第 6 章 変位電流とマックスウェル方程式 71
6.2 電磁波
マックスウェル方程式で表される物理現象を組み合わせていくと、以下のようなしくみで電磁波が発生することがわ かる。
(1)振動する電流
(2)振動する磁場
(3)振動する電場
(1)ある場所に振動する電流または電束密度が発生する(たとえば電波の アンテナなら周期的に変動する電流を流している)。
(2)「電流」もしくは「電束密度の時間変化」は、周囲に渦をまくような 磁場を伴う(rotH~ =~j+ ∂
∂t D)。~
(3)周囲の空間の磁場の時間変動には、さらにその周囲に渦をまくような 電場を伴う(rotE~ =−∂
∂t B)。~
以上がくりかえされることにより、空間の中を電場と磁場の振動が広がっ ていく。振動現象が出現するためには、その系に復元力と慣性が必要である。
電場と磁場にもこの二つがある。レンツの法則に代表されるように、外部か ら加えられた変化を妨げ、平衡状態に戻そうとする作用が電磁気の法則には含まれている。これはいわば「慣性」である。
向きの 磁場が発生
向きの
磁場が発生 この電場を減少させる 電磁場の復元力もちゃんと電磁気の法則に含まれている。も
し、空間に一部に強い電場、周りに弱い電場があるような状態 があったとしよう(右図の左側)この空間ではrotE~ が0では ないから、必然的にrotE~ =−∂ ~B
∂t にしたがって磁場が発生す る。発生する磁場はrotE と逆を向くから、図にあるように、
強い電場の周りに渦を巻くような磁場ができる。すると今度は rot H~ =∂ ~D
∂t にしたがって13電場が発生するが、この電場は元々 あった電場を弱める方向を向いている。
つまり、マックスウェル方程式の中には、一部分だけ電場が強 い領域があったら、そこの電場を弱めようとするような性質が
12唯一対称点がないのは図の点線の上だが、この部分は外積が0になるからやはり寄与しない
13ここでは電流が存在しない場合を考えたので、~jの項はなし。
隠れている。マックスウェル方程式は空間的変動(rotE~ など)
と時間的変動(−∂ ~B
∂t など)を結びつける式になっており、しかもその組み合わせによって空間的な変動を解消しようと する方向へ物理現象が進む(言わば「復元力が発生する」のである)。
電場と磁場が波となる可能性に気づいたのはファラデーであり、1846年にそのことを発表し「この波こそ光ではないの か」と述べている。しかし、その波が実際にどのような速度でどのように伝わるかを計算することはできなかった。マッ クスウェルは彼の方程式を使ってこの問題を解いたのである。
6.2.1 電磁波の方程式
電磁波の方程式を出す。目標は、真空中のマックスウェル方程式から、電場E~ のみまたは磁束密度B~ のみの式を作る ことである。真空中で電荷・電流がない場合のマックスウェル方程式を書こう。
div E~ = 0, div B~ = 0, 1
µ0rotB~ =ε0
∂
∂t
E,~ rotE~ =−∂
∂t
B~ (6.13)
真空中であるから、B~ =µ0H~ とD~ =ε0E~ を使ってD~ とH~ は消去済みである。
ここで、E~のみ、もしくはB~のみの式を作ろう。rotB~ =−ε0µ0∂
∂t
E~という式が代入できるように、まずrotE~ =−∂
∂t B~ の両辺のrot を取る。
rot (
rotE~ )
=−∂
∂t (
rotB~ )
| {z }
=ε0µ0∂t∂E~
grad (
div E~ )
| {z }
=0
−4E~ =−ε0µ0∂2
∂t2 E~
−4E~ =−ε0µ0
∂2
∂t2 E~
(6.14)
という式が出る(rot (rotA) = grad (div~ A)~ − 4A~という公式を使った)。
この式は (
ε0µ0
∂2
∂t2 − 4 )
E~ = 0と書き直すことができ、これは3次元の波動方程式 ( 1
v2
∂2
∂t2 − 4 )
u= 0でv= 1
√ε0µ0
と置いたものに等しい。つまり、電場は速さ 1
√ε0µ0
の波となって真空中を伝わる。磁束密度の方についても、
rot (
rotB~ )
=−ε0µ0∂
∂t (
rotE~ )
| {z }
=−∂t∂B~
grad (
div B~ )
| {z }
=0
−4E~ =−ε0µ0
∂2
∂t2 B~
−4B~ =−ε0µ0∂2
∂t2 B~
(6.15)
となって、同じ速さで伝播する波となる。
この速さを計算してみると、
√ 1
8.854187817· · · ×10−12×4π×10−7 = 2.99792458×108m/s (6.16) である14。これは光速度である。つまり、マックスウェルは「電場と磁場が波になるだろうか?」と計算してみた結果、
光が電場と磁場の波であることを見つけてしまったのである。
なお、ここではあくまで「波」としての電磁波を求めたが、波動になっていないような電磁場であっても、その変化 が伝わるのは光速であること、つまり有限の速度でしか電磁場の変化は伝わらないことに注意しよう。
ここで、いわゆる平面波解を求めてみよう。簡単のため、z方向に進行する波を考える。光速度をcとして、求めるべ き電場と磁場はみなz−ctの任意の関数f(z−ct)になっているとする。
(1 c2
∂2
∂t2 − 4 )
f(z−ct) = (1
c2
∂2
∂t2 − ∂2
∂z2 )
f(z−ct)
= 1
c2 ×c2f00(z−ct)−f00(z−ct) = 0
(6.17)
14この光速度の数値299792458m/sというのは「定義値」であり、ここより先の桁はない(つまり整数である)。ちなみにこの数字は「肉(29)、喰 うな(97)。急に(92)仕事や(458)」という語呂合わせで覚えられる。
となって、これは解である。よって、まずE(z~ −ct), ~B(z−ct)という形の解であることがわかる。マックスウェル方程 式にこの形を代入してみる。div E~ = 0から
divE(z~ −ct) = ∂
∂zEz(z−ct) =E0z(z−ct) = 0 (6.18) であるから、この場合、電場のz成分は定数でなくてはいけない。同様に、磁束密度のz成分も定数である(この定数 はいわば外部から一様な電場・磁場がかかっていることを意味する)。よって、「電磁波」として振動する部分はx, y方 向しかない。電磁波を構成する電場と磁場は進行方向に垂直な方向を向く(つまり、光が横波だということ)。
簡単のため、電場はみなx方向を向いているとしよう(Ey= 0)。rotE~ =−∂
∂t
B~ に代入してみると、
x成分 ∂
∂yEz− ∂
∂zEy = −∂
∂tBx 0 = −∂
∂tBx
y成分 ∂
∂zEx− ∂
∂xEz= −∂
∂tBy
Ex0(z−ct) = −∂
∂tBy z成分 ∂
∂xEy− ∂
∂yEx= −∂
∂tBz 0 = −∂
∂tBz
(6.19)
となって、Bx, Bzは定数でなくてはいけない。ここでは電磁波に興味があるので、その定数を0としよう。By(z−ct) とすると、E0x(z−ct) =cBy(z−ct)となる。つまり、磁束密度は進行方向(z方向)とも、電場の方向(x方向)とも 垂直な方向(y方向)を向き、大きさは電場の 1
c である。まとめると、
E~ = (Ex(z−ct),0,0), B~ = (0,1
cEx(z−ct),0) (6.20)
となる。この解はrotB~ =ε0µ0
∂
∂t
E~ も満たしている。
以上から、電磁波を構成する電場・磁場は進行方向と垂直で、かつ電場と磁場も互いに垂直であることがわかった。
x
y
z E
B
波の進行方向 y軸正の向き
y軸負の向き y軸正の向き
y軸負の向き
x軸負の向き
x軸負の向き x軸正の向き
x軸正の向き
電磁波の進行の様子は上の図の通りである。各場所各場所でマックスウェル方程式が成立するように電磁場の時間変 化が起こっていることに注目しよう。
なお、ファラデーが電磁波を予言したのは1846年(この時、光が電磁波である可能性も述べている)、マックスウェ ル方程式が完成したのは1865年、ヘルツが電磁波を発見するのはそれから23年たった1888年である。1901年にはマ ルコーニが無線通信に成功する。現代においても、ラジオ、テレビ、携帯電話と、電磁波は有効に活用されているが、着 想から定式化、実験的発見、実用化までに半世紀以上がかかったことになる。