(1)平成28年度活動報告
国際協力研究部は,わが国の公衆衛生対策の実績を海 外に発信するために,国内外の関連情報の収集・および 分析を行うとともに,国際協力機構(JICA)やWHOな どの内外の関係機関と連携し,海外の保健省担当者等を 対象とする訪日研修等の国際協力プログラムを実施して おり.平成28年度において国際協力研究部が関与した研 修事業は 9 プログラムとなった.また,引き続きJICA技 術協力プロジェクト「生活習慣病対策プロジェクト」へ の学術支援を行い,フィジー国での生活習慣病リスクに 関する現地調査の結果に基づいた生活習慣病対策の立 案について専門知識の供与を行った.また,厚生労働 省大臣官房国際課からの依頼を受け,WHO執行理事会,
WHO総会,WHO西太平洋地域委員会への対処方針調整 に協力した.
研究事業に関しては,平成27年 9 月に国連で採択さ れた「持続可能な開発目標(SDGs)」にて,日本の貢献 が強く期待される領域について,院内関係分野間で横 断的な研究を行った.中・低所得諸国の非感染性疾患
(NCD)予防対策の動向分析,ユニバーサル・ヘルス・
カバレッジに関する研究,医療安全の推進に関する研究,
高齢者保健に関する調査研究等,対人保健や地域医療分 野の諸課題に加え,世界の水衛生システムに関するシ ミュレーション分析等の対物保健分野の研究を併せて行 い,多面的に国際保健領域の研究を推進した.一方,国 際保健課題だけでなく,関連する国内の保健・医療に関 する諸課題についても研究を並行して進め,国内の地域 保健・医療研究で得られた知見を国際保健活動に連動さ せる取り組みを行った.また,これらの研究で得られた 結果を関連する研修に活用し,途上国の保健システムの 向上に役立てるとともに,国内の地域保健研究で得られ た知見を国際保健活動に連動させる取り組みを進めた.
1) 国際協力研究部の構成
平成28年 4 月 1 日現在,国際協力研究部は,三浦宏子
(部長),種田憲一郎(上席主任研究官),下ヶ橋雅樹(上 席主任研究官,生活環境研究部と併任),大澤絵里(主 任研究官),冨田奈穂子(主任研究官),野村真利香(主 任研究官),堀井聡子(主任研究官,生涯健康研究部と 併任),綿引信義(研究員,再任用)で構成されている.
なお,年度途中での異動はなかった.
2) 途上国保健を中心とする国際保健研究
①国連の持続可能な開発目標(SDGs)に関する研究 持続可能性の見地から,重要性が高まっている「食料・
栄養」と「水衛生」に加え,新たな世界的な健康課題で ある「非感染性疾患(NCD)」と,健康格差の縮小に有 効な手段である「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ
(UHC)」に焦点をあて,SDGs策定に至る一連のプロセ スを分析するとともに,今後の取り組みの進捗状況を把 握するためのモニタリング方法の妥当性に関する研究を 進めた.また,SDGsに関する分野横断的なデータベー スを作成し,各種分析に用いた.併せて,SDGsに対す る日本の取り組みについても分析を行った.
②UHC導入の影響要因についての分析
UHCのモニタリング指標に関する研究の一環として,
戦後日本における関連指標の推移を明らかにするため,
既存統計を用いた二次分析を進めた.UHCに関する我 が国の経験については,WHO神戸センターの実施した 研修や当院とJICAが共催する研修等を通じて,国際的な 情報発信も実施した.
③アジア・太平洋島嶼国におけるNCDに関する研究 太平洋島嶼国では,途上国に共通する母子保健や感染 性疾患などの伝統的保健課題に加え,肥満や糖尿病など のNCDの増加が深刻な問題となっている.特に,NCD 有病状況が深刻であるフィジー国のNCD対策について,
JICAプロジェクトとの緊密な連携のもと得られたデー タを分析し,地域住民のNCDリスクの現状を把握した.
得られた研究データに基づき,NCD有病状況の改善に 向けての提言をJICAプロジェクトとフィジー国保健省に 対して行った.
併せて,NCD対策の取り組みの 1 事例として,フィ リピンのマニラ首都圏における自治体(17市)のNCD に対する予防と管理の受け入れ体制とその対応に関す る質問紙調査,パラナケ市の栄養士を対象としたNCD 対策への役割についてのフォーカス・グループ・ディス カッションおよびNCD対策に用いる臨床検査項目の検 討を行った.
④アクティブエイジングのアジア戦略に関する研究 伊勢志摩サミットで発出された「国際保健のための G7伊勢志摩ビジョン」成果文書において「健康で活動 的な高齢化の推進」が盛り込まれ,元気で健康な高齢者 を含めた全人的・包括的な高齢化対策の議論が求められ ている.本プロジェクトでは,アクティブエイジング の 3 本柱(WHO)である安全,健康,社会参加の視点 から,元気な高齢者の事例の分析と,それに即した「ア クティブエイジング」のアジア戦略を検討するために,
日本,タイ,台湾において,高齢者の実態に関してフィー ルド調査を実施し,国際比較研究をスタートさせた.各 国でのアクティブエイジングのためのコミュニティベー スアプローチの好事例をあげながら,アジアにおけるア クティブエイジング対策への提言を目指している.
⑤飲料水安全性の世界的分布の把握
水衛生設備と保健状態の関係性を解析するための 2 次 データを用いた分析を行った.シミュレーションモデル
の検討を行い,各国の下痢症等の保健課題と水衛生設備 の整備条項に関する分析を行うとともに,SDGsの「水 衛生」に関するモニタリング指標の妥当性についても検 証した.
3) 国内の地域保健研究
本研究部では,部員の専門性をもとに国際保健分野だ けでなく,国内の地域保健に関する調査研究も実施し,
わが国の公衆衛生活動から得られた知見を国際的に発信 すべく活動を行っている.
①地域在住高齢者の摂食・嚥下機能ならびに構音機能の 評価とその改善に関する研究
日本だけでなく,急速に高齢化が進展しているアジア 諸国での保健対策においても,高齢期の摂食機能の維持 は大きな課題のひとつである.高齢者の摂食・嚥下機能 についての評価システムの開発に関するフィールド研究 を行い,地域在住高齢者においても,誤嚥リスクならび に構音機能の低下を簡便に把握できるタブレット端末を 用いた新たな評価法を提示した.また,咀嚼機能の良否 と認知機能の低下に関するシステマティックレビューを 行い,両者の関連性についての知見を集約した.
②医療事故調査制度に関する研究
本邦において相次いで発生した医療事故を契機に,平 成26年 6 月に「地域における医療及び介護の総合的な確 保を推進するための関係法律の整備等に関する法律案」
に含まれる医療法の一部が改正され,新しい医療事故調 査制度について平成27年10月に施行されたことを受け,
本制度の実施状況等の把握と関連要因の分析を行った.
医療事故が発生したすべての医療機関が医療事故調査を 行い,国の指定法人であるセンターへ報告することを通 じて,収集された情報を基に再発防止の普及啓発を行い 医療安全の確保に繋げることを目的とした取組みは国際 的にも珍しく,途上国での医療安全の質の向上において も活用が期待される.
③特定機能病院の医療安全管理体制についての研究 大学附属病院における医療事故等を踏まえ,平成28 年 4 月から新しい医療安全対策が順次施行されている.
そのなかで,管理者・医療安全管理責任者の医療安全研 修受講,特定機能病院相互のピアレビューなどが義務づ けられている.そこで,管理者等への研修のガイド案を 作成し,既存の国立や私立の大学病院におけるピアレ ビューについてレビューするなど,その医療安全管理体 制の運営・実施に関わる課題等を整理した.WHOにお いても医療安全を推進する上で,リーダーの役割の重要 性が議論されており,本邦の取組みはグローバルな視点 からも有用性が高い.
④人口動態に関する研究
戦後から現在に至るわが国の平均寿命の男女差と人口 動態について形式人口学的な分析を継続的に行っている.
平成28年度は,日本における心疾患死亡の現状と動向お よびヒトの加害による人の死亡である交通事故,そして
「他殺及び死亡の外因」に分類される「殺人,傷害致死等」
に関する動向と特徴について検討した.
4)研修報告
①国際研修(表参照)
WHO,JICA等の国際協力関係機関からの研修員受入 に関して,それぞれ研修員のニーズを満たすようプログ ラムの企画調整を行った.JICAとの連携に基づく集団研 修としては,平成28年 5 ~ 6 月に実施された「保健衛生 管理セミナー」,12月に実施された「アジア地域における 高齢化への政策強化セミナー」,平成29年 1 月に実施さ れた「保健衛生政策向上セミナー」, 2 月に実施された「ア ジア地域におけるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ達 成のための社会保険制度強化」の 4 つの国際研修におい て,研修プログラムの企画・調整ならびに実施運営を行 い,研修生から高い評価を得ることができた.このうち,
「アジア地域におけるユニバーサル・ヘルス・ カバレッ ジ達成のための社会保険制度強化」と「アジア地域にお ける高齢化への政策強化セミナー」については,厚生労 働省大臣官房国際課との緊密な連携のもとにプログラム 立案を行い,アジア諸国における医療保険制度の構築な らびに高齢化対策の推進のために,日本の経験や知見を 活 用してもらうべく研修を実施している.
また,WHO西太平洋地域事務局(WPRO)との連携 に基づく国際ワークショップとしては,平成28年 9 月に
「NCD対策ワークショップ」の企画ならびに実施運営を 行い,WPROの管内の11か国の政府関係者22名の参加を 得た.また,同様に平成29年 3 月に「病院の質・医療安 全管理研修」の実施運営を行い,WPRO管内の 4 か国の 病院関係者15名の参加を得た.
②国内研修
国内研修については部員の専門性を活かし,専門課程 においては専門課程Ⅰ保健福祉行政管理分野,専門課程
Ⅱ地域保健福祉分野,専門課程Ⅲ地域医療安全管理専攻 科,地域保健臨床研修専攻科,地域保健福祉専攻科にお いて,「対人保健」「コア科目」「保健人口学」「合同臨地 訓練」「特別研究」等の多くの関連科目の講義・演習・
指導を行うとともに,分野の責任者や担当者として専門 課程の運営にも携わった.一方,短期研修においては,
各構成員の職域や専門領域を踏まえ,「歯科口腔保健研 修」「健康日本21(第二次)栄養研修」「地域医療連携マ ネジメント研修」「エイズ対策研修」「児童虐 待防止研 修」「公衆衛生看護管理者研修(中堅期)」「水道工学研修」
「生活習慣病対策研修」等の研修について,主任もしく は副主任として企画運営に参画するとともに,講義なら びに演習を担当した.
③その他の国際協力活動
厚生労働省大臣官房国際課ならびにWHOをはじめと
して,JICAやAPACPH(アジア太平洋公衆衛生学術会議)
などの内外の関連組織と連携して, 各国の公衆衛生情報 の収集を行うとともに日本からの知見の発信等を引き続