注目されるのはそんな厳しい生活、労働条件の下にありながらも、「清く正しく」、「社会に尽く す」、「人から認められる」、「人のために尽くす」等、出稼ぎ青年たちは予想以上に高い理想をもっ ていることである。拝金主義が流行っている今日、このような夢は貴重なものと思う。この傾向は 女性より男性の方が高い。
また、今の関心事を聞いたところ、「家族」と答えた人が62%にも達している。出稼ぎ青年の多 くが家族の経済の負担を解消するために学校をやめて出稼ぎに出た者達であり、稼いだ金の半分以 上を仕送り、その仕送りによって家族の生活が維持されているという現実の反映であろう。
もう一つ興味深いのは、「恋愛」を関心事としてあげた青年がわずかの1.7%にとどまったことで ある。中国では伝統的に青年期の重点は仕事とされている。実は出稼ぎ青年にとって恋愛は贅沢な ことである。ましてや貧困におかれている出稼ぎ青年にとってはなおさらのことである。さらに、
製造業会社の場合は従業員の90%近くが女性であり、男性と巡り合う機会も極めて限られている。
これが出稼ぎ青年の恋愛に対する関心を極めて低くしている理由と考えられる。
以上にみてきたように、出稼ぎ青年は多くの困難や幻滅や挫折などに直面しながらも、それをの り越えて、さまざまな夢や希望、抱負に胸をふくらませている。出稼ぎという新しい人生の途上に おいて、多くの出稼ぎ青年に青年らしい脈脈たる希望や理想が感じられる点は、重要なポイントと して指摘されるべきであろう。
次にもう1つの調査の眼目である出稼ぎ青年の学習実態をみてみよう。
いたところ、「0−1時間」とする者の割合が5.5%、「1−2時間」とする者が18.5%、「2−3時間」
とする者の割合が最も多く、34.2%、「3−4時間」と答える者の割合が17.1%、「4時間以上」と 答える者の割合が24.7%となっている14)。
過重な労働時間といっていいであろう。それはそのまま余暇生活の貧しさに反映する。平日の自 由時間は、約半数の出稼ぎ青年がわずか2〜4時間しかない。食事、入浴、身辺整理などの時間を 除くと、余暇生活といえる時間はほとんど消えてしまう。
自由時間をどのように利用しているのであろうか。図9に表記したように、まず、平日の自由時 間では、一部が「おしゃべり」と回答した他は、おおむね「読書」と答えた。青年たちは仕事の合 間にすら知識を追求している。それは他に娯楽がないためでもあろう。 一方で、週末などの休日 については、「テレビ、新聞、雑誌などの見聞き」を挙げたものの割合が63.6%と最も高く、「おし ゃべり、内務整理」(31.3%)、「盛り場訪問」(30.1%)、「スポーツ」(18.2%)、「親戚訪問」(15.8%)、
「学習クラス・サークル活動」(9.4%)などの順となっている。全般的に休日で学習している出稼 ぎ青年の割合が極めて少ない。男女の一部に学習クラスに通うことも見られる。さらに、性別に見 ると、「学習クラス」に通う男性の割合は女性より高い。
こうした出稼ぎ青年の余暇生活を同世代の他の青年と比較してみると、同世代の他の青年が1995 年から週五日制を享受しているのに、出稼ぎ青年はまだ月24日以上働かなければならない。同世代 の他の青年が休日に友達と郊外にドライブへいったり、映画をみたりしているとき、出稼ぎ青年は 工場の近くの売店しかいくことができない。同世代の他の青年が大学院に入って、さらにと高い学 歴や新しい知識を求めるとき、出稼ぎ青年の多くは高校卒業程度の学習にとどまらざるを得ない。
要するに、出稼ぎ青年の生活は同世代の他の青年に比べて貧弱な余暇生活におかれている。
中国広東省深 市における出稼ぎ青年の生活と学習
図8 日系企業と中国系企業の自由時間比
日本企業 全体 中国企業 4時間以上
3〜4時間 2〜3時間 1〜2時間 0〜1時間
0 10 20 30 40 %
図9 自由時間の利用
0 20 40 60%
その他 デート 学習クラス 盛り場訪問 スポーツ 親戚訪問 ハイキング
休日の過ごし方 自由時間の過ごし方
0 20
40
% 60
勉強 読書 おしゃべり 身の回り整理 無為
テレビ 男性
女性
(2)学習意欲
半分以上の青年は貧困が原因で学校を中退し、都市に出稼ぎにきた。しかし、出稼ぎは金のため だけではない。中青所の調査結果も本調査の結果もそれを示している。中青所の調査によると、金 を稼ぎ、家計を支えるために出稼ぎに出た青年は20%に過ぎない。37%の青年は技術・技能を習う ためである。本調査も同様の傾向を見出している。
まず、仕事を探すときに、どんな面を重視しているのでろうか。全体としては、「学ぶことがあ る」がもっとも高く、続いて「良い給料」「仕事に興味があったから」となっている。一方、「事務 所の名が通っているから」や「友人、先輩、知人と一緒だから」などは低めの回答となっている。
出稼ぎ青年にとって、学ぶことができるかどうかということがより重要な就職環境となっていると いえよう15)。
これをもう少し細かく、男女ごとに見てみよう。まず目を引くのが男性での「良い給料」の高さ であり、実に70%以上を占めている。これに対して女性は50%である。同様に減少傾向が著しいの が「学ぶ」・「興味」が挙げられる。代わりに増大しているのが「事務所の名」「友人と一緒に勤 務」などである。この二つをまとめると「安定性と友情」というキーワードであろうか。働いてい る自分の姿というものが見えてきている感じである。
「今の従事している仕事は簡単な仕事だけど、自分が持っている知識と能力はその仕事に十分通 用できるか」と尋ねた。半分以上の者は通用できないと答えた。また、ほぼ80%の出稼ぎ青年は自 分の日常の仕事にある程度の学力が必要だと思っている。
[就職できて、どういうところに満足しているか]の回答結果を見てみると、男女とも「仕事が いろいろ覚えられた」という回答が最も多かった。特に男性の場合、技術職に就く場合はそのケー スが多い。逆に技術とあまり関係ない職種に就く女性の場合は「いろいろ友達と付き合える」こと を重視している傾向が見られる。
図10 仕事を探す第一の条件
好きなことができる 自由に小遣いが使える いろいろな友達と付き合える いろいろな仕事を覚えられる
0 10 20 30 40 50 %
男性 女性
図11 仕事に満足したこと
その他 学ぶことがある 友達と一緒 事務所の名が通っている よい給料 仕事に興味がある
0 10 20 30 40 50 % 16〜20歳 平均 21−26歳
「成功した人を見て、彼らが成功した要因は何だと思うのか」と問うてみた結果は以下の通りで ある。「自分の努力」が26.2%、続いて「才能」20.8%、「運とチャンス」16.1%、「縁故」12.9%、
「学歴」10.7%、「人柄」8.5%、「親の社会地位と財産」4.4%。それは自分自身がこれから成功する ために、「才能を身につける」という考えを持っている者の割合が60.7%に達し、半数以上を占め たことを裏づけることができる。厳しい出稼ぎ生活の中に、彼らは現代社会に必要な人材はただ高 学歴を持つものでなく、実力をもつ者だとしみじみ感じた。
もし機会があれば、82.7%の出稼ぎ青年はもう一度学校に行きたいという。さらに、男女別に見 ると、女性66%に対して、男性では75%の高率となっている。その理由をみると、「もっと良い仕 事をしたいため」が31%と最も高く、以下、「自分の一般教養を高めるため」(22.3%)、「競争が激 しいから仕方がないため」(19.3%)、「自分の能力を見出したい」(12.7%)、「今の仕事にうまく行 くため」(12%)などの順となっている(複数回答、前5項目)。
この調査から明らかなことは、「もう一度学校に行きたい」理由は、仕事に関連していると言う ことである。優秀な従業員にあっては、責任のある仕事への希望と、未知の知識と技術とへの渇望 がまだ熾烈であると思われる。すなわち中国の出稼ぎ青年は決して現在の能力に満足してない。そ の旺盛な学習欲によって、進んで企画し、進んで学び、進んで自己の独立した生活と仕事を渇望し ているのである。
(3)学習の現状
中国経済と社会が発展するのにつれて、多くの出稼ぎ青年は次第に次のようなことに目覚めてく る。もっと高い文化の素養は都市で満たすことができ、労働力の市場競争の中でようやく生き残る ことができ、工業化が進んでいる中でようやくますます高くなる技術の要求に適応することができ る。現在の「単純な仕事」に不満をもちながらも、多くの出稼ぎ青年は中学校の教科書をひきだし て復習したり夜間学校に通ったりしている。彼らの間に強い学習意欲が潜んでいることは疑いない と思われる。
そういう学習意欲の高さは、もちろん、彼らの毎日の作業内容に基づくものだが、もう一つ別の 要因が加えられる。それは現代社会の科学技術の急速な変化を、彼らが身をもって味わってきてい
中国広東省深 市における出稼ぎ青年の生活と学習
図12 成功の要因と自分の努力点
個人の努力 運やチャンス 縁故 親の社会地位と財産 学歴 人柄 才能
0 20 40 60 80 %
学歴を獲得する 才能を身につける 人脈を良くする その他
図13 学校へ行く理由
競争激しいため 自分の一般教養を高めるため 今の仕事にうまくいくため 転職のため 自分の能力を見出すため もっと良い仕事をするため
0 5 10 15 20 25 30 35 %