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3.微生物数の測定法とその簡易化

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 食品製造における自主衛生管理に生菌数は汚染 度の指標となり,結果の活用が重要

であることを述べたが,サンプルの 生菌数を測定するには,時間と技術 を必要とする。第1図に一般の培養 法による生菌数測定の過程を示す。

検体を25g,無菌操作を伴いながら 量りとり,滅菌されたストマッカー 袋に入れる。これに滅菌希釈水を 225mL加えストマッカーにより乳 剤化し,これを試料液とする。この 試料液を必要に応じて10倍段階希 釈しながら,平板培地上に塗布,も しくは加熱溶解してある寒天培地と 滅菌シャーレ内で混和して固化させ,

これを35℃で24〜48時間培養する。

培養後,培養平板に出現したコロニ ーを計測し,これに希釈率を乗ずる

ことで,1g当たりの生菌数を求めることができ る。

 この培養法による菌数測定には,培地の準備か ら始まり,滅菌済みのピペット,シャーレ,滅菌 希釈水など,多くの機材や事前準備が必要となる。

また,検出までの時間,多大な労力や技術的な問 題も存在する。これらを極力簡易化するために,

さまざまな工夫や方法の開発がなされてきた。

 ここで述べる工夫とは,計測に必要な諸準備の 簡易化の内容も含む。例えば,希釈水の自動分注 機もその簡易化の一例である。上記の例では,25 gの検体を量り取られ,その9倍量である225mL を加えられることになるが,これをポンプにより 自動で正確に加える装置を導入することにより,

作業を軽減できる装置としてシリアルダイリュー ターという名称で販売されている。これは,希釈 水を大量にまとめて作成して,ポンプに接続する だけで使用できることから,作業効率の向上が期 待できる(写真1)。また,培地の作成についても,

個々で作成するには無菌操作が伴う。そもそも無 菌的に寒天平板を作成することが難しいという問 題や,最終的に作成したシャーレの培養場所のス ペースの確保が問題となるケースもある。このよ うに寒天平板の作成や培養スペースの問題,操作

第1図 一般的な微生物検査の流れ 㘩ຠ䉰䊮䊒䊦

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性を初心者でも可能とするために,スタンプ型や フィルム型培地と呼ばれる滅菌済み培地をあらか じめ成型したものやゲル化剤にしたものが販売さ れている2)。スタンプ型・フィルム型など,いず れも,例えば検査面にこれらの培地を押しつけた 後に培養する方法や,乳剤化した検体1mLを表 面に乗せフィルム上で拡散させる方法などにより,

菌数測定を簡易に行うことができる。培地や希釈 水の供給は微生物検査に不可欠であり,ここで述 べたような,簡易培地の提供などは作業の効率化 に大きな役割を果たしている。

 従来法を含め,平板培地などへの菌液の塗布は,

いずれも菌数が多い時には段階希釈を必要とする。

通常ならば培地上において数えられるコロニー数 は30〜300個とされている。従って,培地上には,

それ以上または以下にならないように調整して段

階希釈を行った後に,塗抹を行わなくてはならな い。この段階希釈を行う代わりに,濃度勾配をつ けた自動塗抹装置を用いることで効率よく寒天平 板上に塗抹できる機器が開発されている。このス パイラルプレーターと呼ばれる装置は,寒天平板 上の中心から外側に向かってらせん状に濃度勾こう配 をつけながら塗抹する装置である。塗抹されたサ ンプル濃度は中心部では濃く,外側に塗抹される に従って薄くなるように設計されている(写真2)。 塗抹されたシャーレを培養した後,コロニーが形 成されるが,塗抹範囲の液量がすでに求められて いるため,その規定範囲のコロニー数を数え,そ の面積に塗抹された液量で除算してやれば,1 mL当たりの菌数を計算し求めることができる。

この装置を用いることで4.0×102-5CFU/mLの範 囲の濃度であれば,1枚の平板上で単一コロニー が培養後に確認・計測でき,段階希釈の手間や培 地の削減が期待できる3)。このスパイラルプレー ターに,コロニーカウンターと呼ばれる自動計測 装置を組み合わせれば,培養後の菌数計測を自動 化できると考えられる。コロニーカウンターとは,

塗抹された寒天培地のシャーレを直接CCDカメ ラで撮影・画像処理を行い,コロニー数を自動的 に計測できる装置である。単純な菌数という数字 の記録という目的だけでなく,シャーレの画像を 含めた生菌数結果の直接記録ができる意味では,

その意味は大きい。さらに近年では,このコロニ ーカウンターによる計測を経時的に行い,寒天平 板上でのコロニー形成過程を10μm単位で検出で きる,デジタル顕微鏡法と言われる自動計測シス テムも登場している4)。平板培地上でのコロニー の成長過程を捉とらえて検出することから,培養過程 でのコロニーの重なりや食物残渣

と区別して計測 でき,正確な計数が期待できる特徴を持つ。また,

早期に形成されるごく微小なコロニーを検出でき ることから,汚染有無の判定の迅速化としての使 い方も期待できる。

 一般的に生菌数の測定には,上記のように寒天 平板上に形成されるコロニーの数を数えて,その 数に希釈倍率を乗ずることで求める。これは,そ の微生物がコロニーを形成することで生存してい 写真2 スパイラルプレーターで塗抹し培養したシャーレ

中心部から外側に向かって濃度勾配をつけながら塗抹される。

(カラー写真をHPに掲載 C025)

写真1 自動分注機の例 作業の向上が期待できる。

(カラー写真をHPに掲載 C024)

ることの証明になること,そのコロニーのピック アップが可能であり,微生物同定としての展開も 考えられることから,スタンダードな方法となっ ている。しかし,ここで示したのは食品25g当た りの菌数計測を目的とした方法であり,その検出 感度は1g当たり10CFU以上となる。従って,

清 涼 飲 料 水 や 牛 乳 な ど に 代 表 さ れ る よ う に,

100mL当たりを検査する要望には,濾過法によ る検査法やMPN法による確率分布論的な定量試 験法が行われる。

 濾過法の場合では,想像のとおり試料を濾過し,

微生物を無菌のフィルター上にトラップさせて検 出する方法である。微生物をフィルター上にトラ ップした後には,フィルターを寒天培地に乗せて フィルターごと培養して出現したコロニーを計測 する方法と,フィルター上の微生物を染色して顕 微鏡によって直接計測する方法がある。フィルタ ーごと培養する場合には,先に述べたスタンプ型 やフィルム型の滅菌済み簡易培地でのアプリケー ションも使用できるものがある。また,フィルタ ーユニットについても専用に作られた製品が供給 されており,滅菌済みの微生物試験製品として販 売されている。

 一方,顕微鏡による検出では微生物の染色が行 われてからの直接検出となる。その染色剤として は細胞膜透過性があり,核酸染色できる色素が主 に 使 用 さ れ る。DAPI( 4' ,6-diamidino-2-phenylindole)はその色素の一例で,これにより 微生物の核を染色し,UVなどの落射蛍光観察で きる顕微鏡で蛍光を発する菌体の数を直接数える ことによる。この方法では,微生物菌体数として 直接計測できる利点があるが,生死判定されるこ となく計測されることとなる。また,単位面積あ たりの菌数を計測するための時間と労力が必要で ある。このような顕微鏡による直接観察計測法を 自動化したバイオプローラと呼ばれる機器が近年 販売された。ただし,フィルター上にトラップし た微生物の生死判定を行うため,2色の蛍光色素 による同時染色を行っている。1つはすべての菌 体を染色できる色素で,もう1つは死菌のみが染 色される色素を用いている。フィルター上で染色

された菌体は2種類の励起波長の照射を切り替え ながら画像解析を行い,その粒子数を機器で自動 測定する。最終的に求められた値から全菌数と死 菌数の差を求め,この数値を生菌数と考えること ができる5)。また,デジタル顕微鏡法と同様に,

フィルター上での培養過程を顕微鏡観察とCCD カメラによる画像解析との組み合わせを用いた迅 速検査技術の開発も行われているところである。

これにより,マイクロコロニーと呼ばれるごく小 さい初期段階のコロニーを自動検出する試み6)も なされている。

 確率分布論的な定量試験法ではMPN法が挙げ られる。第2図に示したようにサンプルの段階希 釈系列を3ないし5系列並列に行い,どの希釈段 にどれだけの数が陽性として検出できたかを調べ ることにより,その結果から最確数表という換算 表に従って菌数を求める手法である。この方法で は,最大で試料原液10mLから検出が行われるこ とになり,100mL当たりの菌数を確率的に求め ることができる。MPN法は標準的な菌数計測法 の1つとして認識されているが,希釈系列の多さ から労力を必要とするのが難点である。しかし,

この確率論的な菌数計測法を応用した簡易計測 手法も開発されている。SimPlateと呼ばれる特 殊な円形プラスチックシャーレによる菌数測定キ ット7)は,まさにその応用である。この円形プラ スチックシャーレには84のくぼみがあり,その くぼみに培地が均等にたまるように設計されてい る。この特殊なシャーレの中央に試料と液体培地 を混合して流し込み,プラスチックシャーレ全体 を振り動かして,84のくぼみに均等に分散させる。

余分な液体培地を除去した後,これを培養して陽 性と得られるくぼみの数を数え,専用の換算表に 照らし合わせることで菌数を求めるというもので ある。すなわち,段階希釈系列を並列に行う代わ りに多数のくぼみに分布した数を多くして,正確 さを高めた確率論的な菌数計測法である。これは X-GAL培地のような培地を使うことで,大腸菌 群の菌数を求めるような菌特異的なアプリケーシ ョンにも用いることができる。

 また,濾過法の項目で述べるべきであったかも

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