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高速道路網を活用した広島県経済の振興方策

 

1.基本的な方向性   

高速道路の利活用による地域振興の試みは,古くて新しい課題である。広島県内で東西軸 の高速道路の整備が進んだ 1980 年代中頃から 1990 年代中頃にかけての 10 年間は,平成バブ ルの崩壊に象徴されるように,わが国の社会・経済は大きな転換期を迎えつつあったが,そ れでも県内の人口は約3万人増加し,経済成長率も平均5%の高い水準を示していた。 

 

その頃の県勢の大きな支えとなったのが,県をあげての高速道路の活用を軸にした振興策 の積極的な取り組みである。山陽自動車道沿線では,エレクトロニクス関連の最先端工場や 試験研究機関などの立地が進展したほか,中国縦貫自動車道沿線では,国営備北丘陵公園の 整備など観光開発が活発化した。ただ,テクノポリス計画やリゾート法などに代表されるよ うに,それらの多くは,国が主導する画一的で,地域の独自性や創意工夫といった点にやや 欠けるものであったと考えられる。 

 

こうした中で,高速道路の利活用をめぐる環境は当時と大きく異なっている。沿線地域の 多くは,長引く景気低迷から財政状況は逼迫し基幹産業が低迷する中で,若者の流出に歯止 めがかからないため,総じて活力が低下している。 

その一方で,今回実施した,RAEM‑Light による経済効果の分析,アンケート・ヒアリング 調査,さらに九州地域でのヒアリング調査などを踏まえると,今後,高速道路がもたらすさ まざまな影響や効果を地域経済の振興に結びつけていくには,ネットワークの拠点となる都 市周辺の機能強化とそれによる沿線地域相互の交流という, 内発型 の振興方策とその実行 による成功体験の積み重ねが重要であると考えられる。 

 

そこで,「高速道路網を活用した広島県経済の活性化」に向けた基本的な方向性を次のとお りとした。

以下では,これらを実現していくために3つの具体策を提案する。 

      高速道路網を活かした都市の機能強化と沿線地域間の交流促進       

2.具体的な方策   

(1)高速道路のクロスポイントの機能強化   

第2章の尾道松江線および東広島呉道路の開通に伴う時間短縮の経済効果(主にモノの取 引拡大効果)によると,三次市や尾道市など東西軸と南北軸が交わるクロスポイントに位置 する都市で大きなプラス効果が期待できる。さらに,ヒトや情報の吸引効果も考慮すれば,

高速道路のメリットを早期かつ効果的に発揮するためには,地理的特性を活かしたクロスポ イントを形成する都市の機能強化を優先的に進める必要がある。 

なお,備北地域では,三次市(「三次市地域戦略プラン」2011 年7月),広島経済同友会備 北支部(「備北エリアの観光振興に関する提言」2011 年5月)など,尾道松江線の開通を見 据えた取組みが進められている。 

【具 体 策】 

① 広域的な集客機能の整備 <1時間エリアの集客をターゲットとする交流人口の拡大>

○魅力ある「道の駅」の整備

(備北地域では,地元農産品や山陰の海産物にこだわった品揃え等)

○本格的な「アウトレットモール」の誘致

(山陰や四国など南北の市場をターゲットにした市場展開等) 

② 新たな付加価値の創出機能の強化 <拠点性を活かした地域産業の再生> 

○既存産業の6次産業化

(備北地域での農産品のブランド化,特産加工品やB級グルメの提案等)

○新たな観光資源の発掘・PR

(尾道地域の神社・仏閣と連携したパワースポット観光等)

○地の利を活かした企業誘致活動

(設備の集約・拡張や災害時のリスク分散の受け皿等)

③ 高度サービス機能の拡充 <人流の広域化による高度サービスニーズへの対応>

○高度な医療・福祉サービス機能の拡充

(備北地域の市立三次中央病院や庄原赤十字病院,尾道市のJA尾道総合病院等)

○人材育成機関の拡充

(備北地域の県立農業技術大学校や県立広島大学等)

 

(参考)『備北エリアの観光振興に関する提言』(2011 年5月)の概要 

  広島経済同友会 備北支部では,中国縦貫自動車道の利便性を十分に活かしきれなかっ たという反省に立って,「尾道松江線の開通による広域交流圏の形成は備北地域が活性化 していくための最後のチャンス」として,備北エリアの観光活性化に向けてのビジョンを 提言している。 

  ◆備北エリアの観光推進組織体制づくり 

  ◆観光資源の創出(年間観光カレンダーの作成,人材の発掘,備北地域常設伝統文化  伝承館,農業・農村の資源活用による研修事業,グリーンツーリズムなど) 

 

(2)沿線地域における地域間交流の促進   

高速道路網の利活用の促進のためには,拠点となる都市の機能強化とともに,沿線地域に おける地域間交流が求められる。例えば,呉市は東広島呉道路のターミナルポイントとなり,

呉市内と広島空港が高規格道路で直結されることになる。尾道松江線の沿線地域では,尾道 市や福山市の県内主要都市や中・四国の拠点空港である広島空港への近接性が飛躍的に高ま ることが見込まれる。また,尾道松江線と東広島呉道路は新直轄方式等による無料区間であ るため,職住の機能分担等を担う日常の生活道路としての活用も期待されている。 

こうした中で,呉市では東広島呉道路につながる第二音戸大橋の建設,平清盛関連等の新 たな観光資源の開発などがみられる。また,尾道松江線の沿線に位置する世羅町では,イン ターチェンジ周辺における農産物の直売や若者・通勤世帯等の定住,せら夢公園・せらワイナ リー等による集客などによって地域間交流の拠点としての役割が期待されている。さらに,

沿線地域からの広島空港へのアクセス改善によって,山陰・四国との広域的な交流や外国人 観光客の集客(インバウンド)が促進するものとみられる。 

【具 体 策】 

① 地域間交流促進のための基盤整備 <高速道路の本来機能の活用促進> 

○インターチェンジへのアクセス道路網の整備 

(インターチェンジと一般道路や広島中央フライトロード等)

○都市を結ぶ高速バス網の整備 

(広島空港,出雲空港,新幹線駅との連携など)

② 沿線地域での定住促進機能の整備 <アクセス改善による地域間の機能分担> 

○若者・通勤世帯,高齢者向け住宅団地の整備・誘致 

(定住団地,二地域居住向け住宅,農園付住宅,サービス付き高齢者住宅等)

③ 地域間交流による地域産業の活性化 <広域的な連携による産業再生> 

○高速道路の結節点を活用した観光メニューの創出 

(呉市を拠点とする平清盛関連や産業観光,世羅地域の農業観光等)

○県域を越えた観光メニューの創出 

(島根県と連携した銀山街道,フルーツ・ワイン街道等の観光ルート化等)

○沿線地域の機能相互補完による産業集積の促進 

(広島空港周辺の新たな企業誘致,東広島市における産官学連携機能を活用した 産業集積の促進など)

(3)中枢都市広島の機能強化   

尾道松江線,東広島呉道路の整備を広島県の経済全体の活性化に結び付けていくには,県 内GRPの4割以上を占める広島市の役割が重要であると考えられる。また,今回の企業ア ンケートにおいても,島根県側では広島エリアとの取引の増加が期待され,広島市への期待 の大きさが示されている。 

こうしたことから,今後,広島市においては,尾道松江線の開通による,松江・出雲などの ターミナルポイントとなる都市圏と直接結ばれるプラス効果を発現させていくとともに,そ の他クロスポイントや沿線地域に対して支援のための新たな都市機能の拡充や整備が求めら れる。 

【具 体 策】 

① 中・四国を視野に入れた集客機能の強化 <沿線からみた市場としての魅力度アップ> 

○市内の大規模一等地を活用した賑わいの創出 

(旧広島市民球場,旧広島空港(広島西飛行場)などの跡地利用等)

○県内の特産品の情報発信の強化 

(県内の特産品の購入や飲食が可能な物産館の整備等)

② 高速道路網の整備に対応したターミナル機能の拡充 <沿線からのアクセス性の向上> 

○第2バスセンター・大規模駐車場の整備 

(候補地としては広島駅周辺や都心部等)

③ 広域交流の支援機能の強化 <沿線と連携した観光ルートの提案> 

○製造業の集積を活かした「産業観光」のメニュー 

○プロ野球,Jリーグなどプロスポーツとタイアップした観光メニュー 

○松江・出雲と原爆ドーム・宮島を結ぶ広域的な観光ルート化の促進 

 

広島市中心部にある旧広島市民球場跡地 

おわりに 

   

中国横断自動車道尾道松江線,東広島・呉自動車道では,2012 年にもそれぞれ吉田掛合 IC〜三刀屋木次IC間(2012 年 3 月),阿賀IC〜黒瀬IC間(2012 年 4 月予定)が開 通します。全線開通が間近に迫る中で,県内でも沿線地域の自治体を中心に高速道路網を 活用した地域振興を模索する動きが活発化してきました。 

こうした中で本委員会では,県経済の活性化において高速道路を使った地域連携が重要 になるという認識のもと,交通関係の専門家などを講師とする勉強会の開催のほか,九州 地域における先進的な取組事例,アンケートやヒアリングで把握した県内各地域が抱える 問題点・課題などについて調査・分析を行い,高速道路網を活用した広島県経済の振興方 策を取りまとめました。 

県内における現在の取り組みは,地域による温度差が大きいことに加え,観光分野以外 では他地域との連携という視点に欠けたものもあり,相乗効果が発揮しにくい状況にある といえます。このため,当該自治体間の連携はもちろん,県や中枢都市である広島市とと もに,行政区域を越えた活動を展開する企業など民間主体の役割が重要になると思われま す。 

今回提案した振興方策については,地域によって産業構造や保有する地域資源などが異 なっている点を考慮すると,さらに踏み込んだ検討が必要であるといえます。本委員会で は来年度(2012 年度),より具体的な振興方策について検討していきたいと考えております。 

本報告書が,広島県内の各地域において地域振興に取り組まれている関係者の皆さまの ご参考となり,ひいては県経済の活性化の一助になることを期待いたします。 

 

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