表1 特養の施設基準
65才以上で,身体上又は精神上著しい障 害があるため常に介護を必要とする人 対象者
自宅での適切な介護を受けることが困難 な場合
入所条件
医師 1名(非常勤可)
介護職員 22名 看護婦 3名
その他 生活指導員,機能回復訓練指導員 スタッフ
(入所者100 名に対し)
□□ 特集 薬剤師の役割を考える □□
ある看護職員の数も少ないため,看護職員の夜勤 体制が多くの施設では整っていない。このために,
夜間は医療関係のスタッフが全くいない状況が毎 夜繰り返されている場合が多い。
来年度施行される介護保険制度では,各施設に 支払われる介護報酬は,現在自治体から支払われ ている措置費に比べ減額されると予想さており,
そのしわ寄せとして施設の全人件費を抑制せざる を得ない状況になるだろうと考えられている。こ のために,医師を特養に常駐させること,さらに 看護職員や質の高い介護職員の確保は益々難しく なるものと思われ,これは介護の質の低下を招く と懸念されている。
特養は医療の場でなく,生活の場であるといわ れていても,入所しているほとんどの高齢者は何 らかの疾病を持っている。このため,生命維持の ためには薬物療法は欠かすことの出来ない重要な 治療手段とならざるを得ない。このためほとんど の入所者は医薬品を服用している。また,特養で の,薬物療法業務は,医師の指示により原則的に 看護職員を中心に行う医療行為であると考えられ ている。この薬物療法業務の範疇にはいる服薬介 助に関し, 介助を経験したことがありますか?
と介護職員の方々に質問したところ,我々がアン ケート調査を行った都内の7施設,103名全員の 介護職員が経験したことがあると回答した。本来,
服薬の介助は医薬品の知識を駆使して行うべき行 為であり,特養における医師以外の唯一の医療従 事者である看護職員の仕事であると考えるなら ば,介護職員は,服薬介助は行ってはならないこ とになる。
家庭看護行為 という用語がある。家庭の中 では,看護が必要な家族に対して,その家の誰か が看護婦に代わり,医師の指示のもとに行う看護 業務行為である。保健婦助産婦看護婦法第37条に よれば,与薬業務は医師の指示のもとに,看護婦 が行う看護行為の一つであると規定されている。
この規定によれば,介護職員による服薬介助は,
法律違反となる。しかし,特養は,その定義から,
家庭での介護が困難な高齢者が入所対象者であ り,家庭に代わって介護を受ける場所である。こ
介護職員の服薬介助に対する不安
のため,特養で入所者の介護をする人,つまり介 護職員は家族の代わりであると考えられる。介護 の専門家である介護職員が,入所者である高齢者 の服薬介助をする行為は,家庭看護行為の一部で あり,ある意味では問題のない行為となる。現場 の看護職員に話を聞く機会があり,介護職員の服 薬介助の実態について質問したところ,出来るだ け服薬介助はやらないようにと指示は出すが,現 実には勤務看護職員の数が少ないために,介護職 員に任せてしまうとのことであった。
我々がアンケート調査した特養7施設のうち,
看護職員が夜勤をする施設は1施設のみであっ た。この夜勤体制のある施設においても,看護職 員の夜勤日は週2日であり,毎日ではなかった。
全国的にも,看護職員が常時夜勤をする施設は少 ないことが報告されており3),夜間は介護職員が 看護職員に代わり,介護業務以外にも,服薬介助 ばかりでなく与薬業務も行わざるを得ない場合が ある。図1は, 夜勤時の与薬に不安を感じたこ とがありますか と介護職員に質問したその回答 結果である。不安を感じたことがあると回答した 職員は76%もあった。この場合,当然看護職員と は電話連絡などでその指示を仰ぐとのことである が,やはり不安感は拭い去れないため,この様な 結果を示したものと思われる。
図2は 入所者が服用している薬について,そ の情報を知りたいと思いますか? という介護職 員への質問に対し,全員が知りたいと回答した結 果である。また,図3に示したように, 入所者 から,薬について質問されたことがありますか?
という設問に対しても,6割の介護職員が質問さ れたことがあると回答した。この様な結果は,何 を意味しているのだろうか?
施設において, 一番身近な存在は誰ですか?
ともし仮に高齢者に質問したら,間違いなく介護 してくれる人,つまり介護職員であると答えてく れると思う。毎日の生活を共にし,身の回りの世 話をしてくれる人は,入所者である高齢者にとっ ては,家族同様であり,非常に身近な存在となる はずである。この様な存在の人がそばにいたら,
薬を飲むとき,どうするだろうか? この薬は 何なの? , 何に効くの? などのような質問 をするかもしれない。この状況下で,介護職員は
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どの様に対応するかは明確ではないが,不安を感 じつつも,適切な返答をしているかもしれない。
また,心ある介護者ならば,間違いなく,もし薬 の知識があったらどんなに心強いかと,考えるか もしれない。
介護福祉士という資格があることは,既にご存 知だと思う。この資格は, 名称独占 であり 業務独占 ではない。介護には資格は必要ない のであるが,介護職の質の向上を目的に,昭和62 年に制定された介護福祉士法によりできた国家資 格の一つである。この資格は,介護福祉士養成施 設の卒業者は無試験で与えられる。また,3年以 上の実務経験を積んだ人が国家試験を受験し,合 格した場合に取得できる。しかし,国家試験科目
や,養成施設の指定科目の中には残念ながら,医 薬品教育に関する科目はないため,介護福祉士の 資格を持った人が,薬についての知識を学ぶ機会 は全くない。アンケート調査の中で, もし薬に ついての勉強会があったら参加してみたいと思い ますか? と質問したところ,図4に示したよう に,9割の介護職員が参加してみたいと回答した ように,多くの介護職員が医薬品の知識を欲しが っていることが判った。介護職員のための,民間 団体主催による研修会の研修項目のなかに,医薬 品についての内容が含まれていた。これは,現場 で働く介護者の医薬品に対するその知識の習得意 欲があったからこそ行われたものであり,医薬品 は介護職員にとっても重要な 介護補助用品 の
質問されたことがある 63%
質問された ことはない
36%
無回答 1%
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図3 入所者からの薬について質問されたことがあり ますか
参加したい 91%
参加したいとわ 思わない
7%
無回答 2%
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図4 薬についての勉強会があったら参加してみたい と思いますか
知りたくない 0%
知りたい 100%
図2 入所者が服用している薬について,その情報を 知りたいと思いますか
不安を感じた ことがある
76%
不安を感じた ことはない
22%
無回答 2%
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図1 夜勤時の与薬に不安を感じたことがありますか
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一つであると言っても過言ではない。
筆者らは東京都内の特養10施設に直接出向き勤 務看護職員に,特養で扱われている医薬品につい てその現状について直接聞くことが出来た。但し この10施設のうち,アンケート調査を行った特養 と重複した施設は5施設であつた。
特養における医師以外の唯一の医療スタッフで ある看護職員は,施設内での医薬品の管理を行い,
入所者である高齢者への与薬業務と服薬介助を行 っていた。我々が調査した結果から,多くの看護 職員は医薬品の情報を欲しがっていることが確認 された。欲しがっている医薬品情報としては,
a副作用
b医薬品間の相互作用
c医薬品と食品との飲み合わせ d医薬品の保管方法
などであった。
では,この様な医薬情報を看護職員は,どこか ら得ているのであろうか?
①看護専門誌,薬の本,新聞などによる情報
②薬局薬剤師からの情報
③医師からの情報
などが主な情報獲得源であった。
薬の専門家でなく,看護の専門家である看護職 員にとって,薬に対する情報はそれほど必要とは しないのかもしれない。しかし毎日の業務として 医薬品と関わっているわけであるから,医薬品に 対する関心度はそれなりに高い。①のような能動 的な情報収集は,日常業務の合間に行うわけであ り,余り積極的ではないようである。一方②③の 様な受動的な情報は,決して多くはないが細々と 入ってくることが確認された。ここで問題となる ことは,②の薬局からの情報である。調査した10 施設のうち,医師が常駐しているために,施設内 に調剤室を備えていた特養は一箇所であり,その 他の9施設は全て保険薬局により医薬品は調剤,
搬入されていた。この9施設のうち,添付される 医薬情報提供文書以外の薬局から看護職員への最 低限の医薬情報(例えば,副作用や包装変更など)
提供があったのは6施設であり,残りの3施設で は薬局からの医薬情報提供は全くなかった。この
看護職員への医薬品情報は充分か?
3施設に医薬品を供給している薬局は,単に医薬 品を調剤し,それを搬入するだけの単なる調剤所 といえるような,程度の低い薬局であると考える。
また,6施設に情報を提供した薬局からの医薬情 報なども,決して満足の行くようなものではなく,
ありきたりの情報に過ぎないように思われた。
施設における,入所者への医薬品の服用方法に ついて質問したところ,ほとんどの施設で食事中 に食べ物と薬を混ぜて服用させていた。ある施設 では,薬を全て食前に服用させており,しかもこ の施設では服用前に全員に牛乳を飲ませていた。
「何故牛乳を飲ませるのですか」と看護職員に質 問したところ,胃を荒らさないために飲ませてい るとのことであった。そこで,「医薬品の中には,
牛乳と一緒に服用すると薬効が低くなるものもあ るのですが」と言ったところ,「へー」という溜 息ともとれるような答えが返ってきた。また別の 施設で,高齢者にとっては飲みにくいカプセル剤 を,どの様に服用させているか質問したところ,
カプセルを開封後,取り出した粉末を食事時に食 べ物に混ぜて服用させているとのことであった。
さらに,持続性の錠剤を,服用し易くするために 粉砕している施設もあった。以上のような事例は,
たまたま我々が出会ったものであるが,医薬品の 取り扱いに関し,高齢者のQOLを無視した極端 な例が沢山あるのではないだろうか。
薬剤師にとっては常識であっても,看護職員に はそうではない場合がある。もちろん,逆も然り ではあるが,薬剤師が情報を提供する場合,この ような状況を踏まえた上で看護する人たちに,正 確かつ判り易く伝達しなくてはならない。また,
薬剤師の自己満足的な,お仕着せの情報提供であ ってはならないことは,言うまでもない。
特養に薬剤師が居て欲しいですか? という 質問項目を,我々が行った介護者へのアンケート 調査の中に入れてみたところ,図5に示したよう な回答結果が得られた。つまり調査に協力してく れた約5割の介護職員は,薬剤師の必要性を認め ていないことを示している。薬の情報や知識は欲 しいが,そこに薬剤師の顔があまり見えないこと をこの結果は示しているのではないであろうか。
薬剤師は何をすべきか?