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PSBD におけるスピン依存過程の推定

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作製したPSBDのEODのJ-V 特性をFig. 4.12に示す。金属の仕事関数と半導 体のフェルミ準位間のエネルギー準位により決まる金属-半導体(M-S)接合の特性に よりPSBDとEODのJ-V 特性の違いが説明できる。今回の場合、Al/pentaceneの 界面にはSchottky接合が Au/pentaceneにおいてはOhmic 接合が形成される [21]。 PSBDのJ-V 測定において見られた順方向にのみ電流が流れやすいダイオード特性は、

Al/pentaceneにおいて形成されるSchottkyバリアにより説明される。Fig. 4.11に示し た様に、pentaceneとAlを接合することにより、pentaceneのHOMOとAlのフェル ミ準位のエネルギー差であるSchottkyバリアが発生する。Alへ正電圧を印加する逆バ イアスの場合、キャリアである正孔は、印加電圧によりAlからpentaceneへ移動しよう とする。しかし、Schottkyバリアを正孔が超えられないため電流値は低くなる。一方、

pentacene側が電圧の高い順バイアスの場合、SchottkyバリアはpentaceneからAl電極 への正孔の移動を阻害しないため、Al/pentaceneのSchottkyバリアによりダイオード 特性が得られている。

Fig. 4.12挿入図は、PSBDの順方向電圧領域におけるJ-V を電圧と電流密度をlog-log プロットしたものである。この領域は4つに区分でき、それぞれ異なる指数のべき乗則、

J ∼Vmに従っている。低電圧側から、次のようになっている。

1. 線形のohmic領域(m∼1)

2. m ∼ 2となるトラップによりキャリアのポーラロンの移動が律速となるspace charge limited current(SCLC)領域

3. トラップがポーラロンにより埋められキャリアの注入が律速となる trap-filled limit(TFL)

4. キャリアの移動が注入に追いつかなくなるtrap-limited SCLC領域(tf-SCLC)

(m∼4(>2))[22]

pentacene Al

voltage foward bias reverse bias

HOMO LUMO

Fermi level

Figure 4.11: Band diagram for Al/pentacene interface Schottky barrier:At reverse bias, holes are blocked from Al to HOMO of pentacene by Schottky barrier. On the other hand, holes transport from HOMO of pentacene Al electrode to at forward bias.

これは以前に報告されたAu/pentacene/AlのJ-V 特性と一致しており[23]、このと こからも今回作製されたデバイスがペンタセンショットキーバリアダイオード(PSBD) といえる [24]。

ついで、このPSBDに対してのみEDMR測定を行った。EODは、定電流回路の電流 を流すには、印加する電圧が大きくなりすぎるため測定を行っていない。また、EDMR 測定を行うのに際して、磁場校正用のESR測定も実施しており、その結果は、付録に示

した。Fig. 9.3に示した様に、ダイヤモンドの結晶構造に対応した5本のスペクトルが観

測され、磁場校正の基準として利用することが出来た。

このとき、PSBDの順方向に電流密度を2µA/ cm2流し、共鳴にともなうPSBDへの 印加電圧変化(∆V)を観測した。この電流密度における伝導領域は、tf-SCLCである。

この測定により、Fig. 4.13に示されたAMによる積分型のEDMRスペクトルが観測さ れた。このEDMR信号が観測されたことから、Au/Pentacene/AlのPSBDにおいて電 気伝導に関するスピン依存過程の存在が示された。このEDMR信号を与えたスピン依存 過程の機構を解明するために、さらなる測定を行った。

まず、EDMRスペクトルの外部磁場に対する異方性を測定した(Fig. 4.13)。基板面の 法線と静磁場のなす角(θ)が、90度の方が平行な場合(θ= 0)に比べて、線幅(∆Hpp) が広いことが確認された。

過去の研究においてFig. 4.15に見られるように、ペンタセンを用いたOFETに対す る電界注入ESRが行われており、同様の線幅の異方性が観測されている。その原因は OFET中のペンタセン分子の配向に帰属されていた [14]。そこで、作製したPSBDに対 するGIWAXD測定から、PSBD中のペンタセン分子の配向を確認した。Fig. 4.16に見 られるように、(00l)系列のみ観測された。よって、PSBD中のペンタセン分子の長軸が、

基板面に対して垂直に配向した結晶構造を取っていることが確認された[25–27]。(00l’)

と(00l)のピークはそれぞれ、Fig. 4.17に示さるペンタセンの薄膜とバルク層の結晶構

72 第4章 EDMRを用いたペンタセンデバイスにおけるスピン依存過程の解明

10 -10 10 -9 10 -8 10 -7 10 -6 10 -5

-4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 current density [A/cm 2 ]

voltage [ V ]

Au

Al

10

-11

10

-9

10

-7

10

-5

10

-4

10

-1

1

current density [A/cm

2

]

voltage [ V ]

ohmic SCLC

TFL trap-free SCLC

Figure 4.12: Typical current density (J) - voltage (V) characteristic of the Au/pentacene/Al (PSBD, solid line) and Al/pentacene/Al (EOD, dotted line) devices at room temperature.

The inset shows the doubly logarithmic plot for data of the PSBD with forward bias. The dashed lines represent the four conducting regimes described in the text. Four horizontal lines correspond to current densities employed for the EDMR measurements.

造である。

これは、電界注入ESRにおいて報告されたペンタセンの配向と同様であるため、∆Hpp

の異方性は、PSBD中のペンタセン分子の配向性を反映しており、EDMRスペクトルは ペンタセン薄膜内部の電気伝導に関係するスピン依存過程により与えられていることが示 唆された。

ここで、EDMRスペクトルの線幅の異方性を与える原因として、デバイスの方向に伴 う静磁場の均一性の変化が考えられる。静磁場の不均一性がEDMRスペクトルの線幅を

H0

θ

substrate

0 3 6 9 12 15

0.188 0.192 0.196 0.200 0.204

| ∆ V | [ µ V ]

magnetic field [ T ] 90 °

0 °

Figure 4.13: Orientational dependence of EDMR spectrum for the PSBD on an external magnetic field parallel (0) and perpendicular (90) to the normal vector of the surface plane of the substrate at room temperature.

90 0

H0

H0

Figure 4.14: A schematic illustration of configuration of a sample with respect to external magnetic field. Magetic heterogeneity should be larger at the sample position with 90 configuration than with 0. of static magnetic filed

74 第4章 EDMRを用いたペンタセンデバイスにおけるスピン依存過程の解明

Figure 4.15: The ESR spectra of OFET using pentacene. The anisotropy of linewidth andg value were observed. [14]

5 10 15 20 25

diffraction intensity [ a. u. ]

2 θ [ deg. ]

(001’) (001)

(002’) (002) (003’) (003)

5 10 15 20 25

diffraction intensity [ a. u. ]

2 θ [ deg. ]

(001’) (001)

(002’) (002) (003’)

(003)

Figure 4.16: Out of plane GIWAXD profile for the PSBD. The inset shows a semilog profile.

Figure 4.17: The crystalline structure of pentacene thin film.[27]

支配する場合、静磁場に対して基板面が垂直な方(θ= 0)が、平行なとき(θ= 90)よ りもデバイス全体に印加される静磁場が均一となりEDMRスペクトルの線幅は狭くなる ことと予測される。しかし、すでに述べたように今回実際に観測されたEDMRスペクト ルの線幅が逆の傾向にあり、∆Hppの変化は、ペンタセン固有の異方性と考えられる。

一方、ペンタセン分子は基板面の法線ベクトルに対して垂直な場合と平行な場合でそれ ぞれg90= 2.0024とg0= 2.0033とg値も異方性を持つことが報告されている[14]。し かし、自作したEDMRの装置では、0.001程度のg値の異方性を検証するほどの精度が 未だに得られておらず、gテンソルの異方性を検証することが困難だった。これは、キャ ビティ内における磁場の不均一性が原因と考えられる。

ここで、さらにEDMRスペクトルからスピン依存過程を推定するにあたり、有機半導 体であるペンタセンデバイスのEDMR測定中の安定性を検証する必要がある。有機半導 体は一般的に大気中の酸素や水分子により劣化することが知られている。ペンタセンに

76 第4章 EDMRを用いたペンタセンデバイスにおけるスピン依存過程の解明

0 10 20 30 40 50 60

EDMR signal [ µ V ]

1-25 scan 75-100 scan

-3 0 3

1880 1920 1960 2000 2040

Diff [ µ V ]

magnetic filed [ G ]

Figure 4.18: The confirmation of stability of PSBD during EDMR measurement The comparison between estimated EDMR spectra of 1 to 25 scans(the fisrt quater of the whole scans and 75 to 100 scans(the fourth quater)(upper) and residual of these

spectra(lower).

おいても大気環境、特に可視光照射条件下において劣化が報告されており、その劣化機 構[28]および、安定性を高めるためにペンタセンの誘導体が合成され長寿命化が確認さ

れている[29, 30]。本研究において良好な信号雑音費を得るためにEDMRスペクトルを

積算した。そこで、EDMRスペクトルの最初の1-25回の積算回数と、75-100回の積算 により得られたEDMRスペクトルの比較を行った(Fig. 4.18)。その結果、積算の最初 の1/4から最後の1/4におけるEDMRスペクトルが明確に変化していないことがわか る。つまり、一般的に大気中における安定性が問題となる有機半導体のペンタセンだが、

EDMRスペクトルを取得する時間スケールにおいてスペクトルを比較するのに問題とな る劣化は見られなかった。

ついで、観測されたPSBDのEDMR信号を与えるスピン依存過程を考察する。一 般的に有機半導体デバイスにおける電気伝導を決定づける要因は、有機層中のキャリア 輸送または電極から有機層へのキャリア注入であり、それぞれ、space charge limited、

0 10 20 30 40 50 60

| V | [ µ V ]

(a) experiment

best fit Gaussian Lorentzian

-7 0 7

1880 1920 1960 2000 2040

Residuals

magnetic field [ G ]

best fit

single Lorentzian

single Gaussian

(b)

Figure 4.19: Signal decomposition of the EDMR spectrum for the PSBD. (a) Integrated-type EDMR spectrum of the PSBD obtained at room temperature. The thick solid line

represents the best fit curve assuming two resonance lines with different line shapes. (b) Residuals from fitting by single Lorentzian (dotted line), single Gaussian (thin solid line), and best fit by the summation of single Gaussian and Lorentzian shapes (thick solid line).

injection limitedと呼ばれる。そのため、今回観測されたEDMR信号を与えたスピン依 存過程として、(i)SCLCにおけるペンタセン中のキャリアの移動、injection limitedから は、(ii)Au/Pentacene界面におけるohmic接触、(iii)Pentacene/Al界面のショットキー バリア[31]が候補として挙げられる。

EDMRスペクトルを観測した電流密度は、ペンタセン中のキャリアの移動が律速な

tf-SCLCの領域であり、EDMR信号の異方性から、観測されたスピン依存過程は、ペン

タセン薄膜における伝導に起因すると考えられる。

EDMRスペクトルはブロードなGaussianと狭いLorentzianの二つの共鳴信号を仮 定することによってフィッティングできることが確認された(Fig. 4.19(a))。単一の LorentzianとGaussian成分、そしてGaussian とLorentzian成分の重ねあわせによ

78 第4章 EDMRを用いたペンタセンデバイスにおけるスピン依存過程の解明 りEDMRスペクトルをフィッティングし、実験値とフィッティング曲線の差分をFig.

4.19(b)に表示した。Gaussian成分とLorentzian成分によるフィッテイングとの差分が 最小であり、他の単一の線形により成分を再現することが困難であり、二成分系であるこ とが確認された。二つの線形および線幅を与える原因として、磁気的環境または、移動度 の異なる二成分系のキャリアが考えられる。なぜなら、異なる環境はg値と超微細相互作 用の異方性を引き起すためである。ペンタセンにおけるキャリアはポーラロンとされてお り[3]、つまり、磁気的環境または移動度の異なる二つのポーラロンがスピン依存過程に 関与していると考えられる。移動度は、線幅へ影響を与える。移動度の高いキャリアによ り得られるスペクトルの信号の線幅は、運動により先鋭化される。

この二成分による、EDMRの信号の分離は、暗状態におけるMEH-PPVのOLEDにお けるEDMRの観測において報告されている[32, 33]。特に、Behrendsらは、Lorentzian 成分を与えるホールの移動性のポーラロン(Pm+)とGaussian成分を与えるトラップさ れたポーラロン(Pt+)の融合によるバイポーラロン(Pm+Pt+)の形成過程がスピン依存 過程とした[33]。一方、McCameyらはOLEDにおいて電子のポーラロン(P)とホー ルのポーラロン(P+)による二成分の重ね合わせのEDMRスペクトルを報告している。

つまり、複数のEDMRに信号が重ねあわせっている場合、そのスピン依存過程は複数の 場合が考えられ、ここから直ちにスピン依存過程を特定することは困難である。さらに、

PSBDにおけるスピン依存過程を解明するために、印加電圧依存性を検証した。

EDMR信号の印加電圧依存性(Fig. 4.20(a))から、2つの信号の起源を調査した。ス ピン依存の電気伝導(∆σ)は、測定されたEDMR信号(∆V)から以下の式から算出 した。

|∆σ|= J∆V d

V(V −∆V), (4.1)

ここで、dは、ペンタセン薄膜の膜圧、J とV は、各印加電圧における非共鳴時、定常 状態の電流密度、電圧である。

Fig. 4.20(a)に見られるように、Gaussian成分とLorentzian成分ともに、EDMR信 号強度は印加電圧に対して単調増加傾向だった。EDMR測定を行った電圧領域において EOD(Al/pentacene/Al)の電流密度は、PSBD(Au/pentacene/Al)と比較して103程 度小さいため、PSBDにおいて電子は少数キャリアであり、ホールが主だったキャリア と考えられ、これは過去の報告と一致する [34]。両極性、つまり正負の電荷キャリアに 基づいたスピン依存過程の場合、EDMR信号強度は、少数キャリアである電子の電流密 度に依存し、比例すると考えられる。しかしながら、EODにおける電流密度の傾きは、

EDMR信号強度の傾きよりも緩やかである(Fig. 4.20(a))。これらの印加電圧依存性か ら、PSBDにおいて電子の関与するスピン依存過程が存在したとしても、EDMR信号強 度への寄与は無視できると考えられる。これに対して、tf-SCLC領域におけるPSBDの J-V 曲線の傾きは、∆σの印加電圧近い傾きを示している。

そのため、EDMRスペクトルを構成する二成分は、二種類の正電荷であるホールの

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