以上、徳川家康がウィリアム・アダムス、ヤン・ヨース テンを外交顧問に迎えて以来、2・26事件から敗戦に至 る期間を除き、日本は外交的にシーパワー、内政はランド パワーであった事をご理解いただけたと思う。近代におい て、明治維新を主導した薩長がシーパワーであったために 欧米の技術を導入し、発展できたのである。日本を除くア ジア諸国が近代化に失敗したのはとどのつまり、ランドパ ワーであったからである。ランドパワーは、閉鎖的な精神 社会構造により、外部の技術や知識の導入には保守的で否 定的である。ここで、次の命題を提起したい。
――国家や文明をアジアだ欧州だ、東洋だ西洋だと地理 的な位置だけで分類するのは意味をなさない――
余談だが、私は「アジア」と聞くと失笑を禁じえない。
「アジア」とは何か。古代ギリシャ人がエーゲ海を挟んだ 対岸を「アジア」と呼んだのである。元の意味は古代トル コの沿岸部である。近代以降、ユーラシア大陸からヨーロ ッパを除いた地域をひとまとめにした地域を指すことにな
る。この呼称は、ヨーロッパ人の「アジア」に対する無知 を物語る。さらに許しがたいのは、近代以降、日本を含む
「アジア」諸国が何の批判もせず、この枠組みを受け入れ てきた事である。このパラダイムがいかに「アジア」およ び日本の近代化を阻害し、機会損失を生んできた事か。
「アジアは一つ」、「大陸の王道楽土」、「シナにゃ四億の民 が待つ」、「38度線の北は花園」等の軽薄な論調に、いくら 日本人が騙され、大陸に渡り、結果として大陸諸国民共々 苦しんだか。全ての前提はこの明治以降の間違ったパラダ イムなのであり、真のパラダイム、区分はこのシーパワー かランドパワーかという区分けなのである。そして、何よ りも重要なことは、この両者はお互いの違いを認識し、相 互不干渉を貫くべきで、両者の関与の度合いは必要最小限 に留めるべきである。両者が必要以上に関わりを持つと、
不幸な結果しかもたらさない。これは歴史を貫く黄金律で ある。もっと言えば、今までの世界史は人類にこの教訓を 与えるために存在したと考える。
この観点から、日本は朝鮮半島や華北政権とは相容れな い事がわかる。マインドが違うのである。このような視点 から、鎖国について考えてみたい。江戸幕府が鎖国(選択 的開国)を選んだ理由はいくつかあるが、一つには、明と いう華南シーパワー政権が滅び、清というランドパワー政 権が大陸に樹立したためであろうと考える。華北政権と華
南政権マインドの違いを何よりも理解していたのである。
さらに進んで、鎌倉幕府が大ランドパワーたる元(モンゴ ル)と外交関係を持たなかった点も評価したい。元の本質 が狼(大ランドパワー)であり、外交関係を持つというこ とがとりもなおさず、支配従属関係に陥ることを幕府執権 平時宗(北条時宗)をはじめ、当時の鎌倉幕府御家人は正 確に理解していたため、国書受け入れを拒否し、文永、弘 安の二度にわたり、撃退した。よく言われる台風(神風)
のおかげのみで撃退できたのではない。鎌倉武士団がよく 戦い、蒙古、高麗兵の上陸を許さなかったことが大きいの である。
では結ぶべき相手はどこか。アメリカは別として、台湾 と上海(華南)である。日本の古代から現代に至る歴代政 権は華南の政権と良好な関係を構築していたことを、歴史 に造詣が深い読者諸兄ならご理解いただけるであろう。
読者諸兄には、自分がランドパワーかシーパワーかを自 問していただきたい。そして日本のとるべき道はシーパワ ー優位の構造をとり、実権を握り、ランドパワーを下部構 造に組み込み包摂していく以外にないことをご理解いただ きたい。追い詰められたランドパワーはシーパワーに対す るテロを起こすであろう。しかしそれに負けるとまたかつ ての道を辿る事になってしまう。冷戦期、ソ連との核に関
する大幅な軍縮に応じたアメリカであるが、海軍力に関し ては決して削減交渉をしなかった事はシーパワーの重要性 を物語る。そしてそのことが結局は世界経済の発展および 冷戦の勝利に繋がるのである。また、ユーラシア大陸内部 は今後の環境破壊によって人類の生存に相応しくない地域 が大部分となる事が予想され、その外縁部のみが生存でき るのである。すなわち環境的にもシーパワーが有利である。
この観点から、現在小泉政権が押し進めている日朝交渉や ロシアと組んでのシベリア開発、さらに中国西部開発への 資金提供に私は反対である。シーパワーは大陸奥地に嘴を 突っ込むべきではない事は歴史が証明している。いいよう に鴨にされるのは目に見えている。
(1)国内経済
デフレが言われ、株価が急落し、金融をはじめいくつか の産業が破綻の危機に瀕している。デフレ回復のためにイ ンフレターゲット論まで飛び出している。とんでもない論 点のすり替えである。競争の結果、商品の価格が下がるこ との何が悪いのか。中国をはじめ、人件費の安い地域へ生 産拠点が移転しており、この流れが価格下げ圧力になるの は変えられない流れである。要は、金融機関が、バブルの 最中に土地神話を信じて不動産に過剰融資をし、それが不 良債権化したからなんとかしてくれという状況を「デフレ」
と呼んで自己正当化しているだけである。借金が返せない 政府と、不良債権を目減りさせたい金融機関の思惑が一致 してインフレを起こそうと考えているだけだ。このままで は、金利生活者その他、弱者は犠牲になる。解決策を次章 に提示したい。
(2)世界経済
近未来を眺望するに、インターネット、安価な移動、輸 送手段の出現により、国家という枠組みを超えて、今以上 の速度でヒト、モノ、カネ、情報の流通、移動は行われる だろう。多国籍企業やNPO、NGOのように国境を超越す るグローバル組織がさらに台頭してくる。
相互依存関係の進行から国家の枠組み、役割についても 見直しが必要である。
しかし、国民の生存に対して最後の責任を持つのは、現 時点では国家しかない。そこで、近未来ではこの両者の調 和点、すなわち国家間で経済提携することによって自立し た経済圏を形成し、圏内の国家同士の産業と国民の利益を 保護しようとするしかない。この顕著な例がヨーロッパ連 合である。
アメリカについては、メキシコを含めた北米でNAFTを 形成し、経済圏としている。ここで注意しなければならな い点として、90年代から現在に至るまで、世界を席捲した
「グローバリズム」は世界を同質的なものと見なし、一つ の価値基準で統合できると考えた点に根本的問題がある。
アメリカ人の世界史に対する無知が根底にあると思えるの だが、国連をはじめとする国際機関が実効性を有しない点 についても同じことが言え、世界は均一ではなく、ランド パワー、シーパワーの観点から国家、民族を分類し、その 域内での価値基準はそれぞれ異なるのである。そして両者 の関与は「必要最小限」に留め、棲み分けなければ不幸な 結果を招く、というのが聖書、古史古伝の時代から現在に 至るまでの人類史の鉄則なのだ。グローバリズムのご本尊 のシーパワー・アメリカがこの鉄則を破り、サウジアラビ アへの軍事駐留以来、ランドパワーたるイスラム諸国から の人の流入、攻撃に右往左往しているのはこのことを如実 に物語る。