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九州地域における高速道路網を活用した地域振興

〜  佐賀県鳥栖市,大分県日田市などにおける取り組み事例  〜   

1.九州地域における高速道路網   

九州地域の高速道路網は,1971 年に九州縦貫自動車道の植木IC〜熊本IC(いずれも 熊本県)間の開通を皮切りに,順次整備が進められてきた。1996 年に九州横断自動車道長 崎大分線の玖珠IC〜湯布院IC(いずれも大分県)間が開通したことで,九州縦貫自動 車道と九州横断自動車道が十字型につながる「クロスハイウエイ」が完成した。また,1999 年には福岡都市高速道路と九州縦貫自動車道が大宰府IC(福岡県)で直結し,県庁所在 地がすべて高速道路で結ばれることになった。現在は,「循環型ハイウエイ」の完成を目指 し,東九州自動車道,西九州自動車道などの整備が進められている。 

                               

 

九州地域戦略会議が 2005 年にまとめた資料によると,「循環型ハイウエイ」の完成は以下 の整備効果や経済効果をもたらすと期待されている。 

             

(2005 年)クロスハイウエイ  (将来図)循環型ハイウエイ  図表 3‑1  九州地域における高速道路網整備 

資料:九州地域戦略会議循環型高速交通体系整備検討委員会「九州における循環型高速道路ネットワークの  整備効果」(2005 年6月) 

● 循環型高速道路の整備効果 

①  利用機会の拡大効果(高速道路の交通量は 34.4%増加/人口の9割以上がIC  30 分圏内に/製造業,小売業で9割,農業就業者の8割がIC30 分圏域) 

②  回廊性の効果(通過箇所数が大幅増/災害時の代替機能) 

③  最短経路選択の効果(時間短縮の効果/分散による交通円滑化/部品調達や外注 等の取引先が九州一円に) 

                 

2.高速道路網を活用した地域振興の取り組み事例   

(1)高速道路の沿線都市における取り組み 

①  佐賀県鳥栖市  a.鳥栖市の概要 

・もともと鉄道や主要一般道の分岐点に位 置する「交通の要衝」で,高速道路のク ロスポイントとなり,九州主要都市に3 時間以内でアクセス可能となった。特に,

福岡市には約 25 分で到達できることから,

同市のバックヤードとして機能している。 

・JR鳥栖貨物ターミナル駅の開業(2006 年),九州新幹線鹿児島ルートの全線開通 と新鳥栖駅の設置(2011 年)により,交 通結節機能は一層強化された。 

・交通アクセスの良さを活かして九州有数の 成長都市となり,現在も人口は増加してい

る。同市の発展に加え,九州域内の高速道路網の整備が進んでいることから,鳥栖I Cの利用台数は増加傾向で推移している。 

                       

資料:九州地域戦略会議循環型高速交通体系整備検討委員会「九州における循環型高速道路ネットワークの  整備効果」(2005 年6月) 

0 1 2 3

福岡 北九州 長崎 熊本 大分 鹿児島 宮崎

広島

25分 1時間 1時間25分

1時間 1時間30分 2時間30分 3時間15分

3時間30分

図表 3‑2  各都市からの所要時間 

(高速道路利用時) 

図表 3‑3  鳥栖市の人口推移 

資料:鳥栖市 

資料:総務省「国勢調査報告」

57,413 60,726 64,723 69,074

0 20,000 40,000 60,000

1995 2000 2005 2010

(人)

● 経済効果の測定 

①  走行時間の短縮効果(年間1兆 9,900 億円) 

②  走行経費節減効果(年間 1,024 億円) 

③  交通事故減少効果(年間 1,651 億円) 

④  環境負荷軽減効果(CO2福岡ドーム年間 360 個分削減) 

図表 3‑4  鳥栖ICの利用状況 

資料:西日本高速道路株式会社 250

300 350 400 450

02 03 04 05 06 07 08 09

(万台)

年度  流入  流出

b.産業振興,地域活性化に向けた取り組み 

・市制施行(1954 年)と同時に工場誘致条例を制定した。市内に5つの産業団地を整備 し,県と連携して積極的に企業誘致活動を展開している。 

・高速道路の結節点である交通アクセスの良さに加え,豊富な水資源,地価の安さ,最 先端の研究機関の集積(九州シンクロトロン光研究センター,産業技術総合研究所九 州センター)などを強みに,これまで 181 社と進出協定を締結した。現在も新たな産 業団地(鳥栖西部第二工業用地,新産業集積エリア)を整備している。 

・企業誘致の効果もあり,製造品出荷額は県内第1位(2009 年:約 2,790 億円)で,九 州有数の「内陸工業都市」に成長した。 

・内陸部では全国トップの保税蔵置場(28 ヵ所)を有する同市は,アジアを視野に入れ た「物流拠点都市」を目指し,アジアの玄関口となる空港や港湾など国際物流拠点を 抱える福岡市などと「グランドクロス広域連携協議会」を設置して,一体的な経済発 展に取り組んでいる。日本生活協同組合連合会(生協)のように,九州全域を対象と する流通センターを鳥栖市内に立地するケースもみられる。 

・市内には,鳥栖IC近くに年間 400〜450 万人が来場する鳥栖プレミアム・アウトレッ ト(詳細は後述)やサッカーJ1・サガ

ン鳥栖のホームスタジアムであるベス トアメニティスタジアム(収容能力:

24,490 人)など有力な集客施設が立地し ている。 

・九州新幹線・新鳥栖駅(JR長崎本線の 駅も併設)周辺では,観光拠点としての 機能強化を目指し,新幹線駅前としては 北部九州最大規模の観光バスプール(20 台)やパーク&ライド駐車場(650 台)

を整備している。九州初の重粒子線がん 治療施設であり,九州・中国以西および 東アジアからの集客を視野に入れた「九 州国際重粒子線がん治療センター」の建 設も進められている(2013 年春開設予 定)。 

・新鳥栖駅を起点とする東西方面への旅 よこたび九州 を提唱し,大分県,長 崎県などの自治体と連携して高速道路 やJR在来線を活用した観光ルートを 提案することで,より広域からの集客に よる観光振興に取り組んでいる。 

 

新鳥栖駅(上)と同駅前に建設中の  九州国際重粒子線がん治療センター

②  大分県日田市  a.日田市の概要 

・北部九州のほぼ中心,大分県の西部に位 置し,江戸時代に幕府直轄地・天領とし て西国筋郡代が置かれ,九州の政治・経 済・文化の中心として繁栄した。 

・2005 年3月,1市2町3村が合併し,現 在の日田市が誕生した。多くの地方中小 都市と同様,人口は減少傾向で推移して いる。 

・1990 年3月,九州横断自動車道長崎大 分線の朝倉IC(福岡県)〜日田IC間 が開通し,九州縦貫自動車道と直結した。

この結果,他地域への交通アクセスが向上し,福岡都市圏との時間距離は1時間程度 に短縮した(福岡IC:約 1 時間,大宰府IC:約 45 分,福岡空港:約1時間)。   

b.産業振興,地域活性化に向けた取り組み 

・歴史的な町並み(豆田町,隈町),咸宜園,日田温泉,天ヶ瀬温泉などの観光資源を有 し,観光産業は同市の主力産業であるため,市は観光振興策に力を入れている。 

・日田市の観光客数は,大分自動車道の全線開通(1996 年),サッポロビール九州日田 工場の開設(2000 年),大分自動車道の全線4車線化(2005 年)などにより増加し,

ピークの 2005 年度に 700 万人を超えたものの,その後は減少傾向で推移している。 

・高速道路を利用すれば福岡都市圏から1時間程度でアクセス可能であり,同都市圏か らの観光客が多い。宿泊者の発地別構成比をみると,福岡県が4割弱を占める。なお,

日田〜福岡間の高速バスは,15〜30 分間隔で運行している。 

・食(日田やきそば,ひたん寿司等)を活かした観光振興,旅行雑誌「じゃらん」と提 携し作成した冊子の福岡都市圏での配付といった情報発信にも取り組んでいる。 

                         

図表 3‑7  宿泊客の発地別構成比 

(2010 年度) 

図表 3‑6  日田市の観光客数の推移 

71,708 75,970

50,000 55,000 60,000 65,000 70,000 75,000 80,000

05 06 07 08 09 10年 3月末

(人)

図表 3‑5  日田市の人口推移 

資料:日田市 

509.9 712.5

698.0

0 100 200 300 400 500 600 700

03 04 05 06 07 08 09 10

(万人)

宿泊 日帰り

年度

関東 5.6%

中国 5.4%

北海道・

東北

1.2% 中部

2.4%

近畿 5.3%

四国 1.9%

外国 9.2%

その他 九州 19.5%

大分

12.0% 福岡

37.5%

資料:日田市 資料:日田市

・九州新幹線の開通で,関西や広島方面からの観光客増加を期待し,大分自動車道でつ ながる鳥栖市と連携した「よこたびルート(新鳥栖駅観光情報ネットワーク連絡会)」,

福岡県朝倉市,大分県九重町などと連携した「筑後川上流域ルート(筑後川上流域観 光圏協議会)」をはじめ,8つのルートで広域観光連携の活動(八街構想)を展開して いる。 

・主力産業の一つである農林業は,停滞気味である。こうした中で,日田市にある2つ の農協(JAおおいた日田事業部,大分大山町農協)は,それぞれ福岡市(5店舗,

2店舗),大分市(7店舗,3店舗)などに産直店を開設。高速道路を利用して新鮮な 農産物を提供することで,新たな販路開拓に取り組んでいる。 

 

(2)集客施設における高速道路の活用 

①  鳥栖プレミアム・アウトレット(佐賀県鳥栖市) 

・2004 年にオープンした九州最大のアウトレットモールで,設置者であるチェルシージ ャパン社が,九州の高速交通網の中心である点を評価して鳥栖市への進出を強く希望 した。鳥栖市は,地元雇用など経済波及効果などが期待できることから,もともとは 工業用地として鳥栖IC近くに整備した鳥栖北部丘陵新都市への立地を認め,進出が 決定した。 

・開設時の規模は,店舗面積:16,309 ㎡,店舗数:101 店であったが,2007 年,2011 年 に増設し,現在は店舗面積:26,202 ㎡,店舗数:139 店まで拡張している。 

・鳥栖ICに近接する優位性を活かし,九州地域を中心に年間 400〜450 万人を集客して いる。福岡からは週末に高速道路経由の直行バスが運行しており,福岡県と地元佐賀 県からの来場者で全体の6割を占めている(長崎県,大分県,熊本県からもそれぞれ 1割程度集客)。 

・高速道路等を使った自動車での来場に対応するため,大規模な駐車場を整備している。

開設時に 1,903 台であった駐車台数は,その後の施設増設に併せて 2,758 台まで拡張 している。 

                   

鳥栖プレミアム・アウトレット 

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