第 3 章
絶縁油中アークの特性
3.1 まえがき
本章では,絶縁油中アークによる圧力上昇現象の解明に踏み出すため,まず は,高速度カメラで観察した容器内部の画像を示す。続いて,この分解ガスに 関連する絶縁油中アークの特性として,単位ギャップ長あたりのアーク電圧,
気相の定常的な圧力上昇値から算出した単位アークエネルギーあたりの分解 ガス発生量,実験後に採取した分解ガスの組成分析の結果(分析そのものは 外部機関で実施)を示すとともに,先行研究における報告と比較する。これ により,本研究で確認された現象や結果が変圧器などの実設備を対象とした 先行研究と大きく異なるものではないことを示す。また,先行研究で明確と なっていない次章以降の考察や現象解明などの成果が,実設備に適用できる 可能性のあることを示す。
Fig. 3.1
に示す。Fig. 3.1
の各画像は,左から右へ,上から下へ時刻が経過しており,基準とした時刻
0 ms
は,対向する電極間にアークの光が確認できた最初の画像であ る。また,同図の画像において,明度の高い格子状の部分は,カメラ対向の 観察窓から投光しているランプの光が撮影されており,アーク発生前には電 極がこの光を遮ることで,黒い影として映っている。さらに,アーク発生後 は,電極間の球形の黒い影の部分がアークで発生した分解ガスを示している。なお,時刻
1
〜3 ms
程度までは,アークの光によって,分解ガスの内部はわ ずかに明るくなっている。このように,絶縁油中アークで発生する分解ガス は,周囲へすぐに拡散することなく,電極間で球形状となっていることが分 かる。このため,本論文ではこれを分解ガス気泡,あるいは単に気泡と表現 している。次に,時系列で気泡の変化を確認していくと,電極間にアークが発生した
1 ms
後には気泡が確認されており,この内部でアークが継続していることが分 かる。この気泡は,球形状を保ったまま膨張を始め,アーク消滅の10 ms
程 度まで膨張は続いている。さらに,この膨張した気泡は,浮上することなく,電極間に留まり,時刻
10
〜14 ms
にかけては,気泡の収縮する様子が確認で きた。その後,14
〜400 ms
の画像では,徐々に球形が崩れ,周囲へ拡散する とともに,ゆっくりと上部の気相側へ浮上していく様子が確認された。以上,本節では,絶縁油中アークで生じた分解ガス気泡を高速度カメラで観 察し,その気泡挙動を画像で示した。その結果,アークは発生直後から分解 ガス気泡で覆われること,また,気泡は膨張・収縮の挙動を示すことが確認さ れた。このような気泡挙動については,水中アークによって発生した気泡挙 動を対象とした報告がなされている
[1]
。この報告では,気泡挙動は,気泡の 内部エネルギーと水の慣性によるものとしている。すなわち,発生初期の気 泡は比較的高い内部エネルギーを保有し,急速に膨張していく。気泡の膨張 により,気泡の内部エネルギーは周囲液体の運動エネルギーに変換され,こBubble expansion
Bubble contraction
0 ms: Arc ignition 1 ms 2 ms
Before
Bubble
3 ms 4 ms 5 ms 6 ms
7 ms 8 ms 9 ms 10 ms: Arc extinction
11 ms 12 ms 13 ms 14 ms
60 ms 110 ms 160 ms 400 ms
Bubble diffusion
(a) Observation of bubble by high-speed camera in No. 5 (peak current: 1.4 kA, arc duration: 9.2 ms) Electrodes
Fig.3.1 Observation of bubble behavior by the high-speed camera.
の運動エネルギーを得た液体は慣性によりさらに運動を続けるため,気泡は 過膨張状態となる。この過膨張した気泡の内部圧力は,周囲の液体に比べ低 圧となることで,液体はそれまでとは逆方向に低圧となった気泡へ流入を開 始するため,気泡は収縮するとしている。したがって,この報告によれば,気 泡挙動は周囲の油の流動による影響を受けていることとなる。
なお,著者が調べた限り,絶縁油中アークを対象とする気泡の膨張・収縮 画像を示す文献は見受けられなかった。次章の圧力上昇の考察では,これら の画像に基づいて各時刻における気泡体積を推定することで,気泡と気相圧 力上昇の関係を示す。また,
1.2.4
節で述べたように,このような気泡挙動に ついては,様々な分野でRayleigh–Plesset
の式によって検討がなされている。そこで,後述するように本研究のモデルにおいても,