結果と考察
研究 1 項目プールの作成と Web への実装
方 法
対象児 適応型検査は受検者の反応に応じて最適な困 難度の項目を出題していく。そのためには,多くの問題 をあらかじめ用意し,それぞれの項目について困難度な どの項目パラメータを定めておく必要がある。ただし,
全ての問題を同一の対象児に実施してパラメータの推定 値を求めることは受検者の負担が大きく実質的には不可 能なので,問題をいくつかの版に分け,別々の対象児に 実施した。本研究では,小学校1〜3年生を対象にした 問題作成と,幼稚園年少〜年長児を対象にした問題作成
の二段階に分けて行われた。
小学生調査では,比較的難易度が低いA版(43課題)
と,難易度が比較的高いB版(42課題)を用意した。2 版のデータを等化によって比較可能にするため,後述す る8種類の問題タイプそれぞれ数課題ずつ,計18課題 については両版で共通のものを用いた。A版は1年生 109名と2年生のうち73名に施行し,B版は2年生45 名と3年生82名に施行した。対象児は都内公立小学校 の児童であり,調査への参加にあたっては学校を通じて 保護者に協力依頼を行った。
幼稚園児調査についても2つの版(C版,D版)を 用意し,対象児によっていずれかの版を実施した。各版 は42課題からなっていた。このうち12課題は両版に共 通であった。共通の課題は,後述する12種類の問題タ イプのうちの7種類1)から各1課題と,小学生版から 5課題2)が選ばれた。これら共通の課題は,データの等 化のために用いられた。対象児はC版が年少児・年中児・
年長児それぞれ41名,46名,46名,D版がそれぞれ 39名,47名,39名であった。対象児は大阪府内私立幼 稚園児であり,園を通じて保護者には調査協力の依頼を 行った。
課題 小学生については,文法・談話の能力として想 定した4領域から,機能語の課題として「格助詞・係助 詞」「助動詞」「接続詞・接続助詞」を,その他の閉じた 類の語として「直示表現」「副詞」を,複雑な構文として「授 受動詞など(視点)」を,そして複数の文の照応関係に 関する課題として「情緒的意味」「契約的意味」の計8
Table 1 小学生向けに作成された文法・談話検査課題の例
領域 課題例 選択肢
格助詞・係助詞 かぜ( )ぼうしを ふきとばしました。 を が に
助動詞 こぐまは さかなを( )ました。 おいかけ おいかけられ おいかけさせ 接続詞・接続助詞 あめがふってきた( )ゆっくりあるいてかえりました。 から けど ので 直示表現 「あたらしいふでばこだよ。」
「( )は どこで かったの?」 これ それ あれ
副詞 たろうくんは( )あそぶのを やめません。 まだ もう やっと
授受動詞など(視点) わたしは はなこさんに たすけて( )。 くれました あげました もらいました 情緒的意味 なかなか やまの うえまで たどりつけません。
おとうさんは( )とげんきづけました。 もうおりよう もうすぐだ もうやすもう 契約的意味 ともだちからだいじなけしごむをかりました。
( )かえすと やくそく しました。 かならず たぶん けっして 注.問題は絵と同時に提示するので,選択にあたって曖昧さはない。
1)用いられた7種類の問題タイプは,「多要素結合文」「比較表現」
「中央埋め込み型」「左分枝型」「XだけでなくYも」「XだがYは 違う」「XもYも違う」であった。
2)小学生の結果も考慮した上で,「格助詞・係助詞」から2課題と,
「授受動詞」から3課題を選択して用いた。
種類の問題タイプを選択し,それぞれについて課題を作 成した。予備調査を実施して学年ごとに正答率の一貫し た上昇が見られない課題などを外し,新たに課題を加え,
合計67課題を作成した。各タイプの問題例をTable 1に 示す。各課題は,文の一部を三者択一方式で選択させる ものであり,すべての課題にイラストを添付した。イラ スト付きの問題例をFigure 1に示す。
幼児を対象とした課題は,小学生用の課題および,
J.COSS (中川ほか,2005)を参考にして,機能語のグ
ループとして「格助詞」,その他の閉じた類の語として
「数詞」「位置詞」,複雑な構文として「授受動詞」「受 動文」「多要素結合文」「比較表現」「中央埋め込み型」「左 分枝型」「XだけでなくYも」「XだがYは違う」「Xも Yも違う」の計12種類の問題タイプから,合計67課題
を作成した。なお照応関係に関する課題は,複数の文の 処理が必要となるため幼児には難易度が高いと判断し,
幼児版では作成しなかった。各タイプの問題例をTable 2に,イラスト付きの問題例をFigure 2に示す。
小学生を対象に作成した課題と幼児を対象とした課題 で大きく異なるのは回答の方式である。幼児対象の課題 については,まだ読みを習得していない子どももいるこ とを考慮し,選択肢として絵を提示し,その中から選ぶ 形式とした。
実施手続き 小学生についてはクラスごとに集団で実 施し,調査者が問題文をひとつずつ読み上げ,3つの選 択肢の中から選ばせる形式で行った。幼児については,
問題文を調査者が読み上げ,対象児が絵で提示された4 つの選択肢の中から1つを選ぶ形式で,個別に行われた。
Figure 1 ATLAN 文法・談話検査の問題例(小学生向け)
(かっこ内に当てはまる語を下から選択する。た だし,図はATLANとして実装された際の問題例 であり,問題プールの作成段階で用いられた問題 冊子のレイアウトはこれとは少し異なっている。)
Table 2 幼児向けに作成された文法・談話検査課題の例
領域 課題例
格助詞 女の子を馬が押します
数詞 猫が3匹います
位置詞 三角は四角の中にあります
授受動詞 お母さんが女の子からプレゼントをもらいます 受動文 女の子が男の子に起こされます
多要素結合文 イスに座っている女の子が泣いています 比較表現 猫が2番目に速い
中央埋め込み型 箱はボールの上にあって小さい 左分枝型 三角の中にある丸は黒い XだけでなくYも コップは小さいだけでなく黒い XだがYは違う 犬は大きいが黒くはありません XもYも違う 男の子は歌っても立ってもいません
注.課題は問題文を提示し,4枚の絵の中から当てはまるものを選択させた。
Figure 2 ATLAN 文法・談話検査の問題例(幼児向け)
(問題文に当てはまる絵を下から選択する。ただ
し,図はATLANとして実装された際の問題例で
あり,問題プールの作成段階で用いられた問題冊 子のレイアウトはこれとは少し異なっている。)
ᴥȗȿᴦȟˢႭᴥȗȴɃɦᴦᣱᴥɂɗᴦȗ ȟɦɃȶȹɂȪȶȲᴥǽǽᴦɑȾȕȗɑȪȲǿ
ɁȺ Ȥȼ ȕȻȺ
結果と考察
対象児の項目への反応について正答を1,誤答を0と して得点化し,版ごとにデータをまとめ,項目間の四分 相関係数を用いた因子分析(ミンレス法)を行った。計
算にはTESTFACT4を利用した。その結果,第1固有値
が第2固有値と比べ,4版の平均で4.2倍大きいことか ら,一次元性を仮定することができると判断し,次の項 目反応モデルによる分析を進めた。項目反応モデルの分 析では,全ての版のデータをまとめ,対象児が解答して いない版の項目に対する反応を欠測値として扱い,多集 団項目反応モデル(2パラメータロジスティックモデル)
を利用して項目パラメータを推定した(Bock, Thissen, &
Zimowski, 1997)。計算にはBILOG–MG3を利用した。想 定した母集団の構成は,幼稚園児・小学生低学年(1〜 3年生)である。通過率(.02以下ならびに.98以上を削 除),項目とテスト得点との双列相関係数(–.1未満を削 除),項目特性曲線のデータとの当てはまり程度と問題の 適切性を考慮し,最終的に128項目を項目プールとした。
各項目について求められた困難度・識別力に基づき,
それぞれの対象児について能力値の推定を行った。推定 値の学年ごとの平均をTable 3に示す。尺度の数値は,
小学校2年生の成績の平均がおおむね0に,標準偏差 がおおむね1となるようにして構成されたものである。
Table 3から明らかなように,ほぼ直線的に成績は上昇
しており,本検査で測定する文法 ・ 談話の能力はこの年 齢範囲の中では毎年着実に高まる能力であると考えるこ とができる。なおATLANへの実装に当たっては,この ままの数字では直観的に理解しにくいので,小学校1年 生の平均が50点になるように変換して表示するように した。
また,幼稚園児用の問題は4肢,小学生用の問題は3 肢と選択肢の数が異なり,子ども達が当て推量で答えた 場合に両版の正答率に違いをもたらす可能性が考えられ た。そこでそれぞれの版について,成績下位の者の,困 難度の高い問題についての正答率を確認することによ り,当て推量による解答が行われていたかどうかの確認 を行った。まずそれぞれの版(小学生用のA版・B版,
幼稚園児用のC版・D版)について,解答した対象児 ごとに合計点を算出して標準化を行った。次に,それぞ れの版について困難度の高い方から10問を選択し,標 準得点が下位の者(おおむね下位5%を基準とし,標準
得点が–1.75未満の者を抽出した)について正答率を算
出した。こうした手続きで算出された成績下位者の正答 率は,幼稚園児用(C版・D版の合計)で15.0%(18 / 120),
小学生用(A版・B版の合計)で24.1%(27 / 112)であ り,いずれもチャンスレベル(幼稚園児用が0.25,小学 生用が0.33)よりも有意に低かった(二項検定による)。
したがって幼稚園児用・小学生用とも,成績下位の者で あっても当て推量による解答を行ってはいなかったと考 えられるので,選択肢の数による正答率への影響はない と判断された。
次に,問題タイプごとに困難度の平均と標準偏差,識 別力の平均と標準偏差を求め,困難度の平均値の低いも のから高いものへ並べた(Table 4)。本研究では,機能 語,閉じた類の語,複雑な構文,および照応関係の4 領 域それぞれについて複数の問題タイプの課題を用意した が,同じ領域であっても問題のタイプによって難易度は 異なっていた。機能語では「格助詞・係助詞」「格助詞」
「助動詞」の難易度はだいたい等しく問題タイプ全体の 中では中程度の難易度である一方で,「接続詞・接続助詞」
の難易度は高くなっている。機能語以外の閉じた類の語 では「位置詞」の難易度が低く,「直示表現」の難易度 が高かった。複雑な構文の問題タイプは全体的に難易度 が低いが,その中では「中央埋め込み型」の難易度が比 較的高い。また,照応関係に関しては2種類の問題タイ プを用意したが,「情緒的意味」は比較的難易度が低く,
「契約的意味」は難易度が高い問題になっていた。
また,問題形式は異なるが両群に共通する課題として 作成された「格助詞」と「授受動詞」の困難度について は,若干異なる結果が得られた。「格助詞」の方は幼児 向けの課題と小学生向けの課題とで難易度に大きな違い は見られなかったが,「授受動詞」に関しては,小学生 対象に作成された課題の方が難易度は高かった。「授受 動詞」に関しては,幼児版のように問題文に応じて適切 な絵を選択する場合と,小学生版のように文脈に応じて 適切な語を選択する場合では,後者の方が子ども達に とってはより困難であると考えられる。
一方識別力については,0.274〜0.989の範囲であり,
平均は0.601であった。ちなみにATLANに現在実装さ
れている語彙検査の項目の識別力の平均は0.672,漢字
検査は0.832であり(高橋・中村,2009),本研究で作
成された文法・談話検査の識別力の平均はこれらよりは 低くなっている。識別力の高い項目は困難度付近の能力 値を詳細に区別して測定できることを表している。すな わち,識別力が高い項目が多ければ,その検査の物差し Table 3 ATLAN文法 ・ 談話検査の学年別の平均
人数 平均 標準偏差
年少児 80 –2.976 0.591
年中児 93 –2.061 0.722
年長児 85 –1.445 0.740
1年生 107 –0.435 0.994
2年生 117 0.116 0.893
3年生 82 0.402 0.938