側面の指頭圧痕は、笵詰めにあたり、とくに 瓦当側面用粘土が笵型に密着するよう細かく押圧し、その上に調整用粘土をかぶせていたこと を示す(Ph.85− 3 ・ 4 )。
瓦当側面と瓦当裏面を平滑にした後、丸瓦接合位置(a面)にあたる瓦当裏面に接する瓦当側 面を、幅15〜25㎜斜めに削る。ここに広端を片Q形Ⅰ型、すなわちb面の長さ 5 〜10㎜で、a面 と比べてかなり狭く加工した丸瓦を、接合する。丸瓦を瓦当裏面に立て、凹面側を仮固定のた めに支持ナデした後に、少量の接合粘土で固定する(Ph.85− 5 )。凸面側には接合粘土をつけ ず、ナデ調整を施すだけなので、丸瓦の先端は容易に看取できる。
それによれば、丸瓦先端が外縁端に達しているものは一例もなく、外縁端から 8 ㎜前後離れ た位置に丸瓦先端がくるように接合している(Ph.85− 6 、Fig. 182)。接合前に、片Q形に削っ た丸瓦広端のa面に(時にはb面にも)、接合の安定化を図るための縦・横・斜め・斜格子キザミ を施す(Ph.85− 7 〜11)。
丸瓦は玉縁丸瓦で、玉縁がすぼまらず、肩凹面側の屈曲が強く、凸面側から釘孔をあけてい る(Ph.85−12・13)。丸瓦筒部の厚さは18㎜前後である(Fig. 180)。また、丸瓦凸面に叩き調 整をほどこし、平行叩き目か斜格子叩き目がナデ残されることがある(Ph.85−14・15)。斜格 子叩き目が主体である。
丸瓦取り付け角度を瓦当文様との関係で検討すると、特定の位置に集中せず、ランダムであ る(Fig. 177− 1 の矢印)。したがって、笵傷なしの段階の笵型は円形の可能性が高い。瓦当裏 面には同心円状のナデ痕が残っているので、笵型を回転台の上に置いていたと推定される。
きわめて硬質であり、暗灰色、黒灰色を呈するものが多い。焼成温度は相当高温であったと 推定される。
笵傷1 段階 笵傷A 1A段階の資料は点数が少ないが、外区内縁に大きな笵傷が出現する(Ph.85
−16)。丸瓦接合痕からみて、丸瓦広端は片Q形Ⅱ型に加工されている。その先端は笵傷なしの 段階と異なり、丸瓦先端が後述するB種のように瓦当縁に達する(Ph.85−17)。丸瓦取り付け角 度は、前述した施文基準線には一致しないが、それに近い特定の対向する弁の裏面に集中する
(Fig. 177− 2 )。この現象は笵傷がさらに進行する段階でも認められる。
これは笵型に何らかの方法で目印をつけた結果である。具体的な方法としては、円形の笵型 の側面に特定の対向する弁の位置を示す目印をつける、あるいは円形の笵型を長方形の板に固 定し、その際特定の対向する弁と板の長辺か短辺が平行となるようにしたことが考えられる。
造瓦の作業効率、および笵傷1A段階では特定の対向する弁に直交する位置に丸瓦を接合しな いことを考慮すれば、円形の笵型を、特定の対向する弁が長方形の板の長辺に対して平行に固 定した状態で瓦当を製作していた蓋然性が高い。
色調は灰色や赤褐色を呈し、笵傷なしの段階と比べて、硬さがやや劣る。
笵傷 B1 段階 中房に接して小型の笵傷が出現し、外区内縁の笵傷も増加する(Ph.85−18、
177− 3 )。丸瓦広端は斜めに切り落として楔形にし、その先端は瓦当外縁端に達している(Ph.85
−19)。瓦当裏面はヨコナデで平坦にしている。丸瓦取り付け角度は笵傷1A段階と同じである。
該当する点数は少ない。
色調は灰色を呈する。笵傷なしの段階と比べて、硬質の度合いがやや劣る。
Fig.
片Q形Ⅰ型
釘 孔 あ り
丸瓦取付け ラ ン ダ ム
片Q形Ⅱ型
丸瓦取付け
一 定
1 笵傷なしの段階
2 笵傷1A段階
3 笵傷1B段階
4 笵傷2A段階
5 笵傷2B段階
6 笵傷3A段階
7 笵傷3B段階
片Z形加工1型
片Z形加工2型
楔形加工
未加工 F i g . 177 A種の笵傷進行と技法の変遷 1:5
笵傷 段階 中房に接する笵傷が拡大し、外区内縁の笵傷も大きくなり、数もふえる(Ph.86−2 1
)。笵傷 段階はA、Bに細分される(F i g . 177− 2 ・ 4 )が、技法上は差がない。5
丸瓦広端は楔形に加工し、その先端は例外なく瓦当外縁端に達している(Ph.86− )2 。丸瓦 広端や丸瓦接合面には斜格子キザミを施す(Ph.86− )3 。丸瓦凹面に接合粘土を薄くつけるが、
凸面にはつけない。最終調整時には瓦当側面や瓦当裏面にも斜格子叩き目を施す(Ph.86− )4 。 丸瓦取り付け位置は笵傷 A段階と同じである。丸瓦部が完全に残っている例はないが、瓦1 当部が剥落し先端を楔形加工した残りのよい丸瓦によれば、玉縁丸瓦で、肩の屈曲が依然強い。
また、凸面調整が粗いので、凹凸や斜格子叩き目のナデ残しが目立つ。釘孔をあけなくなる。
笵傷なしの段階と比べて、やや軟質となり、表面と芯の色調が異なる例が目立つので、焼成温 度が低下したことが原因と考えられる。
暗灰色か、表面が茶褐色で芯が灰白色を呈するものが多い。
笵傷 段階 笵傷の数がさらに増加する(Ph.86− 3 、F i g . 177− 5 ・ 6 )7 。この段階の笵傷進行 はA、Bに細分されるが、以下の技法上の特徴に差はない。
丸瓦広端は加工せず、凹凸面に斜格子キザミを施す(Ph.86− )6 。丸瓦の接合を強化するた め、取り付け位置を瓦当裏面中央寄りに下げ、丸瓦凸面側にも接合粘土をつけるようになり、
凹面の接合粘土の量も多くなる。丸瓦取り付け角度は笵傷 A段階以来の位置が圧倒的に主体1 であり、それに加えて、90°ずらした位置でも接合している(F i g . 177− )7 。しかし、後者の例 は非常に少ない。丸瓦は凸面に縦位縄叩き目を施している(Ph.86− ・ 7 )8 。
この段階の製品は、笵傷 段階よりさらに軟質となり、暗灰色を呈するものが多い。2 以上、山田寺式軒丸瓦A種の丸瓦広端の加工手法は、片Q形加工Ⅰ型、片Q形加工Ⅱ型、楔 形加工、未加工の順に変化し、出土点数によれば、片Q形加工Ⅰ型の段階が主たる生産段階で あった。丸瓦取り付け角度は、片Q形加工Ⅰ型の段階がランダムであったのが、片Q形加工Ⅱ 型の段階以後には、特定の対向する弁の裏面に集中するようになる。
b 山田寺式軒丸瓦C種の笵傷進行と技法変遷
山田寺式軒丸瓦C種にも笵傷なしの段階と笵傷ありの段階があり、その時間上の変遷に対応し て、丸瓦広端の加工手法をはじめとするいくつかの技法上の特徴が変化している(F i g . 178)。 笵傷なしで片A形加工Ⅱ型の段階 笵傷なしの段階には片Q形加工の例がわずかだがある(Ph.88
−16)。C種の片Q形加工は、B種あるいは笵傷 A段階のA種の片Q形加工と同様に、丸瓦の先1 端が瓦当外縁端に達し、またb面の幅が広いⅡ型である(Ph.88−17・18)。
丸瓦取り付け角度を文様との関係でみると、この段階以降もその位置のほとんどが、施文計 画線に対して直交している(F i g . 178− )1 。長方形の板に施文計画線が板の長辺に垂直になる ように笵型が彫られていた可能性がある。
色調は灰色を呈し、硬質の度合いは笵傷なしのA種と比べて劣る。
笵傷なしで楔形加工の段階 片Q形Ⅱ型加工段階より後出と推定される。施文計画線上の弁端 に笵傷はまだ発生していないが(Ph.89− )1 、瓦当側面の丸瓦接合位置を斜めに削り、ここに、
広端を楔形に加工し、キザミを施した丸瓦を立てる(Ph.89− ・ 2 )3 。丸瓦の凹・凸面側に接 合粘土を付けて固定する(Ph.89− )4 。丸瓦取り付け角度は施文計画線に直交する位置を主体 とし、施文計画線に平行する例も若干ある(F i g . 178− )2 。
楔 形 加 工
釘 孔 な し
広端未加工
A種の主流 片Q形Ⅰ型
丸瓦取付け
一 定