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考   察

ドキュメント内 江村 早紀 大久保 智生 (ページ 30-47)

本研究では,発達障害児の保護者の養育スタイルの特 徴を明らかにすることを目的とした。まず,子どもの学 年を考慮したうえで,定型発達児の保護者との比較を 行った。全般的に,定型発達児の保護者に比して発達障 害児の保護者は,肯定的働きかけや相談・つきそいが低 く,叱責や育てにくさ,対応の難しさが高かった。発達 障害児は,対人面・情緒面・行動統制・運動機能・感覚 への過敏さなど,その特性から定型発達児とは多くの点 で異なるため,保護者は日常の養育においてより細心の 注意や対応を継続的に求められる。そのために発達障害 児の保護者に強いストレスが生じやすいことが報告され ている(Holroyd & McArthur,1976; Mugno et al,2007;

坂口・別府,2007; 田中,1996; 渡邊ほか, 2006;山根,

2009)。Crnic, Gaze, & Hoffman(2005) は, 母 親 の ス トレスやいらだちが子どもに対する笑顔や笑いかけなど の肯定的な働きかけに影響することを明らかにしてい る。ストレスが介在する形で肯定的に関わることが難し く叱責する機会が多くなると同時に,育てにくさや対応 の難しさを感じているものと考えられる。発達障害児の 保護者の養育スタイルの特徴の背景には,このような育 児ストレスの強さが関わっている可能性が考えられる。

特に育てにくさについては,学年を通じて平均値差の効 果量が非常に大きく,発達障害児の保護者は子どもが小 さい時点から,継続的に育てにくさを感じていることが 推察される。その一方で,発達障害児の保護者において は,相談・かかわりにおいても定型発達児の保護者と比 較して低かった。定型発達の保護者とは異なり,子ども のことについて気軽に友人や親類・近隣などに相談でき ないといった要因や,実際的な情報源としても非専門家 的なからは満足なサポートを得られない,とった実情を 反映していると考えられる。ただし,高機能ASD児を もつ保護者では,療育機関の利用があるほど親の負担感 が低く,友人といったインフォーマルなソーシャルサ ポートの存在がストレス軽減に貢献していることが報告 されていること(宋・伊藤・渡邊,2004),夫婦間のサ

ポートや他の家族成員の養育上のサポートがメンタルヘ ルスの向上に影響を与えていること(Sharpley, Bitisika,

& Efremidis, 1997)などから,相談・かかわり,の養育 スタイルが他の養育スタイルの要因に与える影響を検討 することは今後の課題である。

全般的には,発達障害児の保護者と定型発達児の保護 者とで養育スタイルに差がみられたものの,年齢によっ ては差がみられない部分もあった。例えば,相談・つき そいについて,小学生では差がみられたが,中学生では 効果量が小さく有意な差がみられなかった。定型発達児 の保護者を対象とした松岡ほか(2011)において,相談・

つきそいは子どもの加齢に伴って低下していくことが示 されている。子どもが小さい頃には,発達障害児の保護 者に比べて定型発達児の保護者の方が,他者に養育につ いて相談したり子どもにつきそう機会が多いが,子ども が成長し親離れがすすむにつれて相談やつきそいをしな くなっていくために,中学生になると両群間で差がみら れなくなるものと考えられる。対応の難しさについては,

小学校低学年で効果量が小さく有意な差がみられなかっ た。発達障害児の保護者においても,子どもが小さい頃 には育てにくさを感じつつも,子どもの行動をある程度 親の統制の範囲で調整できるため,それほど対応が困難 であるとは感じていないものと推測される。次第に身体 面での成長の変革期である第二次性徴の兆しがみえる高 学年あたりから,自己が確立し親との分離が進んでくる につれ,子どもの行動をコントロールすることが困難に なり,対応しにくいと感じるようになるものと考えられ る。

また本研究において,養育スタイルと子どもの問題 行動および母親のメンタルヘルスの間にそれぞれ関連 性がみられた。養育スタイルとの各々独自の関連性を 検証するために,子どもの問題行動とメンタルヘルス 各々を統制した偏相関を算出した。子どもの特性は,問 題行動を多面的に測定するSDQとADHD傾向を測定す

るADHD–RSを用い検討を行った。全般的には,肯定的

働きかけや相談・つきそいが少なくなること,その一方 で叱責を多用すること,育てにくさや対応の難しさを強 く感じるという保護者の養育スタイルの傾向と,子ども の問題行動となる傾向が強さとが連動していた。これら の結果は,定型発達児において,子どもの問題行動が 多いほど適切な養育をとりにくいことを示した先行研 究(Huh et al., 2006; Irvine et al., 1999; 松岡ほか,2011) と一致するものであり,発達障害児の保護者において も,養育スタイルと子どもの問題行動の程度が相互に関 連しあっていることを示唆するものである。親の精神的 健康の指標としては,抑うつと睡眠障害の2つを取り上 げた。PSQIと養育スタイルとの間につながりがみられ,

BDIとの間にはさらに強い関連性がみられた。子どもの

特性を統制した場合の偏相関の値から,PSQIに関して は,相談・つきそい以外のすべての養育スタイルの下位 尺度との偏相関係数は統制前に比べて大幅に下がり,睡 眠障害が養育スタイルに影響を及ぼす一元的な要因では なく,子どもの困難さが介在変数として機能しているこ とが読み取れた。BDIに関しては,肯定的働きかけや叱 責以外は,依然関連性を示ししながらも全般的に統制後 の偏相関は統制前よりもやや低下しており,母親のメン タルヘルスと養育態度の関連性を検証していく際に子ど もの特性を踏まえることが求められよう。

養育スタイルについて母子双方の要因から総合的に みれば,肯定的働きかけは子どもの特性と同程度にBDI が関連性をもっている。相談・つきそいに関しては,

SDQの仲間関係と同程度に母親のメンタルヘルスの2 要因が関連しているといえる。日常的に子どもと肯定的 に関わることができたり,適切なかたちで他者に養育の 相談をしたりすることで保護者は精神的健康を良好に保 つことができるものと考えられ,あわせて精神的健康度 が高い親ほど他者からの援助を得るために積極的に行動 するという傾向を示している。また抑うつに比べれば,

睡眠障害傾向は相談・つきそいにより強く関連していた。

発達障害特性としてもともとある子どもの睡眠障害傾向

(Didden, & Sigafoos, 2001; Patzold, Richdale, & Tongue, 1998)が家族の睡眠に影響を及ぼし,睡眠障害にまつ わるストレスを抱えた保護者が安全弁として他者の援助 を求められない場合,母子双方を取り巻く問題はより悪 化するという林(2006)の報告に一致する。これらの 親のメンタルヘルスと周囲へ働きかけの関連性について は,子ども自身の向社会性や仲間関係などとも連動して いるといえる。育てにくさについては,統制後は子ども の要因のみが関連しており,メンタルヘルスにかかわら ずより子どもの特性に影響を受けやすく与えやすい因子 であると考えられる。対応の難しさは,子どもの特性と 同程度にBDIとの関連性がみられ,子どもの問題傾向 が強いほど対応の難しさをもちやすくそれに伴って抑う つ傾向のようなメンタルヘルスの悪化も助長されやすい こと,逆にメンタルヘルス悪化に伴い対応の難しさを強 く抱くようになり,実際の子どもの問題傾向の悪化に寄 与するともいえる。叱責に関しては親の抑うつ傾向との 関連もみられるが,値からは子どものADHD傾向がよ り強く関連があることがよみとれる。子どもの行動特性 から叱責をすることが多くなったり,そういった関わり を通して抑うつ感情が高まるといった悪循環が考えられ る。同時に逆の解釈も可能である。Webster-Stratton &

Hammond(1988)は抑うつ的な母親は非抑うつ的な母

親よりも子どもに対して批判的であることを明らかにし ており,PDD児の母親は抑うつ傾向の高いこと(Hestings et al., 2005; 野邑ほか,2010; Piven et al., 1991; Smalley et

al., 1995),さらには自閉症児およびPDD児の保護者お よび親族は児の出生以前から気分障害のハイリスク群で あること(Adramson et al., 1992; Delong & Dwyer, 1998;

Piven at al., 1991; Smalley et al., 1995)を踏まえると,母 親の抑うつ傾向から子どもに向けられる養育スタイルに 影響している可能性についても詳細に検討する必要があ る。不適切な養育環境はADHD児の問題行動を悪化さ せることはすでに述べられているように(北・田中・菊 池,2008;松岡ほか, 2011),母親の養育スタイルと子 どものADHD傾向の双方向的な影響の検討は今後の課 題である。

一方,他害行動・大人への反抗・強い癇癪といった反 社会的行動項目を含むSDQの行為において,養育スタ イル全般との間にやや高い相関がみられたこと,行為は 他の特性に比べても母親のメンタルヘルスと強い相関が みられたこと,メンタルヘルス要因の統制後の偏相関は 他の下位尺度に比べて値が低下したことは注目に値す る。小関・井上(2008)は,自閉症児やアスペルガー 障害児などの母親に対する調査で,子どもの問題行動が 多いほど,母親は否定的な感情を表出しやすいことを明 らかにしている。発達障害児の保護者においても,子ど もが問題行動を頻繁に呈するほど否定的な感情を経験し やすく,その結果として適切な養育スタイルをもちにく くなるものと考えられる。一方で養育スタイルにあらわ れる特定の不適切な関わりが子どもの問題行動を未解消 のまま継続させている可能性も否定できない。たとえ ば,母親の抑うつ状態が重度で慢性的な継続状態にある 場合,適切な応答の欠如といった環境からの影響は,行 為のようなより顕著な外向的な問題行動としてあらわれ るのかもしれない(Shaw, Gross, & Moilanen, 2008)。子 どもと環境との相互性を重視した交互作用発達モデル

(Sameroff, 2004, 2008)に沿えば,発達障害のように脆

弱性をもった子どもほど,養育者を主とする環境の善し 悪しに強く依存するといわれている。つまり,先述のよ うに外在化した強い問題行動を示す行為や養育者が感じ る対応の難しさに関しては,親のメンタルヘルスと強い 連続性があるといえよう。

今後の課題としては,本研究では,養育スタイルに関 する子どもの年齢段階による差について検討した。しか し,養育スタイルのいずれの側面にもほとんど差はみら れなかった。この点は,定型発達児の保護者を対象とし た松岡ほか(2011)とは異なっている。ただし,本研究 ではサンプル数が少ないために,年齢を3学年ごとにま とめて検討したことによって詳細な検討を行えなかった という限界がある。また,サンプル数の少なさゆえに検 定力が低く有意に至らなかった可能性もある。子どもの 発達に伴う保護者の養育スタイルの変化については,さ らなる検討が必要である。同様に,診断種別間の差につ

いても本研究ではみられなかったが,サンプル数を増や したうえで再検討する必要があるだろう。上述の発達差 と診断種別間の差の検討に加えて,臨床的介入による養 育スタイルの変化を検討することが挙げられる。これま で,ペアレント・トレーニングに関する研究では,養育 に関する知識やスキルを教授することで,保護者の養育 ストレスが軽減したり,子どもの問題行動が改善する ことが報告されている(Chronis et al., 2004)。また,保 護者の養育に関する知識が増加したり,子どもに対す る働きかけが変化することも示されている(福田ほか,

2005;菅野・小林,1996)。しかし,発達臨床的な介入 によって,保護者の養育スタイルがどのように変化する かを包括的に検討した研究はみられない。また養育スタ イルの相談・つきそいといった社会資源の活用や,抑う つ・睡眠障害といった母親のメンタルヘルスの改善が,

養育スタイル全般にどのような影響を及ぼすかといった 点に関しても,継続的な検証が求められよう。本研究に おいて,発達障害児の保護者は定型発達児の保護者に比 べて,適応的な養育スタイルをもちにくい可能性が示さ れた。そのため,臨床的な介入によって,発達障害児の 保護者の養育スタイルをより適応的なものに変化させる 試みは,発達障害児の家族支援にとって不可欠であると いえる。発達障害児の保護者を対象に,養育スタイルの 改善を目指す介入研究が望まれる。

文   献

Adramson, R., Wrighit, H., Cuccaro, M., Leesa, G., Babb, S., Pencarinha, D., Marsteller, F., & Harris, C. E. (1992). Biological liability in families in with autism. Journal of American Academy of Child and Adolescent Psychiatry ,

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