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2.深 市における出稼ぎ青年の生活実態

ドキュメント内 弘前大学大学院地域社会研究科年報-第2号 (ページ 125-129)

本論の課題は、深 を舞台とする出稼ぎ青年の生活状況の特徴と学習の実態の反映としての学習 観についてアンケート調査を行い、「出稼ぎ青年と社会教育」に関する研究の基礎的作業を行うこ とである。まず、アンケート調査結果に現した出稼ぎ青年の生活実態をみてみよう。

(1)出稼ぎの理由・動機

出稼ぎ青年の学校中退の理由については、二つのことが考えられる。一つは、経済的な困難ゆえ に高等教育を受けたくても受けられなかったためである。もう一つは、高等教育を受けても一般企 業への就職の道が閉ざされていた親の世代が、学校に行っても無駄だという考えを持つようになり、

子どもに対する教育への期待を失ってしまっていた(したがって、学歴よりも手に職をつけること を望む)という理由である。各種の調査からみても、貧困が原因で出稼ぎに出た青年が約半数を占 めている。本調査では、貧困を理由に上げた者が約4割を占める。それ以外には、早く自立したい ために出稼ぎに来た青年と、成績がよくないので出稼ぎに来た青年もいる。それらも間接に生活の 貧困を反映したものである。

男性と女性の間で、若干の傾向の違いが読みとれる。中国は近年経済の発展によって人びとの生 活が豊かになった一方で、出稼ぎ青年の女性の多くは家庭の経済的な原因で、小学校や中学校を中 退して、町に出稼ぎに来たという現象が見られる。その背景には中国の伝統的な男尊女卑の考えが まだ残っていることを示している。それに比べると、男性の場合は自立願望や勉強嫌いなどの理由

学   歴 本調査(%・実数) 中青所(%・実数)

大 学 以 上 06.69 034 01.1 011 短大・専門 21.46 109 03.7 037 高   校 25.39 129 37.8 378 中 学 校 45.08 229 46.1 491 小学校以下 01.38 007 07.1 071

合   計 % 508 % 988

が多い。

(2)出稼ぎ青年の経済状況

出稼ぎ青年の生活全貌をみるためには、まず、彼らの住居条件から見るのがよい。調査によれば、

従業員の63%が寮に住込んでいる。他方、「自宅」「親戚の家」「間借」等の通勤型はきわめて少な い。住居空間についても一人当たり二畳以下という狭い空間に住んでいる出稼ぎ青年が約60%あり、

このほとんどは住込み青年が占められている。とくに製造業、建築業などで働く青年の場合にはご く普通に見られることである。このような「住込み」生活は、プライバシーや生活と仕事の未分化 などの問題と結びついている。

収入をみてみよう。勿論、賃金額は労働力の質、熟練度、職能によって異る。調査によると、出 稼ぎ青年の収入は500−1000元(約7000円−14000円)の間が最も多く、ついで1000−1999元(約 14000円−28000円)、500元(約7000円)以下と続く。

図1 出稼ぎの理由・動機

中国広東省深 市における出稼ぎ青年の生活と学習

その他  成績不良  勉強が嫌い  経済の理由  早く自立したい 

男性 

5 10 15 20 25 30 35 40 % 

平均  女性 

図2 住まいと面積

0

%  20 40 60 80 100

二畳以下 

寮  親戚の家  貸間  その他 

三畳  三畳以上 

図3−1 男女別の収入

3000元以上  2000−2999元  1000−1999元  500−1000元  500元以下 

男性 

0%  20%  40%  60%  80%  100% 

女性 

出稼ぎ青年の賃金は主に時給制である。つまり働く時間が長ければ長いほど、給料は高くなる。

月給に換算すると4500元(約60000円)台から450元(約6000円)までとかなり巾があるが、最頻値 は750元(約10000円)である。これは平均就労日数24日で毎日10時間(2時間の残業)働いて得ら れる収入である。なお、ちなみに、中国労働省が公示した最低賃金は530元(約7000円)である12)

中国労働・社会保険部は2004年1月26日に、国内主要都市における出稼ぎ労働者の就業状況を調 査した。この調査は、北京、天津、深 など、出稼ぎ労働人口が比較的多い26都市の企業2600社に 対して行ったものである。調査結果によれば、新規の出稼ぎ労働者の月給は平均660元(約8,500円)

であることが明らかになった。そのうち建設業界は平均729元(約9,500円)、紡績・アパレル業界 は648元(約8,200円)、レストラン・サービス業界は578元(約7,500円)、貿易・観光業界は654元

(約8,400円)。これと比べると、深 市の出稼ぎ青年の賃金はやや高い。これが深 に出稼ぎに来 る人が多い原因でもあり、かつ大卒・大学院卒という高学歴者が多く集まってくる理由である。

さらに、中国農業省の調査によれば、出稼ぎ労働者の平均年収5597元、家族への平均送金額3472 元である。農村での1人当り純年収が2366元であるから倍以上の年収である。農村から都市へと殺 到する理由は明白である13)

(3)生活・仕事への不満・悩み

深 市の出稼ぎ青年が今の生活をどう考えているかをみてみよう。アンケート調査によると、現 在の生活への満足度は極めて低い。実に75%もの青年が「不満」「やや不満」と答えている。特に 女性の不満が強い。さらに分析すると、教育水準が高いほど生活の満足度も高い。高学歴者は自分 の生活を掌握でき、生活条件も恵まれているからであろう。年齢別には年齢が高いほど満足とする ものが多い。年齢別にみると、10代の若年層では満足と不満とがほぼ同数(約40%)であるが、20 代になると満足が半数を超える。年齢が高まるほど満足の割合が高まる傾向が見られる。

図3−2 学歴別の収入

3000元以上  2000−2999元  1000−1999元  500−1000元  500元以下 

大学 

0%  20%  40%  60%  80%  100% 

高校  中学  小学校 

図4−1 年齢別の満足度

16〜20

21〜26

0%  20%  40%  60%  80%  100% 

満足  やや満足  やや不満  不満 

さて、不満の内容は何であろうか。複数回答による結果は[図5]のとおりである。第1位は

「賃金が低い」(69.7%)、第2位は「自由時間がない」(21.2%)である。賃金に関する不満が一定 の厚みを見せていることはすぐにわかる。技術職と違って生産現場で高い給料を得る可能性のない 出稼ぎ青年にとって、低賃金に対する不満が圧倒的に高くなるのは当然のことであろう。

労働時間は、調査結果をみると、基準の8時間を超える青年が95%に達し、10時間以上に及ぶ青 年も98%を数える。納期に間にあわせるために、一日、15〜16時間も働かせる企業も決して珍しく はない。深 市の出稼ぎ青年の多くにとっては、労働基準法も有名無実の存在でしかないのである。

出稼ぎ青年の生活・仕事への不満・悩みは賃金、労働時間等労働条件の問題に集中しているが、

仕事の内容そのものに関する不満、悩みもまた多いことを見逃してはならないであろう。そういえ ば、世界中の若者が彼らの成長期に自分の仕事や生活に不満感をもつのは共通なものである。しか し、出稼ぎ青年は青年だから若者の共通の悩みをもっている以外に、また戸籍管理の厳しい中国で は戸籍がないので、不公平な扱いとか、先行きがみえないとかさまざまな悩みもあることを、調査 によって明らかにした。例えば、同じ働いても戸籍があるかどうかによって、仕事と収入の質、と くに社会福祉の享受は全然違う。それは一般的にいう成長期の若者の悩みと本質的に違う。

転職希望の有無については、およそ半数の出稼ぎ青年が転職したいと答える。それは、本人の無 知や無自覚が原因であるとはいえ、厳しい労働条件などに幻滅を感じ、挫折し、転離職のコースを 辿っていくものが多い。特に私営企業に就職した出稼ぎ青年にそのようなケースが多い。私営企業 ではいまだに最低の労働条件すら守られていないところが多いのである。

(4)生活目標と働くことの意義

そして、生活者としての出稼ぎ青年たちの生活原理または労働の意義は一体何であろうか。生活 の原理としては「働いて金をためる」と「趣味に合った暮らし」がそれぞれ30%で高率であった。

当然のことながら、かれらの現実の生活との間には大きな開きがあることを示している。

中国広東省深 市における出稼ぎ青年の生活と学習

図4−2 学歴別の満足度

小学校  中学  高校  大学 

0%  20%  40%  60%  80%  100% 

満足  やや満足  やや不満  不満 

14.3 41.1 30.1 14.5

8.8 14 40.2 37

10.7 25 26.8 37.5

80 20

図5 不満点

男性  女性 

労働内容が短調的だ  労働条件が悪い  賃金が低い  自由時間がない  落ち着ける部屋がない 

10  20  30  40 

注目されるのはそんな厳しい生活、労働条件の下にありながらも、「清く正しく」、「社会に尽く す」、「人から認められる」、「人のために尽くす」等、出稼ぎ青年たちは予想以上に高い理想をもっ ていることである。拝金主義が流行っている今日、このような夢は貴重なものと思う。この傾向は 女性より男性の方が高い。

また、今の関心事を聞いたところ、「家族」と答えた人が62%にも達している。出稼ぎ青年の多 くが家族の経済の負担を解消するために学校をやめて出稼ぎに出た者達であり、稼いだ金の半分以 上を仕送り、その仕送りによって家族の生活が維持されているという現実の反映であろう。

もう一つ興味深いのは、「恋愛」を関心事としてあげた青年がわずかの1.7%にとどまったことで ある。中国では伝統的に青年期の重点は仕事とされている。実は出稼ぎ青年にとって恋愛は贅沢な ことである。ましてや貧困におかれている出稼ぎ青年にとってはなおさらのことである。さらに、

製造業会社の場合は従業員の90%近くが女性であり、男性と巡り合う機会も極めて限られている。

これが出稼ぎ青年の恋愛に対する関心を極めて低くしている理由と考えられる。

以上にみてきたように、出稼ぎ青年は多くの困難や幻滅や挫折などに直面しながらも、それをの り越えて、さまざまな夢や希望、抱負に胸をふくらませている。出稼ぎという新しい人生の途上に おいて、多くの出稼ぎ青年に青年らしい脈脈たる希望や理想が感じられる点は、重要なポイントと して指摘されるべきであろう。

次にもう1つの調査の眼目である出稼ぎ青年の学習実態をみてみよう。

ドキュメント内 弘前大学大学院地域社会研究科年報-第2号 (ページ 125-129)