第 5 章 動的な電磁場 — 電磁誘導 57
5.3 磁束密度の時間変化と電場
電磁誘導の法則は二つの物理現象をまとめて表現しているが、ここまではその一方である「回路が変化する場合」に ついてのみ考えてきた。ここからは磁束密度が変化する場合を考える。その時でも、回路内を通る磁束が変化すると起 電力が発生する。この時には、運動していない電荷にも力が働いているので、ローレンツ力の式F~ =q(E~+~v×B)~ と照 らし合わせて考えれば、そこに電場が発生していると考えなくてはいけない。つまり、磁束の変化と電場を関係づける 物理法則が存在しているのである。これはここまではまだ導入してない、新しい物理法則である。
9話はもっと大がかりではあるが、我々が日常使っている「電気」はまさにこうして得られたものだ。発電所で誘導起電力を使って作られた電力を、
各家庭で使っている。
実験結果であるV =−dΦ
dt を前提として、その新しい物理法則はどのような式で表現されるのかを求めよう。
回路が静止している場合を考えている(つまりローレンツ力のような力は働いていない)。この場合には起電力V は回 路を一周する電場E~ の線積分で定義できるだろう。一方、磁束の方はΦ =
∫
d ~S·B~ のように面積積分で表される。ゆ えに
−
∫
S
d ~S·∂ ~B
∂t = I
∂S
E~·d~x (5.13)
という計算が成立するのである10。Sが回路の内側の面積、∂Sはその境界部分で、回路のある場所である。
この式を微小面積dSに対して適用することで微分形の法則を出すことができる(これはアンペールの法則の積分形か ら微分形を出した時と全く同じ計算である。下の図参照)。
一周の間にする仕事 貫く磁束
あるいはストークスの定理 I
∂S
d~x·A~=
∫
S
d ~S·(rotA)~ (5.14)
を使って
−
∫
S
d ~S·∂ ~B
∂t =
∫
S
d ~S·(rotE)~ (5.15)
とした上で積分
∫
S
d ~Sをとっぱらってもいい11。どちらにせよ、
電磁誘導の法則の微分形
¶ ³
rotE~ =−∂ ~B
∂t (5.16)
µ ´という
法則が作られる。こうして時間的に変動する磁場がある場合の物理法則が得られた。この法則は磁束密度の時間変化が ない場合はrotE~ = 0という静電場でおなじみの法則に帰着する。
ブラシ(円盤と接触して こすれあっている)
G
電子の運動
電流
ここまでで、V =−dΦ
dt という法則の中にローレンツ力F~ =q(E~ +~v×B~)と、新 しい物理法則rotE~ =−∂ ~B
∂t が含まれていることを見た。ではこの二つはV =−dΦ dt と等価なのかというと、そうではない。というのは電磁誘導の中にはV =−dΦ
dt では 表すことができない現象があるのである。そういう意味でV =−dΦ
dt は厳密にいつで も成立する物理法則ではないことに注意しよう。
V =−dΦ
dt が成立しない一つの例が単極誘導である。単極誘導はファラデーが作っ た世界最初の発電機でも使われている。
右図がその装置の概念図である。磁石の極のそばで円盤を回転させることで起電力 を得る。円盤には中心から導線が出て、導線は導電性のブラシにつながり、円盤の外 周に接触し、こすれあいながら円盤が回転する。回転の角速度をωとしよう。
10Φに対する時間微分が常微分 d
dtだったのに、B~ に対する微分が偏微分 ∂
∂t になっていることを不思議に思う人がいるかもしれない。B~ は場所 と時間の関数B(~~ x, t)であるのに対し、Φは面積積分の結果として定義されているので場所~xの関数ではない(Φ(t))。よってΦに対する微分は偏微 分で書く必要はない。
11積分をとっぱらっていいのは、この法則が任意の面積Sに対して正しいことが確認されているからである。そうでないならば「積分して0」と
「積分する前から0」は等価ではない。
この時、円盤の速度~vで運動している部分の自由電子には、−e~v×B~ のローレンツ力が働いて、電子を中心方向に引っ 張る。これは結果として中心部の電位を下げ、円周部分の電位を上げることになり、起電力が発生して電流が流れる。
この起電力はV =−dΦ
dt と言う形で記述することはできない。回路を貫く磁束は変化してないからである。
ここで、円盤を回転させずに磁石の方を回転させたとすると、起電力は全く発生しない。磁石を回転させても(図の ように軸対称な磁石であれば)磁束密度は時間変化しないからである。
. . . .
【FAQ】「磁石がまわれば一緒に磁力線もまわらないのですか?」
もともと、磁力線というのは磁場を表現するために便宜上導入されたものであって、実際にそういう線があるわけで はない。つまり「磁力線が運動する」などという考え方は非物理的なのである。電磁気学において、磁力線には実体は ない。各点各点の磁場なり磁束密度なりの「場」こそが実体である。そして、電磁誘導による電場が発生する条件はあ くまで、∂ ~B
∂t 6= 0なのである。
軸対称な磁石が軸の周りにまわっているだけでは、各点各点のB~ は変化しないから電場は発生しない。
. . . .
【補足】この部分は授業では話さない可能性もあるが、その場合は読んでおいてください。
5.3.1 時間変動する電磁場の場合の電位
静電場におけるrotE~ = 0は、電位が存在できるための条件であった。これが成立していないと、電位は一意的に決 まらなくなってしまう。では、時間変動する電磁場ではV は定義できないのだろうか?
もちろん静電場同様に考えたのでは電位は定義できない。電位を定義したければ、電位と電場の関係であるE~ =−gradV という式の方を修正するとよい。
実際、rotE~ =−∂ ~B
∂t にE~ =−gradV とB~ = rotAを代入すると これは間違えた式!!
¶ ³
−∂(rotA)
∂t = rot (−gradV)
−rot ∂A
∂t = 0
(5.17)
µ ´となっ
てしまって矛盾する。しかしよく見ると、E~ =−gradV とするのではなく、
時間変動する電場とポテンシャルの関係
¶ ³
E~ =−gradV −∂ ~A
∂t (5.18)
µ ´と定義
することにすれば、
磁束が増加 ↓ ベクトルポテンシャル も増加 ↓ ベクトルポテンシャル の増加と逆向きに 電場が発生
−∂(rotA)
∂t = rot (−gradV −∂ ~A
∂t)
−rot ∂A
∂t =−rot ∂ ~A
∂t
(5.19)
となって無事成立する。
つまり、電場は電位の傾きで表現される部分と、ベクトルポテンシャ ルの時間微分で表現される部分があるのである(静磁場では後者は出 番がなかった)。
(5.18)を図形的に表現すると、右図の通りである。磁束密度が増加
するということは、B~ = rotAからして、そのB~ の方向に対して右ネ ジの方向に渦を巻く形のA~が増加するということである。この時、そ の場所にはその逆向きに起電力が発生する。つまりE~ が−∂ ~A
∂t を含むということは、そのベクトルポテンシャルの増加 と逆向きに電場が発生しますよ(電荷に力が働きますよ)、ということを意味している。
【補足終わり】