• 検索結果がありません。

(1)大学構造委員会の設置

「大学問題」の所在

1960〜70年代に於ける金沢大学の見直しと自己変革は、大学構造委員会の設置とその 活動、特にその下に設置された管理運営の問題専門委員会の活動のなかに見出すことがで きる。

1969(昭和44)年1月東京大学安田講堂のバリケード封鎖の解除を頂点として、60年 代末までの約2年間、全国大学の約8割は何らかの紛争に巻き込まれ、日本の大学史上ま れにみる経験をした。こうした事態を学生の側から見ると、特にアメリカの大学における ベトナム反戦、フランスにおける「五月革命」、中国の文化大革命などの影響を指摘できる。

これに「70年安保」が結合して学内に持ち込まれ、いわゆる「新左翼」の激しい運動とな って展開した。しかしこの運動は1970年代前半には分裂・対立へと進み、「内ゲバ」と形 容されるような暴力的事件にまで及んだ。金沢大学でも学生による校舎封鎖、学生同士の 深刻な「内ゲバ」対立に直面した。

もうひとつの側面として、高度成長期を通じて「大学の大衆化」が進行し、その状況に 大学のシステムや研究・教育が対応できず矛盾が吹き出した点も見逃してはならない。大 衆化は金沢大学では大幅な学生増となって現出したが、全国的にはそれに受験競争も要因 として付け加わった。しかし多くの大学は基本的には戦前のスタイルのままで、高校まで とは異なって自由放任主義をとり、エリート教育や講座制のもとでの研究の枠組を脱し切

れなかった。大学のシステムや教育・研究制度を批判し、改革を要求する動きが強まった のは、ある意味では当然の成り行きであったと言えるだろう。

日本の大学を巡る内外からの批判的な問題提起に対して、もちろん大学内部からそれに 呼応しようとする自主的な対応も現れた。そうした動きを大学問題としてとらえるわけだ が、ここではその金沢大学版に焦点を当てることにしよう。

この時期における金沢大学の学生運動を中心とした動向は、詳しくは次の第6章を参照 願いたい。大きくは当時学生運動の全国的課題であったところの大学運営臨時措置法案を めぐる問題と医学部を中心とした講座制・教室制度批判が主題で、学寮・学生会館問題な ども含めて教授会に対してしばしば「団交」要求が繰り返されていた。さらには学生によ る校舎封鎖、「内ゲバ」に直面して、警察の導入が大学当局によって検討される状況にも立 ち至った。

一方教官のサイドから見ると、教授のみで構成される教授会に対して人事・予算をめぐ って若手助教授・講師層による批判が行われ、また助手の学部会(教授会に助教授・講師 が加わった会議)参加などのいわゆる「教授会への一本化」とか「教授会の民主化」の要 求が強まっていた。こうした動きは各学部の個別の事情とも絡まって、すべての学部に共 通する問題として突きつけられていたと言ってさしつかえない。「教授と教授会がいくら権 威を振りかざしても、こと学生問題に関しては対応・解決能力に欠け、若手教官の力に依 拠せざるを得なかった。このことが学長・評議会だとか教授会の権限を見直す大きな学内 世論を生み出した」。これは当時の「大学問題」と学内状況をふり返る時、異口同音に語ら れる言葉である。

しかしながら、難問に直面しその個別状況打開のためだけに行われようとする「上から の改革」に対して、若手教官のなかには疑問視する声や消極的対応も見られた。特に一部 の教授層によって構成される評議会とそのもとの委員会活動に、当初は大きな期待は必ず しも全学的には成立していなかった面も指摘できよう。

委員会の設置と活動の概要

1969(昭和44)年10月22日第272回評議会議事録のその他の事項の内、大学構造委員 会についてという項目中に「学長の諮問機関として大学構造委員会を設置することを承認。

委員は各学部、教養部、がん研究所からそれぞれ1名計8名とする」とある。しかし、委 員会設置の背景や各学部の対応などについての説明は一切記されていない。前述したよう な金沢大学としての「大学問題」に関する認識が当然あったと思われるが、関連資料中に もうかがうことはできない。しかし、発足した大学構造委員会(本節では、以下委員会と 略)ではまず任務だとか問題の所在について協議が行われたようで(第1回1969年12月 15日〜第10回翌5月8日まで)、次の表5−32のような確認が行われた。

資料について、少し解説しておこう。委員会は学長の諮問機関となっているが、検討結 果を評議会に提案するよう規程されている。学長とは具体的には第3代の中川善之助学長

であった。そして「任務」として金沢大学の将来計画とともに、「当面の問題」も検討対象 で、その意味では当時の大学が抱えていた諸問題の全面的な解明が期待されていたわけで ある。その具体的な内容は次の3項目目の「問題の所在」という10項を見れば明らかで、

特に当時懸案の1つだった学長と評議会の関係、教授会の位置付けの問題など検討テーマ が明示されている。また大学院問題を含むところの教育問題も、大きな課題であったこと がわかる。このなかから「管理運営の問題」と「カリキュラム問題」が緊急検討項目とさ れ、それに「入試制度に関する問題」もやがて主要項目につけ加わった。さらに、各問題 別に専門委員会の設置が求められてもいる。

この委員会が10回の会議を積み重ね、半年間かけて形成したこの確認事項は、1970

(昭和45)年5月18日の第279回評議会で承認されている。

総じて見るならば、新制大学として発足後20年の段階で、金沢大学が大学として見直さ なければならない課題の認識状況をうかがうことができる。しかし、残念ながらその前提 にどのような現状理解があったのか、別の表現でいえば、学内における矛盾・問題点をど のように感じていたか不明である。また具体的にどのような意見交換がなされ、また各学 部の実際の対応と各学部のなかでの受け止め方などを知る手がかりは、文書資料としては 残されていない。

ところでこの委員会と各専門委員会の活動は1970年代前半の時期を中心として展開し、

いくつかの重要な中間報告をまとめている。そして1976(昭和51)年10月発足の将来計 画検討委員会に引き継がれていくことになるが、それを含めた活動の全容を次の図5−6

表5−32 大学構造委員会準備案

委員会の性格 委員会は学長の諮問機関とし、学長は委員会の発議を評議会に提案し審議に付する。

委員会の任務 長 期 計 画 大学の組織・管理・運営・研究・教育に関する問題の検討。

当面の問題 当面改革を要する問題の検討(別に専門委員会を作る。

専門委員会間の連絡、各学部・教養部・研究所の構造委員会間の連絡調整(まず当面の問 題に重点をおく。

問 題 の 所 在 1 大 学 の 理 念 本委員会及び専門委員会は常に検討し長期計画に備え成熟させてゆく。

② 管理運営の問題 大学運営に関する決定機関と執行機関を検討する。(当面学長・評議 会及び部局長会議の性格並びに評議会と各学部教授会の関係を検討)

3 学 挙 (次回の選挙は来年7月)

4 研 究 教 育 組 織

5 教 官 の 身 分 制 (助手問題を含む)

⑥ カリキュラム問題 当面一般教育と専門教育のあり方を検討し、教科と教官の相互乗入れ を研究する。

7 学

8 大 学 院 問 題 9 研 究 所 問 題

⑩ 入試制度に関する問題

専 門 委 員 会 問題別に専門委員会を設け、原則として各部局1名他には構造検討委員2名を加えて構成する。

委員会の性格は構造検討委員会に準ずる。

了 解 事 項 専門委員会は遂次発足することとし、まず2、6の問題から始めるべきである。

管理運営の問題専門委員会

○設置

第279回評議会(45. 5.18開催)

○審議状況

第1回委員会(45. 7. 3開催)〜

第41回委員会(47. 8. 7開催)

○報告状況 右頁参照

カリキュラム問題に関する専門委員会

○設置

第279回評議会(45. 5.18開催)

○報告状況 右頁参照 入試制度専門委員会

○設置

第279回評議会(45. 5.18開催)

○報告状況 右頁参照

……金沢大学入学者選抜方法研究委員会

大学院問題専門委員会

○設置

第320回評議会(49. 3.16開催)

○報告状況 右頁参照 大学院に関する専門委員会

○設置

第353回評議会(52. 3.17開催)

大学院問題専門委員会を移行

○廃止

第418回評議会(58. 2.18開催)

○報告状況 右頁参照

総合大学院設立準備委員会

○設置

総合大学院設立準備委員会要項

(学長裁定)を制定(57.10.22)

管理運営に関する小委員会

○設置

第304回評議会(47. 9.22開催)

○審議状況

第1回委員会(48. 5.18開催)〜

第14回委員会(49. 3. 2開催)

○報告状況 右頁参照 大学構造委員会

○委員会の設置

第272回評議会(44.10.22開催)

○専門委員会設置の答申 第279回評議会(45. 5.18開催)

(第1回委員会開催:44. 12. 15)

将来計画検討委員会

○委員会の設置

第348回評議会(51.10.22開催)

総合大学院構想検討委員会

○委員会の設置

第421回評議会(58. 5.20開催)

○総合大学院構想検討委員会要項を制定

(58. 5.30開催)

○学長の諮問機関

総合大学院設立準備委員会 自然科学系実務委員会

○設置

総合大学院設立準備委員会自然 科学系実務委員会要項(学長裁 定)を制定(57.10.22)

総合大学院設立準備委員会 人文・社会科学系実務委員会

○設置

総 合 大 学 院 設 立 準 備 委 員 会 人 文・社会科学系実務委員会要項

(学長裁定)を制定(59. 6. 1)

図5−6 大学構造委員会・将来計画検討委員会の活動概要

a

b

c

d

e

f